「学童保育の貧困」を憂う。その5。学童職員の低賃金状態は指定管理者制度で急拡大中。学童は絶滅の危機にある

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 「学童保育の貧困」を憂うシリーズの5回目です。これまで以下のことを憂いてきました。
1月15日掲載分:学童保育の意義、意味に対する社会全体の理解が薄い。学童業界の内向き姿勢はその裏返し。
1月16日掲載分:任意事業(やっても、やらなくてもよい)というあいまいな位置付け。だから補助金も貧弱。
1月17日掲載分:資格制度が貧弱で高い賃金が見合うと理解されていない。国家資格の育成支援士創設が必要。
1月18日掲載分:職員の賃金水準が低い。保育士並みに引き上げを。学童側も能力のある職員に多く配分を。
 5回目の本日は、学童職員の低賃金水準を構造的に固定化する非道のシステムである、指定管理者制度の急拡大を憂います。(なお、このシリーズでの学童保育は、学習支援系である民間学童保育所を除いた学童保育の仕組みを指します。)

 学童保育の貧困の中核にある職員の低賃金。それはとりもなおさず、補助金額が低すぎることに起因します。SNSではよく、世間の構造を知らない輩から「従業員に高い給料を出せない会社は終わってる。そんな会社は淘汰されればいい」という威勢のいい意見が出されますが、おそらく管理職に就いたことがない程度の者の感想でしょう。なぜ従業員に高い給料が出せないのか考えればすぐに分かることです。もちろん、高い給料を出せないのは、「人件費を確保できないこと」であり、その理由は「収入が少ない」もしくは「社長や経営陣が会社の儲け、役員の儲けとして分捕ってしまうから」に尽きます。

 学童保育でいえば、補助金が少ないのです。かつ、保護者から高額な利用料(月謝)を得ることも公共の児童福祉サービスである限り、限界があります。NPOや保護者会運営など非営利の事業者は、役員が儲けを得ることはありえませんが、そもそも、そんな財政的な余裕がありません。つまり、学童保育の職員の賃金は補助金によって左右される、いわば公定価格の世界です。保育士とほぼ同じです。よって補助金額が増えなければ、学童職員の賃金は上がりません。
 2024年度(令和6年度)から補助金がやや改善されるようですから、それに期待したいのですが、ここで学童業界が警鐘を鳴らさねばならないことがあります。先ほどの、なぜ従業員に高い給料を出せないかの部分で記述した2点目、「社長や経営陣が会社の儲け、役員の儲けとして分捕ってしまう」という恐れが、ますます濃厚となるからです。いわずもがな、営利企業が指定管理者として学童保育所(この場合は放課後児童クラブ)を運営している場合です。

 補助金額の引上げで収入が増えても、それを職員に分配しない限り、学童職員の賃金は上昇しません。その点において、学童保育所の指定管理者となっている営利企業のうち、広域に事業展開している「広域展開事業者」においては、職員の賃金を抑制して利益を確保する傾向が極めて濃厚です。それが「補助金ビジネス」の基本的構造だからです。つまるところ、補助金額が増えても、それを職員に分配することをほとんどしなければ、増えた補助金の分、さらに利益を確保できることになります。「濡れ手に粟」というのは、まさにこのこと。企業として増収の営業活動をしなくても、国の方針で補助金額が増え、収入が増えるのです。補助金はもちろん国民の税金(子ども子育て拠出金など)から成り立っていますが、学童保育のために使われるのではなく企業の儲けになっていくために税金を支払っている構造になっている状態は、社会正義に反していると私は考えます。もちろん、利益をゼロにするべきだと申しているのではありません。働いている者の労働の対償として十分な賃金を支払った上で、なお利益が生じるのであれば、堂々と企業は利益分を確保すればいい。それだけのことです。

 例によって、国の調査結果を改めて示しましょう。「令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査」では、運営主体別の収支状況の調査結果が掲載されていますが、NPOは年間の損益は94万円。一方、株式会社が含まれる「その他法人」は285万円です。NPOの94万円は、およそ1か月分のクラブの人件費相当でしょう。事業運営においてはせめて1カ月分の人件費を確保しておけ、とよく言われることですからNPOの94万円は当然です。一方で、その他法人の285万円は、あまりにも多い。これが職員に適正な賃金を支払っているのであれば立派ですが、残念ながら確実にそうではない。
 同じ調査で常勤の放課後児童支援員に支払う年間支給額も報告されています。NPOは3,090,158万円、約300万円です。一方、その他法人は、2,981,345万円です。300万円を下回っています。つまり、その他法人は、職員に支払う賃金を抑制することで、300万円近い収支のプラス額を得ている。
 これが、営利企業による指定管理者制度の補助金ビジネスの実態です。補助金が引き上げられても、そのままでは、収支のプラス額が増えるだけで、職員の低賃金構造が改善される保証は、まったくありません。この構造を変えない限り、学童保育の世界の低賃金構造は解消できませんが、実のところ、急激に営利企業運営の学童保育所が増えています。ということは、低賃金構造のクラブ数がどんどん増えていること、低賃金におかれる職員がどんどん増えていることに、ほかなりません。これを憂えずに、何を憂うのでしょうか。

 この絶望的な学童保育の貧困構造を一刻も早く打破することが社会正義です。国や行政が明確にこの不当な状況を認識することが必要です。この状態を変えるために何をすればいいのか。実は簡単なことです。「事実を、知らしめること」。今は、それがまったくできていない。だから、知られていない。広域展開事業者が、他の地域で、上手に学童保育所を運営していると理解されている。本当にそうですか?「そうではない」と実際にひどい待遇に困っている人が、声を上げることです。その上がった声をしっかりキャッチして拡大し、世間に知らしめることが必要です。私は、キャッチします。世間に伝えます。ですから、ひどい現場にいる人は、声を上げてください。それができない限り、その体制に味方していると思われるだけですよ。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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