放課後児童クラブの事業者が、新人職員を育てるために大切にしたい2つのこと

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。新卒職員にも社会人採用(中途採用)であっても、放課後児童クラブの事業者が新人職員育成において心がけねばならないことを2つ挙げます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<新人に教えるためには事業者が実践していること>
 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の仕事は(外部の方が想像しているより)とても大変です。育成支援の実務(子どもと保護者に直接かかわらること)、育成支援の実務を支える事務的な業務(支援計画の策定から、支援記録作成、おやつ代の管理など)、施設の管理、補助員(非常勤職員)の管理などなど、挙げればきりがありません。早く一人前の職員になってほしいからと、あれもこれもと教えたがる事業所、先輩職員がいますが、それはダメです。まず最初に教えるべきことは、「決まり、ルールを絶対に守ること」です。すなわち、コンプライアンス(法令遵守)です。

 当たり前ですが、新人職員にコンプライアンスの重要性を説く側が、コンプライアンスをいい加減にしているようでは、新人職員から信頼を得られません。例えば、新人職員の前で、先輩職員や組織全体が、次のような行動をしていませんか?
・年次有給休暇の申請をしたら本部に「困るんだよなあ」「え?そんな時期に有休取るの?」と嫌味を言われる
・時間外勤務(残業)による割増賃金が、実際の時間外勤務時間に即して支払われていない
・出勤時刻の10分前出勤を(事実上)強制されながらその時間分の賃金が支払われていない
・組織内部の決まり(内規)をしっかり守って書類を処理しようとしたら先輩から「そんなところ、適当に書いておけばいいのよ」と言われる
・同じようなミスをしたら、やたらひどく叱責する場合があれば、「まあ次は頑張って」と妙に優しく扱する場合があり、特段の事情が無いことが明らかなのに、対象者によって明確に対応を変える管理職がいる
・退職を申し出ようとしたら「辞められたら困るから退職届は受け取らないよ」と断られる
・子どもがいない時間帯に行う職員同士の会議(育成支援討議など)の場で、「あの子ってこういうところがバカだよね」「絶対、まともに育ってないよね」などと子どもの人格、尊厳を否定するような会話を平然と交わす
・もろもろの会議の場で決めたルールを「今日は〇〇主任がいないから、適当にやっちゃおう」と仕事の手順、段取りを無視する

 ごく一部だけ例示しました。身に覚えはありませんか?私には見聞きしたことばっかりです。上記のようなことをしている職員がいる組織は、実は組織全体がコンプライアンスを軽視しています。会社、法人、任意団体、組織の形態はどうであれ、法令は当然、組織自ら決めた内規、ルールを守っていない組織にいる人は、おのずとコンプライアンスの意識が軽薄です。例えば、組織の運営方針を組織の代表者がいない間に開いた会議で勝手に変更して代表者に何ら報告しないまま監督官庁に「代表者が了解しています」と虚偽の報告をして知らん顔の組織があったとしたら、「ありえないでしょ」「それはひどいね」とみなさんは思うでしょう。そういうことを平然とするような組織も実はあるのです。それが、コンプライアンスの意識が軽薄な業界の実態です。

 新人職員(だけではないですが)は、少なくとも、「この会社ならうまく働いていけるかも」と思って採用を望んだのですね。それは、会社や組織を信じてみたいという気持ちがあってこそ。その希望を打ち破ってはなりません。この世は当たり前ですが法治社会です。ルールをしっかり守ることが行動原理です。子どもの最善の利益を守ることも当然です。子どもの権利を守ること、働く人の権利を守ることも、法に定められていることです。会社や組織の内部のルールも法令と同じように守っていること。それが目の当たりに出来れば、新人職員は、会社や組織に信頼感、安心感を育てることができます。

 新人職員を採用した児童クラブ事業者は、当然ながらコンプライアンス研修を行うでしょう。今どき、コンプラ研修を行わないなんてありえません。コンプラ研修を行っていない組織は事業の管理運営に真剣に注視を払っていると見なされないからです。しかし、いくらコンプラ研修をやったところで、その研修を企画開催した会社、組織がグダグダでは、すでに先輩職員の「ルールなんて、口うるさい人がいないところではいくらでも手を抜いていいのよ、やりやすいようにやるのが私たちのルールなのよ」なんていういい加減な態度を見てしまった新人職員にとっては、偽善以外の何物でもありませんね。

 新人職員の育成において大切にしたいことは「コンプライアンスの意識をしっかりと植え付けること」ですが、実はそのことは、「会社や組織、先輩職員がコンプライアンスをしっかり守った行動をできているかどうか」に、ほかならないのです。

<会社、組織への信頼感向上と同時に「自分自身への信頼感向上」を図ろう!>
 「この会社は、自分を守ってくれる。育ててくれる」という信頼感があれば、自ずと、会社や組織に向かう感情は良好に向かいます。同じことを、新人職員(だけではないですが!)も、自分自身との関係に置いて構築することです。それは、「自己肯定感を高める」ことです。自己肯定感、すなわち、自分自身を大切に思えるか、自分自身を受け入れられるかということです。どんな自分であれ、自分そのものを「前向きに」受け止められる自分であることです。
 自己肯定感が高いことは、社会人にはとても重要です。仕事はいつもうまくいくとは限らない。まして児童クラブの仕事は、十人十色の「生身の人間」と向き合う仕事ですから、以前に取った対応が次もうまくいくとは限らない。1つとして同じケースは起こらないのです。いくら実務マニュアルがあっても、マニュアル通りにやってうまくいくことはそうそうありません。するとどうしても失敗から逃げられません。失敗すると落ち込みます。上司や同僚から批判や叱責を受けることもあるでしょう。仕事は責任が伴うものですし、場合によっては金銭の損失をも招きますから、会社や組織も必死です。
 社会人であれば、いくらでも襲い掛かってくる困難な事態、失敗に対して、自己肯定感が低い人は「自分はどうせダメなんだ。何をやってもうまくいかないんだ。マニュアル通りにすらできないんだ」と、自分を追い詰め、常に自信を喪失し、「もう、無理です。辞めます」となるのは当たり前です。
(なお、逆に、根拠なく自己肯定感が高すぎる人も、それはそれで困りますし、むしろ最も対処が難しい事態です。行動や考え方を修正しようと指示をしても「自分の方が正しいですから!こんな失敗たいしたことじゃないですよね!」で片づける人物の教育は非常に難しいのです)

 自己肯定感が低い職員には、いくら業務上のスキルや思考回路を教えても、それを存分に発揮しようと試みる「自己効力感」が発揮しにくい傾向があります。適切な自己肯定感をそなえた職員であれば、研修や教育で学んだ知識、技術を、自分の実務で試してみよう、発揮してみようとチャレンジします。それが「自己効力感」です。ところが、自分自身に自信が持てない自己肯定感が低い場合は、学んだ技術やスキルを発揮しようとする自分自身に踏み出せない。そしてまた自己嫌悪に落ちってしまう負のループに陥ります。

 自己肯定感を高めることは、そう簡単な事ではありません。その人がそれまでに生きて過ごしてきたことの積み重ねであり、その人の成育環境も影響していることでしょうし、会社や組織が行うたかだか数時間の研修で、それまで自己肯定感が低かった人が急にポジティブ人間になるなんて、そんな都合のいいことはありません。よって、時間をかけて、数年かけて、「自分は、今までなにをやってもうまくいかなかった。社会に役立つ人間ではなかった。でも、児童クラブのことを一生懸命勉強して挑戦したら、少しずつだけど、子どもと保護者への対応に、おびえることがなくなってきた。積極的に関わってみたいと思えるようになった」と思えるような職員になるように、じっくりと腰を据えて、新人を育てることが必要です。仕事の「場数」を踏んで、小さな小さな成功ーそれは「失敗をしないこと」で十分ーを感じながら過ごせる仕事の日々を過ごすことで、徐々に新人は育っていくものです。

 自己肯定感を高める指導はいろいろあるでしょうが、決して「マニュアル通りにやればいい」と言わないことです。マニュアル通りで解決するような事態は児童クラブの世界にはそうそうありません。「マニュアルを必ず見て、参考にすること」とは絶対に言わねばなりませんが、「マニュアル通りにやればできるでしょ」ではダメです。「マニュアルを見て、理解できなかったらすぐになんでも聞いて。ここの部分は特に誤解しがちだから、こういうことだからね」と先輩が丁寧に伝えながら、マニュアルの利用、活用法を新人に伝えてください。

 自己肯定感が育ってこそ、教えたスキル、技術が存分に発揮できる自己効用感が有効に役立つ局面がやってくるのです。教えたスキル、技術がどうして発揮できないんだ!と組織や上司が歯ぎしりする前に、自らが新人育成に有効な計画を確たる見通しをもって実施しているのかどうかを、確認してください。

<おわりに>
 新人職員が育つも育たないも、まずは会社、組織の取り組みから。もちろん「どうしようもない事態」はあります。最善を尽くしても、職員が辞めてしまったり、ありえない不祥事を起こすということだってあります。人事、教育は結果がすべて。結果は受け入れなければなりません。新人が育って当たり前、育てることができて当たり前であって、育たなかったら「人事は見る目がない」「うちは新人を育てるのが本当に下手な組織だ」と職員、社員から批判を受けてサンドバッグになる立場、それが人事であり教育研修の立場の者の宿命です。それこそ自己肯定感が高くないと務まらない任務ですね。でも、それが任務であれば、やり遂げてください。それで給料をもらうわけですから。
 新人職員は、新人である期間を存分に活用して、どんどんと、知らなかったこと、覚えねばならないことを身に着けていきましょう。分からないことは遠慮なく聞きましょう。あなたが成長することは、あなたと向き合っている子ども、保護者がそれだけ信頼感をあなたに覚え、クラブにいること、クラブに関わることが楽しく、安心することになるのですから。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の発展を願い、種々の提言を行っています。そして個々の事業者、市区町村における放課後児童クラブの事業運営をサポートします。子育て支援と放課後児童クラブの運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営に加わることでの実務的な支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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