放課後児童クラブで働き始めた新人職員を伸ばすも退職させるも運営側の責任。経験則に頼った新人育成を止めよ。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。今回は学童業界の弱点の1つ、新人育成を取り上げます。

 新年度が始まって、放課後児童支援員として社会人の第1歩を歩み始めた新人職員さんがいるでしょう。社会人経験があって転職し、初めて学童の世界で働き出した新人職員さんもいるでしょう。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)間の転職で新たな現場で働き出した人もいるでしょう。学童の世界は離職が大変多いので年度初めに新人が一斉に入職する、というイメージは正直いって薄い(つまり、しょっちゅう、年度途中で新人が採用されて配属される)のですが、年度末に退職して転職する職員がある程度いるので、4月1日入職、採用という職員は、他業種より少ないものの、それなりにいますね。
 私もかつて、年度末の最終日に入社式に臨んで祝辞を贈る立場でした。緊張に包まれた新人職員はいつ見ても初々しく、将来への期待に満ち溢れていてとても素敵なものでした。

 さて、ご存じのように児童クラブの業界は極めて深刻な人手不足です。それは劣悪な雇用労働条件に起因するものですが、そのひどい環境の改善は一朝一夕に進まないという悪条件がありつつも、事業者側としては、時間とお金を費やして採用した新人を早期に離職で失うことは重大なコストの損失です。「給料を上げたくても、上げられないからしょうがない」と悪条件の責任だけに負わすのは、経営責任、運営責任から逃げていることと同じです。どんな条件であっても、最悪の状況でも、その中に置いて最善の一手を考えて実行することが、組織を経営する、運営する者の当然の職務です。

 児童クラブ界隈で新人育成に不利な点は何があるでしょう。およそ保育所、学校と共通するところがあります。
・入職と同時に現場に配属され直ちに戦力として数えられてしまう。事前に十分な教育、研修を積む機会がないまま春休みという児童クラブの世界でも最難関に属する時期の現場に放り出されてしまう。これを「児童クラブの4月1日問題」と、私は読んでいます。その問題を構成する重要な問題点の1つです。
 →これは年度初めの採用である限り、完全に避けられないことです。ですが、まったく回避不可能でもありません。採用された新人側が、年度末の2~3月に工夫して時間を確保して実習研修を兼ねて勤務できる日を増やすことができれば、採用する側は法令に従って社会保険加入の手続きもして、短期間であっても丁寧に、とりわけ「支援員としての心構え」ぐらいは、伝えることができるでしょう。採用に応募してきた段階で、「うちは、2月3月にまとまって勤務経験を積んでもらいます。当然、給料は正規職員と同じ水準で支払います」と説明を繰り返し、そういうことが可能な新人を選択して採用していけばいいのです。
 事前に、口頭でわずかばかりの説明を聞かされただけで、いきなり4月1日や2日の、新1年生が新入所してカオス状況のクラブ現場に初出勤し、何をしていいのか分からない、先任職員もあわただしくて質問しようにも質問できる雰囲気ではない、子どもたちはまったく自分の話を聞いてくれないと、自分で想像していない厳しい現実に直面して、勤務開始後数日で、自信を喪失してしまうという新人職員は、結構な数にのぼると私は想像します。
 これを回避するにはもちろん事業者が事前にできるだけ実習研修の時間を確保することだけです。

・新人職員に「職務の重大さ」を理解させるために合理的な説明が必要だ。先任職員の「経験談」はあくまで二番手とするべきだ。
 →児童クラブの世界は未だに不思議なことが多く、「先輩から技を盗むのよ」という雰囲気が残っている組織もあります。「子どもと向き合うことは、誰一人として同じことはない。だから毎回、新たに学ぶ意識でいるのよ」と伝えるベテランもいますが、意識の持ち方としては正しくとも、具体的な実務上のテクニック、手法を学びたい新人職員には「どうしたらいいのか全く分からない」として、これもまた自信喪失につながっていきます。自分はこうしてきた、過去にこういうことがあったときにこういう対応をしてきたという経験談、経験則から導かれた手法は、もちろん有用なものでありますが新人育成の中心とする材料ではありません。やはりそこは、理論で組み立てられた育成支援の理念や、実際に有効な手法を、どのように使用すればどのような効果が期待できるかという理論を、丁寧に新人職員に伝えていくことが必要でしょう。
 そのためには、放課後児童クラブ運営指針の解説書は当然のこと、育成支援について記された文献、書籍も使用して育成支援について学ぶための時間も必要ですし、運営指針の内容を踏まえた実践ができる指導役の支援員とマンツーマンで、つまりOJTで、現場にて実践を重ねることが必要です。OJTは、単に配属先の先任職員に任すことは止めてください。育成支援に長けた職員を研修教育担当者として任命し、その者に指導させるべきです。

・「組織全体」で育成支援の理念と目標を明確化し、全職員が理解していること。
 →せっかく指導役の支援員のOJTで育成支援の効果的な手法を学ぶことができても、配属先のクラブで、先任職員が、指導役の支援員がお手本として示してくれた手法や、あるいは新人自身が行ったことに丁寧に指導してくれたことと、まったく異なる育成支援の手法や手段を使っていたら、新人職員は間違いなく戸惑うでしょう。しかもそこで、先任職員から、「教わったことは理想。現実はいちいちそんなふうにやってられないからね」などと言われたらもう、新人職員は自信喪失どころか、組織に疑念を抱くでしょう。
 つまり、新人職員の自信を伸ばすのは、組織に所属するすべての職員が行っていることが、新人職員が教育研修で学んだことと一致していることです。そのためには、組織全体で、組織が目指す育成支援の理念と目標を常に学び、手法をアップデートして組織全体で理解をしておくことです。「私が教わったとおりのように、正規の先輩も、補助員の人もやっている」ということです。ここがバラバラだと、新人職員は迷路に迷い込んだように「一体、何が正しいのか。誰が言っていることが本当なのか」と疑念につつまれてしまいます。これでは、新人職員はかわいそうです。

・組織を信頼していることが。新人職員を幻滅させるような言動を厳に慎むこと。
 →新人職員のやる気、士気を下げる要因は、先任職員の組織に対する批判や愚痴です。「うちの会社、ほんとに人を大事にしないんだよね」といった文句や愚痴を早々に聞かされた新人は、大いに幻滅するでしょう。もちろん、常に完璧な組織などはなかなかなく、物足りないこと、改善が必要だと思うことは、いつでも常に職員の考えの中にあるでしょう。それは、そのようなことを発言することが正しい場、例えば会議で発すればいいことで、わざわざ新人職員に、組織のダメなところ、単なる不平不満を聞かせるべきではありません。ダメな組織を語るということは、そのダメだと決めつけた組織に自ら身を置くその者自身がダメなレベル、ということを示しているに過ぎません。そんな恥ずかしいことをしては情けないですね。

・事業者側は常にコスト意識を持て。
 →新人を採用した、ああでも半年で辞めてしまった。あの新人はウチに合わなかった。募集すれば、もっといい人がくる。よくある光景です。確かに、丁寧に育てていても、辞めてしまう新人は必ずいるものです。10人採用したら、1年後、残っているのが3~4人ということもよくある業界です。私も、10人採用して1年後に8人以上残っていなければその組織は失格、実力不足だ、と決めつけるつもりは毛頭ありません。3~4人残っていたとしても、その事実を受け止めるだけです。
 人事は採用も含めてすべて結果論。1年後、新人が優秀な2年目に育ったらそれは人事、もっといえば経営者、運営者の手柄になりますし、ほとんど辞めてしまったらそれもまた人事、経営者運営者の責任です。
 とはいえ、職員を雇い、育てるには、時間も費用もかかるということを常に意識しなければなりません。組織の経営者運営者は、年度の振り返りに、組織の内外に、採用と研修教育の結果を報告するべきです。どれだけの時間と費用を注ぎ込んで、1年過ぎてこの結果です、ということを具体的な数値をもって示すべきでしょう。新人職員の教育研修につぎ込んだ人件費などは計算すればすぐにはじき出せます。採用研修に費やした経費の額も同様。毎年、数値化して常に比べられるようにしなければなりません。

・いきなりスーパー支援員に育つわけがない。長い目で見よ。温かく見守れ。
 →児童クラブ業界の悪い癖は、「思ったほど使えないね」と、早く見切ってしまうことです。これは本当に困った悪癖です。一見、簡単にできそうな職務内容だからでしょうか。あるいは、自分のレベルでしか物事を判定できない職員があまりにも多すぎるからでしょうか。実は私はそう思っています。人事評価において「厳格化傾向」という現象がありますが、「自分自分の能力が優秀だと思っている人物が、対象者を評価する際に厳しい評価を下すこと」です。これはつまり、曲がりなりにも年数を積んで、それなりに(本質的に実践できているかどうかは、問わず)育成支援の実務を「こなせる」ようになった先任職員が、まだヨチヨチ歩き状態の新人職員の技量を劣っていると決めつけてしまうことが、早期の見切りの原因でしょう。つまり評価を下す側が、自分の立場を客観的に判断できていないということです。それはとどのつまり、先任職員の社会人としての資質が不十分である、ということになります。
 対人支援の世界は、まったく同じような事象は起こりません。常にバリエーションに、変化に富んでいます。だからこそ、柔軟な対応が求められ、臨機応変の対応ができることが欠かせません。それは場数を踏むこと、いろいろな事象を座学や演習で学ぶことなど、それなりの期間があってこそ得られる知識や経験、体験です。入職して数か月の新人職員に厳しい評価を下して、さも自分はできるような風情を醸し出す風潮は、児童クラブの業界から撲滅したいですね。
 温かく優しく育てなさい。ただでさえ、「豆腐メンタル」の人ばかりです。それは時代背景もあるので仕方がない。個人のせいにしてはなりません。豆腐は素晴らしい素材ですよ。豆腐だって、高野豆腐みたいに頑丈?にもなります。それは手数のかけかた。組織がしっかりと面倒をみればいいのです。
 どうしても組織が期待するような人材に育たない、何か特性があるようだ、という局面はまた別の話になります。いつか取り上げたいと思いますが、人手不足ゆえ現実にギリギリの人材まで採用していくと、発達障害や、発達障害に近い特性をもつ方々を採用するという現実があります。その場合はまた別の手法で事業者は対応することが求められます。それに気付かず、何度教えてもできないなんて本当に出来が悪いな!などと乱暴な言葉を浴びせるような事業者は、福祉の事業者として失格です。そのことはまた改めて考えましょう。

 頑張って行こう、焦らずいこう、新人さん。すぐに一人前になんか、なれっこない。ただね、社会人として、組織を構成する人として最低限のマナー、常識は覚えていこう。遅刻はダメだよ。朝が苦手ならそれを克服する手法を考えて実践するのが社会人だよ。無断欠勤はもってのほか。もし時間に遅れそうなら、具合が悪くて出勤できなそうなら、直ちに、必ず連絡しよう。そして「わからないことは、遠慮なく、質問していいんだよ」。職場の先輩が怖い?なら、運営支援に質問してもいいですよ。私は保育、育成支援の専門家ではないので具体的な支援について上手なアドバイスはできないけれど、私なりに助言をすることはできますから。まして組織のことだったら、任せなさいよ。

 運営支援を行う日本唯一の組織である「あい和学童クラブ運営法人」は、放課後児童クラブ(学童保育)の世界をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。

 (このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば、当ブログの引用はご自由になさってください)