学童保育のギモンを説明します。「なぜ保育料が隣の町と全然違うの?なんで1万円以上もするの?」

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。学童保育、放課後児童クラブについて、「人に聞きたくても、恥ずかしくて聞けない」「実は、何が分からないかが分からないほど学童のことがよく分からない」という超ビギナーさん向けに、随時、基礎的な知識を掲載します。今回は、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の利用料金(保育料、保護者負担金とも呼ばれるもの)の料金の違い、その差の大きさについて説明します。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<児童クラブの利用料は、こんなに差がある!>
 放課後児童クラブの利用料は、全国すべての各市町村でバラバラです。統一された料金はありません。金額の幅もそれこそバラバラで、無料の自治体もあります。私が現在進行形で調べている、全国市区町村の放課後児童クラブのデーターベースは4月26日時点で280の市区町村まで進んでいますが、市区町村のHPで無料と案内しているところは北海道赤平市、網走市、岩見沢市、群馬県邑楽町などがあります。無料でなくても、毎月3,000円~5,000円という地域はかなりあります。一方で、1万円以上の地域はぐんと減りますが、それでもあちこちにあります。私のいる上尾市も1万円を超えていますし、群馬県伊勢崎市、滋賀県近江八幡市、岐阜県大垣市などが1万円超の料金です(なお、こどもの学年が上がるにつれ料金が下がる地域がほとんどです)

<見た目の数字だけで判断しないで!>
 ここで一つだけ単純ですが重要な点をお伝えします。市区町村や、児童クラブの事業者が表示している利用料ですが、「結構、低額でよかった」と思っても、とあるカラクリが隠されている場合があります。例えば、「毎月5,000円」という利用料であっても、それは「月曜日から金曜日まで、時間は午後6時まで」という場合が、結構あるのです。土曜日を利用する場合は別途月額で1,500円の加算があり、午後7時まで延長で利用したいというときも別途月額で1,500円が必要となる場合です。日曜日以外の週6日、午後7時近くまで児童クラブを利用するとなったら結局、月8,000円となります。
 そして、いわゆる実費負担分である「おやつ代」です。これも、毎月支払うことになる地域がかなり多いですが、だいたい月額1,500~2,500円です。仮に2,000円ですと、先の例で言えば合計で10,000円となります。5,000円で児童クラブを利用できると思ったら、結果的に毎月1万円だった、ということは実は児童クラブの世界でよくある話です。なんだか、あれもこれもトッピングしていったら1,500円近くになってしまうという某超有名カレーライス店みたいですね。
 この、見た目の数字だけで児童クラブの利用料を判断して、「あの市区町村は安くてうらやましい、それに比べてうちの自治体は、うちのクラブ運営会社は努力が足りない」と、すぐに判断しないでほしいと私は思うのです。絶対ではないですが、おおむね、「公設公営」(市区町村が運営も行っている児童クラブ」は、見た目の基本料金の低さを前面に打ち出しているように私には感じます。一方で、保護者が運営していた時代から発展してNPO法人や一般社団法人となった非営利法人の運営するクラブにおいては、おやつ代も込みでの利用料金の表示をしている例が目立つように感じます。
 (実はこの見た目の数字で、私は大変困ったことがあります。前職で私は児童クラブの運営法人のトップだったのですが、とある市議会議員が議会で「学童の料金が高い!隣のまちはこんなに安いのに!」と数字を挙げて料金の高さを叱ったことがありました。その料金の額ですが、高いと批判された私のいる運営法人の料金はおやつ代込みのフル料金ともいえる額であり、安いとして議員が例に挙げたのはおやつ代も延長料金もなにも含んでいない一番基礎的な料金でした。それを単純に比較して批判するのはあまりに不公正であると、私は議員に抗議しましたが、「あら、数字の違いなんてどうでもいいのよ、高いか安いかだけが問題なのだから」とその議員が言い放ったことは、今でも忘れていません。値段がこれだけ高い!と議場でやり玉に挙げておいて、「数字の違いなんてどうでもいい」とは馬鹿げた話です。残念ながらこういう程度の議員は、結構います)

<料金の差が生じるワケ>
 毎月5,000円と毎月10,000円の児童クラブの差は何か。先の例で言えば、提供するサービスの違いといえます。なお、以前のブログでも触れていますが、児童クラブで「サービス」と書くとすぐにご機嫌を損ねる方が(特に学童業界内部に)います。「児童クラブでの仕事は、学童保育所での仕事は、子どもの育ちを支える重要で崇高な福祉の仕事であって、サービス業ではない!」といきり立つのですが、世間一般で通常働いている方にしてみれば、「サービスというのは役務の提供のこと」という理解はすぐにできるもので、いかに学童業界内部の人たちの一般常識が乏しいか馬脚を露すだけになっていることは大変残念です。
 さて話を戻しますが、児童クラブにおいて午後6時まで子どもを受け入れる場合と、午後7時まで受け入れる場合では、それは明らかに提供されるサービスに差がありますから、料金にも差が出て当然だということは、多くの人に理解いただけるのではないでしょうか。一番分かりやすいサービスが、子どもの受け入れを可能とする時間(学童業界ではよく「開設時間」と呼んでいます)です。なぜ、開設時間が長くなると保護者からいただく料金が増えていくのかも、お分かりだと思います。その開設時間に働くクラブ職員の人件費に充てるための収入が必要だからです。もちろん、水光熱費といった経費も増えますよね。
 児童クラブの仕事を支える職員は、放課後児童支援員という正規職だけでなく、補助員と区分される無資格の人、だいたいパート職員やアルバイト職員になりますが、児童クラブは実はそのような非常勤、非正規の方々の力で支えられています。昔も今も家庭と仕事との兼業がほとんどですから、午後6時ごろには仕事を退勤して帰宅して家事をしたい。そういう人が多いのです。ということは、午後6時を過ぎて午後7時、7時半まで働いてくださる非常勤、非正規の方を確保するために、時給を(わずかでも)上げるといった工夫が必要となります。そのためにも、開設時間が延びると人件費の単価は上がります。むろん午後6時まで常勤、非常勤合わせて5人が出勤していたところを午後6時過ぎには4人にする、といった工夫はしますが、最近はクラブにお迎えにくる保護者の時間も遅くなっているので、午後6時30分を過ぎても20人以上の子どもが、わちゃわちゃ元気にしているといった状況も珍しくないので、あまり出勤する職員数も減らせません。
 先に、基本的な料金の低さを打ち出しているのは「公設公営」と書きましたが、公設公営のクラブはおおよそ、利用料は低いです。「放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査」(令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業)には利用料に関するデータが報告されています。それによると、公立公営(同調査での呼び方)は年間の平均利用料が45,271円となっています。一方で、公立民営(株式会社やNPO、一般社団法人、運営委員会が指定管理や業務委託で運営するクラブ)は78,484円と、3万円以上も高くなっています。民立民営(保護者運営で自治体が補助金を出しているパターンが多いです)になると99,774円と、公立の2倍になるのです。
 またいわゆる「全児童対策事業」のクラブも利用料は安いです。午後5時ごろまでは「放課後子供教室」ですから基本的に無料。午後6時までなら月額2,000円、午後7時まででも4,000円というパターンです。実際、全児童対策の先駆けとなった東京都江戸川区は、午後6時まで4,000円で、午後7時までの延長には1,000円を加算と、月額5,000円で利用ができます(おやつ代は別)。大都会で毎月5,000円とは格安です。これも公営事業だからできることです。

 「それなら、すべてのクラブを公設公営にするべきだ!」と多くの人は思うでしょう。当然です。学童保育の業界内部の「運動」は、実際にクラブの公営化を最終目標として展開され続けています。しかし現実の社会の動きはまったく逆で、保育所同様、児童クラブの世界も、公営クラブがどんどん相次いで民営化されています。「それは保護者の経済的な負担を増すばかりじゃないか!」と思うでしょう。当然ですね。

 実はそんなに単純ではないのです。2つの事情を挙げます。
 1つは、公営クラブは「使い勝手が悪い」ところがあります。分かりやすい例は開設時間です。午後6時で閉所するクラブはほぼ全て公営です。また、午後5時や午後6時までが基本料金で、午後6時30分や午後7時まで受け入れるとして追加料金を月額数千円も徴収するのも公営クラブに多いです。公営クラブの料金の低さは、保護者の利便性があまり良くないことと引き換えなことが多いのです。
 (もちろんこれは、市区町村が利便性を向上させるために必要な運営に関する予算を準備しない、投じないことが原因です。このあたりの事情は長くなるので省きますが、「保護者の皆さんからいただく料金は低めにします。それに見合った補助金しか国からもらえません。よって私どもができるサービスはこの限りです」という事情が隠されています。「市町村」の財政事情が厳しいということも、もちろん影響しています)

 もう1つは働いている職員の賃金です。公営クラブで働く職員の賃金は、公設民営や民設民営の職員と比べて低いのです。つまり、人件費をかけていないということです。これも「放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査」で一目瞭然です。公立公営クラブの常勤職員(いわゆる「正規の先生」)は、ボーナスなど込みで年間2,425,021万円です。一方で公立民営クラブの常勤職員は、同じくボーナス込みで年間3,046,351円となります。年間で60万円も差が出ます。つまり、公営クラブは職員にあまりお金をかけないから利用料も安くできる、ということです。

<料金の差はサービスの差だけではないのです>
 ざっと簡単に言ってしまうと、「公営クラブは保護者が支払う利用料は安いです。ただ、フルタイムでクラブを利用すると、実はそれほど民営クラブと差が開きません。月2、000円ぐらいです。そのうえ、公営クラブは開設時間など利便性において不十分。まして働く人への賃金が低い。利用料の安さにはちゃんとした理由がある」ということです。

 料金の差がもたらす問題。これは、児童クラブで働く人の立場に立って考えてみると、より一層明確になります。安心して働けるということの観点です。保護者のみなさんも多くが働いておられると思いますが、「それなりの、仕事に見合った給料で、安定して働き続けることができる」ことが大前提だと思いませんか?ここには2つの要素があります。「仕事に見合った賃金」と、「安定した継続雇用」です。
 この2つとも実は児童クラブでは、なかなか実現できていません。

 4月20日の運営支援ブログで、児童クラブの職員は子どもとただ遊んでいるだけではないことをお伝えしました。子どもと保護者の育ちを支えるとても難しい仕事です。にもかかわらず、あまり社会から重要視されていないので、クラブで働いている職員数を必要十分な数だけ雇用できるだけの補助金がありません。当然、1人あたりの仕事量は過重になります。しかも大規模クラブで子どもの数は多く子どもの支援が十分に行き届かない、保護者の皆さんの中にはルールを守らないで平然と閉所時刻を過ぎて迎えに来る人もいるなど気苦労が絶えない、なのに賃金は時給で換算すると最低賃金にプラスして数十円程度と、仕事量と賃金が見合っていないのです。
 さらに、公営だったクラブを民営化した際、あちこちの都道府県でクラブを運営している「広域展開事業者」(わたしが勝手に命名しています)が指定管理者制度のもと、クラブ運営を引き受けることになりますが、公営時代と集める利用料がさほど大きく変わらない(時間をかけて徐々に引き上げていくことが多いですが)ので、利用料収入はあまり頼りになりません。一方で、株式会社が指定管理者となってクラブ運営を行う場合、営利企業ですから当然、利益を確保しなければなりません。
 すると、利用料収入が望めない中では、職員の人件費を抑制するしかない。結果的に、そうした営利の広域展開事業者が運営するクラブの現場で働く職員のほぼすべてが「有期雇用」つまり契約職員、契約スタッフです。人手不足の業界ゆえ、自分から辞めますと言わない限りそうそう解雇にはなりませんが、それでも有期雇用であるので退職金の制度がない、昇給がないなど、定年まで働ける無期雇用の常勤職員と比べると、雇用が不安定であり、かつ、待遇も悪いのです。
 これも、利用料の差から生じる現象です。

 賃金が低かろうと、安月給だろうと、子どもの育ちを支えたい、保護者の子育てを支援したいという崇高な理念で働いている児童クラブの職員は大変多いのです(それはそれで「やりがい搾取」の問題があります!運営支援ブログで検索を!」)。しかし、そういう職員が大勢いる一方で、「それなりの人材」もまた、多く集まるのも事実です。結果的に、児童クラブにとって最も重要な「子どもへの育成支援と、保護者の子育て支援」という業務を、満足に果たせない程度の質の人材を雇わねばならない事態にも、なっています。「質」が、上がらないのです。これこそ、実は最も深刻な問題だと私は考えています。利用料のあまりの安さは、人材の確保に影響し、それは児童クラブの存在理由である育成支援と子育て支援の質の劣化を招く要素になっている、ということです。

<おわりに:だからといって利用料を引き上げろとは、言えない。ではどうする?>
 利用料が1万円(おやつ代は別に徴収)と仮定すると、だいたい7,000円がそのクラブの人件費として使われると思ってよいでしょう。残り2,000円で電気代や電話料金、残り1,000円で組織運営の費用(本部の人件費なども含む)という具合です。「現場の先生は大事だから本部の人件費をカットすれば1000円安くなるじゃん!」と思わないでくださいね。児童クラブと言う社会的に重要なインフラを安定して運営するには本部機能が充実していないと不可能です。現場が安心して働けるために本部機能(バックオフィス)が充実していることは当然ですが、実は児童クラブの世界は、いわゆる「正面装備」(現場に投下される補助金)は徐々に充実しつつありますが、「兵站」(全体を支える基盤)が非常に軽視されていて、充実していないのです。現場職員の空いた時間に本部業務を兼任する例が典型的です。これも、事業者としての質に影響することです。

 保護者の経済的負担は当然、増やすことは避けたい。しかもこれから新たに「子育て支援金」なる制度がスタートし、年々、子育て世帯も経済的負担が増えていきます。しかし、児童クラブに利用者が支払う利用料は「はっきりいって、安すぎる」のです。子どもを安全安心に過ごさせ、その成長を支える専門職の有能な職員を多く雇用するには、児童クラブの収入源としての利用料は、その額がまったく足りていません。

 これを解決するには1つの主な策と、もう1つの補助的な策があると私は考えています。
 主な策とは、「保護者の支払う利用料を減額するには、補助金の国の負担割合を増やす」ことです。
 いま、国は児童クラブの運営に係る費用の半分を保護者が負担するとしています。ですから、今のままでは、保護者の利用料を減らすとそのまま全体の運営に係る費用も減るという理屈になります。それは無理な話です。1クラブで年間1200万円の費用がかかるとしたら、保護者が600万円を負担し、国と都道府県、市町村が200万円ずつを負担するというのが今の国の考え方です。これを、保護者の負担を300万円に減らして、その300万円を国が負担するようにすればいいのです。全体を1200万円ですから全体を12分すると、保護者が12分の3、都道府県と市町村が12分の2ずつ、国が12分の5となりますね。保護者の負担を12分の2(先の例でいうと保護者負担が200万円になります)にして国が12分の6、とすれば、保護者の利用料がもっと下げられます。
(40世帯が年間600万円を負担するとした場合、600万円/12か月/40世帯=1か月あたり1万2500円です。これを年間200万円まで下げると、1か月あたり約4000円になります。現状、保護者負担は補助金の各種増額で5割を割り込んでいることがほとんどですから、月額4000円も実現していることが多いので、もっと補助金を増やしましょう、ということです)

 もう1つの補助的な策は、保育所と同じですが、いわゆる「応能負担」の全面的な導入です。所得に応じた負担設定という意味です。これは公営クラブではすでに行われていますが、その場合でも利用料の最高額は住民税をすべて支払っている世帯であることがほとんどです。それを保育所と同じく、年間の所得に応じて段階を付けて利用料を設定することが良いでしょう。難点は、民営クラブの場合、世帯の所得を把握することが困難であり利用料の設定が難しくなることですが、これについては「市区町村の担当課が、利用料の設定を行うぐらいの仕事は引き受ける」か、「ある程度の金額を利用料として徴収し、正しい利用料は市町村が把握し、過不足は市区町村の窓口で清算するか、児童手当の申出徴収を利用する」などの方法があるでしょう。

 政府は賃上げを盛んに言っていますが、それがそう簡単に進まないことは多くの国民が知っています。月額5万円かそれ以上の、いわゆる民間学童保育所(学習支援系児童クラブ)を利用できる世帯は賃上げの恩恵を比較的容易に受けやすい富裕層でしょうが、圧倒的多くの世帯で、公設公営や公設民営、または放課後児童健全育成事業の補助を受けている民設児童クラブを利用する世帯は、短期間で所得が増える見込みはありません。一方で、物価はどんどん上がっていく。
 ならば、児童クラブの利用料はもっと下がっていくべきだと私は考えています。それは職員の賃金を減らす、サービスを縮小するのではなく、むしろもっと向上させなければならない現在の局面においてでも、保護者の利用料負担は軽減されねばならないのです。こどもまんなか社会を掲げる政府なのですから、小学1年生のおよそ半数が利用することになった児童クラブの支援のために、予算を有効に使っていただかないと困ります。そしてそれを訴えていくのは、子育て中の保護者のみなさん、当事者が一番必要な存在です。
 今回は以上です。またいずれ、学童ビギナーの方々にありがちな素朴な疑問について触れてみようと考えています。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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