子どもが学童で遊びたがっているのでお迎えを遅らせていい?「ダメです!」。支援員はこれ、認めちゃうの?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。このブログを書き始めたまさにそのときにテレビ画面に流れてきた「そこに、愛はあるんか」という消費者金融のテレビCMシリーズ、結構長く続いていますね。今回の運営支援ブログは、市区町村のHPから見えてきた放課後児童クラブの不可思議を取り上げるシリーズ第3弾として、「そこに、育成支援はあるんか」と投げかけたい事例を取り上げます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<そこまで言う?と驚いた2つのことその1:買い物禁止!>
 新潟県魚沼市について4月16日、市区町村データーベースに追加しましたが、同市の放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)について市のHPや、HPから得られる資料にざっと目を通していたら、気になる記述が目に入りました。市が用意した利用案内のような資料に記載されていたものです。資料にQ&Aが掲載されており、そこには、次のような記載がありました。

Q:仕事終わりに買い物をしてから迎えに行きたいがそれまで利用できるか。
A:ご利用いただけません。お仕事が終わり次第速やかにお越しください。質問のような利用が発覚した場合は、改善いただくようお声掛けさせていただき、それでも改善が見られない場合は利用停止とする場合があります。

 このQAの内容は、保育所でも話題になりますね。旧ツイッターでも時折、保育士と思われる方から「買い物してから迎えにこないでほしい」という趣旨の投稿を見かけます。私は、このアンサーに疑問を感じます。「状況に応じて、保護者が判断にすればいいことじゃないか。利用いただけないと禁止することは行き過ぎだ」と考えます。

 買い物を済ませる前に子どもを迎えに来なさい。このことが言いたいのは「保護者が、のんびり、だらだらと、買い物を楽しんでからクラブに迎えにきてもらっては困る。買い物するなら子どもを引き取ってから、思う存分やってください」ということでしょう。このことは、児童クラブの現場で働く職員の多くも同感ではないかと、私は推測します。

 しかし、子育て世帯によっては、別に時間をことさらにかけて買い物をするとは限りません。平日の夕方にのんびりと買い物をすることは、する人はいるでしょうが、私にはそれほど多いとは思えません。むしろ、その日の夕食のおかずなどをパッパッと購入してからクラブや保育所にお迎えに行く、ということのパターンの方が多いように思えます。また、保護者の勤務先と児童クラブの間に、よく利用する店があって、自宅はクラブのもっと向こうにある場合です。クラブに行く前にその店の近くを通るなら、買い物をしてからクラブに迎えに行き、そして帰宅する方が効率的です。そのような場所の関係も、ありえるでしょう。
 そういうことも一切含んでの「お迎え前の買い物禁止」、さらに「お迎え前の買い物を見かけたら改善を指導、改善しないならクラブを利用させない」という姿勢は、私は行き過ぎではないかと考えます。

 もし、どうしても注意を喚起したいなら、「短時間で済ませられる日常的な買い物は別として」と、付け加えるなら、まあギリギリ私は納得できます。しかし、どのように時間を使おうが基本的にはその保護者の世帯の問題であるはずです。さらに言いたいことがあるのですが、それは次の例示と合わせて紹介します。

 <そこまで言う?と驚いた2つのことその2:子どもの遊びよりお迎え優先!>
 さらに私が首をかしげたのは、次の記載です。
Q:16時には迎えに行けるが、子どもが遊びたがっているので17時頃まで利用させられるか。
A:ご利用いただけません。学童保育はご家族が仕事などで家庭にいない児童を対象に実施しております。お迎えが可能になりましたら速やかにお越しください。

 これには、私は「それは違う」と異議を申し立てたい。例示として挙げらているのは1時間、子どもの迎えを遅らせること、その理由が、子どもがクラブで遊びを楽しみたいからというものですが、それも同市の資料では「ダメ」としています。児童クラブ、すなわち放課後児童健全育成事業は、遊びが子どもの育ちに重要であることは、児童クラブ関係者であれば当然、理解しているはずです。そのことよりも、「留守家庭の子どもを受け入れる」ということを比較して重要視している理解であると、「子どもと過ごせる状態でありそれは留守家庭ではないので、児童クラブの利用はできない」という考えになり、おのずと、「子どもが遊びたかろうがなんだろうが、迎えに来られるなら来るべきである」という考えになるのでしょう。

 このことを、全国の児童クラブの支援員、職員はどう考えるのでしょう。この例示にあるように「子どもが遊びたがっていようがどうだろうが、親が迎えに来られる状況になったら直ちに迎えに来るべきだ」と考えるのでしょうか。それとも「何時間もほったらかしでは困るが、1時間ぐらいであれば、子どもがクラブで遊びを楽しむ時間があっていい」と思うのでしょうか。私は、後者であってほしいと願います。

 ちなみに私はクラブ運営に携わっていた当時、この2点について「気にしないでいいですよ」と保護者に話しをして、職員にも「子どもの遊びを優先して構わない」と明示していました。

<この例示に同意しがちな理由は分かるが、それは別の問題ではなかろうか>
 自治体の担当者は、おそらく、育成支援の意義や、育成支援の手法では遊びが非常に大事であることの関心と深い理解が持てていない場合が往々にあるので、上記の2つのような例示に違和感を覚えない可能性は相当にあるでしょう。
 一方で、現場の職員が「わたしも、早く迎えに来てほしい」と思うのには、私の想像としては、置かれている職場の勤務環境が影響しているのでは、というものがあります。つまり、職員数が少なく、普段から、数十人もの子どもを4、5人の職員で担当している。とても1人1人に丁寧に関わることができない。なので、どんな理由であれ、登所している子どもの人数が減れば、その分、クラブに残った子どもたちに関わる機会を増やせる、ということが現実問題として存在するのであろう、ということです。
 それは大いに同情します。しかし、クラブにおける配置職員数の問題や、職務の分担など勤務環境における問題と、保護者の子育て支援や子どもの育成支援については、本来は分けて考えてほしい。運営事業者や行政担当課には、充実した育成支援の実現に必要不可欠な職員配置体制を常に要求し、実現に向けて活動する。それと、日常時からの保護者や子どもへの対応と関りは必要なレベルを落とさず実施する。配置体制や業務量の過酷さを、支援の質に影響させることがないように意識し、工夫をしてほしいと願うのです。もちろん、異常な配置体制や業務量の多さは直ちに改善されねばなりません。
 職員である以上、組織の進化と発展、業務の改善を常に考えて行動するのは当然です。「現場のヒラ社員が言ったところで変わりはしない」と、はなからあきらめて何も行動を起こさずにいるようなら、それは現状を受け止めていることと同義であり、現状で満足していると同義です。であれば、どんなに過酷でも育成支援の質は落とさずにやるべきだとも言えます。

<そんなことで保護者を甘やかせてはダメだ!という前に>
 保護者を甘やかすと、子育てをクラブに丸投げする。保護者は子どもの事はそっちのけで遊んで、子どもはその間、クラブにいてかわいそうだ、という声もまた、児童クラブ側から耳にします。これは2つの問題をクラブ側が見て見ぬふりをしていることだと私は断じます。
 1つは、「保護者が子どもとの関りより自分の楽しみを常に優先するのであれば、それは子育てに何らかの課題、問題が生じている可能性がある。その点について保護者の課題、問題を取り除くために助力するのが、クラブ職員の専門性であるのに、それを棚に上げるのか」ということ。
 もう1つは、「子どもが未来永劫、保護者と離れ離れになるわけでもあるまいし、クラブにいる数時間であっても子どもが育っている時間であるのだから、その時間がその子にとって大事な時間であるように、支援員は支援を行うべきである」ということです。私は、「子どもがかわいそうと思うなら、かわいそうと思わせないほどの支援をやってたらどうだい」と言いたくなります。
 なんでいつものんびり買い物をしてから子どもを迎えに来るのか。午後4時に帰宅した保護者がいつも午後7時ぎりぎりに迎えに来るのはなぜか。そこを考えて対応するのが児童クラブの務めではないのですか。もちろん、時たま、お迎えが遅くなる程度の事は、保護者の休息の時間かもしれません。それも含めて、保護者と子育てについて情報や意見を共有、交換できるように保護者に働きかけるのも、クラブ職員の仕事ですし、なにより重要なことは、クラブの運営主体、事業者がこのことを正確に理解した上で、クラブ職員に自信をもって保護者に相対することを業務として認めることです。クラブの運営責任者が「保護者なんて甘やかしたらダメだ」では、おそらくまともな子育て支援はできないでしょう。

<かような例示は、現代の多くの保護者を追い詰める>
 何より私が懸念するのは、今の多くの保護者に見られる、ある種の不器用さが、「あれはだめ、これはだめ」の決まりによって、子育てをガチガチにがんじがらめにしてしまい、子育てそのものに行き詰まりをもたらしてしまう危険性です。いまの保護者の多くは、ネット情報や育児指南書によって、「これが正しい育児」「こうすればいい子に育つ」と示された方法に頼り、すがっています。数十年前の地域社会コミュニティーが機能していた時代なら、地域のベテランお母さんからいろいろな育児に関する知恵、知識を得られたでしょう。いまは近所付き合いが地域によってはほぼ壊滅しています。そのような状況で、「常に正しい子育て」を意識するあまり、行政から示されたこのような例示もしゃくし定規に受け取って「仕事が終わった。すぐに迎えに行かなきゃ、学童を追い出されてしまう」という日々のプレッシャーが、子育てに不慣れた保護者の心理を追い詰めていくのではないでしょうか。

 「ママ、もっと遊びたかった!」という子どもに「お迎えに早くこなきゃだめなの!」と親が叱るような光景が繰り返されたとしたら、子どもはクラブで過ごす時間に楽しみを持てなくなります。早く迎えに来る親にも機嫌よく接することができなくなります。そのような我が子に対して、「こっちの心配も知らないで!」と親もイライラを募らせていく、このような状態になったら、とても伸び伸び、穏やかな子育ての環境にはなりません。
 ましていまは、臨機応変だったり状況に応じて行動を変化させる、というような対応が(もしかすると何らかの特性もあって)苦手な保護者が多いのです。「仕事が終わったら直ちに迎えに来ないと、クラブを退所させます」というような心理的圧迫に等しいルールが、保護者の子育てを融通の利かないものにしてしまう恐れを、私は感じてしまいます。

<児童クラブの運営主体は、支援員は、それでいいの?>
 私が気になるのは、このような2つの例示がもし、自分の地域の自治体が出したとしたら、その地域のクラブの支援員、職員はどのように受け止めるのかな、ということです。「いいのいいの、ここには厳しめに書いてあるだけだから」となるのでしょうか。それとも「その通りです。お迎えはお早めにお願いします」に、なるのでしょうか。前者なら「このクラブの運営者は市区町村と連携できていない」ことの証明になりますし、後者なら「遊びを通じた子どもの成長と、他の子どもたちの関係性の構築についてこのクラブは本当に理解しているのか」という疑念になります。

 上記2つの例は、保護者支援、育成支援に直接かかわることです。それに対して、クラブの運営の責任者と、子育て支援と育成支援の専門職たる支援員は、どう感じるのでしょうか。そのクラブの、子どもへの支援、保護者への関りについての向き合い方、方向性を決定的に左右する要因になると私は考えます。

<なお、魚沼市でいえば、素晴らしい記述もある>
 最後に、魚沼市の資料には、他の市区町村の児童クラブの資料ではあまりみられない記載もあります。
「保護者に代わって生活全般を指導するのではなく、保護者の皆さんが家庭の中で子どもを温かくはぐくむためのお手伝いをするところです。」(ブログ筆者いわく、前段はやや?ですが、後段はよく分かります)
「放課後児童クラブ・学校・家庭が連携をとり、地域の協力を得ながら共同で子育てをしていくところです。」(筆者いわく、「共同の子育て」を明記している市区町村はほとんどありませんので、素晴らしいと感じます)
 また「学童保育方針」も、的確にまとめられています。自治体としての放課後児童健全育成事業に関する方針を明記している地域もほとんどないので、他地域には無い優れた点だと私は感じます。

<おわりに>
 クラブの運営責任者も、現場の職員も、クラブの利用案内や自ら働いているクラブのある自治体の児童クラブの案内を見てください。そこに、理念や目標としている育成支援や子育て支援と違いがある記述がある場合は、修正を求めるなり改善を求めるなり、行動をしてください。役所がやることだから、上が勝手にやることだから、ではだめです。自分の仕事に、専門性に、誇りを持っているなら、「これは違うよ!と自信を持って指摘ができるはずですよ。

「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の発展を願い、種々の提言を行っています。そして個々の事業者、市区町村における放課後児童クラブの事業運営をサポートします。子育て支援と放課後児童クラブの運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営に加わることでの実務的な支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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