「まるめ」とバイバイ! 放課後児童クラブ(学童保育所)も法令順守が当然。まずは賃金をしっかりと。

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表で「あい和社会保険労務士事務所」の萩原和也です。放課後児童クラブ(学童保育所)運営支援アドバイザーであり、放課後児童クラブの労務管理や事業運営をサポートする社会保険労務士です。放課後児童クラブを舞台にした人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン(https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描くハッピーサクセスストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!

 社労士ブログです。わたくし萩原が非常勤で理事を務めている愛知県津島市の放課後児童クラブ運営指定管理者である「特定非営利活動法人放課後のおうち」では、2026年度からフレックスタイム制を導入しました。児童クラブに極めて多い所定時間外労働への対応を考えての最適解として導入したものです。そしてもう1つ「1分単位の賃金支払」を徹底することとしました。当たり前なのですが実は当たり前のように実施することができない難しいことです。中小零細規模の事業者が多く、なかなか労働法規をしっかり守ることが難しい児童クラブの世界でも「やればできる」ことを津島市の児童クラブは相次いで実践していることをお伝えします。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

※わたくし萩原が寄稿した記事が「ウェッジオンライン」で2026年5月29日に公開されました。「“産業化”の大波に飲み込まれる学童保育…企業はどう収益を上げているのか?事業構造から見える放課後育成の実情」という記事です。ヤフーニュースにも配信されています。URLは以下の通りです。https://wedge.ismedia.jp/articles/-/40665

<賃金支払の5原則>
 わたくしは社会保険労務士ですが、社労士はそれなりに合格率が低い国家試験に受かる必要があります。その試験勉強で確実に理解しなければならない、つまりよく出題されるのが「賃金支払の5原則」というものです。厚生労働省のホームページには「賃金については、労働基準法第24条において、(1)通貨で、(2)直接労働者に、(3)全額を、(4)毎月1回以上、(5)一定の期日を定めて支払わなければならないと規定されています(賃金支払の五原則)」と記載されています。
賃金の支払方法に関する法律上の定めについて教えて下さい。|厚生労働省

 ところが現実社会においては、とりわけ中小零細企業においてはなかなか上記5つの原則すべてが確実に守られているとはいえません。そのうち、とりわけ問題になりがちなのが上記でいえば(3)の、全額支払いの原則です。つまり決められた時間をはみ出た時間の労働に対しての賃金が確実に完全に支払われているかどうか、ということです。言い方を変えますと、決められた労働時間(=所定労働時間)より多く働いた(=所定外労働)の場合の賃金支払に関する問題です。
 たとえば7時間勤務の人が7時間20分働かざるを得なかった場合、その20分の賃金が雇い主からちゃんと支払われるかどうか。所定労働時間が8時間でしたら、8時間20分働かざるを得なかったならばその20分は「法定時間外労働」となって割増賃金の対象となります。また、7時間20分働いたとしても、変形労働時間制やみなし労働時間を取り入れていないんシンプルな労働時間管理の場合で7時間20分働いた日がある週の労働時間が、その20分のために40時間を超えてしまっているなら、この20分にも割増賃金を加えた賃金つまり残業代の支払いが必要です。

 非常にざっくりといえば「残業代をしっかり払っているかどうか」の問題ですが、残業代という言葉の理解が世間ではどうしても「割増賃金が出る法定残業」をイメージされやすいので、わたくしはあまり使いたくない表現です。割増賃金が出ない「法内残業」もまた時間外労働ですから。

<まるめ>
 ここであまり堂々と語られることはないですが、賃金計算、給与計算の際に行われる処理として「まるめ(丸め)処理」と呼ばれるものがあります。昭和時代の用語で「鉛筆なめなめ」というのがありましたが、なめるとかまるめるとか、そういう表現の言葉は「数字を低くする、低い水準でまとめる」というニュアンスがありますね。
 給与計算でのまるめは、所定労働時間を超えた労働時間を、その事業者が決めた一定の時間単位でのみ算定するということです。たとえば「5分まるめ」であれば、7時間3分の労働時間であった場合、所定外労働の3分の賃金計算はしません。5分の単位に届かないからです。7時間8分の労働時間なら、7時間5分分の賃金計算をします。3分は切り捨ててしまいます。これが5分まるめです。

<当然に違法>
 最初に紹介した賃金支払の5原則のうち、「全額払いの原則」に、このまるめ処理は明らかに反しているのです。ですから違法です。なお、切り上げ処理は認められます。いわば「逆まるめ」ともいえるでしょうか、先の例であらば、7時間3分の労働時間を逆まるめで7時間5分の労働時間として算定して賃金計算するのは、労働者に損はないですから認められます。厚労省も「また、1日の労働時間について、一定時間に満たない時間を切り上げた上で、その分の賃金を支払うことは、問題ありません。」としています。(001310369.pdf

 なお、切り上げなどの処理には例外もあって、例えば割増賃金が生じる時間外労働などの際の計算には以下のようなことが認められています。
「労働時間における端数処理の例外として、1か月における時間外労働、休日労働および深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げることは、常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものとして認められます。」(001310369.pdf

<労働時間は、賃金支払が必要な時間>
 このまるめ問題は、給与を支払う側にすれば「そうは言っても」という、納得した感情を得られにくい問題です。というのは「その飛び出た時間、仕事をしていないじゃん!」と言いたい経営側、使用者側が多いからです。児童クラブでいえば、「あなたが仕事をのんびりやっているから、時間内に終わらなかったから仕事をしていただけで、個人の能力の不出来のために余計に賃金を出すのは納得がいかない!」「片付けが遅いから退勤時刻の打刻が遅れたのに、なんでその分の賃金を支払わねばならないのだ!」という感情が起こりがちです。

 また、まるめ処理を行っている事業者には「児童クラブの世界は一切、割増賃金が必要な残業代そのものを支払わないとんでもない事業者だってある。まるめであっても割増賃金や所定外労働への対価を支払うだけで、わりとちゃんとやっているほうだ」という意識が見え隠れすることも。いやいや、ダメなんですよ。五十歩百歩の世界です。まあ気持ちは5パーセントぐらい分かりますが、残る95パーセントで「人を雇うってことはそういうもんなんだ!」と叱り飛ばしたいわたくしです。先の厚労省の資料にはこう書いてあります。
「労働時間とは、使用者の指揮命令下に置かれている時間のことをいいます。使用者の明示ま
たは黙示の指示により労働者が業務に従事する時間は、労働時間に該当します。」
(これもまた社労士の試験によく出る内容なのですね。判例でも)

 そしてこの資料には例として3つのパターンが紹介されています。特に3番目の例は児童クラブ業界には耳が痛いでしょう。紹介します。
「たとえば、次のような時間は、労働時間に該当します。
①使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
②使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
③参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間」(引用ここまで)

 児童クラブの職員に研修の機会を与えることが児童クラブ事業者には求められていますし、職員は研鑽に励むことが求められています。
「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準
(放課後児童健全育成事業者の職員の知識及び技能の向上等)
第八条 放課後児童健全育成事業者の職員は、常に自己研鑽さんに励み、児童の健全な育成を図るために必要な知識及び技能の修得、維持及び向上に努めなければならない。
2 放課後児童健全育成事業者は、職員に対し、その資質の向上のための研修の機会を確保しなければならない。」
 児童クラブの世界では法令上、受講が義務となっている研修というのはないのですが、使用者つまり児童クラブ事業者側の指示で研修を受けさせることはあります。その際に「研修は職員個人の利益になるから」といって賃金を出さない、つまり労働時間と認めない児童クラブ事業者が存在しています。そういうのはダメだと国は明確に言っているのですから直ちに改める必要がありますよ。

 児童クラブの現場は、いつなにが起こるかわからない職場です。1分前まで何もなかったクラブ室内が大惨事になることも珍しくありません。突然わきあがったこどもどうしのトラブル、あるいは物品の破損。保護者からの急な相談ごと。予定は未定の世界が児童クラブです。職員はそれにもちろん対応しますが、その結果、退勤時刻を過ぎての業務対応が必要となりますし、出勤時刻より前にクラブに入ってたまった業務を片付けねばならないことだってあります。
 それを児童クラブ側が「シフト外の労働時間は認めません」と一刀両断しては、クラブの実務はとても回りません。
 そういう特別な出来事でなくても、午後6時退勤の職員がいたとして、こどもと盛り上がる話をしていた、こどもはとても楽しそうにしていたというとき、機械的に「午後6時になりましたから先生はこれで業務終了です。お話、ありがとうございました」とこどもに告げてすくっと立ち上がって退勤時刻を記録する、というのも現実的ではありません。こどもたちには「今日は6時までなんだ~」とさりげなくアピールをしつつ、会話をしながら午後6時にはうまく話をまとめるように意識をしつつ、6時を過ぎたら会話を収めるほうに上手に持っていくこと。その結果、退勤時刻を打刻するのが数分程度遅れるのであれば、それは当然ですから、午後6時4分だろうが7分だろうが、その打刻は正当なものとして賃金支払を事業者は当然にするべきです。
 これが午後6時35分の打刻であれば、事業者側も「おいおい、どうしたのかな?」と理由を聞くべきですし、そもそも職員側から「こういう事情があって30分ほど残業が必要です」とまずは簡潔に管理運営本部側に連絡することも必要です。

<労使双方で円滑に>
 分単位での賃金支払がなかなかできないのは当然に理由があるでしょう。
「分単位の記録が難しい、手間がかかる、事務作業が増える」ということがあるでしょう。これは分単位で労働時間を記録する労働者側にも、分単位での給与計算をする使用者側にもあてはまります。
 しかしこのことはまず、「法に定められたこと」であることを理解しましょう。賃金支払5原則は労働基準法第24条ですが、同条違反には罰則が定められています(30万円以下の罰金)し、割増賃金の未払いにはさらに重い罰則(6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)があります。

 そして1分単位で賃金が出る、ということはまずもって職員の労働者としての権利をこれ以上ないほど理解して守っている事業者である、ということを児童クラブで働く人は理解することが肝心です。そうしない児童クラブ事業者が多い中で、「うちの会社(法人、団体)は、ちゃんと法律を守っているんだ」ということを、変な話ではあるのですが自慢に思ってほしいぐらいなのです。児童クラブのいわゆるバックオフィス、事務処理機能はかなりの場合において貧弱です。何十、数十もの支援の単位を運営する事業者であれば運営本部、事務局機能も設けている事業者がほとんどでしょうが、それにしたって事務運営を担う職員を雇う費用が補助金として非常に貧弱な中では、現場以外の人員を雇用する費用は児童クラブ事業者には重荷です。これは国になんとかしてほしいのですが。
 そういう厳しい組織運営の実態の中で、確かに作業量がやや増えることは事業を営む側も大変です。ですが法令順守を貫くため、1分単位の賃金支払は法によって当然に求められている中でもそれを愚直に実施するのは、結構大変なのです。
 それを津島の児童クラブ運営団体はしっかりと受け止めてやっていこうとして、2026年度を迎えたわけです。

 こういう、愚直に法令順守に向き合っている事業者こそ、公の事業である放課後児童健全育成事業を担うにふさわしい資格を備えていると、わたくしは自信をもって言えます。それは労働法規以外においても、例えば自治体との約束事である仕様書などもしっかりと守っていく姿勢に現れてきます。どこかの自治体では仕様書に定められた職員配置基準を守れずに、より配置基準が緩い条例基準に臨時的に引き下げて児童クラブ運営を認めた、という事例があったようですが。

 児童クラブの世界には、運営する側も、運営を任せる側も、どこか緩い気持ちがあるのではないか。それはやむを得ない場合も多々ありますが、そういうことを繰り返すごとに「結局、こどものことはどうだっていいのね」という社会からの冷めた評価を招くことになります。

 それは児童クラブ全体にとってマイナスでしかありません。

 分単位の賃金支払も、残業代の適切な支払いも、年次有給休暇の適切な扱いもみな、法によって求められていることです。それは児童クラブのような貧弱な運営体制にとってはなかなか厳しい。こんどはストレスチェックの義務化もやってきます。こども性暴力防止法の認定事業者になるには、さらにもっと厳格で厳しい措置を実施するための膨大な作業量が児童クラブ事業者にのしかかってきます。
 それらは児童クラブの事業としての信頼性、評価に傷を透けないために、歯を食いしばってでも取り組まねばなりません。そしてそれは運営側だけではなくて働く側にもやはり理解と協力が必要です。一般的に児童クラブの世界は、こどもの援助、支援に関することは時間を惜しむことなく向き合いますが、それ以外のこと、とりわけ事務的なものになると途端に「面倒くさい」になりがちです。児童クラブの運営も「事業」ですから、事業としてきっちり実施されることが欠かせないということを労使双方でしっかり理解していきましょう。「分単位の管理なんて面倒くさい」ではなくて「分単位で給料を出してくれるんだから協力しよう!」ということですね。

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
☆New!
 こども性暴力防止法に関する諸課題を5人の弁護士が各々の専門分野に関して紹介、説明するYouTubeチャンネルが開設されました。このほど、第1回の動画が公開されました。放課後児童クラブの関係者さん、とりわけ運営や就業で関わっている方には必見です。児童クラブに運営者としても関わってこられた鈴木愛子先生ももちろん参加されています。チャンネル名は「こどもを守る弁護士チャンネル」です。2026年5月16日に「こども性暴力防止法を考える」が配信されています。
https://www.youtube.com/watch?v=uUlx8XaKMso&t=4324s

 放課後児童クラブ事業を考えている民間企業の方へ朗報! 児童クラブ参入の手引きとなる「埼玉県 放課後児童クラブ新規参入スタートブック」が公開されました。全40ページ。フルカラー。冊子は2部に分けて埼玉県福祉部こども支援課のページで公開されています。なお本スタートブックは弊会が作成受託しました。
(前編)
 https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/166938/r0803_houkago-jidou-club-startbook01.pdf

(後編)
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/166938/r0803_houkago-jidou-club-startbook02.pdf

 「Wedge ONLINE(ウェッジオンライン)」にて2026年4月13日、「「こどもが学童に入れたから仕事も安泰!」なのか?小1、行き渋り、夏休み…いくつも存在する“学童保育の壁”とその対処法」という記事が公開、配信されました。(https://wedge.ismedia.jp/articles/-/40473)。わたくし萩原が編集部の依頼に応じて寄稿しました。ぜひご高覧ください。
 なお、近く新記事掲載が予定されています。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)

投稿者プロフィール

萩原和也