「学童保育はどんなところ?」学童保育、放課後児童クラブについて紹介します。「学童保育は、おすし」です。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。この4月になって初めて「学童保育」を利用する保護者さんも多いでしょう。「学童ビギナー」の保護者さん(職員さんも)に、「そもそも学童保育はどんなところ?学童保育とは?」を、運営支援の立場からご紹介しましょう。

 <「学童保育」は、実はあるようで、ない>
 あるようでない?どういうこと?その説明をする前に、まず皆さんには、「学童保育」は、「放課後や夏休みなどの時間に、保護者が仕事をしている、あるいは学校に通ったり誰かの介護や看病をしていたりする時間の間に、子どもたちを受け入れる場所があって、その場所で子どもたちが過ごしている仕組み」のことであって、その仕組みのことを示す「普通名詞」だと思ってください。

 記事のタイトルで「学童保育は、おすし」と私は書きました。さっそく、学童保育を、おすしに例えてみます。

 すし(寿司)には、いろいろな種類があります。多くの人が知っている寿司には、次のようなものがあるでしょう。
・握りずし(それも、「江戸前」の握りずしと、そうではない握りずしがありますね。ちなみに江戸前とは、江戸(東京)の前(の海)、つまり東京湾で獲れた魚介類をネタにする握りずしです。なので現代で人気トップのサーモンは江戸前のすし(鮨)には本来、入っていないネタです)
・押しずし(関西方面でとても人気ですね)
・ちらし寿司(ばら寿司、もここに入るでしょうか?)
・いなりずし
・なれずし(鮒ずしが代表的ですね)
現在はさらに「回転ずし」も、入るでしょうか。見た目は握りずしですけれど、やっぱりそれとは違う、「回転ずしは、回転ずし」でしょう。

 寿司にはいろいろあります。実は「学童保育」も、同じです。「がくどうほいく」と呼ばれる言葉の中には、いろいろな形態の、スタイルの、仕組みが含まれていて、それをぜんぶひっくるめて「がくどうほいく」と呼んでいる、と思ってください。つまり、学童保育はおすしと同じ。学童保育の中に、いろいろな「がくどうほいく」があるのです。

 では、どんなものが「学童保育」に含まれているのでしょう。代表的な仕組みは4つあります。より正確にいえば、世間で一般的に言う「学童保育」を実施している場所が4種類ある、ということです。
・放課後児童クラブ
・放課後子供教室(この場合は、「子供」と漢字で書くのが正式です)
・放課後児童居場所事業(これを通称「全児童対策事象」と呼ぶことが多いです)
・民間学童保育所

 ここに「学童保育所」は、ありませんね。

 「ちょっと待ってください。「学童保育所」と命名された施設が、自分の住んでいる地域にありますけど?」と思った読者さんがいるかもしれません。それは、お住まいの地域の市区町村(基礎自治体、と呼びます)が、「条例」(その市区町村や都道府県だけで通用するルール)や「要綱」(市区町村や都道府県などが内規として制定したルール。その地域では強制力があります)によって、「うちの市区町村内には「~学童保育所」を設置する」と決めていることで、その地域に設置されてからです。
 市区町村が設置して子どもを受け入れている「学童保育所」は、上記4つのいずれかにあてはまります。実際はかなりが「放課後児童クラブ」に該当します。これらは普段、多くの保護者さんは意識したことがないでしょう。そもそも、知らない人が圧倒的だと私は思います。

 この4つとも、「放課後などに子どもを受け入れる場所があって、子どもがそこで過ごす」ことでは共通します。ですから、この4つの施設で行われていることをひっくるめて「学童保育」と、世間で一般的に呼んでいます。

 学童保育という仕組みは、確かに存在していますが、学童保育とはいろいろな形態の「事業」を含んでいるのです。ですから、学童保育はあるのですが、「これが学童保育だ」ということは、上記4つの形態の事業がどれもあてはまるので、「これが学童保育です」と限定できないのです。子どもを受け入れて過ごさせる場所なら「みんな、学童保育」なのです。実際に、よくある学習塾やスポーツクラブが「うちは学童保育です」という看板を掲げて営業を始めたら、それは「学童保育」になります。学童保育という仕組みが、本当に存在しないから、逆に言えば「言ったもの勝ち」よろしく、「学童保育と名乗ったものは、学童保育」になってしまうのです。

 決定的なことがあります。現代社会は基本的に「法令」(法律や国が定める省令など、強制力があるルール)に従って動いています。会社も、保育所も、学校も、鉄道も、スーパーマーケットも、すべて法令に従って設置されたり建設の許可を得たりして、事業を行っています。「法治主義」ということです。ところが「学童保育」というのは、法令にありません。法律などで「~のことを学童保育という」とか「~によって学童保育を実施しなければならない」という決まりは一切ありません。つまり、法令に「学童保育」のことが定義されていません。法令にないことは、「公式に存在しない」のです。あくまで、民間の独自の存在なのです。
 なお、先に述べたように、市区町村が条例や要綱において、区域内に設置する施設のことを学童保育所とする、と決めることはありますが、それは「呼び名」を決めているだけに過ぎません。

<学童保育は、子どもを預かってくれる場所?>
 圧倒的に多くの保護者さん、というかこの国の社会も、また「学童保育所」で働いている人ですら、「学童は、子どもを預かって、迎えに来た保護者に引き渡す」と思っています。実際、学童保育所や児童クラブで働いている職員も、「それではお子さんをお預かりしますね」と口走っているのですから。

 学童は、子どもを預かる場所なの?それは、半分正しく、半分間違っています。私の考えでは全部間違っているのですが、「外形として」、こどもを「受け入れて過ごさせる=預かる」ということは一致するので、半分は正しいと、しておきましょうか。

 先に説明した4種類のうち、「放課後児童クラブ」のことを説明します。実はこの「放課後児童クラブ」こそ、「学童保育所」の中核的な存在、本質的な存在なのです。読者さんの地域でも「~児童クラブ」という学童保育所が、たくさんあると思います。

 この「放課後児童クラブ」は、かなり根拠のある施設であり、文言です。根拠というのはルールに基づいた、という意味です。先ほど「学童保育」は法令に無い、と書きました。ところがこの「放課後児童クラブ」は少し異なります。ややこしいですが、「放課後児童クラブ」は、「法令で定められた、子どもを受け入れる事業を行う場所として、行政的に使う用語」のことです。言い換えると、法令で定義された、子どもを受け入れる仕組みを実施する場所のことを、国や都道府県、市区町村は「放課後児童クラブ」と呼んでいる、ということです。

 その、法令で定義された子どもを受け入れる仕組みのことを「放課後児童健全育成」と呼びます。国では、こども家庭庁が担当です(以前は、厚生労働省でした)。そしてその「放課後児童健全育成」を継続して行うことを「放課後児童健全育成事業」と呼び、その「放課後児童健全育成事業」を実施している場所が、「放課後児童クラブ」なのです。
 そして、この放課後児童クラブを、市区町村によっては「学童保育所」と呼んでいたり、「~学童クラブ」と呼んでいたり、「~児童育成室」と呼んでいたり、「~留守家庭児童室」と呼んでいたり、するのです。呼び方は本当に様々です。(この運営支援ブログでは、原則的に「放課後児童クラブ」(いわゆる学童保育所)と、記載することが多いです)

 おおむね、国や、地方自治体が考えている「学童保育」とは、この「放課後児童健全育成事業」です。そして「放課後児童クラブ」こそ、世間で一般的に言うところの「学童保育所」と、思って間違いはありません。

 ではこの「放課後児童健全育成事業」ですが、実はここには「子どもを預かって過ごさせる」という趣旨は、含まれていません。子どもの「健全育成」(=こどもたちが、大人の支援、援助を受けて、遊びや集団での生活を重ねていくことで主体的に成長していくこと)が目的です。単に子どもを預かって過ごさせる事業ではありません。
 よって、放課後児童クラブには「子どもを預かる」という意味は、本来は、含まれていないのです。つまり、放課後児童クラブは学童保育所の中核的存在ですから、「放課後児童クラブである学童保育所も、子どもを預かるという目的で設置、運営されていない」ということなのです。

 このことはほぼ100%、この社会において誤解されています。なぜなら市区町村が自身のHPに「子どもをお預かりする場所」と説明していることすら珍しくないからです。これは、市区町村ですら、放課後児童健全育成事業の定義を実はあまりよく分かっていないことを如実に示しているのですね。

 そして「学童保育所」や「放課後児童クラブ」では、子どもたちが、施設の職員(放課後児童支援員という資格のある人もいれば、資格がない人もいます。通常は「学童の先生」「学童指導員」と呼ばれています。私は「支援員」と呼んでいます)といろいろな遊びや体験をしながら、日々、異年齢の子どもたちの集団の中で、喜んだり怒ったり悲しんだり楽しんだり、喜怒哀楽を重ねながら、人間として成長していっているのです。支援員は、そうした子どもたちの過ごし方を支える、つまり支援、援助をしながら、子どもたちの成長を支えていっているのです。子どもたちはただ、預かられている存在では、決してありませんよ!

<放課後児童クラブではない「学童保育所」とは?>
 以前の4つの存在のうち、放課後児童クラブではない他の3つについて簡単に紹介します。
・放課後子供教室=文部科学省が担当しています。放課後、だいたい午後5時ごろまで、小学校内で、その学校の子どもたちならだれでも受け入れて閉所時間になるまで過ごすことができます。子どもの居場所を確保することが目的です。地域のボランティアさんがいろいろな体験活動をしてくれます。
・放課後児童居場所事業(全児童対策事業)=現在、急激に増えています。同じ場所(小学校内など)で、午後5時ごろまでは上記の「放課後子供教室」を行って、その先は「放課後児童クラブ」の役割に変わります。なぜ増えているかというと、「入所できる児童」が選ばれる放課後児童クラブと違って、「基本的に、児童全員が利用できる」から、住民の圧倒的な支持を得ているからです。いわゆる「学童保育所の待機児童」が0人の地域は、おおむねこの「全児童対策事業」が実施されていると理解していいでしょう。(学童保育所だけで待機児童を出さない方針の埼玉県上尾市のような地域もありますが、少数派です)
・民間学童保育所=それまで説明した3つの施設とは、まったく異なります。3つの施設は曲がりなりにも法令に従って国や市区町村が設置しているので、税金からなる補助金が交付されて事業者が運営していることがほとんどですが、民間学童保育所は基本的に、入所児童の世帯が支払う月謝、利用料で運営されています。言うなれば、法令に基づかないで民間企業が独自に設置して運営している施設です。補助金がなく利用料だけで運営するから利用料が高いのですが、その代わり、民間企業がおのおの独自性を出して利用者を集めることができます。先取学習、英語、スイミング、プログラミング、アクティビティなど様々な魅力をPRしていますね。これも急激に増えています。子どもを毎日受け入れる学習塾、というイメージに近いでしょう。

<基本的に、入所できる「学童保育所」は選べない「学童ガチャ」>
 ほとんどの地域では、住んでいる場所によって通うことになる小学校が決まっています(一部、越境通学ができる場合もあるでしょうが)。同じように学童保育所、児童クラブも、住んでいる場所によって入所できる施設が決まってしまいます。民間学童保育所は例外で、どの小学校の子どもでも利用できることがほとんどです。
 ですので、住んでいる場所によって、どんな学童保育所、児童クラブに通うことになるのか、運命が決まってしまうのです。もし仮に、保護者のライフスタイルに合わない施設だったら、せっかく入所したのに、利用が難しくなって困ってしまいます。子どもがまったくなじめない、行きたがらない「行き渋り」になったら、子育てと仕事の両立ができなくなってしまいます。これを「学童ガチャ」と私は呼んでいます。施設が何時まで子どもを受け入れてくれるか、夏休みは朝何時から開所するか、お昼ご飯は弁当を用意するのかそれとも注文で済むのか、保護者がPTAよろしく役員をやって施設運営に関わることになるのか、ならないのか、学童保育所や児童クラブには、実にいろいろな状況があります。
 入所できる先を選べないからこそ、「うちの子どもが入ることになる施設は、どのような状況なのか」を、しっかりチェックすることはとても大事です。

<市区町村が運営しているから立派とは限らない。大企業が運営しているから立派とも、限らない。保護者が運営に加わっているから充実しているとも、限らない>
 最後にお伝えしたいことは、「誰が、学童保育所や児童クラブを運営しているか」についてです。難しい言葉を使いますが、次のように分けることができます。
・公設公営=公(市区町村)が設置して、公が運営している学童保育所や児童クラブ。利用料金が安いことが多いです。(安いのは、「そこで働いている人の給料が安いから」と、「運営して足りない分は市区町村が別の予算でまかなっている、つまり税金が使われている」という理屈です)
・公設民営=市区町村が設置しますが、運営は民間が行う形態です。民間には、企業(営利法人。株式会社が代表的)や非営利法人(NPO、社会福祉法人、一般社団法人など)、任意団体(保護者で組織する保護者会や、地域住民で構成する地域運営委員会)があります。
・民設民営=民間が設置して民間が運営する施設です。市区町村から依頼や要望を受けて民間が設置することが多いので、放課後児童健全育成事業を行う場合は補助金を交付される場合があります。なお、「民間学童保育所」は民設民営そのものですが、補助金をあてにせずに行うビジネスですから、一般的には民設民営の施設としても数えません。

 市区町村が運営する公設公営が良いと、よく思われます。ところが実際は必ずそうとも言えません。もちろん、子どもの受け入れに万全を期して運営している地域がありますが、多くの地域はそうではないのです。特に、働いている人の処遇がひどい地域が多いですし、施設がボロボロのことも珍しくないのです。それは市区町村が予算を投じないからですが、残念ですが現実です。保護者にとって公設公営が人気なのは「保護者が、運営に加わることがない」から人気なのです。
 では、大きな企業が運営する学童保育所、児童クラブはどうでしょう。実は今、全国で数千、数百の学童保育所やクラブを運営する企業が勢いを増しています。そのような企業が運営する施設の特徴として、ICT化が進んでいることがあります。ですが一方で、企業=利益を確実に確保することが絶対的な目標、のために、職員の賃金を抑えて、人数も抑えて、その結果、子どもたちを迎え入れて行う事業そのものがぐらついている、というケースが後を絶たないのです。営利企業でも、地域限定で展開している場合はむしろ丁寧な事業運営を行っていることが多いように私は感じていますが、多くの地域で事業を展開している企業が運営する場合、「ちょっとひどいなあ」と思うことが多いです。
 保護者が運営に加わる学童保育所、児童クラブはどうでしょう。「保護者が加わるからこそ、子どもたちにとって、保護者にとって、そして職員にとっても、良い内容の運営ができる」と、「学童保育業界」で信じられています。実は私もそのような世界の学童保育所にお世話になり、そのような形態の施設を多く運営する組織のトップを長年務めてきました。「子どもの育ちは、保護者が責任を負う」という当たり前のことからして、学童保育所や児童クラブで子どもがどう過ごしていくのかを保護者がしっかりと把握することはとても重要です。預かり場でない以上、そこで子どもがどのような意識で過ごしているのかを保護者には知っていただきたい。それはそうですが、問題は、「子どもを受け入れて過ごさせる=放課後児童健全育成事業は、事業だけあって、ビジネス」なのです。事業を行うには責任が生じます。何か事件や事故が合ったら運営する者は責任を問われます。保護者が運営に加わることは、利用者である保護者が運営責任を問われる可能性がゼロではないということです。しかも、「片手間」(ボランティア)で運営に加わっているに過ぎない保護者が加わって、どれほど事業の内容が充実できるかどうか、私は「ほとんど意味がない」と考えています。さらに、ボランティアの保護者が運営責任をどれほど背負うことができるか、私ははなはだ懐疑的ですし、ボランティアの保護者に事業運営の責任を負わせることは許されるべきではないと考えています。だからこそ、保護者が加わる学童保育所や児童クラブであれば内容が充実しているという考え方は、もう捨てるべきだとも考えています。

 だいぶ長くなりましたが、「学童保育」は、一筋縄ではいかぬ存在であることが、お分かりいただければそれで充分です。この先の学童ライフ、児童クラブとの関りの中で、徐々に、知っていっていただければと思います。できれば、お子さんが通っている施設の職員さんたちが、どのようなお給料の額、つまり雇用条件で働いているかについて、ぜひ興味と関心を持っていただければ幸いです。

 運営支援を行う日本唯一の組織である「あい和学童クラブ運営法人」は、放課後児童クラブ(学童保育)の世界をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。

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