放課後児童クラブ運営指針の改定作業が始まりました。大事なことですが、国はもっと大事なことに取り組むべし
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の世界に、変化の兆しが見え始めました。3月8日(金曜日)、こども家庭庁は「児童厚生施設及び放課後児童クラブに関する専門委員会(第1回)」を開催しました。今後、この委員会の場で、「放課後児童クラブ運営指針」(以下「運営指針」)の改定が議論されることになったのです。平成26年度に策定された運営指針は学童業界の人ならその重要性を理解していると思いますが、児童クラブにとって極めて重要な「道しるべ」。それが制定以来、初めて改定されることになります。とても重要な出来事が起ころうとしています。
こども家庭庁から公表された資料には、改正のポイントが紹介されています。次の通りです。
1.「こどもの居場所づくりに関する指針」を踏まえた改正
2.「こども・若者の性被害防止のための緊急対策パッケージ」を踏まえた改正
3.「放課後児童健全育成事業の設備及び運営に関する基準」の改正を踏まえた改正
4.厚生労働省社会保障審議会児童部会放課後児童対策に関する専門委員会報告書を踏まえた改正
5.近年の放課後児童クラブを取り巻く動向を踏まえた改正
6.「子ども」の表記を「こども」に統一する
すべての点をより詳しく紹介したいところですが、今回はわたしがさらに注目しているポイントに限って取り上げます。
まず、1.の「こどもの居場所づくりに関する指針」を踏まえた改正のところでは、こどもの意見の尊重と反映の観点で、「放課後児童クラブの運営に関しての意見聴取、反映について追記してはどうか。」と挙げられています。放課後児童対策パッケージでも言及されていた点ですね。「イベントの企画や居場所の運営ルールや規則をこども・若者とともにつくることなど、居場所づくりにこども・若者が参画することは、多様で変化するこども・若者のニーズを捉え、より良い居場所づくりを進めるとともに、主体的な関わりを通じてこども・若者自身が権利の主体であるということを実感し、こどもの権利を守るという観点からも不可欠なものである。」という、「こどもの居場所づくりに関する指針」に示された内容を具体化するものでしょう。
改正案では、次のように提案されています。運営指針のうち、第3章 放課後児童クラブにおける育成支援の内容 1.育成支援の内容 (4)の部分です。
「こどもが放課後児童クラブでのルール等について意見を交わす機会を持つことや、行事等の活動では、企画の段階
から子どもの意見を反映させる機会を設けるなど、様々な発達の過程にある子どもがそれぞれに主体的に運営に関
わることができるように工夫する。」(太字部分が提案部分)
個人的には、もうちょっと、運営主体の変更が頻繁に起こる現状を踏まえて、ストレートな物言いで書いてほしいと願うところです。例えば「こどもが放課後児童クラブの運営主体変更に際して自らの意見や思いを表明できる機会を保障することや、ルール等について意見を交わす機会を持つこと~」というようにズバッと明記してほしいと願うものです。
次いで「5.近年の放課後児童クラブを取り巻く動向を踏まえた改正」にも私は注目しています。ここでは昨年起こったプールによる死亡事故を踏まえた改正が提案されていますが、さらに、事業者による児童への虐待行為について踏み込んだ改正案が示されています。第7章 職場倫理及び事業内容の向上 1.放課後児童クラブの社会的責任と職場倫理、の部分です。
「児童虐待等の子どもの心身に有害な影響を与える行為を禁止する。また、事業所内で児童虐待等が行われた際の対応について定める。」(太字部分が改正案)
これは今にして思えば、今まで記載がなかったことのほうが不思議なほどです。職員によるクラブ入所児童への虐待行為は毎年何件も報道されているほど、頻繁に発生しています。事業者による児童虐待は珍しくないのです。このことについて規定するルールがなかったことが不思議です。
そして近年の動向で急激に事態が進展しているのが、児童クラブにおける昼食提供。今回の改正案でも、しっかり昼食提供の件が盛り込まれています。第3章 放課後児童クラブにおける育成支援の内容 1.育成支援の内容 (4)の部分です。
「子どもにとって放課後の時間帯に栄養面や活力面から必要とされるおやつや、学校休業日等の昼食を適切に提供する。」(太字は筆者、改正案部分)
「昼食の提供時には、おやつ同様に内容や量等の工夫、安全及び衛生に考慮する。また、こどもが持参する食事については、適切に管理する。」(太字は筆者、この文章すべて改正案)
運営指針に昼食提供がここまで明記されるようになると、児童クラブにおける昼食提供は、なかば義務のようになりますね。取り組みを先送りすることはもう許されなくなったといえるでしょう。
ところで運営指針ですが、ご存じの人も多いように、国はその位置付けをこのように示しています。
「放課後児童クラブの運営実態の多様性を踏まえ、「最低基準」としてではなく、望ましい方向に導いていくための「全国的な標準仕様」としての性格を明確化」
運営指針は法令ではないですから強制的な力はありません。法令に基づいて発出されているものですから、市区町村はある程度、尊重して取り扱うことになっていますが、結局は、「とても素晴らしいことが示されているけれど、絶対に守らねばならないルールではない」ということで、およそ全国の放課後児童クラブにおいて、この運営指針の内容から大幅に乖離した実態のクラブ運営が平然と行われている実態があります。
国は、そのことを見て見ぬふりをするのは、やめていただきたい。そんなものは突然の現場訪問でいくらでも現認できます。抜き打ち調査でいくらでも確認できることです。しかし、あくまでも「望むべき目標」にしかすぎないことが、運営指針の実態にそぐわないクラブ運営が行われている原因なのです。そこを変えなければなりません。
運営指針のアップデートに踏み切ることは素晴らしいと思います。ようやく手を付けたのか、と思う気持ちの方が強いですが、もっと大事なことに踏み込んでほしいのです。運営指針に、もっと強制力を持たせていただきたい。運営指針の内容を基準省令にもっと取り込んでいくことが必要です。放課後児童クラブの位置付けをもっと法的に強固なものにして、保育所と同じように、市区町村が義務として放課後児童健全育成事業を行うように位置付けを変えるべきです。運営指針も、その内容を実行しない市区町村については市区町村名を公表し、かつ、容赦なく補助金を削減するなどペナルティを課すべきです。そして国民が、児童の健全育成に冷淡な市区町村を知ることができるようにするべきです。そうすれば、そんなひどい地域にわざわざ住もうという子育て世帯は減るでしょう。
運営指針の改正は素晴らしい。これを機に、運営指針の内容を市区町村がしっかりと守り実行できるよう、国は強いリーダーシップを発揮していただきたいと切に願います。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。
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