学童保育を構成する要素を点検する。その3:保護者(利用者)の認識と期待する内容が、学童保育側と異なる現状

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 学童保育を構成する各要素を、わたくしなりの視点で思うところを指摘していきます。過去2回で以下の点を取り上げました。
(1回目:11月20日)
・学童保育は事業活動。ビジネス上のしきたり、流儀を身につけることが必要
・事業、それも人のためになる事業である限り、利用者側のニーズに最大限寄り添うことが事業者側の務め
・利用に際しては、事業者側も、利用者側も、ルールを守る、守らせる
(2回目:11月21日)
・指定管理者制度における株式会社が行う事業内容に問題があっても評価側の判断で、いかようにもされる
・指定管理者制度における株式会社が行う事業内容に問題があっても、その発信が少ないので世間に伝わらない

 3回目となる今回は、学童保育所と保護者について考えていきます。

 私の考えを先に紹介します。今回のブログでの学童保育所という表記は、放課後児童クラブのことになります。
・学童保育所を利用する保護者の多くが学童保育に対して望むこと、期待することは「預かり」である
・学童保育所に期待することはその利用料と関係する
・学童保育所の重要な使命である育成支援については、その価値が十分に理解されているとはいえない
・学童保育所に対する社会全体の認識が、育成支援を評価し重要とならない限り、育成支援の学童保育所は消える

 まず、保護者が子どもの育ち、成長に対して期待することはバラバラです。それは当然であって、世の中の全ての子育て世帯が「育成支援を行う学童保育所こそ、子どもの育ちにとって素晴らしい!利用するべきだ!」と思うはずはありません。私は、育成支援とは、子どもの非認知能力を育んでいく過程そのものだと考えていますが、それは同時並行もしくはその後の人生において、たくさん得なければならない認知能力を獲得して活用するための土台を作り上げていくものだと理解しています。児童期において、どんどん学習やスポーツ、芸術の高度な技術内容を自らの意志で獲得したいと積極的にチャレンジするこどもにとっては、学童保育の世界は刺激に乏しいと感じられても不思議ではありません。
 すべての子どもが、自分にとって、一番過ごしやすい、自分が安心して過ごせる居場所があれば、それは学童保育所でなくても構わないと私は考えます。よって、現状は、放課後や夏休み等に子どもが安全安心に過ごせる場所が、学区内の学童保育所しかない、という状態は早急に解消されることが望ましいと私は思っています。学童があれば児童館、プレーパーク、子ども図書館、地域の大人がしっかりと見てくれている児童遊園、あるいは制度として利用できるファミリーサポートなど、いろいろな手段や方法があっていい。学童保育所は、子どもの希望を考えて最終的に保護者が選択できる選択肢の1つとしてあればいいと思うのです。

 さて、現実には、学区に1つしかない子どもの居場所として学童保育所がある場合、それを選択「せざるをえない」のですが、多くの保護者にとって必要なことは「子どもが過ごせる場所」そのものです。当然、重大なけがをしたり、いじめにあったりでストレスを抱えるような状況は絶対に望みませんが、居場所として親自身が迎えに行く時間まで過ごしてくれれば、それでいい、と思っているのが実情です。
 (もちろん、支援員の献身的な育成支援の働きぶりを見て、育成支援と職員の存在を高く評価する保護者は現れます。私もその1人でした。が、すべての親、多くの保護者がそうかといえば、違います。感謝はします。ありがとうとは、思います。しかしそれと、育成支援や、支援員への敬意や理解は別の次元でしょう)

 つまり、預かり場であればいいというのが、世間のたいていの保護者の希望です。ですから、毎月の利用料金が数百円から数千円程度で済む放課後子供教室や放課後全児童対策事業が大人気なのです。まして、毎月1万数千円を支払ながら、毎月や年度末に一定の労務を提供しなければならない負担感はやっかいです。その料金に対して得られる児童福祉事業としてのサービスの受益に対して、保護者に割り当てられた労務負担(役員や係、大規模分割における活動等)は、料金に対して割に合わないと思うことで、親の負担感が膨らむのです。

 それなりの値段を支払うのであれば、もっとプラスアルファのことをしてほしい。学習時間をしっかり確保して、学習塾とはいかないまでも、ある程度の学力の水準を維持できるぐらいのサービスはしてほしい、と思うのも、無理はないことです。本格的に勉強をさせたいのならば月3~5万円を支払って学習塾に入れるでしょうが、月1万円を超えるぐらいになると、「預かってくれればいいのに、そんな料金になるなんて」という保護者の不満感が生まれても、これは無理のない事です。
 もちろん、その料金があって、支援員の安定した雇用や、持続的かつ安定した事業運営ができるので、それは必要なコストなのですよ、という理解を丁寧に、かつ、粘り強く求めていくことは事業者として当然です。ただ、世間には実際、数千円以下の料金で午後6時、午後7時まで受け入れてくれる市区町村がある以上、「うちは1万円する、隣は6000円なのに」という不満が生じるのは、なかなか防ぎ難いでしょう。

 多くの保護者が学童保育所に期待する、望んでいることと、「子どもの育ちを支え、保護者の子育て生活を支えることが使命」とされている学童保育所の思いは、決定的に違いが生じています。この違いがある限り、育成支援を行う学童保育所がさらに社会に広まっていくことは不可能と私は考えます。学童保育所は、元来、その仕組みを必要とする保護者の動きで発展してきた結果、法制化されて名実ともに社会が必要とするから存在している制度になりましたが、社会全体が「学童保育所は、預かってくれればいいから。それ以上の事は期待していないから」という認識であり、かつその認識が広まっていくならば、「育成支援とやらをするのでお金がかかるのであれば、それはいらないから、もっと安い料金で、預かってくれればいい」ということが社会全体の要求となります。

 実際、育成支援の質を問わない制度である全児童対策や、育成支援の質より受け入れを重視している株式会社運営の学童保育所が急激に増えていることは、その表れだと私は考えています。

 この状況を変えるべきか否か。最初に申したように、いろいろな選択肢があって、その選択肢から保護者が最終的に選ぶことが望ましいと私は思っています。世の中すべての子どもの居場所が育成支援を実施する場所である必要はないですが、「育成支援を行う場所に子どもが過ごすことは、たった数年間の学童期における子どもの育ちにとって素晴らしいことがたくさんある」ということを知っている子育て世帯の保護者が増えれば、自ずと、育成支援を行う場所が選択されやすくなることになりますし、そのような状態が必要であると、私は考えています。

 そのためには、育成支援の価値や重要さを、もっともっと分かりやすく、かつ、大量に、情報として、社会に提供しなければなりません。過去も現在も、育成支援を行う学童保育所の世界の中では、育成支援の重要性は繰り返し伝えられています。それは大事なことです。職員が育成支援の価値や本質を理解しないで、育成支援を提供できませんからね。また、育成支援の価値や本質を理解し、それを実践することで、保護者の中には、育成支援のすばらしさを実感できる人も出てくるからです。

 しかし、それだけでは、じり貧です。育成支援の重要さを、もっともっと社会に伝えていかねばなりませんし、そうしない限り、「学童?預かり場で十分」という人が増えるだけです。残念なことに、育成支援とは程遠い子どもへの対応を日々行っている職員や運営主体の存在が、大きな障害にもなっています。とりわけ、育成支援の重要性を理解していない行政機構と行政関係者がいると、極めて深刻になります。

 それらを含めて、社会全体が、育成支援の重要性についてもっと正確な知識を得ることが大事ですし、そのためには、育成支援の重要性を理解している側が、積極的に周知広報せねばなりません。なお、「絶対に正しい」ということではありませんよ。「子どもが過ごすいくつかの方法がある中で、育成支援の学童保育所を選択することは、子どもにとっていろいろなメリットがあり、それはやがて保護者や家族には当然、社会全体のベネフィットとして社会に蓄積されていくことになりますよ」ということを、知っていただく努力を、学童保育所側が尽くさねばならないのです。それは、利用者たる保護者が、利用者であり支援員と共に子育てに向き合う保護者に変わっていくことであり、単に施設の設置整備を行って義務を遂行しているだけの行政機構が、地域の子育てについて行政としての責任を感じること、でもあります。

 現場における実践と、重要性の周知広報。この2つが相互に同時並行的に進行していくことが必要です。

 周知広報でいえば、学童業界内部に向かってその重要性を説いて満足しているだけでは、やがて、「預りで十分」という認識が社会全体に固定化され、育成支援の学童保育所に投じるコストすらも無駄だとして行政に削られ、あるいは保護者に支出するのを拒まれ、育成支援の場所が縮小し、消えていくでしょう。すでに1つ1つの市区町村では、そのような事態が進行しつつあるではないですか。

 現在は、育成支援の学童保育所にとって、状況は絶体絶命であることを、認識しなければなりません。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所の運営の継続について、「あい和学童クラブ運営法人」がお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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