データから想像する、学童保育の不可解な状況。民営事業者は、事業収入をどこにつぎ込んでいるのか。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

※本稿では、数値は半角数字を使います。 
 本年(2023年)春に公表された「令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査 報告書」(令和5(2023)年3月・みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社)をみて、私が気になるデータを、私の独自解釈でお蔦します。
 今回は、民営の学童保育所(本稿では、放課後児童クラブのこと)に関する不思議な様相についてです。

 本題に入る前に用語の説明をします。民営の学童保育所は、市区町村が施設を設置して運営を民間事業者に任せる「公立(公設)公営」と、施設の設置は民間事業者が行い、市区町村から事業委託契約の締結もしくは事業補助という形で運営を民間事業者が行う「民立民営」に分かれます。
 指定管理者制度は公の施設に関する制度ですから、施設の財産が公有ではない民立民営の事業形態で指定管理者制度は適用されませんが、公設民営の施設を指定管理者が運営した後、市区町村がその施設の財産を手放して指定管理者に譲り渡すケースがごくまれにあるようです。

 さて報告書です。
(1)報告書に示されている民間事業者の内訳を確認します。
公設民営(全施設で3,922)の上位5施設。なお、保護者会は257施設で6.6%です。
「社会福祉法人」(1,109施設、28.3%)
「株式会社」(775施設、19.8%)
「NPO法人」(619施設、15.8%)
「運営委員会」(581施設、14.8%)
「公益社団法人等」(321施設、8.2%)
同様に、民設民営(全施設で2,268施設)の上位5施設を見ます。
「社会福祉法人」(782施設、34.5%)
「運営委員会」(376施設、16.6%)
「NPO」(291施設、12.8%)
「公益社団法人等」(215施設、9.5%)
「保護者会」(184施設、8.1%)

 なお、以前も同様の指摘をしましたが、回答した施設数が少なすぎます。厚生労働省の令和4年度の放課後児童クラブ運営状況の調査では、公設民営が13,114あり、民設民営が6,210あります。みずほによる調査に回答したのは、どちらも3分の1です。こういう、重要な調査に協力しない、もしくは協力できない民間の事業者は事業運営の適性を欠いています。学童保育の運営を止めていただきたい。調査に積極的に応じることは事業者の当然の責務です。

 さて、上記の種別で気になりませんか?これは3分の1の事業者しか回答していないという要素が大きいかもしれませんが、公設民営と民設民営ともに、社会福祉法人の運営が最多となっているのは厚労省の運営状況調査でも同様ですが、公設民営では株式会社が二番手になっています。厚労省運営状況調査では、公設民営の事業者の区分で「その他」は社会福祉法人についで2位ですが、その「その他」が株式会社を指すのであれば、この報告書の結果通りにはなります。

 報告書の調査に、NPOがあまり協力しなかったので回答数が減った可能性は大いにありますが、現状は、「株式会社が公設民営学童の運営に際しては、もはや中心になりつつある」ということを、認識する必要があります。言うまでもなく、公設公営の施設が指定管理者制度のもと、どんどんその運営が株式会社に任されているということです。つまり、もはや株式会社運営の学童保育所も参加できる組織でないと、学童保育に関する運動は、何をやっても勢いに欠ける、実効性が欠ける、ということだと私は思います。

(2)事業者別に、職員の配置状況を見てみます。
・放課後児童支援員の配置が多い順
保護者会(2.3人)ーNPO(2.2人)ーその他の法人(2.1人)ー運営委員会(2.0人)-社会福祉法人(1.9人)
・常勤職員の放課後児童支援員の配置が多い順
NPO(1.5人)ー保護者会(1.4人)ー社会福祉法人と運営委員会(1.3人)ーその他の法人(1.2人)

 配置状況からは、保護者会とNPO法人、つまり非営利法人の中でも保護者が関わる組織は、職員配置を手厚く行っているということが一目瞭然です。特に、株式会社がほとんどであると思われるその他の法人では、常勤の有資格者の配置が、ぐんと少ないことが分かります。

(3)事業者別に、職員給与を比較しましょう。
・年間支給額(賞与込み)が多い順。放課後児童支援員について。
社会福祉法人(320万4938円)ーNPO(309万158円)ーその他の法人(298万1345円)ー保護者会(285万9721円)ー運営委員会(284万727円)

 これをみて私が独自に想像したのは次のとおりです。
・社会福祉法人が高いのは、常勤の支援員の配置人数が少ない分、一人の給与額が高くなっている可能性と、経営者の身内、一族が幹部職員におり、その者への給与が高くなっていて全体の平均額を引き上げているのではないか。
・NPOの給与額が高めなのは、職員の安定雇用に留意している事業者が多いからではないか。
・保護者会、運営委員会の給与額が低いのは、財務基盤の弱さに尽きる。

(4)賃金改善の程度。令和元年の年度末と令和3年の年度末の改善率の比較です。処遇改善等事業補助金の効果の反映だと考えてください。放課後児童支援員の改善の程度が高い順から。賃金は基本給と手当と一時金の全てを対象とします。
保護者会(9.9%)ーその他の法人(9.3%)-運営委員会(9.2%)ーNPO(8.8%)ー社会福祉法人(7.0%)
・なお、基本給のみの改善率では保護者会がトップ、手当のみでは社会福祉法人が圧倒的にトップ、一時金のみではNPOがトップになります。

 これをみて私が独自に想像したのは次のとおりです。
・保護者会は、着実に賃金改善を行っているが、改善率が高いのはもともとの賃金水準が低いからではないか。
・社会福祉法人は、賃金水準の引上げを手当で対応する傾向があり、全体の賃金水準引き上げには消極的。
・NPOは基本給をその時点でできる限り高めに設定しており、さらに財政的な余裕が生じたら一時金(賞与)で職員の賃金水準引き上げに取り組んでいる。
・その他法人は、際立って賃金水準引き上げに尽力してはいないが、まったく取り組んでいないわけでもない。

(5)保護者が支払う利用料の徴収額。多い順です。
・公設民営
保護者会(9万2364円)ー運営委員会(8万2997円)ーその他の法人(7万9632円)ーNPO(7万5180円)ー社会福祉法人(7万1158円)
・民設民営
保護者会(10万9825円)ー運営委員会(10万9156円)ーNPO(10万8655円)ーその他の法人(9万8856円)ー社会福祉法人(8万8582円)
※なお、民設民営におけるその他の法人は、指定管理の株式会社ではないと思われます。営利企業が行う放課後児童クラブ(事業規模の大きな企業によって、都市部を中心に増えている)だと想定されます。

(6)補助金や委託料の額が多い順です。
・公設民営
NPO(2012万9000円)ーその他法人(1981万円)ー社会福祉法人(1373万8000円)ー運営委員会(853万2000円)ー保護者会(844万8000円)
・民設民営
NPO(1211万8000円)ーその他法人(1086万円)ー社会福祉法人(969万9000円)ー運営委員会(944万2000円)ー保護者会(837万8000円)

(7)支出の内訳
 公立民営の支出の内訳のうち、人件費の割合が高い順です。人件費が多いということは「1人あたりの額が高い」、「雇っている人数が多い」という二つの要素が影響します。
・公設民営
NPO(74.30%、1824万8000円)ー社会福祉法人(73.89%、1324万1000円)ー運営委員会(70.24%、935万2000円)ー保護者会(67.21%、947万円)ーその他法人(66.50%、1450万1000円)
・民設民営
保護者会(68.54%、960万8000円)ー運営委員会(66.69%、1104万円)ーNPO(66.39%、1178万4000円)ー社会福祉法人(66.05%、919万5000円)ーその他法人(60.72%、999万7000円)

 (5)~(7)をみて私が思うのは、公設民営であるその他法人、つまりおそらく指定管理者であろう株式会社が、人件費につぎ込む割合がかなり低い事です。金額でみると、最多のNPOより400万円近くも少ない。一方、受け取る補助金はその他の法人は、NPOより30万円ほど安いだけです。保護者からの利用料は逆に、NPOより、その他法人の方が高くなっています。その他法人の得た収益は、どこに使われているのでしょう。その他法人の場合、雇用している職員に十分な賃金が行きわたらない可能性を示唆します。
 また、運営委員会や保護者会といった任意団体は財政基盤が極めて弱いことです。

(7)収支の状況。これが一番、注目のしどころです。
・公設民営の収支の状況です。
NPOは収益が2456万円に対し、支出が2362万円。損益差額は94万円です。
その他法人では、収益が2180万8000円に対し、支出が1895万7000円。損益差額は285万円です。
社会福祉法人では、収益が1791万9000円に対し、支出が1647万6000円。損益差額は144万3000円です。
保護者会は、収益が1409万1000円に対し、支出が1308万8000円。損益差額は100万3000円です。
運営委員会は、収益が1331万5000円に対し、支出が1251万2000円。損益差額は80万3000円です。

・民設民営の収支の状況です。
NPOは収益が1775万1000円に対し、支出が1708万円。損益差額は67万円です。
その他法人では、収益が1646万5000円に対し、支出が1535万3000円。損益差額は111万2000円です。
社会福祉法人では、収益が1392万1000円に対し、支出が1291万円。損益差額は101万1000円です。
保護者会は、収益が1401万8000円に対し、支出が1359万7000円。損益差額は42万1000円です。
運営委員会は、収益が1655万2000円に対し、支出が1593万9000円。損益差額は61万4000円です。

 これらをみると、公設民営のその他法人、つまり指定管理者の株式会社は、285万円の黒字となっていますが、この分が、企業本体の利益となっているわけです。1単位で280万円の黒字になるなら、市区町村で100単位を運営することになれば、年間で2億2800万円の純利益を上げることができます。社会福祉法人も利益が多めです。これもまた、運営団体の収入になっていると考えられます。(追記:公設民営でのその他法人はNPOより人件費が400万円ほど低いことを考えてみてください。人件費を節約した分が黒字を生み出していると考えられますね)
 また、民設民営でも、その他法人と社会福祉法人の損益差額が100万円を超えています。民設民営のその他法人は、株式会社が設置している放課後児童クラブで市区町村から補助金や事業委託を受けて運営している形態であると想像できます。それでも年間で純利益が100万円あげられるわけです。社会福祉法人は非営利法人であるはずですが、社会福祉法人にまつわる、よからぬ噂はこういう利益の多さから生み出される実態がもとになっていると私は考えています。

 これが、補助金ビジネスなのです。「黙っていてもお客さんがやってくる」上に、安定して収益が得られる。こんなおいしい仕組みを、営利企業が黙って指をくわえてみているわけはありません。あの手この手で、学童保育所の運営を引き受けようと企業努力で頑張ります。それがこの競争社会における、しきたりです。非営利法人がこれからも学童保育所を運営していくなら、よほどの覚悟で、営利企業に立ち向かう覚悟と知恵を身につけて、事業運営に取り組まねばならないのです。

 学童保育所は、その収入は補助金と、保護者が支払う利用料です。これらは、学童保育というシステムを動かすためのお金です。それに従事する職員の賃金の原資は、職員が安定して生活し仕事を続けるに足るだけの額を確保することが必要ですし、施設の改修等に必要な原資も確保することが必要ですが、事業に必要な分以外、つまり必要以上に利益を確保できる仕組みは本来は不要なはずです。利益を学童保育の事業に「投資」するなら話は別ですが。「企業経営の努力の結果」という名目で生み出した利益であっても、それは事業そのものに再投資されるか、「もらい過ぎた」として、素直に国や保護者に返金するべきでしょう。
 営利企業による学童保育所の運営は、NPO法人程度の利益を確保できるだけの仕組みに留められるよう、国や市区町村が制度を改善するべきだと私は考えます。金額ベースでいうなら、1単位で100万円程度が許容範囲であると私は考えます。もちろん、職員にしっかりと賃金を支払ったうえでの話です。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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