放課後児童クラブ(学童保育)に入っても心配な「行き渋り」。行き渋りは難問。「傾向と対策」を説明します。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。今回は学童保育に初めて関わった保護者さんが直面するかもしれない「行き渋り問題」を取り上げます。

 お子さんが小学1年生になって、今月から放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所。どうしてわざわざこう表記するか、明日以降に取り上げます)に通い始めた子育て世帯の方、「学童に入れてよかった」と安心していることでしょう。新1年生でなくても、待機児童の壁をようやく乗り越えて児童クラブにお子さんが入ったり、保護者が働き始めたことに伴って児童クラブの利用を始めた子育て世帯の方も多いでしょう。学童、児童クラブの利用を始めて、さあこれで仕事と育児を頑張ってまわしていこう!と思う保護者さんが一気に頭を抱えることになるのが、児童クラブに子どもが「行きたくない」と言い出す「行き渋り」という現象です。

 「もう、学童に行きたくない!」と子どもが泣きながら訴える。学童の行き渋り、児童クラブの行き渋りは、かなりの強敵、難問です。すぐに解消できる決め手はなかなかありません。本日の運営支援ブログは、行き渋りの状況と普段から注意しておきたいこと、そして行き渋り状態が発生したらどう対処をすればいいのか、参考となりそうな手法を、行き渋りの「傾向と対策」をいくつかご紹介します。

<なぜ行き渋りが強敵か>
 保護者の仕事、就労に重大な影響が直ちに出てしまうからです。子どもが安全安心な場所である児童クラブにいてくれるからこそ、親はいろいろな不安を抱くことなく仕事に向き合えるのですが、子どもがクラブに、学童に行きたくないとなれば、子どもの安全安心な居場所がなくなります。家での留守番が不安だからこそ、児童クラブを利用しようと思っていたのにどうしたらいいのか、という状況になってしまいます。
 さらに深刻なのは、子どもは、児童クラブに行きたがらないあまり、小学校の登校も嫌がる、拒否することになることが多いからです。これは珍しくありません。そうなるともう、親は仕事どころではありません。そのまま子どもの不登校状態が続くことになれば、子育て生活そのものを根本的に見直すことになります。児童クラブ、学童が原因で不登校になってしまった場合、現実的に小学校は「それは、ご家庭と学童との間で解決してください」と、事態の解消に協力がいただけない場合が多いのです。こうなってしまうと、「保護者が勤務形態を変える、仕事を辞めるなど働き方を変えることを余儀なくされる」か、「不安を承知で子どもを家で留守番させることになる」、この2つを選ぶしかなくなります。

<なぜ行き渋りが起こるのか>
 子どもが児童クラブ、学童保育所に行きたがらないことが行き渋りなので、「なぜクラブに行きたがらないか」が行き渋りの原因です。理由は多岐におよびます。主なものを紹介します。
・児童クラブが、子どもにとって、楽しく安心して過ごせる場所になっていない。
「クラブの雰囲気に子どもが慣れない」
「(特に、転入してきた世帯や、子どもが幼稚園から児童クラブに入所する場合)顔見知りの同学年の友達がいない、少ないから、一緒に遊べる子どもがおらず、寂しくなる。不安が募る」
「クラブで一緒に過ごす他の子どもとの関係が大変厳しい(いじめ、いじめまでに行かなくても嫌がらせ行為がある)」
「低学年児童にとっておっかなくて怖い上級生が、大勢いる」
「怖い職員がいる」
「集団生活に慣れず戸惑う」
「時間ごとにスケジュールが組まれていることで子ども自身がやりたいことや楽しみたいことに集中できない」
・子ども自身に、明確に他にやりたいことがあるので児童クラブの場所がつまらない
「児童クラブに入所していない他の友達と、自由に遊びたい」
「スポーツや音楽などの習い事の方が楽しい」
「家で読書をしたりゲームをしたりして過ごしたい」
・子ども自身に何らかの特性があり、集団生活で過ごすことに苦痛を感じる
「発達障害のある場合、またはそれに近い特性がある状態の場合、スケジュール通りに進行する児童クラブの過ごし方を受け入れることが難しい」→このことで、周りと違う行動を行ってしまいがちの子どもが、他の子どもから非難されたり、からかわれたりして、ますます児童クラブが子どもにとって過ごしにくい、行きたくない場所になっていく。

 上記に記した理由は、丁寧に原因を除去できる場合もあれば、一定程度は子どもに受容、受け入れることを求めなければならないこともあります。上記の理由が複雑にからみあっていることがほとんどで、その対応が難しいのです。できることならば、上記の理由で児童クラブに行きたくないと子どもが心に思う前に対処することが必要です。

<行き渋りは早期発見で防止することに全力を>
・大事なことは、「子どもがSOSを出さざるを得なくなる前に、SOSに陥るような状況を回避すること」
「子どもに、普段から、児童クラブの様子を聞くこと」
 →これはコツがいります。「何か嫌な事なかった?」だけを聞いたらダメです。どうしてでしょう?それは、子どもは子どもなりに、自分が児童クラブに行くことで親が働くことができる、生活が成り立つことを理解しています。自分が児童クラブを嫌がっていること、行きたくないと思っていることを親に話すと、親に心配をかけてしまうことを理解しています。子どもなりに、親のことを心配しているのです。だから、「嫌な事なかった?」と聞かれても「ううん、大丈夫、楽しいよ」と、本音を隠して親を安心させようとするのです。しかもそれは、自分の本音をなかなか言えない我慢強い、心が優しい子どもであればあるほどそうなのです。これが、「あいつすっげー嫌だ!あの先生大嫌いだ!」と普段から思ったことを口に出せる快活な子(それはつまり他者との距離感、コミュニケーションにさほど不安を持つことのない子ども)であれば、ストレスをため込まず吐き出せるのですが、親の事を心配する「親から見てとてもいい子」であればあるほど、親に心配をかけまいと、必死に我慢をため込みます。その結果、限界点を超えたら一気に「もう学童いや!クラブに行かない!」と泣きながら抵抗するまでになってしまうのです。
 ですから、子どもに不安をかけさせないように、「楽しいこと」を沢山、聞くことからはじめましょう。そして上手に「困ったことはないかな?」とさらりと聞いてみましょう。間違っても「クラブに行ってくれないと、こっちは困っちゃうから少しぐらい我慢して行かなきゃだめよ!とは言わないでください。子どもは本音を押し殺し、限界まで抱え込んでしまうのです。大人だって職場が嫌な時、同じようなことをしてしまいますね。大人も子どもも同じです。
 言葉だけではありません。児童クラブに送り迎えするときの、子どもの表情をよく見ましょう。クラブに行くまでは落ち込んでいる、迎えに行ったら急に元気になる、ということがあれば、何らかの複雑な思いを子どもが心に抱えている可能性が高いと考えましょう。お弁当を残しているのであれば、ストレスで食欲がないと予想しましょう。また、子どもの持ち物が無くなる、壊れているということがあれば、他児との関係で深刻な状況に陥っている可能性があります。
「児童クラブ職員に、子どもの様子を普段からしっかりと聞くようにしよう」
 →連絡帳があるなら活用してください。子どもの様子を質問して児童クラブ職員から返答してもらうようにしましょう。児童クラブで子どもがどう過ごしているか、子どものクラブにおける様子こそ何より最大の前兆をつかむ重要な情報です。仲良く遊ぶ友達ができたか、上級生と交わって遊んでいるか、過ごせているか、クラブにおける子どもの過ごし方を、児童クラブ職員から丁寧にしっかりと聞くようにしましょう。お迎えに行って児童クラブの職員を顔を合わす機会をしっかりと活用しましょう。

<行き渋りになりかけている、なってしまったら?>
・まず、児童クラブ、学童の職員に遠慮なく相談しよう。
 →児童クラブは「放課後児童健全育成事業」といいますが、この放課後児童健全育成に従事する職員は、「子どもが児童クラブに自主的に通い続けることができるように必要な援助、支援をする」ということが重要な職務として示されています。子どもがクラブに行きたがらないことにならないよう、クラブ職員は必要な対応をすることになっています。ですので、行き渋りの解決には児童クラブの職員が主体的になって取り組み、保護者もそれに協調して、一緒に解決に取り組むことが必要です。しかも、時間をかけてはダメです。その日で解決とはなかなかいきませんが、数日、1週間ぐらいで解決できるほどのスピード感で解決するように、保護者さんはクラブ職員に伝えて問題解決に取り組むようにしましょう。時間がかかればかかるほど、悪化しますから。
 なお、保護者のみなさんは決して「クラブでなんとかしてくださいね!」とか「クラブに行けなくなったらそっちの責任です!」と、クラブ側に一方的に行き渋り状態の解決を押し付けないでください。いきなり行政や運営本部にクレーム、苦情を入れても何の解決にもなりません。そもそも「児童クラブに子どもを通わせると決めたのは、保護者」です。児童クラブの側も、保護者の協力がないと、事態の解決にたどり着くことは困難です。まずは、「何が原因で、子どもがクラブに行きたがらなくなったのか」を、クラブと保護者の双方で探ることです。一緒になって解決に取り組むことが基本です。「こっちは仕事で忙しい!」と言わないでください。「子育てに向き合うことは、やっぱり保護者には必要なこと」なのです。

・調査の結果、原因の大部分がクラブ側の事情にあると分かったら。
→例えば、いじめや、いじめに近い行為が確認されたということがあります。仲間外れにされるとか、からかわれるとか、そのような行為は、実は子どもたちの集団生活である児童クラブの場では、容易に起こりがちです。もちろん、そのような状況が日常的に継続してはなりません。それはクラブ側が責任をもって直ちに解消させなければならない事態です。保護者は、その場合、クラブ職員側を一方的に批判、非難しないでいただきたいのです。先に記しましたが、数十人の子どもが同じ場所で過ごす環境は、複雑な人間関係が存在します。人間、誰とでも気が合う人ばかりではないように、まして自分の意思をストレートに示して活動する子どもであれば、他児とけんかしたり無視したり、からかったりということが、ごく普通にあります。それも、クラブ職員が見ていない状況で行われることがほとんどです。(子どもは子どもなりに、賢いのです)
 クラブ職員がなかなか気づかなかったことでも、行き渋りを受けて注意深く観察し、あるいは聞き取り調査などを行った結果、他児との関係で子どもがクラブに行きたくないとなったことが分かったら、それからは児童クラブの職員は速やかにその解決に取り組みます。その際は、保護者と強調し連絡を取り合って対応することになります。職員がダメだから行き渋りになった!と怒りたくなる気持ちも分かりますが、まずは行き渋り状況の除去のために、クラブ職員と一緒に取り組んでください。

・家庭の側の問題であると分かったら?
 →子どもとじっくり話しましょう。子どもが本当にやりたいことがあるのか、それは何か、それは児童クラブを利用しなくてもできることなのか、解決法を探りましょう。例えば、児童クラブと習い事の併用ができるのかどうかを考えましょう。ファミリー・サポート・センターを利用して、児童クラブに登所した後に習い事へ連れて行ってもらうということもできます。子どもが「クラブではなくて、こういうことをしたいんだ」と言い出すことは、それは人間としての成長の証です。主体性が育っているということです。その主体性を大事にしつつ、子どもの身の安全を確保できる策を考えましょう。もちろん、児童クラブの職員と相談しましょう。
 「クラブに行っていない友達と遊びたい」として早期にクラブを退所する子どももいます。これは、ちょっと時間をかけて見守ってください。児童クラブは「遊びを通じて子供が成長する場」です。遊びのバリエーションは多彩です。1カ月もしないうちに、「遊びの重要性を理解しているクラブであれば」、クラブの子どもたち同士での遊びを楽しめるようになります。
 児童クラブの職員(放課後児童支援員)は、子どもの成長の支援、援助だけでなく、「保護者の子育て」を支援することも職務です。子どもが、どうすれば毎日、充実して過ごせるかは、保護者の日々の生活の確立と直結しています。児童クラブの職員は、そうした保護者の子育て生活を支えることも仕事です。子どもがどうしたら充実した放課後を過ごせるか、保護者はぜひ、クラブ職員とたくさん話し合って相談して、最善の道を見つけてほしいのです。

<案外、心配がいらないこともある>
・「友達がいない、少ないから不安。だから行き渋りになったのでは?」と思う保護者さんは結構います。子どもが児童クラブでの友達が少ないということは、実はあまり心配は不要です。なぜなら、子どもは大人と違って、友達を作るチカラがあります。友達ができる時間には個人差があります。会って数分で仲良く遊べるコミュニケーション能力を備えた子どもがいれば、じっくりと時間をかけて相手を見極めて、あるいは自分をなかなか表に出さないことで慎重に他者との関りを構築していく子どもも、います。時間の差はありますが、おおむね、子どもは児童クラブで友達ができるようになります。4月1日に入所したら、4月の終わりごろには、仲良しの友達ができるものです。
 もちろん、中には、まったく誰とも仲良くなれない(あるいは、仲良くしない)子どももいます。年配のパート職員にべったりくっついていて、子どもと遊ばない子どもも、珍しくありません。それは異常でもなんでもありません。そういう子どもに児童クラブ側は慣れています。そういう子どもへの支援、援助も、しっかり児童クラブ側が対応を身に着けています。徐々に徐々に、交友範囲を広げられるよう、しっかり支援しますから、長い目で見守ってください。
・おっかない上級生がいる
 →これは新1年生の保護者さんの多くが心配することです。でもこれも、特異な状況(いじめっ子がいる等)でない限りは、時間の経過とともに、上級生となじんでいきます。あまり心配がいらないことの1つです。特異な状況があると思われるならもちろん、すぐにクラブ職員に相談してください。

<しかし、残念ながらの事態もある>
・児童クラブに入所している児童数が大変多く、かつ、その場で勤務している職員数が少ない状況にあるクラブも、珍しくありません。都市部だけでなく、郊外の、地方の、町村レベルの施設でも同じです。また、いわゆる「全児童対策」という事業、午後5時や午後6時までならだれでも登所できる仕組みの施設であると、100人前後の子どもが同じ場所で過ごすという形態もあります。そのようなクラブですと、残念ながら、職員の配慮も行き届きません。
 また、児童クラブを運営する事業者の中には、残念ながら、「補助金をしっかり確保するためのビジネス」として児童クラブを運営することに夢中で、クラブ職員には、子どもの支援に理解が薄い職員ばかりを低賃金で雇用して、見た目は立派に運営しているようでも、実情は「子どもに一切の意見を許さない極めて管理的な過ごし方を強制する」クラブであったり「職員は子どもに無関心で、子どもたちに自由放任させてトラブルがあったらその場でゴメンナサイを言わせておしまい」というクラブであったりすることも、あります。遊びの重要性を理解していない事業者が運営するクラブや、とても外遊びに対応できない状況の職員ばかり雇用して、子どもの「思いっきり体を動かして遊びたい!」という基本的な欲求にまったく対応できない(というか、対応するつもりがない)クラブも、実はあるのです。
 そういう「まっとうな運営をしていないクラブ」にしか入れないことを「学童ガチャ」といいますが、そのような状況のクラブでは、なかなか、行き渋りは解消できません。その場合は遠慮なく、行政(市区町村のクラブ担当部署)に、苦情やクレームを入れてください。「暴言や暴力行為をする職員がいる」などは、もってのほか。直ちに改善を求めて行動しましょう。その苦情やクレームが増えれていけば、行政も、事業者に丸投げの状況から重い腰を上げて対応をせざるを得なくなります。場合によっては警察(子どもが危害を加えられた)や、弁護士への相談も効果的です。

 もちろん、弊会にご相談いただいても大丈夫です。

 行き渋りは本当に難問です。ですが、子どもが毎日、クラブの事、学童のことで悩み苦しむ姿を保護者なら見たくはないはず。行き渋りに陥る前にまずは早期発見、そして行き渋りになりかけた、あるいはなってしまったら、全力でその原因を除去するように努めましょう。

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 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されます。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。1,900円(税込みでは2,000円程度)になる予定です。注文は出版社「寿郎社」さんへ直接メールで、または書店、ネット、または萩原まで直接お寄せください。アマゾンでは予約注文が可能になりました!お近くに書店がない方は、アマゾンが便利です。寿郎社さんへメールで注文の方は「萩原から勧められた」とメールにぜひご記載ください。出版社さんが驚くぐらいの注文があればと、かすかに期待しています。どうぞよろしくお願いいたします。行き渋り問題についても説明していますよ!

 運営支援を行う日本唯一の組織である「あい和学童クラブ運営法人」は、放課後児童クラブ(学童保育)の世界をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。

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