滋賀県長浜市の放課後児童クラブ児童プール死亡事案における市の再発防止策が公表されました。学童業界は失格だ

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 滋賀県長浜市は、市内の民間放課後児童クラブの所外活動において、クラブ在籍児童がプール活動中に亡くなった事案について再発防止策を取りまとめて3月13日に公表しました。長浜市のホームページには大変分かりやすく内容が紹介されています。
(URL:https://www.city.nagahama.lg.jp/0000013413.html )
 報道も多くなされています。京都新聞が3月13日18時13分に公表した記事を一部引用します。
「昨年7月に滋賀県長浜市野瀬町の屋外プールに学童保育の放課後児童クラブ活動で来ていた小学1年の男児=当時(6)=が溺れて死亡した事故で、市は13日、各クラブに安全対策を求めるガイドラインの作成などの再発防止策を市議会健康福祉常任委員会で示した。同クラブの活動は水深60センチ以下のプールに限るなどとしている。」(引用ここまで)

 再発防止策を伝える長浜市のホームページには、「長浜市放課後児童クラブのプール活動における安全対策等ガイドライン (pdf形式、1.40MB)」が掲載されています。とても分かりやすいガイドラインで、他の市区町村や放課後児童クラブ事業者も大いに参考にして、自分たちでも策定するべきです。この事案、子どもの生命身体が確実に守られなければならない放課後児童クラブで、まさか子どもが命を失うというあまりにも悲惨な悲劇的な事案でした。この事態に真っ向から取り組んで、検証(検証委員会の視点そのものには私はいくらかの批判的観点は持ってはいますが、それはさておき)や再発防止策の公表に至った長浜市の取り組みは真摯で極めて評価できることだと私は思います。

 この事案、運営支援ブログでも取り上げてきました。7月27日には事案の発生を受けて「改めて、すべての活動に関して事前調査&行動計画&配置計画を立て、常に最新の状況を把握することを心がけよ。」を投稿しました。検証報告書が公表されたことを受けて2024年1月11日には「滋賀県長浜市プール死亡事故で検証委員会による報告書が提出。重要な内容ですが学童保育運営支援の視点では残念」を掲載しました。私にとっても、とても衝撃的な事案でした。

 国もこの事案について行政としては珍しく?素早い動きを示しました。こども家庭庁は事案の発生を受けて2023年(令和5年)7月27日には「放課後児童クラブにおける安全管理の徹底について」として事務連絡を発出しました。(実はその前の6月7日に、プール活動・水遊びの事故防止に関して事務連絡を出していたばかりだったのですが)これは、全国学童保育連絡協議会が毎年出版している「学童保育情報2023-2024」の250ページから掲載されています。

 そして昨日3月14日の運営支援ブログに記した、「放課後児童クラブ運営指針」(以下「運営指針」)の改定についても、長浜市のプール死亡事案を受けて改正案が示されてもいます。こども家庭庁から公表された、運営指針改正のポイントの「5.近年の放課後児童クラブを取り巻く動向を踏まえた改正」の中に、次のように示されています。
「第6章 施設及び設備、衛生管理及び安全対策 1.施設及び設備 (2)事故やケガの防止と対応」として、「○ こどもがプール等に入水するようなことや、普段の放課後児童クラブでの活動と異なることを行う際には、
安全管理に特に留意し、運営体制等が整わないと判断される場合は、中止することを検討する。」と、この一文がまるまる追加されているのです。いかに、この事案が放課後児童クラブの世界において深刻だったのかが分かると思います。

 さて、今回の再発防止策で、私が一番注目したところは、2つ目に掲げられている次の内容です。
「2.プール活動で使用するプールの制限 放課後児童クラブのプール活動に参加する児童は小学1~6年生であり、児童の泳力や年齢に応じた特徴がさまざまなことから、事故が発生するリスクを減らし安全なプール活動を実施する為、放課後児童クラブの活動で使用するプールは水深が約60cm以下のものとします。」

 水深が60センチ以下とする。この内容を、放課後児童クラブの運営に長く関わってきた者としては、複雑な思いをもって受け止めているのです。それは、「当然、やむを得ない内容であること。子どもの命が失われる事態が二度と起きてはならないから」というものです。
 と同時に、「放課後児童クラブの世界に従事している、又は活動している組織や人物の能力を鑑みると、とても安心して子どもたちの命を任せられない。極力、落命事案を起こさない程度の安全性が確保されなければならないという今回の決定は、そっくりそのまま、放課後児童クラブの世界は子どもの生命の安全をしっかり確保できるだけの能力において大いに不安があるので、落命事案を起こさない程度まで活動の質を制限するほかありえない」という、極めて放課後児童クラブの世界に対する不信、不安を表明したものだからです。

 放課後児童クラブで子どもは、遊びを通じて成長します。遊びは、その本質的に含むリスクを子どもたちが1つ1つ乗り越えていくことで子どもたちの成長を促すものです。そのリスクはしっかりと事業者が管理しなければなりません。管理できないリスクは、取り返しのつかない事案=ハザードを招き、子どもたちに損害を与えることになります。逆に、リスクがない遊びは遊びにはならず、子どもたちの成長に寄与する局面は失われます。

 今回の、放課後児童クラブにおける水深60センチの制限について、放課後児童クラブの世界の人は、どのように受け止めるのでしょう。その反応はまだうかがえません。私のような個人の立場では、いろいろ思う所を表明することもあるでしょうが、組織や団体としての見解表明は、これまでもなされていないのですから、きっとこれからも、ないのでしょうね。それもまた大変、情けない状態です。

 何度でもいいます。長浜市が示した、放課後児童クラブの子どもたちがプール遊びをするときには水深60センチ以下とするというのは、「放課後児童クラブの世界では、そうでもしないと、子どもたちの安全が守れないからですよ」ということの現われです。それはつまり、「放課後児童クラブの世界は、組織としても職員個人の能力としても安全管理、リスクマネジメントの能力としてはとても低次元なので、とてもとても、能動的に子どもが活動する中では子どもたちの安全をしっかり守れないでしょ。だから落命事故が起こりにくい程度まで水深を制限したのですよ」ということです。つまり、「放課後児童クラブの世界は、子どもの命を安心して委ねられないのですよ」と社会に宣言されたと同じです。

 どうしてこうなったのか。私の想像では、「この悲惨な事案を受けて、放課後児童クラブの世界の側から、事業者や支援員それぞれの所外活動に関する捉え方、理解、姿勢、これまでの実践、そして組織や職員個人の見解や能力など、様々な分野において、自己点検や検証が行われず、当の長浜市や広く社会全般に報告、説明することがなかったから。つまり当事者として向き合う姿勢をまったく欠いていたから」だと思っています。検証委員会や国の通知など、あれがだめだった、これはもっと気を付けよと指摘は受けたものの、「学童の世界として、いったい何が問題だったのだろうか」と自己を点検して批判する姿勢がまったく見られなかったからだと思うのです。

 そして私は同時に思うのです。「そうだよね。この厳しい措置は当然のことだ。この悲惨な事案に対して何も自己点検、改善の提案を行わないで過ごしてきた今の放課後児童クラブの多くの運営事業者、運営責任者、従事する職員の多くをみると、とてもとても安心して、子どもたちの命をリスク管理をしながら守っていく能力は持ち合わせていないと判断されて当然。だから、悲惨な事案を防ぐために、水深60センチを受け入れざるをえない」と。

 絶対に子どもの命が失われることはあってはなりません。昨年7月の事案で亡くなれたお子さんとご遺族の方の無念は、いかばかりでしょうか。改めてお悔やみ申し上げるとともに、絶対にあのような悲惨な事案を二度と起こしてはならないのだと、放課後児童クラブの世界は亡くなったお子さんに、誓わねばなりません。
 その絶対のために受け入れなければならなかったことが、この水深60センチなのです。そしてそれは、現在の放課後児童クラブの世界に対する、この社会の「能力不足の烙印」なのです。これがどれほど重大で深刻なことであるのか、放課後児童クラブの世界が見て見ぬふりをするとしたら、私は悔しい。そしてそうなるのが目に見えているのが、ますます悲しいのです。

 放課後児童クラブの世界は、もっと、子どもの命に、子どもの成長に関して、その事業の質を向上させなければなりません。その覚悟を示さなければなりません。私のこの主張、おかしいですか?あえていいます。私のこの考えは、間違っていません。間違っているのは、既存の多くの放課後児童クラブの世界です。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。

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