放課後児童クラブ支援員の不適切な対応で児童が適応障害に!慰謝料や治療費の支払いが発生した重大事案発生!
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)において、職員の対応をめぐり深刻な事案になっていたことが報道で明らかになりました。
※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。
<報道された事案>
長野県飯田市の放課後児童クラブで、クラブ在籍児童がクラブ職員の行動によって適応障害になり、飯田市が慰謝料、治療費など損害賠償を行っていたという事案です。信濃毎日新聞が5月15日6時23分に配信した有料記事があります。その記事では、約15万2千円を賠償したと伝えています。
飯田市のホームページでは5月14日に行われた市長定例会見の様子を動画で公開しています。その会見の中で、この事案について触れていますので内容を紹介します。
それによると、クラブ職員が他の児童に「強い指導」を行い、その様子を目撃していた被害児童がその後、通院を要するようになってしまった、ということです。その強い指導に関して記者から質問があり、市側は「大勢の児童の前で大きな声で繰り返し叱った。手を上げたとか暴力はなかった」と説明しています。また、叱られた当事者の児童の側から市には何も相談などはない、とのことでした。賠償を支払った処分は今年4月17日に行った、ということです。
いわゆる「面前DV(ドメスティックバイオレンス)」という状況に近かったのでしょう。面前DVは、子どもの目の前で配偶者や家族などに暴力を振るうことによって引き起こされる心理的虐待ですが、この飯田市の事例も、被害児童にとって強烈なストレスを及ぼす状況が繰り広げられた結果、通院が必要なまでの心理的傷害を受け治療が必要となった、ということなのでしょう。
<全国どこのクラブでも起こりうる>
この事案で児童クラブ関係者が留意するべき点は大きく分けて2点です。
・治療が必要となるほど重大な被害は、直接的な暴力行為だけではなくその状況が引き起こすことがある。
・児童クラブ職員の不法行為は事業者が責任を負う。損害賠償は珍しいことではない。
前者について。子どもへの不適切な対応は、直接的に危害が加えらえる暴力行為、性加害行為だけではないということです。今回の飯田市の事案のように、周囲にいた、当事者ではない児童にも及ぶことがあり、その結果として、治療が必要なほどの重大な心身の不調を招くことがあるのです。冷静に考えれば、そりゃそうだろう、という当たり前のことですが、職員は常に子どもから見られ、注視されていることを理解しているならば、職員の行動が「傍観者的な立場」である子どもに重大なショック、心理的外傷を与えて治療を要する事態になることがあるのだ、ということを容易に理解できるでしょう。職員の一挙手一投足が子どもたちに影響を与えるのだ、ということを児童クラブの運営事業者、クラブ勤務職員は改めて認識するべきでしょう。
(もちろん、児童だけではなく、対象が職員であっても同じことです)
後者について。この世の中の基本的な仕組みとして、誰かに被害を及ぼしたらその被害を補う、ということです。意図的であろうが、結果としてそうなってしまったであろうが、それは関係がないことです。被害を補うのは通常、損害賠償という形でお金を支払うことになります。
今回の事案は、クラブ職員は、被害児童を対象に行動を起こしたわけではありません。しかし結果として、被害児童は適応障害と診断されるだけの被害を受けた。クラブ職員の行動と、被害児童の受けた被害に相当因果関係があることは否定しがたい事実だったということです。おそらくは、その様子を子どもたちが目撃したなら容易に心に重大なショックを与えることが考えられる程度の、クラブ職員による激しい叱責行動が、不用意な形で子どもたちの前で行われた過失があった。その結果、この被害児童が心理的に傷害を受けた。そのことの間に、相当因果関係が存在した、ということです。そして、被害児童が受けた心の傷を治療するための費用と、苦痛に対する補償を、児童クラブ設置者でクラブ職員を使用する立場である飯田市が、損害賠償として行わざるを得なかったのです。市側が非を認めて損害賠償を行ったということは、クラブ職員の行動について、否定しがたい落ち度、過失があったと認めざるを得なかったと理解することが自然でしょう。
大勢の子どもの目の前で厳しく叱るのがダメなら、では誰も見ていない部屋の中で行えばいい?もちろん、それは絶対にダメです。第三者のいない空間では感情がエスカレートしてしまい、事前に自身が想定したレベルを超えた行動に出てしまう可能性があります。そもそも、職員が児童と密室で2人だけ、という状況を作ってはなりません。
簡単なことです。(人間の感受性の程度には差があれど)誰かがびっくりする、落ち込む、傷つくようなほどの厳しい叱責行動は不可。やってはダメなのです。大勢が見ていなければいい、2人きりの空間でなら許される、というものではなくて、「そもそも、ダメ」です。
なお、私はこの会見で腑に落ちないことがあります。市側は、児童に対し通院が必要となるような「強い指導」をいう文言を使って状況を説明しました。その「指導」という文言は不適切だ、ということです。直接、その強い指導とやらを受けた児童からは「何の相談もない」としながらも明らかに適応障害になってしまった児童が出たわけですから、それは指導ではなくて「虐待」です。クラブの職員として、明らかに不適切な行為です。市側はその点について何ら反省をしていません。また、会見にいた記者も、損害賠償の事案そのものについて質問を投げかけるも、そもそもの「本質的には虐待行為」について市側の管理運営責任や職員の指導研修に関する責任について追及していません。これは市の定例会見で、予算の専決処分説明に伴ういくつかの事柄の1つのケース、では済ませてはならない深刻な事案であるという認識が、行政にも、メディアにも欠けていることは、はなはだ残念です。
<対応は?>
飯田市の事案では、職員が暴力を振るったということではないですが、繰り返し強い言葉で叱ったと市側が説明しています。詳細はもちろん分かりませんが、おそらくは、子どもたちが見ている前で職員が特定の子どもに厳しい言葉を立て続けに浴びせる様子が繰り広げられていたのでしょう。児童クラブ関係者なら当然理解していますが、厳しい言葉を繰り返し浴びせる行為は、先にも書きましたが「虐待」と判断されるべきものであり、完全に不適切な支援、援助です。命に係わる、あるいは他者の身体に重大な危害が加えられそうな時に職員が厳しい言葉で制し、叱責することは咎められません。今回の事案はそこまでだったのか、正確には分かりませんが。
クラブ職員の行動、支援の手法については、当然ながら、クラブ運営事業者が確たるルールを定めて、そのルールの下で遂行させることは当然です。通常の育成支援では、厳しく子どもを叱る場面はほとんどないはず(諭す、説明する、ということは普通にあるでしょうが)、時として叱ることも必要な場面もあるのですから、「こういう状況においては、職員はこのような対応を行う」という、状況の深刻度、危険度、切迫度に応じて職員の望ましい行動の基準について、事業者が明示して職員に徹底しておくべきでしょう。
また、運営事業者は、常勤職員であろうとパート、アルバイトといった非常勤職員であろうと、自分たちの行為行動には責任を伴っているということをしっかりと認識させる必要があります。別に、クラブで子どもと、また同僚職員と会話をする、何かアクションをするその1秒1秒に「この行動は、この言動は、不法行為にはなりやしないか」といちいちチェックしろ、ということではありません。そんなことはそもそも不可能です。つまり、多くの行動のうち無意識的に行っている行動について「これは問題ない」と判断しているから行っているのですから、その「これは問題ない」と判断できる行動の幅を事前に確認しておく、ということです。その判断は自分だけの判断ではなく、事業者が示した判断基準に従え、ということです。
そのためにも、クラブの職員は少なくとも毎日1回は出勤している全職員と、職員としての行動基準の確認をすることが重要です。とりわけ、若干、厳しい対応や声がけが必要となる程度の、いわゆる「問題行動」を起こすことが多い子ども(たち)への対応について、どういう対応や行動を行うべきか、職員同士で確認しておきましょう。
<おわりに>
この飯田市の事案、運営支援の立場からすると、児童クラブ運営に関して、普段からの虐待対応が組織的にしっかりと機能しているのか、とても不安になります。職員の、児童虐待に対する認識が甘いのではないかと想像せざるを得ません。それはつまり、職員の指導、研修がしっかりと機能しているのかへの不安や懸念につながります。
そして行きつく先は、法令遵守が運営事業者の中でどれだけ根付いているのかどうか、という問題になります。他者に対する危害や損害を起こすことは、構成員の法令遵守の意識が薄いのではないかと私は考えるのです。そしてそれは、リスクマネジメントが軽視されているのではないかという想像に結びつきます。事業運営者が損害賠償責任を負うことは、よっぽどのことですから。
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「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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