急速に広がりつつある放課後児童クラブ(学童保育)の昼食の提供。「弁当の壁」打破は必要ですが、留意点あり!
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。
埼玉県桶川市(私の住む上尾市の隣の自治体です)が、2024年度の夏休みから、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)を利用する子どもに昼食を提供するというニュースをNHKが報じていました。2月20日15時19分にインターネットに掲載されたNHKニュース記事(埼玉NEWS WEB)を引用します。
「桶川市は働く保護者の負担軽減を図ろうと、来年度の新規事業として希望者に対し有料で昼食の弁当を提供する取り組みを始めることにしています。具体的には市内に7か所ある放課後児童クラブごとに事前に弁当の希望を確認してまとめて注文するということです。料金は500円程度を想定していて保護者が負担するということです。」(引用ここまで)
なお、市内に7か所あるというのは公設公営の放課後児童クラブです。市内には他に民設民営のクラブもあります。よって今回は公営クラブにおける昼食提供のニュースですね。桶川市のホームページを見ましたが、昼食提供についての広報発表は見つけられませんでした。よって詳細は報道記事以上には分かりません。私が気になるのは、500円程度が想定されるという料金です。これが一律なのか、あるいは所得に応じて料金設定が異なるのか、より詳しい制度設計が分からないのですが、仮に、すべての世帯が500円前後であるとするなら、私はそれは再検討の余地があると考えます。放課後児童クラブを利用する世帯には様々な所得状況の子育て世帯があります。1食500円前後の料金を、夏休みの期間中に支払うことが家計の負担となる世帯も間違いなくあるでしょう。仮に20日として1万円です。1万円で弁当作りから解消されてほっとする子育て世帯は必ずあるでしょうが、「どうしよう、とても高くて利用できない」とちゅうちょする子育て世帯もあるはずです。
子どもたちの間の世界はある意味、飾り気のない世界です。昼食提供で弁当を食べている子どもたちが、家庭から持参した弁当を食べている子どもたちに「なんだよ、弁当頼めなかったのかよー」とふざけ半分でからかう(もちろん、決して悪気はない)ことが大いにある中で、そのような周りの子どもたちの言動に傷つく子どもが、絶対いないとは私には思えません。職員がしっかり注意して見ているといっても、当たり前のように、そのような会話というのは子どもたちの間で交わされます。そういうことが重なって、「クラブの行き渋り」になってしまっては重大な事態になってしまうのです。
桶川市にはぜひとも、きめ細かい料金設定をお願いしたい。昼食は実費負担、受益者負担の原則は当然承知するところですが、放課後児童クラブは児童福祉の世界にある仕組みです。貧困、困窮にある子育て世帯が増えつつある中で、福祉の役割としての放課後児童クラブ、学童保育の存在意義を発揮するために、所得が低い世帯の子どもには昼食提供の補助の実施を期待します。なお、すでにそのような制度設計がされているとしたら、失礼しました。
ちなみに桶川市役所のホームページに掲載されている放課後児童クラブの入所案内(PDFでダウンロードする形式)は、私は以前から気に入っています。桶川市は待機児童が折々出てしまっている地域ですが、放課後における子どもの過ごし方を入所案内に掲載しています。民営クラブ、放課後子供教室(あいあい広場)、児童館、図書館、ファミリー・サポート・センターです。ただ、クラブ利用者の学年別分布を円グラフで紹介しているところ、クラブの低学年の児童が大半を占めていると記述しているところは、ちょっといただけないですね。高学年であっても児童クラブを利用できますし、高学年ならではの育成支援がクラブでできますし、高学年がその非認知能力をより磨くために児童クラブの環境は私は最適であると考えているからです。低学年の入所枠を確保するために高学年の自主的な退所を促したい、誘導したいがゆえの記載でしょうが、その点の見直しがなされるとより素晴らしいですね。
桶川市に限らず、放課後児童クラブにおける昼食提供は2023年度から急激に注目を集めています。こども家庭庁が昨年夏前に昼食提供について市区町村や事業者を後押しする立場を鮮明にして好事例の紹介にも踏み切ったことが大きいですが、それ以前からも、児童クラブにおける昼食提供の開始を報じる記事も相次いで報じられています。私は、クラブにおける昼食提供は基本的に賛成です。保護者がクラブに通う子どものためにお弁当を作ることの負担を「弁当の壁」と名付けて考察しています。今春出版する書籍にも章を設けて論を展開しています。児童クラブ、学童保育という仕組みは保護者の子育てと仕事等の両立を支える仕組みですから、保護者の生活上の負担を除去するために必要なことはなされるべきで、弁当作りの負担もその1つと考えているからです。
(なお、伝統的な学童保育の世界では、保護者が弁当を造ることが「親の愛情」であり「親子の関り」であるから保護者の弁当作りを積極的に評価する考え方は、特にベテランの支援員を中心に大変根強いものがあります。その趣旨を私は全否定しません。私も夏休みなど、学童に通った子どもの弁当を作ったものです。しかし、親が弁当を手作りすることが親の愛情であっても、それが欠けた家庭には愛情が薄い、足りないのかといえば、そんなことはまったくありません。ややもすると、現場職員の弁当注文等の業務増を避けるための言い訳として、「弁当は親の愛情論」が利用されていると私は考えます。弁当が外部提供になったところで親子の関りに本質的な変化は起こり得ません)
ただ、放課後児童クラブにおける昼食提供については実務上の課題、問題が相当あります。国や市区町村は、以下の課題や問題について同時に解決に取り組みつつ、子育て中の保護者の生活を支えていただきたいと考えます。
・昼食は実費負担の原則は当然だが、所得に応じて費用負担に配慮すること。就学援助世帯は0円などの配慮を。
・放課後児童クラブは、貧困世帯の子どもに対して十分な福祉的配慮を行うことが求められる。学校給食が実施されない期間に昼食が提供されることは福祉的観点から重要。世の中には、学校給食が栄養面、カロリーの支えである世帯が必ずあるのです。よってクラブにおける昼食提供においても、栄養面やカロリーを支える食事の提供に配慮すること。
・役所の担当者が昼食用弁当の受注や配達の手配業務を行うとしても現場職員の仕事量も確実に増えるため、配置する職員の人数増を行うこと。残飯の対応はとても大変。食中毒を起こさないための保管の設備も整えていただきたい。現場の支援員、学童職員は、子どもの衛生面や安全面において常に子どもに被害が出ないように気を使っているのです。ただでさえ、クラブの職員は配置数不足で過重業務に苦しんでいます。職員の負担が増えないよう、昼食提供によって子どもに万が一の健康被害をもたらすことがないよう心配する職員の精神的な負担軽減を含め、職場環境の改善も同時に検討するべきです。
・食物アレルギーの対応は絶対にミスが許されない。アレルゲン誤提供を起こさないため複数の仕組みを整えること。
・昼食用の弁当を頼んだ、頼まないという保護者とのトラブルは必ず起きるもの。また急な発注や取消しなどにまつわるトラブルも起こる。昼食提供にかかる利用ルールの周知と徹底を市区町村と事業者が必ず行うこと。トラブルは現場職員に対処させず市区町村や事業者の運営本部で対応すること。
・子どもは、最初のうちは喜んで昼食提供された弁当を食べます。しかし、必ず飽きます。断言できます。同じ昼食(弁当)提供業者から配達される弁当類では、基本的に味付けのベースが同じですから、最初の数日はともかく、2週目に入ったころには、食べ飽きて残す子どもが出てくるものです。大人でも、ずっと同じ弁当店で弁当を買い続ける人は珍しいですよね?大人は店を選べるのですが、クラブで昼食弁当を食べる子どもは他の店を選べません。その点、メニューについては制度設計において十分に配慮が必要。
・最終的には、小学校の学校給食の仕組みを利用した昼食提供を推進しましょう。学校給食については子どもは飽きませんよね。学校給食は極めて優れたシステムです。こども家庭庁の好事例で紹介された茨城県境町の事例が大変参考になります。インターネットのメディア「PR TIMES」2023年8月18日10時09分掲載の記事が詳細に伝えていますので、ぜひご覧いただくことをお勧めします。一部引用しますと、「茨城県境町(町長:橋本正裕)は令和3年7月の夏休みから、町内五ヶ所の児童クラブに、境町給食センターで作った昼食を提供しています。1食あたり250円の負担で、費用は学童の利用料金とともに口座引き落としになり、令和5年の夏休みでは、児童クラブに通う9割以上の方にお申込みをいただいております。」とあります。
放課後児童クラブは、社会を支える大事な社会インフラです。市区町村、事業者はクラブを利用する保護者の利便性を向上させることに積極的に取り組んでいくべきです。昼食提供もその一環です。市区町村は、補助金の活用(育成支援の周辺業務に係る人件費補助)を積極的に行ってクラブにおける昼食提供を推進しましょう。
<PR>
放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。
(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば、当ブログの引用はご自由になさってください)