放課後児童クラブで利益をがっちり稼ぐ補助金ビジネス。「地獄の3点セット」で今年度も発展間違いなし

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。学童を舞台にした放課後ビジネスが2024年度、さらに加速しそうです。本日のブログは補助金ビジネスを取り上げます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<放課後児童クラブ、それは安定収入が約束された、おいしいビジネス>
 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)を運営する企業、団体として、複数の都道府県でクラブを運営する「広域展開事業者」によるクラブ運営が拡大しています。2023年度は福島県郡山市や高松市で、その地域にある児童クラブが丸ごと営利の広域展開事業者によって運営されることが決まり、新年度に入って新しい事業者によるクラブ運営がスタートしているでしょう。
 その動きは今年度も続き、さらに拡大しそうです。今月8日には、静岡県磐田市が、来年度(2025年度)に公営クラブを民営化することを発表しました。そのことは翌日の静岡新聞が記事にしており私も気づきましたが、有料記事でしたのでSNSで紹介しませんでした。私が行っている全市区町村の児童クラブ状況とりまとめで磐田市の番になったおりに市長会見の内容を確認しましたが、公営50クラブを来年度に民営化するという発表でした。50クラブですから、かなり大きな規模です。これから夏に向けて、全国各地で、同様の動きが必ずや起こるでしょう。

 なぜ、児童クラブを民間企業、団体が運営したがるのでしょう。理由は当たり前ですが、運営することが企業、団体にとって得だから、つまり「儲かる」からです。「児童クラブ、学童保育所を運営すると儲かるなんてありえない」と思われがちですが、今やそうではありません。いくつか条件が揃うと、児童クラブの運営は安定収入が約束された、非常にうま味のあるビジネスになります。児童クラブ、学童保育所は、カネの成る木に、なるのです。

 児童クラブを運営すると、どれだけ儲かるのか。これまでの運営支援ブログで紹介していますが、国の行った調査(令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 事業報告書)では、NPO法人運営の児童クラブは年間で94万円の純利益になります。これが、株式会社を含む「その他法人」では285万円になります。1クラブ300万円と思ってください。ですから、磐田市の公営50クラブを引き受けた企業があるとしたら、300万円掛ける50クラブで1億5000万円の利益を手にすることになります。
 なお、誤解を招くので申し上げますが、私は、公営事業の民営化、アウトソーシング事業を否定しません。むしろ、児童クラブについては、「公営クラブが本気で利用者の利便向上に乗り出さないのであれば、とっとと民営化してサービス拡大をするべきだ」という考えです。公営事業より民間に委ねたほうがサービスが向上することは、まず間違いありません。公営事業を引き受けて利益を得ることも何らやましいこととは思っていません。営利企業が児童クラブを運営することも否定しません。NPO法人でも、稼ぐことは当然必要です。稼いで得た利益を事業に使うことがむしろNPO法人では極めて重要です。児童クラブを運営するのが株式会社であれ、NPO法人であれ、「誰かの我慢や犠牲の上に、その利益を得ているのであれば、それは許せない」と考えているだけです。

<285万円を確保できる「地獄の3点セット」>
 それを踏まえると、NPO法人の利益94万円は、適正だと私は考えます。私も実際に児童クラブを運営、経営していましたが、94万円という利益は妥当だと感じます。児童クラブを運営、経営していて、事業を十分に行うに足る職員数を雇用し、できる限りの賃金を支払おうと思うと、それが適正規模(児童数40人前後)のクラブである場合、1年間で手元に残るのは、とても100万円台には届きません。クラブの収入は保護者から得る利用料と補助金収入ですが、利用料収入は政策的判断もあって高くても1万円台半ばに抑えられます。補助金を最大限交付されたとしても、手元にはなんとか1か月分の人件費に相当する額が残せられれば御の字、です。だいたい1クラブの人件費は100万円前後ですから、94万円の利益はまさにその通りです。

 しかし、285万円もの利益を残せることはどういうことでしょう。それは次の3点を行うことでしか実現できません。私の考える「地獄の3点セット」です。
・賃金水準を抑える。時給換算で最低賃金レベル。有期雇用にして退職金経費など計上なし。雇用職員数を抑える。
・職員の勤務時間を抑える。学校がある平日は所定労働時間6時間以内にするなど。
・子どもに投入する費用を抑える。おやつは極めて低単価のスナック菓子。
(なお、この3点セットがあっても現実に児童クラブが稼働できているのは、これが地獄であると感じない人がいるからです。「もらえる賃金で十分。ずっと働く気がないから有期雇用で問題なし。仕事はやれる範囲だけでいい。どうせ子どものお守りなんだから。年も年だから1日6時間勤務で限界。子どものおやつなんてポテチで十分だ」という人ばかり雇用していれば、職員から何の不満も出ません。「子どもの支援の質」を気にしない程度の質の職員には、地獄の3点セットは存在しません。裏返せば、そのような職員を雇用さえすれば利益を上げたい企業、組織にしてみれば「利益の3点セット」に変身するのです。そしてそのような職員を確保するのは実はさほど難しくありません。誰でも採用すればいいのです。多くの児童クラブが人手不足なのは、質の高いまともな職員を採用しようとするからです)

 実際、先の調査研究事業で、株式会社を含むその他法人は、上記3点いずれもNPO運営クラブよりも低い水準です。その差はさほど大きくありませんが、乾いたぞうきんを絞るように、徹底してコストを切り詰め、285万円もの利益をうみだします。そこで我慢を強いられるのは、働く職員です。人数が少なく1人あたりの業務量が過重、それでいて賃金は最低賃金レベル。勤務時間も短い。よって給料は低い。これが、285万円もの利益を生み出すしくみであり、補助金ビジネスの核心です。

 当然ながら、株式会社であっても、社員に給料をしっかり払うなどをしていれば、ほとんど利益はあがらないでしょう。単に法人格を得ることが簡単だったから株式会社を選択しただけで、地域に根差したクラブ運営を行っている企業は、上記のような「地獄の3点セット」とは無縁でしょう。あちこちの都道府県で、何十、何百もの児童クラブを運営して利益を稼ぐのに躍起となっている「広域展開事業者」について私が勝手に想像していることです。
 なお、これは非営利であっても同じです。非営利法人でも広域展開事業者として全国各地で児童クラブを運営している事業者が複数あります。仮に、地獄の3点セットが非営利事業者で行われているとすれば、私はより深刻な状況であると考えます。「そこまでした利益は、どこに向かっている?」ことを当然考えるからです。一般論として、非営利を装う、あるいは社会正義を装う、といううたい文句の陰で特定の階層が利益を得ているということはこの世の中、珍しくないことですから。

<公営クラブの民営化は、それでも歓迎される>
 少ない職員で仕事が盛りだくさん、給料も安い。それでもどんどん増える広域展開事業者によるクラブ運営数。それは、ほとんどの公営クラブはとっくに限界を迎えているからです。私が行っている、全国市区町村の児童クラブデーターベースの取りまとめ作業では、開設時間が短いクラブはもれなく公営クラブです。公営クラブは確かに月の利用料が安い。それは何より歓迎されるでしょう。しかし、午後6時までしか開かないとか、朝は午前8時30分からとか、利用者にとって不便なクラブは、ほとんど公営クラブです。公営クラブの硬直化した運営体制が、世間の動きについていけていないのです。
 児童クラブの運営には、手間がかかります。人数も必要です。現場で働く支援員、補助員のみならず、本部機能(バックオフィス)を担当する職員も必要です。事業をスリムアップ、選択と集中に励みたい市区町村にとって、手間も人手もかかる(表立っては言えないが、児童のけがによる賠償リスクがある。やっかいな保護者対応もある、それから解放されるだけでもありがたいと思う自治体職員は当然多いのです)クラブを運営することは、もうやめたいのです。最近、保護者運営の児童クラブが「運営疲れ」で民間企業、団体に運営がゆだねられることがありますが、同じ構図です。市区町村にも運営疲れがあるのです。

 市区町村が公営クラブを民営化すると、ほとんどの場合、支出する経費は増えます。そうであっても、面倒くさい運営業務から解放されるなら歓迎です。今までより経費が2割増であっても「運営丸投げ」であれば、大歓迎です。

 利用者からも大歓迎です。利用料はおおむね、公営時代と変わりません(それゆえ、市区町村が支出する予算が増える理由にもなる)。その上、今まで午後6時30分で閉まっていたクラブが午後7時までになった。朝は開所時刻が30分早まった。出欠連絡はICカードで、手元のスマホのアプリで確認できるようになった。利用料支払いもアプリで可能。保護者会も無くなって役員や係の恐怖から解放された。新しい事業者は、オンラインで何やらすごい取り組みをしてくれるというので、子どもが楽しめそうだ。
 広域展開事業者にしてみれば、あちこちの児童クラブで実施できるシステムを構築しているので、児童の出欠管理にしろ利用料支払いにしろ、子どもたちを対象としたオンラインによる教材提供にしろ、特に新たに費用がかさむことはありません。

 公営クラブが広域展開事業者によって運営が引き継がれるとして、多くの地域で目立った反対運動が起きないのは、利用に係るサービスが全般的に向上するからでしょう。反対するのは結局、(非正規であっても)公務員であることに存在意義のある組織や団体が関わっている場合のことが多いのです。会計年度任用職員になったことで、かつての非常勤の公務員のように十数年も雇用が実際に継続できる保障がなくなったことで、有期雇用の広域展開事業者とは雇用条件においては、さほど差が出なくなったこともあります。
 何よりも、公営クラブはごくごく一部の自治体を除いて職員が非正規ですから、賃金が極めて低い水準にあります。地獄の3点セットによる広域展開事業者が支払う職員の賃金よりも、さらに低い「地獄がまだましな水準の低賃金」が公営クラブ職員です。民営化されて、有期雇用であっても、そっちの方が賃金が高いという地獄に仏状態です。

 結局のところ、公営クラブの民営化が進む、つまり補助金ビジネスが拡大するのは、
「公営クラブのサービスがあまりにも低レベルなので、広域展開事業者による運営でむしろサービスが向上する」からにほかならないのですね。(どうして低レベルに留まってきたのかはいずれ考察します)
 そして、広域展開事業者によるクラブ運営増加の大波は、公営クラブを飲み込む(というか公営クラブが積極的に波に飛び込んでいますが)だけでなく、中小、零細規模のクラブ運営事業者をも飲み込んでいくことになるでしょう。津島市のように、波が砕けてしまった超レアケースがありましたが、日本版DBS法への対応など組織運営のち密さが求められる時代は、もはや単一クラブの運営や数か所のクラブ運営の事業者は、広域展開事業者によるクラブ運営の大波に巻き込まれていくことになると私は確信しています。

<補助金ビジネスの問題は解決できるか>
 児童クラブの収入を、運営企業、組織の利益としてこの社会がどこまで認めるかの問題になりますが、それを考えるにあたっては、そこで働いている職員の雇用労働条件も考える必要があります。そしてそれは、そのクラブで行われている育成支援の質の問題を踏まえないと論じられません。育成支援の質を問わない事業者、自治体であれば、育成支援に理解の無い質の低い労働力=賃金が低い職員で十分になってしまい、結果的に事業者の収益がふくらむことになります。
 個人にしろ組織にしろ、労働や経済活動で得た利益は、それが正当な対償である限りは何ら批判を受けるものではありません。その「正当」であるかについて、もっと私たちの社会は意識して検証を常に行うべきです。社会正義を少しでもゆがめた形で得られた利益は許されるべきではない、ということです。つまり、育成支援の本質を正しく理解して実践しようとしている質の高い労働力に支払う賃金が不当に安いのであれば、正当な対償が支払われているとは言えない、ということです。
 形式的には機械的に制度を整えれば、職員の賃金水準向上などは可能です。職員の所定労働事件の下限を高めに設定することでも良いでしょう。しかし補助金ビジネスの問題はそれで全部解決できるとは思えません。

 児童クラブを利用する保護者が支払う利用料も、国民が税金として納めたカネから成る児童クラブへの補助金も、どちらも「保護者が安心して働きながらの子育てを実現できるために、子どもの安全安心を守り、子どもの育ちを保障する児童クラブがしっかりと運営できるために」投入されるお金です。本来は、質の高い児童クラブの運営を実現させるために使用されるべき費用です。
 質の高い児童クラブ運営が実現していれば、その上で残余の費用があれば、それは事業者の利益になるでしょう。指定管理者制度の場合は特に、指定管理者が創意工夫で得た収益を認めています。そのことに異論をはさむ余地はありません。

 では、本当に質の高い児童クラブ運営が実現できているのですか?そこが問題です。指定管理者へのモニタリングや利用者アンケートは主に組織運営やサービス向上の利便性に焦点が当てられており、事業の「質」の評価として正当に活用されているとは私には思えません。

 オンラインで子どもたちが何やら見せられる時間が、子どもの育ちにとって役に立つと信じてしまう意識や、事業者が子どもの意向を参考にすることなく一方的に決めた「月曜は英会話、火曜日はタッチラグビー、水曜日はオンラインで他地域のクラブの子どもとコミュニケーション、木曜日はプログラミング、金曜日は伝承遊び」のようなスケジュールで子どもたちがただただ機械的に過ごす児童クラブでも、「いろいろな経験ができて素敵じゃない!」と思う保護者や行政担当者が圧倒的多数の現状です。
 子どもにとって本当に「豊かな放課後の時間って、なんだろう」という根源的な問いを社会が考えるようにならなければ、広域展開事業にとって「すでに構築された仕掛け」を使って事業を拡大するだけであって、それに社会が魅力を感じている限り、このまま補助金ビジネスは拡大していくだけでしょう。

 <おわりに>
 補助金ビジネスの問題は、本質的には、今の日本社会が、子どもたちに何をすることが子どもの育ちにとって大事な事だろうかを考えることにほかなりません。それは、子どもに将来どんな大人に育ってほしいかを考えることです。いわば、子育ての価値観を考えることです。そのことをもっと社会が考える機会が訪れてほしいと私は願っていますし、その必要性をたった1人でも訴え続けています。

「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の発展を願い、種々の提言を行っています。そして個々の事業者、市区町村における放課後児童クラブの事業運営をサポートします。子育て支援と放課後児童クラブの運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営に加わることでの実務的な支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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