学童保育の質の向上=競争原理でのコスト削減=質の低下にほからないことを、市区町村は直ちに理解しよう!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 引き続き、学童保育所運営に対する指定管理者制度について考えていきます。今回、私が伝えたいのは、「競争原理で学童保育の質的向上は果たせないどころか、質の低下になる」ということです。

 前日(11月16日)のブログにも記載しましたが、指定管理者制度とは、公の施設(学童保育所を含め、児童館や図書館、体育館、駐車場など公営のほとんどの施設に実施可能)の管理運営を民間に任せることができる制度です。その地域の住民の福祉を増進させる目的で設置された施設の運営を、ノウハウを持った民間に任せることで、効率的に最大限優れたサービスを提供させようという仕組みです。
 この制度は、「少ない予算で最大限のサービスを実施」が狙いです。もっと言えば、「役所が手掛けると、なんだかんだでカネがかかる。だから民間団体にやってもらおう」ということです。1,000万円の予算を使っていた公営の施設があったとして、同じ1,000万円の予算で施設を運営してくれる民間団体(非営利法人や営利企業など。個人はダメ)を募集します。いくつか応募してきた民間団体のうち、最も充実したサービスを提供できると主張する団体を選ぶ(通常は、選定委員会にて)のです。
 もちろん、少ない予算でもっともサービス内容が充実している団体を選ぶのですから、「うちは900万円で、役所さんが希望するサービスを実施できますよ!」という内容で応募してきたら、役所にしてみたら100万円の予算削減ができたうえに、希望するサービスが実施できるのだったら、選定委員会のメンバーは、当然ながら900万円で応募してきた団体を選ぶことになるでしょう。つまり「競争原理」が働いて、応募する側により低いコストで指名を勝ち取ろうという動機が出てきます。

 このように、コスト削減が指定管理者制度に最も期待される効果です。このコスト削減をもって、「同じだけのサービスを、コストを抑えて実施できることこそが、質の改善」と考えているのが、この国の「行政経営」と呼ばれる考え方の基本です。

 つまり、その施設で「どのような実態で利用者が満足する運営が行われているか」よりも、「どのくらいの費用で、要求する水準の運営を実施できるか」が問われ、かつ、重要視されているのが、今のこの国の「行政経営」の本質です。

 学童保育にも、この本質が適用されています。いま、問題となりつつある愛知県津島市では、市長が、うちの市は児童1人あたりの指定管理料は県内でもこんなに高い、なのに市民から苦情がきた、それは心の声だ、市としては指定管理者制度で運営事業者を公募して「競争原理を働かせて」質の良いサービスを提供しなければならない、と主張されているようですが、それは言い換えると「公募で、もっと高いサービスを実現できるはずだから、そういう業者さんに、うちの学童をやってもらいたい」ということです。

 同じ金額でサービスがさらに充実させる方向になるのか、同じサービスをより低い金額で行うことを指向するのかか、そのどちらの道に進むのかは、それぞれの状況によるでしょう。いずれにせよ、「効率的に」事業を実施することを目指す指定管理者制度は、「競争」によって「質の向上」を目指すのです。その質の向上は「コスト削減」そのものであって、カネがかからないことが質の向上。「実施されるサービスを享受する側の満足度や幸福度、充実度」は数値化しにくいこともあって、さほど重要な評価要素としては扱われないのです。

 コスト削減、カネがかからないことで最大の評価がされるのであれば、「住民の福祉の向上」を目的とする指定管理者制度が適用される学童保育の世界では、カネをかけないで児童福祉サービスを提供しつつ事業運営できる事業者が「質が高い」として評価されることになります。

 その帰結は前日のブログに記したとおり、人件費を削減することで、学童保育におけるサービス=育成支援業務、に従事する職員の人員配置体制を全般的に引き下げる事態を導きます。当たり前です。人件費を安く切り詰めることは、「人数の削減=働く人が少ない」、「就業時間の抑制=1日あたりの人件費を抑える=全体で見れば、子どもに関われる人数減であり、個人で見れば、関われることができる子どもの人数減」となり、「低賃金=離職者の増加、新規求人応募者の低下、モチベーションの低下」となり、労働集約型産業の学童保育においては致命的な「事業運営の質の低下」をもたらすのです。

 政府、都道府県、市区町村には、「人が中心となっサービスを提供する学童保育は、実施団体を選定する際の競争原理においては、その事業水準の低下をもたらすだけ」ということを理解していただきたい。競争原理がもたらすコスト削減が「質の向上」である、という理解は間違っています。正反対の「質の悪化」をもたらすだけということを認識していただきたいのです。

 学童保育事業における質の向上は、「子どもが主体的に成長できる、安全安心して過ごせる場所として継続的に確保できており、そこで過ごしたい子どもが増える」ということであり、「そのような場所を利用したいという保護者が増える」ことです。学童保育と言う児童福祉サービス=育成支援を、ぜひうちの子どもにもお願いしたい、という家庭が増えることです。そこには「育成支援という事業の水準の向上」と「保護者の利便性、使い勝手の向上」の2点の向上が含まれています。

 その2点は定性的なものですが、前者は「退所児童数の推移と、退所の理由」を把握することで数値化できますし、過去との比較ができます。後者は利用者アンケートやヒアリングを行うことで把握できますし、傾向を取りまとめて数値化もできます。もちろん、忘れてはならないのが、実際に学童保育所で主役である「子どもたち」の声であり、意見です。これも子どもたちに意見や感想を聴くことで容易に取得できます。(保護者経由でもいいのかもしれませんが、子どもの意見表明は法に示された子どもたちの権利です。大人は、それを聴かなければなりません)

 事業である以上、当たり前ですが、質の向上は必要です。しかしその質の向上はコスト削減と同意義では、ありません。あくまでも学童保育であれば、「そこで行われている育成支援の質と、利用者たる保護者の使い勝手」の双方をより重視した、事業者の選定が必要です。それは、公募による競争でもある程度は実現できるのでしょうが、競争によって指名を勝ち抜くことは、コスト削減をもたらす要素が強い手法。コスト削減に留意しつつも育成支援の質と保護者の利便性を考えるのであれば、非公募の随意契約や随意指名、選定で事業者を選ぶことでも、その目的は十分に果たせます。

 随意による契約や指名、選定は「癒着」「コスト削減ができない」「密室性で納税者に対する説明責任が果たせない」と批判を受ける仕組みです。しかし、地域の住民、納税者には、随意で事業者を選定した理由、金額を包み隠さず明示すればよいのです。子どもの最善の利益と、保護者の子育てをしながらの経済生活という児童福祉サービスを高い事業水準を維持しながら行うため、優れた事業者を、こういう理由があるから選定した、と住民に説明すれば足りるのです。

 なお、もちろん、事業者は常にサービスの向上に努めなければなりません。
・子どもの受け入れ時間、受け入れ期間の拡大は当然必要。
・他地域の運営状況をしっかり研究して例えば保護者負担については子育てに必要な分野以外での負担=労務の提供を削減すること。
・事業運営に利用者たる子ども、保護者の意見を反映できる仕組みを整えること。
・保護者の経済的負担を軽減する努力を怠らない。料金の引き下げと並んで同じ料金でサービスを拡大すること。
・何より、育成支援の水準の向上に強く務めること。

 これらのサービス向上は何も競争原理を働かせなければ実現できないことではありません。事業運営者は、「私たちは、子どものため、保護者のため、地域社会のため、なによりこの世界のため」と高度な使命感と倫理観を持たねばなりませんし、それが備わっていれば自ずと実現できます。そして、事業運営のために受け取る補助金、「そのサービスを利用することでしか生活できない」保護者から徴収する料金(実質これも保護者にしてみれば「子育て税」のようなもの)は、公のお金であるという認識を持っていれば、1円たりとも無駄遣いしないで事業を運営できるのです。

 多くの市区町村が、「学童保育を充実させ、真の住民サービスの向上を果たすには、事業水準が高いレベルの事業者を、私たちの責任をもって選定することが必要だったのだ」と気が付くまで、この問題点を訴え続けねばなりません。そしてそれまでの間は、競争によって事業者が選ばれる時代が続くのですから、これも前日のブログに私が記したように、質の高い育成支援を行っていると自負している団体は、公募による競争に打ち勝つ手段を手に入れねば、なりませんよ。

 育成支援を大事にした学童保育所の運営の継続について、「あい和学童クラブ運営法人」がお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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