学童保育を構成する要素を点検する。その4:市区町村(行政)がコストカットを最優先する状況を変えるには

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 学童保育を構成する各要素を、わたくしなりの視点で思うところを指摘していきます。過去2回で以下の点を取り上げました。
(1回目:11月20日)
・学童保育は事業活動。ビジネス上のしきたり、流儀を身につけることが必要
・事業、それも人のためになる事業である限り、利用者側のニーズに最大限寄り添うことが事業者側の務め
・利用に際しては、事業者側も、利用者側も、ルールを守る、守らせる
(2回目:11月21日)
・指定管理者制度における株式会社が行う事業内容に問題があっても評価側の判断で、いかようにもされる
・指定管理者制度における株式会社が行う事業内容に問題があっても、その発信が少ないので世間に伝わらない
(3回目:11月22日)
・学童保育所を利用する保護者の多くが学童保育に対して望むこと、期待することは「預かり」である
・学童保育所に期待することはその利用料と関係する
・学童保育所の重要な使命である育成支援については、その価値が十分に理解されているとはいえない
・学童保育所に対する社会全体の認識が、育成支援を評価し重要とならない限り、育成支援の学童保育所は消える

 4回目は、市区町村について私なりに思うことを書きます。
・市区町村はおおむね、学童保育(放課後児童クラブ)の重要度、優先順位は低い。保育所とは正反対
・コストカットは財政事情が厳しいから。よって国の支援が必要
・学童保育所に対して積極的な市区町村を評価しよう

 学童保育(この場合、放課後児童クラブ)における市区町村は極めて重要です。ただし、その重要性は非常に不安定な基盤の上に成り立っていることを理解しなければなりません。まず、放課後児童健全育成事業は、法定任意事業です。児童福祉法に規定されているものの、市町村は「事業をできる」という任意規定です。ですので、法的には、大規模学童保育所が放置されている状態を行政の怠慢だ!不作為だ!として行政を訴えることはできません。そもそも「やらなければならない」義務の事業では、ないからです。(もちろん、施設に対する基準が省令条例で定められており、その条文に違反しているということにおいては法令違反となります)

 よって、確かに、学童保育に市区町村は設置した以上はそれなりの責任を負いますが、施設を設置したことで当然に発する管理運営責任を除き、「整備しなければならない」という事業面での責任は限定的であることを踏まえて考えねばなりません。それはつまり、市区町村は軒並み財政事情が大変厳しいので、任意事業であるうえに、整備や事業運営にそれなりにカネがかかる(といっても保育所に比べれば1割ぐらいでしょう)学童保育所は、優先順位はそれほど高くならない(正確には、優先順位を高くしない)、ということです。そもそも、いずれ少子化で遊休施設になるかもしれない学童保育所の整備に市区町村が気乗りしないのはある意味当然です。

 この状況を変えるには2つあります。1つは、国が方針を変えること。具体的には「法制度として、放課後児童健全育成事業を保育所と同じく義務の福祉施設とする」ことと「補助金に関する国の補助率を上げる」ことです。保育所は児童福祉施設として、保育を必要とする者には保育を提供しなければなりません。かつては措置といっていました。学童保育も同様に、放課後児童の支援が必要な者に対して市区町村が支援を行わなければならないという児童福祉施設に「格上げ」されることこそ、絶対に必要です。
 児童福祉施設に格上げするとなれば当然必要なことですが、そうでなくても、国に直ちに行ってほしいことが、補助率の引上げです。 現行は、保護者も含めた負担率は次のとおり。
保護者3/6(全体の半分):国1/6(全体の半分の3分の1):都道府県1/6:市区町村1/6
 これを、次のように変えるべきでしょう。
保護者1/12:国9/12:都道府県1/12:市区町村1/12
 こうなると、市区町村の負担は現在の2分の1となります。保護者にいたっては大幅に減少しますので、理論上は、例えばNPO法人が運営する民営学童でも保護者が負担する費用が安くなる可能性が開けます。(実際には、組織運営にかかる経費分等、補助金で対応できない部分の支出もあるので、なかなかうまくはいきませんが)

 行政機構は、「法令」や上級庁の「指示」があれば動きます。というか、それらがなければ動きません。かつ、予算絶対主義ですから予算がなければ1ミリたりとも動きません。法制度を整備し、予算の不安を無くすことが実現されない限り、市区町村の、学童保育に対する冷たい姿勢は変わらないでしょう。

 状況を変える2つ目は、民意です。有権者の意向です。当たり前ですが、市区町村は議会も地方自治の柱である二元代表制です。議会は民意の反映です。つまり、1人1人の住民、有権者が考える「うちのまちの学童保育は、こうでなくっちゃ!」との意思を議会に反映させることです。望ましい学童保育のあり方を支持する一定程度の多数の住民をまとめ、その意思を議員に受け止めてもらって活動してもらうか、一定程度の多数の住民を代表する人が議員(場合によっては、首長)に立候補すればいいのです。そのためには、常に、または何か異変があったときは総力を挙げて、地域の住民に圧倒的な物量で意見を伝えなければなりません。外部に発するのですから、大変です。でsが、やらねばなりません。

 学童保育は素晴らしい、大事にしなければということを訴えるのは、業界内部の人や業界を支持する人だけに向けていても、何の広がりにはなりません。現在の学童保育業界は長年、身内だけに同じことを繰り返してそれで運動の目的を達成していると自己満足に浸っているようにしか私には見えません。実際、外部の世界にまったく学童保育の重要性や意義が伝わっていないのは、内部だけには熱心に伝えるものの、外部に対して積極的に訴える「真の運動」を重要視していないからでしょう。「いや、やっていますよ」は言い訳です。「効果が出ていない」のであれば、やっていないと同じこと。運動体は、目標が達成できなかったことの責任を取らないことが最大の欠点です。事業体であれば、効果が出なければ責任者は責任を取ります。要は、「自己満足で終わるか、自己責任を完結するか」の違いですね。

 さて、全国の市区町村が学童保育に冷淡かといえば、そんなことはありません。しっかり探せば、学童保育を市の事業の中でも優先順位を上げて考えている市区町村はあるでしょうし、待機児童を出さないか、あるいは出しても、懸命に放課後児童クラブとしての整備を推し進めている市区町村はあるはずです。少なくとも、私の現住所である埼玉県上尾市は、学童保育を大変重要視し、待機児童ゼロを掲げています。その結果による大規模学童化は深刻ですが、それを放置せず、予算の範囲内でできる限り分割、単位増を応援しています。

 こういう、「学童保育の貢献度が非常に大きい」市区町村を、業界として表彰することも必要でしょう。「学童保育アワード(賞)」ですよ。もちろん、ワースト自治体を選んでもいいのですが、まあ、波風が立つので、上位ベスト50市区町村を発表し、上位3市区町村に表彰状を送る程度のことは、是非するべきだと私は考えます。あい和学童クラブ運営法人が勝手にやってもいいのですが、権威も威厳もございませんので、有識者や評論家、ジャーナリストさんが集まった会議で、公正な採点方法(例えば、待機児童ゼロは5点など各項目に点数を割り振って)を作り出したうえで、毎年1回、できれば12月の国の学童保育運営状況発表と合わせて、表彰を発表すればいいのでしょう。来年12月の初回実施を目指して、ぜひ、志のある方で動いてみてはどうでしょう。私もお手伝いしますよ。

 学童保育に限らず、行政機構は得てして、ヒューマンファクター、属人的な要素で物事が進んだり遅れたりします。学童保育に理解のある人が担当課の課長クラスになると、それまで停滞していた問題が一気に解決することがあります。その逆は大変危険で、「公営事業の民営化は公募による競争こそ、質の向上をもたらす」という考え方の人が市区町村の政策決定に関与できる地位になると、一気に状況が変わります。それは、事業を実施する上で裁量の幅が大きいからです。法制度をしっかりと構築し、事業が目指すべき役割を明確にすることで、そのような個人の考え方で事業の運営が左右される事態を防ぐことができるでしょう。

 何よりも、公営事業のうち、労働集約型で対人支援職の存在が事業の柱である事業体については、ひとつの事業体が継続して事業を運営することが結果的に事業の質の向上に貢献する、ということをこの国全体が理解することが必要です。もちろん、その事業体が不正を行わないような第三者による公正かつ厳正なチェック体制は必要です。(例の、春日部市の学童保育の指定管理者に対するような重大項目でバツとなってもA評価になるような恣意的な評価は絶対に許されません)

 市区町村はその組織のルールで動きますが、市区町村を支えているのは1人1人の住民であることを忘れてはなりません。つまり、学童保育を良くするも、ダメにするのも、1人1人の住民の考え方です。現在のような、圧倒的多くの住民が「学童保育?子どもの預かり場でしょ、それなりでいいんじゃないの」と思う程度では、学童保育の施設の整備も、職員の雇用改善も、決して前進しませんよ。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所の運営の継続について、「あい和学童クラブ運営法人」がお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば、当ブログの引用はご自由になさってください)