「消滅可能性自治体」の報道で思う放課後児童クラブとの関係。人口減の地域こそ児童クラブ整備が必要と認識を!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。4月24日に「消滅可能性自治体」のニュースが伝えられました。このニュースを聞いて驚いたことと、人口減が進む地域で深刻となっている児童クラブの大規模化について私の考えを紹介します。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<児童クラブの充実と消滅可能性はほとんど相関しない?>
 2050年までに若い女性が半減し、将来的には744の自治体が消滅する可能性があるというショッキングなニュース。まず「消滅可能性自治体(消滅可能性都市とも)」について、NHKの記事を引用して紹介します。4月24日16時09分公開の「“消滅する可能性がある”744自治体 全体の4割に」との見出しの記事です。
「有識者グループ「人口戦略会議」は、国立社会保障・人口問題研究所の推計をもとに20代から30代の女性の数、「若年女性人口」の減少率を市区町村ごとに分析しました。2050年までの30年間で、若年女性人口が半数以下になる自治体は全体の4割にあたる744あり、これらの自治体は、その後、人口が急減し、最終的に消滅する可能性があるとしています。」(引用ここまで)

 つまり、人口増に決定的な存在である若年女性の人口が減れば、その地域はいずれ人がいなくなる、ということです。10年前に最初の消滅可能性自治体のニュースがあり、その時は大センセーションとなって多くの自治体担当者の関心を引き、その後のまちづくり計画に影響を与えたのです。それは「子育て世帯を呼び込む」ために「子育て応援のまちづくり」を、どこもかしこも掲げるようになった結果を招きました。

 しかし今回の結果では「ええ~そうなの?」という自治体がありました。愛知県津島市です。このブログでも以前、充実した公設民営の児童クラブが、行政の一方的な方針変更で指定管理者替えを余儀なくされ、その後方針が撤回されたという地域です。子どもの育ちを最優先に、保護者と支援員が一緒に子育てを考えていくという、伝統的な学童保育の世界でもスタンダードなスタイルで長年、安定した児童クラブ運営を続けてきた地域です。
 それが今回、新たに消滅可能自治体に判定されました。資料を見ると、社会減(人口流出の程度が人口流入より大きい)が理由のようです。若年女性の人口減少率が53.2%となっています。地域社会が人口を維持、また呼び込むのは、暮らしが成り立つこと=雇用があることが最も重要でしょうから、雇用を確保できる企業が産業がない地域は、津島市に限らず厳しいのでしょう。
 また岡山県井原市も新たに消滅可能性自治体に区分されました。井原市は、社会減対策に加えて自然減への対策が必要と理由が付けられています。井原市も児童クラブにおいては積極的に運営の質の向上に取り組んでいるように私には感じられる地域です。やはり地域における産業、雇用の有無が大きいのでしょうか。

 児童クラブの充実「だけ」で、全体的に進行する少子高齢化の流れにおいて自治体の人口増に決定的な役割を果たせることは当然ありえないでしょう。ただ、子育てがしにくい地域という評判は決して人口減に無視できない要素となるのではないでしょうか。今回、「自立持続可能性自治体」として区分された千葉県流山市は「母になるなら流山」のキャッチコピーでとても手厚い子育て支援を行っていますし、茨城県つくばみらい市も同様です。流山市は今年度も児童クラブの待機児童は出ていないと市が公表していますが、ここ数年、5,000人前後のペースで人口が増え続けているにも関わらず、児童クラブの待機を出していないことは奇跡でしょう。(ギュウギュウ詰めかもしれませんが、待機児童を出していないことは何より重要です)

 埼玉県北本市は前回、消滅可能性都市として伝えられ、そのことが市の全体に大きな衝撃を受けたようです。当時、北本市の児童クラブ運営団体の理事長の方といろいろな会議の場で一緒になることが多かったのですが、北本の理事長は「市の学童担当者は、とにかく消滅可能都市からいかに脱却できるか、それしか口にしない」と言っていたものです。それから導入されたのが朝7時の子ども受け入れです。現場は大変苦労したようですが。今回の新たな結果で北本市の関係者の方々は、ほっと安堵したのではないでしょうか。

<人口減の地域こそ児童クラブが必要だ>
 人口減を食い止めるために放課後児童クラブを整備してなんとか子育て世帯を呼び込む努力をしなければならないでしょうと、私は言いたいわけではありません。もちろん、若年人口の流出を食い止めるために児童クラブはじめ子育て支援の仕組み、制度を整えることは手を抜けないでしょう。例えば今回、消滅可能性自治体に区分された宮城県石巻市は2023年度、待機児童が50人を超えています。そのような地域は引き続き児童クラブの量の整備(入所児童数を増やすこと)を進めなければなりません。
 しかし、人口減が著しい多くの地域では、そもそも働く先がない、雇用が無い地域なので暮らしが成り立たず、他の地域に転出するしかない状況ですから、行政担当者としては、児童クラブの整備より暮らしが成り立つように産業、大口の雇用先となる企業を用意する方が緊急に打つ手としては優先するでしょう。

 私が言いたいのは、人口減の地域はインフラ整備の効率化のために、少なくなっていく人口を自治体の中心部や核となる地域に集めがちであるので、結果として局地的に子どもの人数が多い地域が発生するため大規模学童保育所となる、という状況になるので、児童クラブの整備を進めて大規模化を回避することが重要だ、ということです。インフラの集中のため、小学校を統廃合する、あるいは中学校と合わせて義務教育学校とする、ということが急速に進行しています。すると、その自治体の区域内に小学校の数は1~2に減っても、児童数はそれなりに増え、その小学校や義務教育学校の子どもを受け入れる児童クラブは100人近くの子どもが入所する、というすでに現在も、多くの地方で、そのような現象が起きています。
 国の児童クラブ実施状況調査をみると、2023年度は福島県全体の待機児童が276人(前年より25人増)、山口県で387人(前年より9人増)と、巨大都市がない地域でも児童クラブの待機児童が出ています。大規模クラブ問題は大都市がある地域だけの問題ではありません。
 私が訪れた中では、福島県浅川町の児童クラブが大規模化に陥っていました。町の中心部に公設公営児童クラブが1か所だけあります。ほとんどの子どもがそのクラブに入るので、大規模学童状態になっているということです。浅川町も消滅可能性自治体に名を連ねていますし、現在の人口は5,600人ほどです。それでも、大規模学童が生じるのです。

 児童クラブの大規模化は、都市部、人口増の地域だけが注目されがちです。ともすれば、メディアは都市部の児童クラブを取り上げて大規模化の問題を報道しますが、本当に深刻なのは、社会に気付かれないでその地域だけで状況が悪化している、人口減が進む地域の児童クラブの大規模化です。そのような地域は通常、働き手を見つけることが困難です。児童クラブは職員不足のまま、ギュウギュウ詰めの子どもを受け入れるほかないので、子どもも、職員も、ストレスが極めて大きい状態の児童クラブとなりがちなのです。人口を集約してクラブを減らしても入所児童が集中するので登録児童数は増え、場所には困らないけれど単位分けするための予算を自治体が確保するのが厳しく、何より単位を増やしたところで働いてくれる常勤職員を確保するのが困難。そのような苦境はローカル地域の児童クラブにこそ顕著です。

 人口が減る地域は児童クラブが少なくなって予算も減らせるね、ではないのです。人口が減る中で生じる大規模児童クラブの解消に、もっと国は予算を割り当て、国と都道府県が補助金負担割合を増して市区町村を支援しなければなりません。

<おわりに>
 児童クラブの大規模問題は都市部に象徴的な問題と捉えがちですが、そうではないのです。メディアはなかなかそこには気が付きません。それは児童クラブの状況に詳しい業界関係者が発信してメディアやパワーエリートにキャッチしてもらう必要があります。引き続き、運営支援ブログは、地方における大規模問題について状況を発信していきます。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の発展を願い、種々の提言を行っています。そして個々の事業者、市区町村における放課後児童クラブの事業運営をサポートします。子育て支援と放課後児童クラブの運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営に加わることでの実務的な支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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