何度でも繰り返します。競争で質が上がるのは「企業が儲かる分野」。学童保育はコストカットの競争だけです。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 引き続き、学童保育所運営に対する指定管理者制度について考えていきます。今回、私が伝えたいのは、「競争原理で質が向上するという考えは、その事業者にとって利益がある分野だけ。それ以外はコストカットによる競争で選定を勝ち取るだけであって、その後は残念ながら質の向上は関心がもたれない」ということです。

 繰り返しになりますが、指定管理者制度とは、公の施設(学童保育所を含め、児童館や図書館、体育館、駐車場など公営のほとんどの施設に実施可能)の管理運営を民間に任せることができる制度です。その地域の住民の福祉を増進させる目的で設置された施設の運営を、ノウハウを持った民間に任せることで、効率的に最大限優れたサービスを提供させようという仕組みです。
 効率的に最大限優れたサービスを提供できる事業者を、多くの場合は「公募」で指定管理者になりたい事業者を集め、プレゼンテーションを行わせ、指定管理者を選ぶ選定委員会で、最もふさわしい事業者を選びます。最終的に、その事業者に実施させる予算を市区町村等は作成し、その予算案は議会で審議されます。議会で予算案が可決されれば、その予算年度から、指定管理者となった事業者が運営を始める、ということになります。

 この「公募」こそ、競争です。「うちの会社は、これぐらいの費用で、こんなサービスを提供できますよ」と競い合うことで、事業の質の向上と、費用の削減ができるだろう、と言うのが、公募による指定管理者制度による目的です。

 さて、では競争によって事業の質が本当によくなるのでしょうか。私の考えでは、「事業の質が良くなることはある。しかしそれは、事業者にとって利益が上がることであればの話。そうでなければ、事業の質の向上が必ず果たされるとは言えない」というものです。

 指定管理制度とは離れますが、競争原理で事業の質が良くなる、良くなったという例はたくさんあります。最近であれば携帯電話の世界でしょうか。格安の業者が増えたことで大手キャリアも様々な割引プランを充実させたと言われますし、大手キャリアの間でもサービス競争が繰り広げられていました。また、航空会社の世界も競争がありましたね。従前の3社体制(フラッグシップは日本航空、国内幹線は全日空、国内ローカルは東亜国内航空)に競争が持ち込まれ、その後に格安航空会社が参入し、航空運賃はだいぶ安くなりました。もっと前では鉄道の世界における競争が有名ですね。特に、京阪神間の競争は、国鉄、阪神、阪急、京阪などが互いにしのぎをけずって、所要時間から料金、質感や快適性(京阪テレビカーや、阪急の上品そうな内装など)など、まさに競争が繰り広げられ、結果として利用者にとって利便性や快適性が向上したことは、まぎれもない事実です。

 しかし落ち着いて考えれば、これらの競争は、要はシェア獲得競争なのですね。シェアが増せば、企業の稼ぎが増えるということ。つまり、競争に勝てば「儲かる」のです。もっと儲けたいがために、競争に力を入れるのです。儲からない分野であれば、特に営利企業であれば、利用者の利便性を拡大するサービスには、あまり力を入れないでしょう。民間企業だから常にサービスが拡大されるということは、当たり前ですが、そんなことはないのです。
 例えば、鉄道でいえば、大都市近郊の乗降客が多い駅でも、有人駅が減ったり、有人の窓口が減ったりしています。みどりの窓口が急激に減っていることはご存じでしょう。それは、インターネットの利用でオンラインでチケットを手軽に購入できる時代になったからだ、という意見があります。確かに、他の手段が主流になったので、手段として相対的に重要性が減った手法は廃止され、あるいは縮小されることは、合理的な面があります。しかしそれは、結局は、コスト面で不利になった手法を廃止あるいは縮小することで、その手法を必要としている人は少数であるがゆえに、残念ながら切り捨てられる、その分野の人からは収益を得られなくても構わないと割り切られてしまうのです。

 さて学童保育の世界は、収益が見込める世界でしょうか。答えは、「提供するサービス水準を下げて良いならイエス。下げられないのならノー」です。何度もこのブログで書いていますが、学童保育の事業そのもので利益を上げることは、利用料を独自に引き上げることができないため実質的に不可能です。施設規模によって受け入れられる人数に限りがあるので、利用者数をどんどん増やすこともできず、収入を増やすには限界があります。とすると、営利企業であれば、「支出を減らす」ことでしか、事業者が利益を出すことができません。そして学童保育という労働集約型産業においては、支出を減らすこと=人件費を減らすこと=事業を行う柱である人材の弱体化を引き起こす=事業の質の低下を招く、と言う構図にしか、なり得ません。
 まあ、質の高い育成支援を行って年度途中の退所者が減れば、年間を通じ保護者から得られる収入の目減りは減らせますが、それはマイナス分を減らすだけ。プラス分を増やすことではありませんね。

 さらに、競争原理の結果、指定管理者に選定されるために、かなり引き下げた指定管理料で引き受けることを条件に出して公募に応募するならば、人件費を削る方向性はさらに明確になります。
 競争によってもたらされる人材面での弱体化以外でも、指定管理者制度の弱点として、3~5年ごとの競争で選定に負ける可能性を考えると、事業に従事する職員、従業員を、無期雇用で採用することが困難ということがあります。競争に必ず勝てる保証はありませんので、次の選定で負けるかもしれないと思うと、その事業に従事する者を無期雇用で抱え込むにはリスクがあります。法令上、事業の継続が著しく困難になった場合は無期雇用であっても解雇ができますが、企業に取って解雇は労働紛争に発展する可能性が高く、それを考えると有期雇用で処遇せざるを得なくなります。それは実は賃金水準を下げるにも都合が良いのです。
 仮に、次の競争に負けることを踏まえて正規雇用とするとしたら、おそらく、「次の選定で負けたら、全国に点在する運営の施設に転勤してもらうことになるが、それでもいいか」という条件を受け入れた人でないと、正規雇用ができないでしょう。学童保育で働く人は多くが地元に根差した人ですから、全国規模の転勤がある正規職となると、その条件で雇用されることは不可能です。
 無期雇用による職員の雇用の安定こそ、育成支援の質の向上をもたらす要素です。子どもや保護者と継続的に関わっていくことが、安定した育成支援を実現するのです。それが困難となる制度は、学童保育には不向きです。

・競争で事業の質が向上するのは、その事業者の利益が増える分野だけ
・事業者の利益にならない分野では、逆にサービスの質が低下する恐れが強い
・公募に勝ち抜くための安い指定管理料&利益を出すために人件費削減=事業の質が低下する要因になる
・無期雇用で職員を処遇しずらい制度は、学童保育における育成支援の質の向上をもたらすとは考えにくい

 これら、学童保育所の質の低下をもたらす要素が色濃い制度は、極力、排除されねばなりません。もともと、税金による補助金と、保護者が支払う毎月の料金で運営される学童保育は、その育成支援事業で金銭的な利益を生み出すことは全く目的としていないので、競争原理がなじまない分野であることは明白です。さらに、質の向上のために、事業の継続がある程度確保されていることが必要です。
 となれば、指定管理者制度であろうが、事業委託であろうが、公募ではなく随意契約で市区町村が責任をもって事業者を選定することが必要です。その点、指定管理者制度は「選んだのは選定委員会だから」という市町村執行部の「逃げ口上」が使えることは、私ははなはだ無責任だと考えます。例の津島市の件では、タウンミーティングで「市とは無関係の選定委員会で選ぶ」旨の発言が市側から散見されますが、市の事業たる学童保育所を運営する事業者の選定に際し、市とは無関係とする発言は、私は残念に感じます。大事なのは市区町村の中立性ではなく、むしろ責任をもって積極的に関与して事業者を選ぶことが必要であり、それはつまり非営利の事業者を随意契約で選ぶことが求められるのです。なぜなら、市区町村が行う事業だから、です。

 それでも競争原理によって質の向上を学童保育の世界にもたらしたいなら、学童保育は届出制の事業ですから、既存の事業者と並存で新規参入事業者による学童保育所の設置を促せばいいのです。それこと、同じ土俵に乗ったうえでの競争です。そうすれば、開所時刻が早まる、閉所時刻が遅くなる、夏休みだけの短期受入れなど利用者が望む制度が拡充拡大される、などの利用者たる保護者にとって便利さが増すでしょう。もちろん、最も期待できるのは、育成支援の質を競うことで、子どもたちの、「うちの学童はとても楽しいから、こっちがいい」と言う声が増えることでしょう。

 私は、学童保育の育成支援の質の向上は当然、運営における質の向上も同様に重視しなければならないと考える主義です。学童保育は、必要としてくれる人がいなくなれば、存在無用となるシステムです。必要としてくれる人は、結局は、子育て世帯です。子育て世帯から必要とされなくなったら、おしまいですから。子どもの最善の利益を守ることが保護者にとって、社会にとって必要なことは間違いありませんが、子育て世帯の日々の生活を支え、便利になることも同様に目指さねばなりません。それを大事にしない事業者は、営利企業だろうが非営利法人だろうが、私に言わせれば、学童保育所の運営に関わってほしくない事業者です。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所の運営の継続について、「あい和学童クラブ運営法人」がお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば、当ブログの引用はご自由になさってください)