放課後児童支援員は高度なコミュニケーション労働専門職

(代表萩原のブログ・オピニオン)学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」萩原和也です。学童保育で働いてしまったがゆえに子どもを産むのをあきらめた、という重い現実が頭にこびりついて離れません。各地でそれぞれ独自の発展を遂げてきた学童保育の歴史もあって、国が放課後児童クラブ運営指針を示しながらも、まだまだ全国的に「学童保育とはこういうもの」という統一理解がなされていない状況と、都市部と地域との経済格差もあいまって、全国における学童保育の実態は地域間格差が極めて大きいものとなっています。全国的にみて多数派だろうと思われる、運営が極めて厳しい状況にある学童保育所で働く人たちは、長時間の重労働ながら低収入、ワーキングプア状態に置かれていて、その悲劇は今この瞬間も続いています。

 保育士さんの雇用条件があまりにもひどすぎるとこの数年来、多くのメディアに取り上げられるようになって、雇用環境は改善の方向に動きつつあるようです。学童保育においても、処遇改善等の多くの補助金が制度化されたので、かつてほどのひどい状況ではないにせよ、まだまだその恩恵を受けられていない事業所は相当数に上るでしょう。だからこそ、「学童で働いた、子どもあきらめた」の悲劇が生まれてしまうのです。はっきり言って、まだまだ処遇の大幅な改善には程遠い。低収入だけでなく配置基準も低すぎるため従事する職員数も足りず、業務負担量がものすごく多いというさらに厳しい現実もあります。

 学童保育で働く人の処遇が低すぎることにはいろいろな要因があるでしょうが、わたくしが一番に訴えたいのは、放課後児童支援員の業務は、極めて高度なコミュニケーション能力を筆頭に、種々の高いレベルの技能を必要とする専門職であるということが、まったくと言っていいほど知られていない現状にある、ということです。この状況を一刻も早く改善する必要があります。学童保育で働くということ、子どもの育成支援を行うという仕事は極めて高度な専門職であるという理解を、国やこの社会、世間が、明確に理解する必要がある、ということです。
 放課後児童クラブ運営指針には「放課後児童支援員は、豊かな人間性と倫理観を備え、常に自己研鑽に励みながら必要な知識及び技能をもって育成支援に当たる役割を担うとともに、関係機関と連携して子どもにとって適切な養育環境が得られるよう支援する役割を担う必要がある。」と、放課後児童支援員の役割について記しています。そこに記されている内容は、実はとても難しいことです。いわば「完璧な人間であれ」と言っているようなもの。もうここだけで、極めて高いハードルを提示されています。
 このことをわたくしなりに解釈すると、以前にフェイスブックにも書きましたが、学童保育で支援員として働く人は、他人に共感でき痛みと喜びを共有できる豊かな感受性、相手の立場に立って考察しその後の展開を予測できる豊かな想像力と深い洞察力、意思疎通のすぐれた術を持っているなど、ヒューマニズムと他者との関係性構築を深め発展させていくことができる人、ということです。そうでないと、放課後児童クラブ運営指針に示された実に多くの事柄を遂行できない、ということだとわたくしは理解しています。

 それはすなわち、高度なコミュニケーション能力をもって、子どもと保護者、地域社会の方々と接することができる人であれ、ということです。極めて高いスキルを要する専門職である、ということです。

 教員や保育の、社会福祉の資格を得ている方は、学校や自身の勉強で専門的知識を学んでいるアドバンテージがあります。それは学童保育の世界でも大いに発揮されています。たいへん素晴らしいことです。
 しかしその一方、そういった資格がない方でも、子どもや保護者から絶大な信頼を得ている放課後児童支援員さんも大勢いらっしゃる。わたくしの独断と偏見ですが、学生時代に専門的な知識を得ていなくても、コミュニケーション能力を存分に発揮できる方、他人の感じる痛みや苦しみを我が事として受け止められる方ほど、優れた放課後児童支援員になっているという、感覚を持っています。

 学童保育の世界で働きたいと思う方や、すでに働いている方もそうですが、わたくしは、育成支援の専門的知識を存分に学んで日々の支援に活かしてほしいと思いつつ、コミュニケーション能力、ひいていえば、他者の痛みが分かる豊かな感受性、この先の展開を複数予想できる柔軟な想像力と思考力、つまるところ、非認知能力の磨き上げに、研修や学習の時間を存分に充ててほしいと希望します(いずれ書きますが、放課後児童クラブ運営指針に沿って行っている伝統型の学童保育は、この非認知能力の発展支援に大いに役立っている、本当の意味での高付加価値学童であると、わたくしは思っています)。
 わたくしは、放課後児童支援員の認定資格研修やその後の研修にも、まずは他者の痛みや悲しみを分かち合うことがどんなに大事なことなのかを知っていただくような時間をたくさん作ってほしいのです。

 そして、高度なコミュニケーション能力を発揮しながら日々の育成支援で実践を積み重ねていくことで、社会の学童保育に対する理解と信頼が深まり、「ああ、学童の人たちって、本当に難しい仕事をしているんだな、すごいんだな」と高い評価を得られるようになって、全国津々浦々、学童保育で働く人たちへの好待遇、高収入への道が完全に開かれると、わたくしは思います。昨日のブログで記した、治山治水でいえば、まさに川の上流部をしっかりと整備すること、山や田んぼをしっかりと手入れして保水力を高め、水の涵養力を高めることに相当します。治山をしっかりと行うことで川の流量が安定し、豊かな川、豊かな海が生まれるのと同じように、学童保育で働く人に対する社会的な評価が高まれば、そこで働く人に対する安定した待遇を招くと考えます。
 そうなれば、放課後児童支援員の資格そのものも、より専門的で高度な資格であると認識が深まり、その価値もさらに高まり、資格の取得に際してもより専門的な学習が必要となり、資格自体が進化発展していくでしょう。
 学童保育で働く仕事というのは、「子どもをただ預かるだけ」ではないのです。学童保育所では、子どもが育っているのです。毎日、いろいろなことを感じながら成長しているのです。生きているのです。子どもたちの人生を支えている仕事が、高度な専門職でなくて、いったい何になるのですか。学童保育所で働くすべての人が、人の命を支えているという重い仕事に就いているんだという誇りと重責を感じることが、まずは第一歩ではないでしょうか。

 そして言わずもがな、この高度な専門的な能力は、学童保育の組織運営者にこそ必要な能力です。その上でさらに、正しい組織統治とコンプライアンスを絶対に従うべき事項と認識していること、これが必要です。そうであってはじめて、高度な専門職である放課後児童支援員の雇用と生活を守ることができるのですから。

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