放課後児童クラブに関わる人が思うほど、世間一般の圧倒的多数の人は、児童クラブ・学童のことを知らないのです。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。このところ、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)のことを、やっぱり世間一般の圧倒的多くの人は、実は知っていないのだ、ということに気付かされます。それはなぜだか私なりに想像をたくましくしてみます。ちなみに、児童クラブの「中の人」もまた、世間一般の常識や標準的な思考を知らないのですよ。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<話がかみ合わないと思ったわけ>
 このところ、いろいろな立場の方と放課後児童クラブに関して聞かれたり、あるいは説明したり話したりすることが増えました。それ自体は私にとってとてもうれしいことです。もっともっとそういう機会を増やしたい。

 で、こんなことがありました。
相手の人 「どうして学童の職員の給料は上がらないのですか?」
私「いろいろな原因がありますが、たくさんの給料を支払いたくても、その分のお金がない。つまり予算が足りない。補助金が足りないからですね」
相手の人「でも、このところ、保育士は処遇改善とかいろいろな手当がついて給料が上がっていますよね?」
私「そうですね、保育士として働く人が足りないので処遇改善をしたり、さらに確保が難しい都市部はいろいろな手当を付けて賃金を引き上げましたから、学童の職員とは結構、差がついていると思いますよ。
相手の人「えっ?」
私「えっ?」
相手の人「学童保育で働く人って保育士ですよね?だから学童の職員も給料が上がっているのではないのですか?」
私「えっ?」
相手の人「えっ?」
私「あの、学童保育で働く人は保育士の資格がある人もいますが、保育士が働いているのではないのですよ。放課後児童支援員という資格が別にありましてね」
相手の人「えっ?そんな資格があるんですか?学童保育って、0歳児から小学生の施設じゃないんですか?」
私「えっ?」
相手の人「えっ?」
私「学童保育って通称で、放課後児童クラブのことを指すことが多いんですが、児童クラブっていうだけに、児童、つまり小学生を対象として受け入れる施設なんですよ。小学校に入る前の未就学児は受け入れないですよ」
相手の人「知らなかったです!てっきり赤ちゃんから小学生が利用するのが、学童保育だと思っていました!」

 嘘のようですが、本当に私が交わした会話です。相手の方はずいぶんお若いようで子育て未経験であることも影響していたのでしょうが、この会話から私は「やっぱり放課後児童クラブは、特に関りが無い人にとってはまったく未知の仕組みなんだな」ということを痛感しました。

<ここで、おさらい>
 当ブログの熱心な読者様には釈迦に説法ですが、何かのご縁で初めてこのブログのこのページを読んでくださっている方に、改めて放課後児童クラブ、学童保育所について超簡単に要点のみ紹介します。なお、運営支援ブログは「基礎知識シリーズ」を連日掲載していますから、そちらもぜひ読んでみてくださいね。
・学童保育とは、保育所ではありません。「保育」の文字が付いていますが、保育所ではありませんよ。
・学童保育とは、一般的かつ総合的な呼び方と思ってください。
・学童保育とは、親が仕事などで留守にしている家庭の小学生を受け入れて過ごさせる仕組みです。
・学童保育とは、ただ子どもを預かって見守るだけではなくて、子どもが成長していく場所を社会が準備する仕組みです。
・学童保育所では、子どもは社会的な決まり、生活習慣を身に着けていきます。大事なことは、遊びを通じて自己の成長や他社との関り、つまり自主性や社会性を養っていくこと。つまり、遊びながら成長していく場です。
・学童保育で働く人は、資格がある人を配置するようにと一応決まっています。
・学童保育での仕事は、「ただ子どもを預かって見ているだけ」と誤解されています。全然違います。でもその誤解から、それだったら誰でもできるんだからお駄賃程度でいいよねと、めちゃくちゃ安い給料で働かざるを得ないんです。

<なぜこの社会に放課後児童クラブの実情に関する知識が積み重なっていかないのか>
 学習や勉強の機会がなければ、何か特定の知識を得ることがないのは当然のことです。先ほどの、かみ合わない話にしても、児童クラブの世界にまったく関わったことが無い人であれば、児童クラブに関する知識が無くても、それはそれで不思議ではないですし、私も、児童クラブを保育所と同じと思っていたその方のことを常識が無いとか恥ずかしい人だとか、まったくそんなことは思いません。個人的なことをいえば私はファッション、美容系の文化にまったく興味関心が無いので、カットソーと言われてもなんのことだか頭に想像すらできません。ボブ?それって人の名前かい?です。

 個人の事ではなくて社会全体について考えてみます。放課後児童クラブ、学童保育への誤った理解、例えば「子どもを預かって見ているだけ」と多くの人がそう思っているのはなぜか、ということです。それはつまり社会全体にそうした誤った理解が蓄積されている結果だろうと、私は考えています。

 ところが、ですよ。児童クラブの数は年々増えています。小学校の低学年に限ってみれば、3割程度の利用率がずっと続いています。1年生ならほぼ2人に1人です。社会全体で、児童クラブに何らかの形で関わっている、あるいは利用している人は着実に増えているはずです。にもかかわらず、児童クラブのこと、学童のことは、たいして理解が広まっていない。だいたいが「子どもを預かる場所」で終わっている。

 これはどういうことでしょう。私の想像は次の通りです。
・「放課後児童クラブとは、こういう役割を持った場所です!放課後児童支援員とは、こういう資格です!」という広報周知が圧倒的に少ない。というか、ほぼ無い。あるのは、身内(業界内部の人に対して)を対象にしたもの。
・ドラマ、映画、小説などエンターテインメントの分野で取り上げられることが、極めて少ない。それは世間に知られていないことの反映。
・児童クラブを利用する保護者であっても、児童クラブという場所については、ただ子どもを連れて行く、あるいは迎えに行くだけの行動しかしていない。職員から子どもの様子を聞く、知らされることはあっても、個人のことだけ。
・かつて多かった保護者運営系の児童クラブでは、確かに保護者は否応なく児童クラブの内容を知らされる。しかしそれは、本当なら運営になんか関わりたくないが無理やり担当役員や係になってしまったので加わっているだけで、熱心な人が「児童クラブとはこういうものです」といくら説明しても、頭の中は「今日の夕飯、何にしようかな」などと全く別の事を考えてその場をただ過ごしているだけなので、まったく知識として頭の中に保存されない。
・しかもこのところ急激に増えている広域展開事業者による児童クラブでは、徹頭徹尾、保護者を顧客として扱う傾向があるので、単にサービスの受益者としての立場としてのみ扱われ、児童クラブはこういうものですという話を聞く機会がない。懇談会があってもサービスの内容のみの伝達なので、機構や仕組みを考える機会がない。
・児童クラブを利用している間に、とても嫌な経験をした保護者が案外と多い。子どもがいじめられた、子ども同士で酷い嫌がらせ、ハラスメントがあったのにクラブ側は何も解決しようとしてくれなかった、職員から怒鳴られて子どもが怯えてしまったのでクラブを辞めざるを得なかった、夏休みなど朝の開所時刻が遅いし夜の閉所時刻も遅いので使い勝手が悪くその改善を求めても無視されるだけなので頭にきて退所した、等々。よって児童クラブに対しては嫌な印象しか持っていない。→これもまたドラマなどエンタメ分野で好意的に取り上げられることが少ないことに寄与する。

 要は、児童クラブの世界に対しての印象が、あまりよくない。そのイメージが長年、積み重なっていった結果なのかもしれないのです。それは児童クラブの程度の低さ、質の低さが利用者たる保護者に実感させてしまった悪い印象です。特に何もなく無事に数年間、児童クラブを利用していた保護者にとってはそれが当たり前なので、格別に高評価を付けることは期待できないでしょう。むしろ、ちょっとした不手際や運営のまずさ、個人的に困った資質の職員の行動によって悪い印象だけが利用者である保護者、つまり社会を構成する人々の脳裏に刻まれてしまった結果なのだろうと、私は残念な想像をしてしまうのです。

 これも先日、都内で私が目撃した光景です。休憩所に多くの人がいました。スーツ姿の男性が2人で会話をしていました。どうやら取引の交渉についてのようです。夜に先方との打ち合わせが入るようです。1人の男性がスマホを操作してから言いました。「ごめん、その日は、学童の迎えに行くことになっているんだ。だから無理っぽい」。するともう1人の男性が「まじっすか。いやその日の打ち合わせ、まじ大事っすよ。」とびっくりしていたのです。これは別に学童が悪いわけではまったくないのですし、学童利用の子育て世帯には当たり前に時短勤務が強制適用ぐらいされるべきだとも思うのですが、それはこっちの勝手な印象で、大事な打ち合わせに恐らく先輩である同僚が、学童のお迎えのために参加できないということは「学童って何様だよ」という誤解を植え付けるに十分なきっかけになっても不思議ではないよね、という話です。

<実は逆も>
 外の世界から児童クラブへの印象について、正確なことが知られていないことを勝手に嘆いてきましたが、児童クラブの中の世界にいる私からすると、児童クラブの中の人の、外の世界についての理解や知識こそ乏しいと感じます。はっきりいって「世間一般の常識を知らない」ということです。実例はたくさんありすぎてどれも残念なことばかりですが、あえて1つだけ取り上げたいとするならば、「他者からの評価をまったく考慮しない」という点です。

 児童クラブが社会から評価されるのは、その機能を果たしている場合です。子どもを安全安心な生活の場および遊びの場で過ごさせ、子どもの育ちを支えるということを毎日、平穏に実施していることで評価されます。その評価も上積みの評価、プラス面を増やす評価ではなくて、「求められている機能をしっかり実施しているから合格」という平均点の評価を得るに過ぎません。
 ところが児童クラブの中の人は、「わたしたち、時間を惜しむことなく子どもたちに関わっています!休憩時間が無くても、サービス残業をしても子ども達のためなら頑張れるし、頑張ってきました!私たちは子どもを守る最前線なのです!」と、自分自身の仕事に対する自己評価だけは極めて高いので、自己犠牲をいとわぬ仕事の実態について周囲が高く評価することを期待します。それがもう、世間一般からズレていることにまったく気が付かない。
 勝手に残業したり休憩時間を潰して仕事をしているのは就業規則を無視している社会人としては失格の振る舞い、であることが理解できない。つまりルールや決まりより「子どもに関すること」を優先してしまってそれへの高い評価を求めがちなのが、児童クラブの中の世界にありがちなのです。この延長線上、世界観に、「一番大事なのはクラブの現場。クラブを運営する会社、法人の指示より目の前の子どもが喜ぶことを実践するのが職員の本分」などとまったくの勘違いがあります。つまり「自分たちは一生懸命です。頑張っています。それを評価しない方はおかしい。理解しない方がおかしい。評価しない世界は児童クラブの職員を不当に抑圧している」とすら感じてしまうのです。

 あえて言わせていただきます。本当に程度が低すぎると。

 自分たちが一生懸命だから、相手や第三者は当然ながら私たちを理解しなさい、高い評価をしなさいというのは、あまりにも独善的です。そうです。児童クラブの中の人は独善的な傾向があるのです。大事なことは、客観的に、相手がどう評価するか、どのような点数を付けるかであって、自分たちが望む評価や点数を相手が付けないから相手が悪い、相手が間違っているという思考がどれほどばかげているかに気付かないのです。児童クラブの公募プロポーザルや指定管理者選定においても、一生懸命子どものためにクラブをやってきました!という団体が落選したり選ばれなかったりすると、「行政はすぐ企業の言いなりになる」「本当に大事なことが分かっていない」と、その選考結果に文句をつけますが、大事なことは「なぜ、自分たちが評価されなかったか、高い点数が得られなかったのか」ということへの対策を考えることです。もちろん、その審査基準や配点が非合理的であるならその改善を求めることは当然です。公正ではないルールは公正にするべきであってそれを訴えることは必要。しかし一方で現状において競争せざるを得ないときはそのルールの中で「勝つための工夫」の努力を怠っていては、単に負け犬の遠吠えにすぎません。要は、理想ばかり吠えて現実的な対応をしなければ、何も得られない。現実的に勝つ、勝てないまでも挑み続ける、その上で理想を掲げてその理想を世の中が理解するまで訴え続けることです。自分たちだけが正しくて理解をしない相手がバカだから、では世界は何も変わりません。バカだったのは自分たちだということに気付かない限り、何も変わりません。

 児童クラブの中は今こそ変わらねばなりませんよ。

<おわりに:PR>
 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。お近くに書店がない方は、ネット書店が便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。
(関東の方は萩原から直接お渡しでも大丈夫です。なにせ手元に300冊届くので!書店購入より1冊100円、お得に購入できます!私の運営支援の活動資金にもなります!大口注文、大歓迎です。どうかぜひ、ご検討ください!また、事業運営資金に困っている非営利の児童クラブ運営事業者さんはぜひご相談ください。運営支援として、この書籍を活用したご提案ができます。)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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