放課後児童クラブの職員を悩ませるカスハラ問題。毅然とした対応は当然だが、忘れてはならない視点はある

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。先日、カスハラ(カスタマーハラスメント)について話題となったニュースがありました。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)は、対人支援という使命ゆえカスハラ問題を一概に切り捨てられない難しい面があります。児童クラブのカスハラ問題取り組みを考察します。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<カスハラとは>
 カスタマーハラスメントは、カスタマー=顧客(お客さん)からの嫌がらせ行為、という意味です。このカスハラについてJR東日本が注目の発表をしました。報道記事を引用します。時事通信社の4月26日20時18分配信の記事です。
「JR東日本グループは26日、客が従業員らに過度な要求や迷惑行為などを行う「カスタマーハラスメント(カスハラ)」への対処方針を発表した。カスハラが行われた場合、「お客さまへの対応をいたしません」としている。」
「JR東グループは、対応を中止するカスハラとして、身体的・精神的な攻撃や土下座の要求、社員の個人情報のSNS投稿などを例示した。悪質な場合は警察や弁護士などに相談するという。」(引用ここまで)

 この報道でSNSは盛り上がっていました。掲示板には、断固としてカスハラは許してはならない、客は神様ではない、企業側も堂々とはねつけて当然だ、という意見が圧倒的多数(というか、ほぼすべて)でした。

 カスハラですが、もう何年も前から社会問題となっています。厚生労働省は2022年に「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」を作成、公表しています。同マニュアルでは2020年度の調査結果が報告されていて、カスハラがあったという企業は調査対象となった企業のうち約2割に達し、以前3年間と比べて増加していると報告されています。
 このマニュアルでは、カスハラを次のように定義しています。
「顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの」

 そして、次の2つの点で判断するようにしています
「顧客等の内容の要求が妥当性を欠く場合」の例
(→提供するサービスの内容に欠陥や過失がない場合、提供するサービスと関係のない内容の場合など)
「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例
(→暴行や傷害といった身体的攻撃、脅迫や中傷、暴言といった精神的攻撃、土下座などの強要、継続的な嫌がらせなど)

 「ああ、こういう経験あるなあ」と思った児童クラブ関係者は案外多いと私は想像します。私にもありました。私の場合は、児童クラブの継続入所の書類を期限中に提出せず(もちろん、職員は何度も期限内提出を直接、声がけをしていた)、期限が過ぎて1か月ほどたったころに、「書類を出せと言われていなかった。そちらの失態だから入所を認めろ。認めないなら若い衆(本当にこう言ってきた!)を連れて話をさせてもらう」と言ってきた保護者の言動がカスハラに該当します。

<児童クラブにおけるカスハラの難しさ>
 児童クラブの場合は2つに分けて考えましょう。
・児童クラブを利用する保護者からのカスハラ(本来はこれがカスハラ)
・児童クラブの間接的関係者からのカスハラ。施設近隣の住人や将来的に児童クラブを利用する可能性がある人からの執拗な要求など。
 (なお厚労省のマニュアルには、将来的にサービスを利用する可能性がある者からの行動も含んでいます)

 JR東日本もサービス提供企業ですが、カスハラ対応でJR東日本のように「対応いたしません」とは児童クラブ側はなかなか言い切れません。もちろん、大前提として、「犯罪行為に該当する程度のことがあった」場合は別です。ハラスメントではなくて犯罪ですから。難しいのは、犯罪ではない程度のカスハラ、場合によっては「非常に程度の厳しいクレーム」です。
 なぜ難しいのか。それは児童クラブは対人支援の任務があり、支援の対象である保護者からのカスハラに対して、例えば事業者が策定した対応マニュアルに即して機械的に切って捨てる、対応を拒否するということができない事情があるからです。
 「え、それはおかしい。カスハラには毅然とした対応が必要だ。いくら保護者だからといって媚びる必要はない」と思われる方が多いでしょう。私が言いたい「事情」というのは、「カスハラ行為そのものへの対応」についてではなく、「カスハラ行為を起こした保護者が、なぜそういう激烈な行動をするのか事情を知っておくべきだ」という点を忘れてはならないからです。

 分かりやすく例えるならば、何らかのことがあって保護者が児童クラブの職員に執拗に理不尽な行動を要求してきた。そのことはもちろん、毅然と対応するのは当然です。土下座の要求、金品の要求は犯罪行為ですから警察に通報して当然です。遠慮は不要です。児童クラブの保護者であっても国民です。法律を犯して良い理由はありません。堂々と通報しましょう。
 その「行為そのものへの対応」とは別に、「ここまでの行動をしてくるのは、何か理由があるのか。保護者が何か精神的に追い込まれている事情があるのか。また子どもはどうなのか。子どもの心理面に何らかの影響は出ていないのか」ということもまた、併せて考えておくことが必要だと、私は考えているからです。
 つまり「保護者自身が何らかの事情で孤立化、あるいは心理的に追い詰められていることがあって、自身を守るための激烈な防御反応としてのカスハラ行為に乗り出しているのかどうか」、そして「そのような厳しい状況に保護者があるとしたら、子どもが保護者を見て何を思っているのか。また保護者から何か理不尽な行為を受けてはいないか」を、児童クラブの職員や運営事業者は合わせて考えておく必要がある、ということを私は言いたいのです。

 先の私の例で言えば、継続入所書類を提出しなかった保護者についてクラブの現場職員と連絡を取り合い、何度も職員が提出を促したこと、現場職員から見た保護者の性格や行動パターンに関する事実と分析を情報として取り入れ、結果として「期限が過ぎても、強く押せばなんとかなるだろうという、ルールを守るという順法意識の薄さ」ということが背景にあると確信しました。それがゆえ、「押しかけるぞ」と電話がきたとき「業務を妨害するようなことがあれば即座に通報します」と私は警告し、実際に保護者が乱暴な言動を伴って訪問したとき、即座に110番通報を行ったのです。

 ある意味、「クラブにおける子ども同士のけんか」と同じです。「その乱暴な行動の背景に、何か、隠されているものがあるかどうか」を考えることが、児童クラブの保護者からによるカスハラ対応には必要だと私は考えます。
 なお、近隣の住人など直接、児童クラブの対人支援の対象ではない存在である方々からの、度を越した理不尽な要求については、JR東日本と同様に「対応しません」で構わないと私も考えます。例えば、「クラブの子どもの声がうるさい。黙らせろ」と何回も要求してくる近隣住人の場合です。この場合は、児童クラブ側は、クラブでの子どもの声の大きさを測定します。明らかに法令や環境基準を超える場合はクラブ側に是正が必要ですが、客観的に周辺住人であっても受忍すべき限度にあると判断できる場合(これも第三者に測ってもらう、見解を下してもらうという客観性を担保することは忘れずに)には、毅然と対応して構わないのです。「わたしどもはできる限りの対応をとっております。これ以上の事は対応することはありません」と言っておけばいいのです。「訴えるぞ!」と言われても「訴える訴えないというそちらさまの意向に対し、何も意見を申し上げることはありません」と言っておけばいいのです。

<事前に「わたしたちはこういう対応をする」と何度も周知しよう>
 児童クラブ側は、保護者に対してカスハラ対応について「わたしたちは、こういう対応をします」ということを、「何度でも」保護者に伝えましょう。ここで重要なのは、「クラブ側は伝えたというけれど、こっちには伝わっていません!」という理不尽なことを言わせないほど「情報を伝えたということが客観的に判断できる」まで、カスハラ対応の内容について保護者に伝えたという行動を実施する、ということです。
 具体的には以下のことが必要でしょう。
・入所書類に、カスハラ対応の分かりやすい書類を入れる
・入所申請書類に「同意書」を設け、その同意書の1項目に「カスハラ対応について書面を読み、了承しました」というチェックボックスを設けて、チェックさせて提出させる
・クラブにカスハラ対応のポスターを掲示する
・保護者を集めて開催する会議のときにカスハラ対応について毎回必ず触れる
・少なくとも学期中に1回はカスハラ対応を説明する

 一方で、「どんなにこまったことでも、どんなにささいなことでも、遠慮なく、クラブ職員に相談してください」と、同じぐらい何度も何度もクラブ側は保護者に声をかけることです。「私たちは、話を聞きますよ」という姿勢で、実際に話を聞くことを実施することです。まあ、雑な言葉で言えば「普段からいろいろと言ってもらうことで、不満をため込んで爆発することを防ぐ。「不満」というガスは常に放出させておく」ということでしょうか。

<クラブ運営事業者は、現場でも本部でも、職員を絶対に守ること。カスハラ対応は管理職の役目>
 事業者(会社)は、労働安全衛生法で職員(労働者)の健康に配慮した職場づくりを求められています。また労働契約法では、会社は職員(労働者)の安全に配慮する義務が課せられています。カスハラ対応は、非常に大きな心理的負荷をかける業務ですから、その対応は管理職が行うべきです。カスハラ対応に追われた職員が、ストレスを過度に負うことで体調を崩すような事態は避けなければなりません。
 管理職もストレスを過度に負うことに変わりはありませんが、役職者はその分、手当をもらったり業務上の裁量をふるえる権限がありますから、いわゆる一般職員、平社員と一概に同視することはできません。私の例で言えば、理不尽な要求をしてきた保護者等の対応は最終的には私がすべて対応してきました。それが組織を背負うものの当然の責任です。それが結果的に職員を守るのです。

 「それは現場で起こったことだから、そっちで解決して。こっちに電話とか文句がきたって対応しないよ」という上司や本部のクラブ事業者なら、見限って別のクラブに転職したほうがいいでしょう。いざとなったら、メンタルを病んで病休に追い込まれ、結果として退職を迫られて切り捨てられるのは、いつも現場の職員です。しっかりと組織、職員を守る会社に移りましょう。

<おわりに・私の考えるカスハラのイメージ>
 「クラブ職員が動かした手が、偶然のバッティングで子どもの顔に当たった。子どもの頬が赤くなった」という状況で考えます。

(クラブ側の行動)(保護者の行動)萩原の判断。カスハラ?
職員がその場で気づき、子どもに声をかけ、謝った。頬の様子も定期的に数回、確認した。迎えに来た保護者にも伝えた。
(クラブ側の対応に問題は無い)
当日、迎えに行った際、職員から出来事について報告を受けた。子どもからも「たまたまぶつかった」と話を聞いた。職員に対して、たいした傷ではないので大丈夫です。次は気を付けてくださいねと話をした。カスハラではない
職員がその場で気づき、子どもに声をかけ、謝った。頬の様子も定期的に数回、確認した。迎えに来た保護者にも伝えた。
(クラブ側の対応に問題は無い)
当日、迎えに行った際、職員から出来事について報告を受けた。子どもからも「たまたまぶつかった」と話を聞いた。職員に対して、「子どもは痛い思いをしたと思うので、注意していただかないと困りますよ。ちゃんと謝ってくれたんですよね?」と数分、話をしたカスハラではない
職員がその場で気づき、子どもに声をかけ、謝った。頬の様子も定期的に数回、確認した。迎えに来た保護者にも伝えた。
(クラブ側の対応に問題は無い)
当日、迎えに行った際、職員から出来事について報告を受けた。子どもからも「たまたまぶつかった」と話を聞いたが、その場で職員に「顔ですよ!どうしてすぐ連絡をくれなかったんですか!」などと数十分にもわたって職員に厳しい口調で一方的に伝え、「役所に言いますからね」とも話し、職員には謝罪を強要した。カスハラである
職員がその場で気づき、子どもに声をかけ、謝った。傷の様子もその時だけは確認した。ただし、迎えに来た保護者に報告をし忘れた。
(クラブ側の対応に、やや問題となる点があった)
迎えに行った際、職員から特に話は無く、子どもを見ても子どもの頬が赤くなっていることには気づかなかった。帰宅して子どもから「今日、先生の手が顔にぶつかったんだよ」と言われ、頬を見てみると赤くなっていることが分かり、(当日夜または翌日に、電話又は直接)職員に対して「赤くなっていましたよ。できれば迎えに行った時話をしてほしかった」と伝えた。カスハラではない。
職員がその場で気づき、子どもに声をかけ、謝った。傷の様子もその時だけは確認した。ただし、迎えに来た保護者に報告をし忘れた。
(クラブ側の対応に、やや問題となる点があった)
迎えに行った際、職員から特に話は無く、子どもを見ても子どもの頬が赤くなっていることには気づかなかった。帰宅して子どもから「今日、先生の手が顔にぶつかったんだよ」と言われ、頬を見てみると赤くなっていることが分かり、(当日夜または翌日に、電話又は直接)職員に対して「顔ですよ!どうしてすぐ連絡をくれなかったんですか!」などと10分程度、職員に厳しい口調で伝え、「役所に言いますからね」とも話し、職員に子どもへの謝罪を求めた。ぎりぎりの程度でカスハラではない
職員がその場で気づき、子どもに声をかけたが「そのくらいなら大丈夫ね」と、気に留めなかった。迎えに来た保護者にも伝えなかった。
(クラブ側の対応に、問題となる点は確かにあった)
迎えに行った際、職員から特に話は無く、子どもを見ても子どもの頬が赤くなっていることには気づかなかった。帰宅して子どもから「今日、先生の手が顔にぶつかったんだよ。先生はそのぐらいなら大丈夫と言っていた」と言われ、頬を見てみると赤くなっていることが分かり、(当日夜または翌日に、電話又は直接)職員に対して「顔ですよ!どうしてすぐ連絡をくれなかったんですか!」などと10分程度、職員に厳しい口調で伝え、「役所に言いますからね」とも話し、職員に子どもへの謝罪を求めた。カスハラではない
職員がその場で気づき、子どもに声をかけたが「そのくらいなら大丈夫ね」と、気に留めなかった。迎えに来た保護者にも伝えなかった。
(クラブ側の対応に、問題となる点は確かにあった)
迎えに行った際、職員から特に話は無く、子どもを見ても子どもの頬が赤くなっていることには気づかなかった。帰宅して子どもから「今日、先生の手が顔にぶつかったんだよ。先生はそのぐらいなら大丈夫と言っていた」と言われ、頬を見てみると赤くなっていることが分かり、(当日夜または翌日に、電話又は直接)職員に対して「顔ですよ!どうしてすぐ連絡をくれなかったんですか!」などと数十分にわたって職員に厳しい口調で伝え、「役所に言いますからね」とも話し、職員に子どもへ土下座しての謝罪を要求した。カスハラである

 お分かりだと思いますが、「一線を超えてはならない要求」があるかどうかが判断の重要点です。土下座の強要はアウトです。一方で、子どもに謝ることを求めるのは、私は一線を超えていないと考えます。まして、クラブ側に落ち度がある場合はなおさらです。つまり、原因側においての過失の度合いも影響します。もちろん、重大な過失があっても、それを批判する側が一線を超えたらそれはカスハラ、いや犯罪です。「治療代を出せ」というのは、「現実的に保険を適用、あるいは子ども医療費無料制度を利用して治療費負担がゼロである」なら、単なる恐喝です。仮に「子どもがつらい思いをしたのだから慰謝料を出せ」というのであれば、その要求について検討しなければなりませんので、クラブ側は即答するのではなく弁護士など法律の専門家に相談して対応しましょう。「相手の要求が法律的に根拠がある損害賠償に相当するのかかどうか、犯罪行為にあたるかどうか」を判断基準にすればよいのです。
 その判断基準をどう育てるかが難しいのですが、それこそ、運営事業者が研修で学ぶことが必要です。それもまたリスクマネジメントにおいて重要です。カスハラ対応は、職員そして組織を守る対応であり、リスクマネジメントでもあることをぜひ、クラブ運営側にはご理解ください。(この点、保護者運営の児童クラブにおける保護者からの理不尽な要求は、難しい問題をはらんでいます。後日、考えてみましょう)

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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