学童保育を構成する要素を点検する。その2:運営主体の実績が支援の質を左右するにも関わらず重要視されない

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 学童保育を構成する各要素を、わたくしなりの視点で思うところを指摘していきます。前回は次の点を取り上げました。
・学童保育は事業活動。ビジネス上のしきたり、流儀を身につけることが必要
・事業、それも人のためになる事業である限り、利用者側のニーズに最大限寄り添うことが事業者側の務め
・利用に際しては、事業者側も、利用者側も、ルールを守る、守らせる

 今回は、運営主体を取り上げます。運営主体とは、事業者、つまり学童保育所を運営している組織体です。公営ならお役所、株式会社、非営利法人、任意団体(保護者会や地域運営委員会)などいろいろありますが、今回は株式会社、それも指定管理者制度における株式会社について考えていきます。

 まず、事実として認識しなければならないのは「質に対する意識の差」です。私も含めて、子どもの育ちを支える(=育成支援)活動を保護者と職員の連携の下に行う様式の学童保育所(育成支援系学童保育所)を評価する立場からすると、指定管理者となって学童保育所を運営する株式会社には厳しい評価をする傾向があります。それは主に、育成支援を行う実行者である職員の雇用待遇面の悪化や、配置人員数不足による育成支援の質の低下を懸念していることが理由です。「子どもにとって過ごしにくいだろう、職員も理想とする育成支援ができずに日々、悔しい思いをしているだろう。低賃金とマンパワー不足で毎日、大変だろう」と想像するわけです。

 しかし、現実において、すでに日本のいたるところで、株式会社が指定管理者となって運営している学童保育所がたくさんあります。本当に深刻な質の低下によって学童保育運営に支障が出ているのであれば、各地において相当な頻度で事案、トラブルとなって表面化するでしょうし、報道もなされるでしょう。保護者が怒りの声を上げ、職員も「これではやっていられない」と行動を起こす。行政も、「そんなひどい運営では、子どもの権利が守られない」と調査や処分に動き出す。しかし、ほとんどといっていいほど、そのようなことは見られませんし、報道もありません。せいぜい、数年に1度ぐらいです。報道があるとしたら、個々の職員による不法行為ぐらいです。むしろ、市区町村から「学童の運営を、そんなに高い費用でなく引き受けてくれるなんて、ありがたい」と感謝されているでしょうし、指定管理者で学童保育所を運営する株式会社は「安定収入が向こう5年間確約できる学童保育運営、アウトソーシング事業、はんぱねぇ!」とニンマリでしょう。補助金ビジネス花盛りです。

 このことは、結局のところ、株式会社が指定管理者として運営する学童保育所も、「子どもや職員の権利を軽んじた、ひどい運営は行っていない」ということを「結果として」証明してしまっています。問題がある!と騒ぎにならなければ、それはつまり、何もないことであり「問題は、ない」ということになっていくのです。要は、世間(この社会の大きな意識)は、株式会社が指定管理者として運営する学童保育所に問題を感じていない。それはつまり、「株式会社が運営する学童保育所に、保護者も行政も、実は職員すらも、問題点を感じていない」ということです。ここで、「子ども」と私は書かなったのは、子どもの意見を周りの大人が受け止めなければならないという意識になっていないことを示しています。子どもが「あんな学童、イヤだ」と親に話しても「わがまま言わないで」で片づけられてしまい、とてもとても「こどもの意見表明」なんてこれっぽっちも意識されていないからです。

 問題点を感じていないのはなぜでしょう。本来であれば問題点と認識される事象が実は存在していると仮定の上での話です。
・気付いていない(観察者に対して隠ぺいされているか、保護者や職員や行政が気付かないか、この2形態)
・それが問題だと理解できない(見聞きしている事象に問題があると分からない)
・それが問題だと理解しているが、問題とは取り扱わない
この3つのパターンに加え、世間や社会が「問題と感じない」ことについて、さらに1点、
・それが問題だと理解しているが、運営主体やその組織に関わる人だけが知っており、世間や社会に知らせていない

 いずれも同じぐらい深刻です。

 気付いていないパターンは、例えば、普段は職員が怒鳴り声で子どもの行動をコントロールするような育成支援が行われているクラブで、保護者が迎えに来る時間帯になると、そんなことは職員が一切行わない、ということがありますね。

 それが問題だと理解できないパターンは、例えば先の怒鳴り声で子どもをコントロールすることについて、「子どもにはそれぐらい強い態度で接しないとダメよね」と保護者が賛同してしまうことがあります。子どもを支配、抑圧して行動を思いのままにさせることは極めて重大な人権侵害であるという知識が欠けていると、こうなります。

 それが問題だと理解しているが、問題とは取り扱わない。これは積極的な問題点の隠ぺいに容易に発展する可能性があります。非常に恐ろしいです。
 しかし例えば、こんなことがあります。埼玉県春日部市は社会福祉協議会による運営から株式会社運営の学童保育所に指定管理者が変わったことを契機に、運営体制に不備があるのではないかと保護者関係者が求めた住民監査請求が認められなかったことから裁判に発展しています。さてこの春日部市は、指定管理者への評価を公表しています。令和4年度によると、「利用者アンケート結果」では、おやつの満足度は上半期51.1%、下半期でも57.3%に過ぎません。施設設備管理も上半期54.6%、下半期61.5%。この数値について私は、ひどい状態に極めて近いと感じます。

 ところが、四半期ごとの評価はすべて「A」評価です。A評価とは、「適切な指定管理業務が実施されている」に相当します。え?と思います。というのは、さらに続いて「年間を通じた個別事項の評価」という欄があり、そこにある「安定的な運営体制が確保されているか」という評価項目について、「職員体制は十分か」に「×」、「職員の育成指導、研修態勢は十分か」も「×」がついてます。
 「施設の適切な管理運営が計画的に実施されているか」の評価項目では「書類等文書の作成・管理・保存は適正に行われているか」が「×」です。全体19項目のうち「〇」は16項目ですが、バツとなったのは上記のように、事業運営において最重点とされるべき内容です。職員の体制ができていないことは、人員配置が法令で規定されている事業において致命的な問題です。それだけで、この事業者は学童保育所の運営を任せるのに問題があると考えらえてよいはずなのに、「A」評価とされています。
 行政や、評価選定に関わった方の見識を私は疑いますが、「それは問題ではない」と判断する立場の者が判断してしまえば、結果としては「問題なし」となってしまうのです。

 運営主体が、自らを律していくという崇高な使命感を組織全体で共有する、という夢物語は到底期待できないわけで、さらに、本来なら問題であるということを判断する立場が、理由はどうあれ「それは問題ない」と判断してしまえば、問題のある状態での学童保育運営が、ずっと続いていってしまう。これは、子どもにとって最悪の状況ですね。

 このような事態をどうやって回避すればいいか。言葉を替えれば、「問題のある運営をしている事業者を、どうやって退場させるか」ということになります。
 大変難しいですが、実現するためには「それは問題だろう」と思う者が1人でも多く声を上げ、世間に発信し、知られざる状況が存在していることを世間に知らしめることです。また、「それは普通でしょう」と思う人に「いや、それは本当は、決して許されないことなのだよ」と正確な知識を伝えて理解を育て、「知らなかった!それはひどい!」と賛同する人を増やすことです。
 勇気をもって、声を上げることです。ダメなものはダメ、と言うことです。

 「そんなことを言っても、実際にその会社で働いているかぎり、それは無理」という声があります。確かに、生活がかかっていますね。クビになったらどうしようと不安になる気持ちは分かります。
 が、それでも、行動しなければならないのです。なぜなら、「子どもの人権、人間の権利、社会正義に対する不正を見逃してはならない。見逃したら、あなたも同じ権利侵害者となる」からです。まず、問題点を解消したいという意識を同僚や保護者と共有し、その人数を増やし、正当な方法で経営側に意見を伝えていく。社内の会議でもいい、組合活動でもいいでしょう。また、積極的に外部の研修や勉強会に参加してさらに問題に関する分野を学ぶことです。行政や関係機関、報道機関に発信することも正しい行動です。内部告発は、正義を実現する手段です。SNSで発信することも大事ですよ。

 株式会社は当たり前ですが整ったルールで運営されています。その運営手法自体はこの時代、コンプライアンス重視ですから、事業活動自体は全く問題ない場合はほとんどでしょう。指定管理者制度でどんどん運営する学童保育所が増えていっても、それは当然です。必要する市区町村がいるから、運営する学童保育所が増えているだけの話です。形は、そうです。私たちが今後、問題意識をもって取り組んでいくべきなのは、「実際に、その場で、何が行われているか」を知り、それが問題のある事象であれば、広く知らしめて改善を求めていくことなのです。特に、保護者と職員が、「それは実は、問題だったのですね!」と気づくことです。世間一般の保護者の多くは「学童は子どもを預かってくれる。それ以上の期待はしない。勉強させてくれればいいけど。やっぱり成績がよくなってくれなきゃ」という意識である以上、子どもを管理して過ごさせる学童保育所で子どもがストレスを感じていたとしても、その状態が問題であると理解しませんから。職員にも同様なことが言えます。

 そうすると、最終的にこの問題、指定管理者制度で運営する株式会社の学童保育所の質の問題は、「保護者が、いかにして、学童保育所の本来の使命を理解するか。子どもの育ちに大事なことは、何か」について、どれだけ興味と関心をもってくれるか、によって左右されますね。学童保育所に明るい未来が見出せるか、それとも、このままずるずると、学童保育所は単に子どもが管理されて数時間過ごす場所として理解が固定化されるか、運命の分かれ道はまさに今だと、私は思っています。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所の運営の継続について、「あい和学童クラブ運営法人」がお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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