放課後児童クラブは深刻な人手不足。事業者は連携して「人材交流」を行おう。業界全体で離職者を減らそう!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。前日(4月22日)の運営支援ブログでは、学童の世界で働き出して辛い状況に陥った人に「無理しないでいいよ」と伝えました、本日は、せっかく学童業界に入ってきた人に次のチャンスを提供できる機会を事業者の連携で作るべきだと訴えます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<新卒も中途採用も、とにかく多い「早期離職者」>
 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の世界は、働く人がなかなか定着しません。つまり、すぐに離職、退職する人が多いのです。事業者だけでなく現場で働く人はそのことを実際に体感しているでしょうし、保護者でも「うちのクラブはとにかく先生がよく変わる」と感じている人も多いでしょう。児童クラブの世界でよく聞く話ですが、新しい職員がクラブで子どもたちに挨拶すると、子どもたちから「先生は、いつまでいてくれるの?」と問いかけられることは、職員がすぐに入れ替わることは子どもたちにとって悲しい記憶となって積み重なっていくのです。

 私の体感では1年でおよそ半分が離職するぐらいのイメージです。実はデータでも職員が長く仕事を続けられないことが示されています。「放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査」(令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業)にある職員給与の調査結果欄に、継続勤務年数が示されています。すべての運営種別(公設公営や公設民営など)における、月給で処遇されている放課後児童支援員で常勤職員は、平均勤続年数6.2年であり、平均年齢は47歳です。このことは、20~30歳代の職員が少なく、中高齢者の中途採用の職員が、放課後児童クラブにおける職員の構成の中核になっていることを示しています。平均で6年ちょっとの勤続年数というのは、仮に職員が3人いれば、キャリア10年超の職員が1人、キャリア6年程度の職員1人、キャリアが3年持たないで退職する職員が1人いるという状況がありえます。児童クラブの世界は、格別にキャリアが長いごく少数の職員がいて、キャリア10年に届かないうちに離職する職員がそこそこいて、キャリア1~2年で退職する大勢の職員がいる、というイメージでよいでしょう。

<軽視されている、職員を育てるために費やすコスト>
 児童クラブの世界はとにかく貧乏ですから、新人職員の養成、研修はOJT頼み。そもそも、外部の企業や人材養成機関に、放課後児童支援員や児童の健全育成に特化した特別な人材養成のシステムはありません。結局、事業者が自前で新人職員を育てるのですが、個々の事業者、もっといえば個々のクラブ、さらにいえば「そのクラブに以前から配属されている職員」ごとに育成支援の具体的な実務手法そのものが異なっていること、育成支援の概念や価値の理解にも差があることによって、配属されたクラブごとに新人育成の手法や育成のスピードは異なってしまいます。
 さらに、少人数職場についてまわる「人間性の衝突」。要は、好き嫌いですが、こればかりは少人数職場で、常時、顔を突き合わせる職場環境で、いったん人間関係がこじれると、修復不可能な状態に陥ることはごく普通です。

 人手不足の背景から、配置されたばかりの新人にも、周囲は数週間もすれば一定の「戦力」として期待しがちになる傾向もあります。「クセの強い」先輩の下に配属されて半年たたずに仕事を辞めたいと新人が思えば、「あの新人、この仕事に向いていなかったね」と半ば見捨てられることも、この業界にありがちのことです。

 人を1人雇って、それなりに職業人として成長するまでに事業者が費やしたコストは、ばかになりません。新人に支払った給与だけでなく、その新人に付いて指導をした教官役のマネジャーの賃金もそう。時間的なコストもあります。ところがこの業界は、早期に新人が離職するとなったら「この仕事に向いていなかったね。また募集すれば人が来るよ」の繰り返し。事業者が、その新人を育てるためにどれだけのコストを費やしたかどうか、意識して事業を営んでいる児童クラブ経営者は、特に非営利法人の事業者においてどれだけいるのでしょう?私の拙い経験では、人材育成のコストを常に気にしている非営利法人の児童クラブ経営者に出会ったことはありません。児童クラブの業界は、いつまでたっても人手不足。また新人にイチから教えてそろそろ10のうち3ぐらいまで教えてきたところで「やっぱりこの職場、無理です」と職員が辞めていくのも、無理はないと思っていました。
(もちろん、教わる側である新人の側にある事情にも考慮が必要です。しかし、物覚えが悪い、融通が利かない、言われたことしかしないだけでなく言われたことも自分の理解ができるまではやろうとしない、ということは、おそらくいつの時代にもあったこと。あの山本五十六も新人教育に苦労したのですから。しかしこの問題でもっとも深刻なのは、今の時代を生きる人間の「自己肯定感の低さ」でしょう。仕事に失敗はつきもの、失敗を乗り越えて経験を積むということができないのです。失敗した、もう自分はダメなんだ、と自分で自分を追い込む自己肯定感の低さというより欠乏の人間がどんどん増えているのは、社会全体の問題です)

<投資したコストの回収は業界全体で!>
 せっかく採用して、放課後児童クラブとは、健全育成とは、ということを知識として与え、子どもと保護者に関わる経験を積ませてきたところで、「やっぱり無理です」となる人が大変に多い現状です。離職の理由が、他に魅力的なチャレンジしたい出来事が現れたというのならともなく、「この仕事が好きだけれど、ここの会社ではない」という場合に、私は何か打つ手があると考えています。
 前日のブログで、「辞めても児童クラブは常に人手不足だからすぐに再就職先は見つかる」という趣旨のことを書きました。それはその通りですが、新たな就職先でも同じことを繰り返す可能性は当然あります。

 それは今の言葉で言えば「マッチング」の問題です。児童クラブの仕事は、実のところ、具体的な手法、また事業者ごとに理念も違います。その差によって「自分が思い考える育成支援と、ここの事業者は、ちょっと違う」ということが離職に結びつくのです。
 しかし入職する際、どの事業者に採用してもらいたいかは当然、応募する側は気にしますし、事業者側も「うちは、このような理念で子どもたちの育ちを応援しています。こういう研修体系をとっています」と説明はします。しかし、百聞は一見に如かず、実際に現場に入ってみて初めて「なんか、ちがう」ということは、別に不思議なことではありません。

 でも、違う事業者であれば、その人は「そう、この雰囲気、この考え方が自分にしっくりくる」と感じる可能性があるのではないでしょうか。そこに、「事業者同士が連携して、離職や退職を考えている職員のうち、まだ児童クラブの世界で働きたいという人を対象に、その職員を受け入れて勤務の体験ができる機会を設ける」ということの利点を見いだせるのです。

 児童クラブの世界は小規模の運営事業者が大変多いです。地域によっては、1クラブで1法人という状況も多いです。そのような場合、他のクラブに異動ということが不可能ですから、そのクラブでの仕事に行き詰ったら、もうお手上げです。複数の都道府県で事業を展開している大手の広域展開事業者であれば、地域ごとに事業本部が設けられていることがあるので、事業本部を超えた人事異動で心機一転、ということができるでしょうが、数十単位のクラブ運営であっても同一事業者内の人事異動では、マッチングの不都合の解消には十分ではありません。また、職員の採用はクラブごとに行うとしている事業者もあり、原則的に職員の異動ができないという場合もあります。この場合も、働く場を変えてもう一回再挑戦しよう、という機会を設定することができません。

 よって、比較的距離が近い地域に立地してる児童クラブの運営事業者が、離職を考えている職員を相互に受け入れて、一定期間(半月ないし1か月程度)の出向(体験出向)を可能とする制度を協定で結び、離職を考えている職員に提案し、同意が得られれば、違う事業者で仕事を体験することができればよいと、私は考えます。体験出向の結果、「私はあの会社でなら仕事を続けられそう」となれば、転籍を可能とすればいいのです。その際は、それまでの勤務経験を給与に反映させるような仕組み(前歴加算)を整備するなど、労働者側になるべく寄り添った制度設計を心がけておくべきです。

 児童クラブ全体で、子どもの育成支援の仕事をしたいと思って業界に入ってきた人を、大事にするのです。「うちの会社の恥ずかしいところが他社に漏れてしまう」などとつまらないことを思っているようではだめです。だいたい、どの事業者も似たり寄ったりです。まったく何も非の打ち所がない事業経営をしている組織なんてありません。それよりも、他社であっても、放課後児童クラブについて触れ、学ぶ機会を少しでも得た人であれば、ゼロから知識や経験を伝え、積ませるよりもコストカットになります。
 働く側にとっても、キャリアの断絶にならず、また初任給からやり直す、また新たに仕事を探すという面倒や気苦労を経験することがなく、メリットとなります。

 どこかの法人、団体がまず最初に呼びかけて近隣の事業者と連携、提携をすることから始めましょう。児童クラブ業界に入ってきた人材を大事にするために行動しましょう。それが児童クラブ業界全体の発展につながるのです。私は、人事交流の経験を積み重ねた法人、団体がお互いの組織運営について理解を深め、やがて1つの法人、団体として一緒になることで、ものすごいスピードで勢力を伸ばしている広域展開事業者と競争することが可能となると考えているのです。そして質の面での競争を挑んで、子どもと保護者、地域社会にとってそれぞれメリットのある児童クラブ運営の事業を実施してほしいと考えています。

<おわりに>
 児童クラブの世界は、数年後に実施となるであろう日本版DBS法案をはじめ、事業としての質の維持を法令で求められる時代に入りました。そのためには事業運営にも質の高い事業執行が求められます。いつまでも人手不足で人の補充に追われるような事業者では、とても対応できません。人は石垣、人は城といったのは武田信玄公ですが、いつの時代も財産はやっぱり「人」。まして、子どもと保護者という生身の人間とコミュニケーションを重ねて行う仕事です。人を大事にすることが事業者の安定と発展になり、そのような事業者が増えれば業界全体の安定と発展になります。せっかく雇った人、子どもの支援を志した人を、みすみす、他の業界に流出させるのは大損です。
 まず、人事の交流を始めましょう。もちろん弊会もお手伝いできます。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の発展を願い、種々の提言を行っています。そして個々の事業者、市区町村における放課後児童クラブの事業運営をサポートします。子育て支援と放課後児童クラブの運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営に加わることでの実務的な支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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