「学童保育の貧困」を憂う。その4。賃金水準が低すぎる。更なる改善が必要。学童側も能力に応じた賃金設定を

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 「学童保育の貧困」を憂うシリーズの4回目です。これまで以下のことを憂いてきました。
1月15日掲載分:学童保育の意義、意味に対する社会全体の理解が薄い。学童業界の内向き姿勢はその裏返し。
1月16日掲載分:任意事業(やっても、やらなくてもよい)というあいまいな位置付け。だから補助金も貧弱。
1月17日掲載分:資格制度が貧弱で高い賃金が見合うと理解されていない。国家資格の育成支援士創設が必要。
 4回目の本日は、いよいよ、職員の賃金水準の低さを憂います。(なお、このシリーズでの学童保育は、学習支援系である民間学童保育所を除いた学童保育の仕組みを指します。)

 学童保育の貧困を考えるとき、真っ先に思い浮かべること、それは職員の給料が低すぎることです。そもそも、私が学童保育に関わろうと思ったきっかけが、学童保育の世界で懸命に働いている方々の賃金があまりにも低すぎる、そんな社会正義に反している状態をなんとか変えたい、と決意したからです。昨年、読売新聞にも報じられた学童職員の低賃金ですが、学童保育の世界で働いているほとんどの職員は、賃金に不満を感じていることでしょう。

 具体的な賃金水準は、読売新聞も報じていましたが、次のとおりです。
<放課後児童クラブに従事する職員の1人当たり給与(手当・一時金込)>
・月給払いの常勤雇用者    285.7 万円(平均勤続年数 6.1 年)
・月給払いの非常勤雇用者  146.1 万円(平均勤続年数 6.2 年)
・時給払いの常勤雇用者が  129.3 万円(平均勤続年数 5.9 年)
・時給払いの非常勤雇用者    75.0 万円(平均勤続年数 4.5 年)
(令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査)

 月給制の常勤雇用者、つまり一般的な正規職員ですが、賞与込みで300万円に届きません。ここから社会保険料などが控除されます。手取りは15~16万円ぐらいでしょう。平均値ですから、実際はもっと少ない額の学童職員が大勢いるでしょう。

 なお、保育士の賃金水準は、令和3年度の賃金構造基本統計調査では、決まって支給する現金給与額が25.6万円、賞与等が74.4万円、年間給与額が382.2万円となっています。平均の勤続年数は8.8年です。

 保育士の低賃金はかねて社会問題となっていますが、学童保育職員、つまり放課後児童支援員と補助員は、保育士より年収で100万円低いということです。はっきりいって、「職業として生計を立てるには極めて困難」です。これは、すぐにでも改善が必要です。学童保育という仕組みが自発的に発生した1950年代以降、今に至るまでずっと学童保育の世界は低賃金です。ごく一部の良心的な事業者だけが、比較的高めの賃金を設定しているだけです。

 賃金水準が低いので、次にあげるような困ったことがずっと続いています。
・社会人としても、育成支援者としても優秀な人材が、暮らせないという理由で離職してしまう。
・そもそも、優秀な人材が就職してくれない。(つまり、社会人としても厳しいレベルの人材が多い)
・子どもが好き、優しい、素直など、「人柄として、人間として良い人」は多いのだが、社会や組織、責任を負うことの意味を理解して業務に向き合えるレベルの「社会人として優れた人」は少ない。
・社会人適性に優れた人材が多くない業界であり、事業としての質の向上が難しい。それが低賃金が妥当という評価を招く。「学童の絶望ループ」(低賃金ー人材不足ー事業の質の低下ー低賃金、のループ)

 賃金水準を早急に引き上げる必要があります。2024年度(令和6年度)は、常勤職員2人の放課後児童クラブへの補助金を新たに設定することで、これまで、常勤(正規)2人を配置していた良心的な事業者は、ほっと一息つけるでしょう。さらに報道では、物価水準に合わせて5%程度の人件費引上げも検討されているようです。現在、常勤職員は310万円程度の国家公務員福祉職を想定した賃金とのことですが、310万円の5%引上げとなると325万円程度になるでしょうか。

 常勤2人の新補助金、5%の引上げ、いずれも、評価できます。ありがたいです。ただそれは、なされないよりマシであるという意味です。特に賃上げは、5%ではまったく足りません。保育士並みまで早急に引き上げるべきです。つまり、あと100万円足りません。

 私は、賃金を引き上げることで、優秀な人材を確保し、そして業務の質を上げるような流れが必要だと考えています。まずは、賃金引き上げです。国には早急に実施していただきたい。

 そして同時に、学童保育の業界側も、徹底した意識改革が必要です。補助金を増やすということは国民の税金が多く投入されるということです。よって、受け取る側も、ムダなく補助金を活用する態勢を整えるべきです。はっきり言えば、「役に立たない職員にも漫然と給料を上げるべきではない」ということです。学童保育の側も、働いている職員の資質、レベル、能力に応じて、「もっと賃金を上げる必要がある者」と、「低い賃金でもやむを得ないレベルの者」という、賃金水準の設定を厳格に行うべきです。
 要は、育成支援という仕事に対し、その意義を理解し、実践しようと日々、努力している者と、ただ単に漫然と子どもと過ごしている、ただ突っ立って子どもをみている等、単なる見守りレベルの業務しか実践しようとしない者が、同じ給料ではダメだ、ということです。また、育成支援という仕事を理解して実践しているつもりでも、その積み重ねを研究やレポートで発表しようとしない者も、高い賃金を与える必要はありません。

 育成支援という、大変難しい仕事に、積極的に取り組んでいる者、事業者の目指す育成支援の理念を理解して組織の運営に協力的な者には、高い評価を与えて賃金も高くすることは当然です。それができない者は、それなりの賃金になるのも当然です。この考えを学童保育の世界も当たり前のように持たねばなりません。それができない業界ならば、「もっと高い賃金を!」と要求したところで、国を含めて社会は賛同しませんよ。私も賛同できかねます。

 学童保育の職員ならだれでも高い賃金が必要だなんて、私は思っていません。子どものため、保護者のため、地域の子育て支援のために、育成支援の意義を理解するように努め、実践に取り組んでいる職員のみ、もっと高い賃金が必要だと思っています。それができない、あるいは能力ごとの賃金の区別など必要ないと思い込んでいる学童保育の現状を憂いているのです。

 国にはぜひ、まず賃金水準を引き上げられる程度の補助金設定をお願いし、学童事業者側には有能な職員がずっと働き続けられる賃金設定を早急に取り入れることを、私は望みます。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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