「学童保育の貧困」を憂う。その6。貧困なのは職員だけではない。子育て世帯の貧困を救う使命を果たそう!
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。
「学童保育の貧困」を憂うシリーズの最終回です。これまで以下のことを憂いてきました。
1月15日掲載分:学童保育の意義、意味に対する社会全体の理解が薄い。学童業界の内向き姿勢はその裏返し。
1月16日掲載分:任意事業(やっても、やらなくてもよい)というあいまいな位置付け。だから補助金も貧弱。
1月17日掲載分:資格制度が貧弱で高い賃金が見合うと理解されていない。国家資格の育成支援士創設が必要。
1月18日掲載分:職員の賃金水準が低い。保育士並みに引き上げを。学童側も能力のある職員に多く配分を。
1月19日掲載分:広域展開事業者が指定管理者制度で運営するクラブが急増。自ずと低賃金の職員を増やす。
最終回は、貧困に苦しむのは職員だけではないという視点で、学童保育所は貧困世帯を救う使命と向き合ってほしいところ、その理解が薄いことを憂います。(なお、このシリーズでの学童保育は、学習支援系である民間学童保育所を除いた学童保育の仕組みを指します。)
学童保育で働く職員は典型的ですが、有期雇用、つまり仕事の契約期間が定められている働き方が多いですね。公営学童の会計年度任用職員や、広域展開事業者の株式会社が運営する学童の職員も、契約職員のことが多いです。つまり、雇用が不安定。退職金もありません。得てして、年収は低くなります。学童保育だけでなく、児童館も保育所もお役所も、ハローワークすら、非常勤、非正規の職員が大勢働いています。この国は軒並み、有期雇用や派遣職員、派遣社員の働き方が増えています。労働力調査2022年(令和4年)によると、役員を除く雇用者5,699万人のうち、非正規の職員・従業員は前年に比べ26万人増加して2,101万人です。一方、正規の職員・従業員は1万人の増加に留まり全体で3,597万人です。つまり非正規は36.8%であり、その割合は年々、増加しています。
それだけ、この国の働く人は非正規が増えており、つまりそれはこの国に住む多くの人の所得が低下しつつあるということです。では学童保育を利用する人にどれだけ生活が苦しい人がいるのでしょう。直接的に調べたデータは見つかりませんが、毎年行われる国の実施状況調査と、何度も引用している「令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査」を探ってみましょう。
実施状況調査では、クラブごとに、利用料(保育料や月謝)の減免制度の実施割合が示されています。数値は、減免制度を適用しているクラブを、全体のクラブ数の比率で示したものです。
平成30年(2018年) 令和4年(2022年) 令和5年(2023年)
生活保護受給世帯 13,387 (52.9%) 16,880 (63.3%) 16,733 (64.8%)
就学援助受給世帯 5,054 (20.0%) 6,912 (25.9%) 7,262 (28.1%)
ひとり親世帯 5,551 (21.9%) 7,394 (27.7%) 7,330 (28.4%)
放課後児童クラブの利用者数やクラブ数が増えているので数値が増えるのは当然(なお、令和5年はクラブ数の数え間違いがあったようで全体のクラブ数自体が減っていることに留意)ですが、問題は割合です。生活保護受給世帯、就学援助受給世帯、ひとり親世帯(注:ひとり親=低所得者、ではないですが、ひとり親の多くは低所得者世帯となる可能性が高いと考えられます)、いずれも割合は増えています。
これは、学童保育の利用者にも、貧困が広がっているということを示していると私は考えます。また、令和4年度の子ども・子育て支援推進調査には、こんなデータがあります。児童数のデータです。
生活保護受給世帯 市町村民税非課税世帯 就学援助受給世帯 ひとり親世帯
公立公営 140 926 552 363
公立民営 513 1,583 923 2,461
民立民営 126 422 946 2,324
これは単年度のデータしかなく、比較できるデータがないのですが、気になるのは民立民営クラブにおける、市町村民税非課税世帯の入所児童数の少なさです。ちなみに公立民営の母数は13,950人で、民立民営の母数は10,505人。母数の比率は75%ですが、市町村民税非課税世帯の比率は26%にまで落ち込みます。利用料の児童1人あたり平均は公立公営が45,271円、公立民営が78,484円、そして民立民営が99,774円です。減免制度があるとはいえ、利用料以外の徴収金もおそらくある民立民営クラブは、収入が低い子育て世帯にとって、利用がなかなか難しい状況にあることも想像できます。
学童保育の世界は様々な業態が入り混じっている世界です。都市部を中心に、学習支援などのサービスを手厚く提供する民間学童保育所も増えています。毎月5万円から場合によっては10万円近い利用料を支払ってでも、学習支援系などの民間学童保育所を利用できる世帯もありますが、一方で、確実に所得が低い子育て世帯が増えている中にあって、それら低所得の子育て世帯に属する子どもへの福祉面でのサービスをどう充実させていくかを、真剣に考えて取り組む必要があります。
その点について、「食の支援」と「学習機会提供の支援」は、今後の学童保育の世界において必須の福祉サービスとなるはずです。特に、その地域にあってその施設しか利用するしかない存在である学童保育所は、食と学習機会提供に積極的に取り組むべきです。
食の支援は、長期休業中(夏休み、冬休み、春休みといった期間だけでなく、小学校の記念日等で朝から学童保育所を利用する、いわゆる一日保育、一日受け入れの日においても同様)に、昼食を提供すること。学習機会提供は、宿題の時間の確保だけではなく、最低限の勉強時間と勉強の手段を提供することです。いずれも、施設が単独、独自で実施できるものではありません。費用についても、ノウハウについても、行政や他の機関、企業等との連携が必要です。
食については、学校給食がない日における子どもの栄養確保という目的があります。低所得者層には、給食が子どもの栄養面での命綱、となっている場合も多いのです。学童保育における昼食提供は2023年から急激に取りざたされるようになりました。それは素晴らしいことです。ついては、市区町村の補助によって、低所得の子育て世帯については、無料もしくは極めて低額な料金での昼食提供が可能となるようにするべきです。
学習機会提供についても同様です。学童の世界は今なお「勉強は家庭でやる。学童は勉強をするところではない。勉強を親が見ることも親子関係の促進に重要」という考え方が根強いですが、そういう考え方はもう通用しないと私は考えます。低所得の子育て世帯は、理由はどうあれ、家庭で学習時間を持てる環境にない場合が多いことを直視しなければなりません。「それは親の責任」と、こんなときにだけ自助を押し付けることは、もうやめましょう。ホームラーニングシステムを導入するなどして、これも市区町村の補助を得て、1日30分でも、学習機会を提供する機会を設けることです。学習塾のように勉強を中心にした学童での過ごし方にしなさいというものではありません。保護者と面談するなどして学習機会提供に関する希望を聞き、要望があれば積極的に対応するだけの話です。
食べることも、学ぶことも、子どもが大人になるために、育っていくために当然、必要なことです。これらをしっかりと保障することは、憲法にいうところの健康で文化的な最低限度の生活をおくる生存権を確保すること、まさにそのものです。
学童保育、なかんずく、放課後児童クラブを運営する者、働く者であれば、子どもが人間として健やかに育つために何が必要なのかを幅広い視点で考えることです。「遊びだけ」が子どもの健全育成ではありません。都合の良いところだけ抜き取って「十分な育成支援をやっています!」では、公共の児童福祉サービスとしては不完全です。もっと、子どものため、保護者のために、何ができるか、何をするべきなのかを考えることが重要です。「私たちの理念に合わない子育て世帯には、利用してほしくありません」という考え方をもっているとしたら、学童保育の世界にふさわしくありません。学童は、立場が弱い者、困っている者の味方であるべきです。それって、おかしな考え方ですか?
育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。
子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!
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