非正規雇用の子育て世帯が児童クラブ入所で不利益となる事案。非正規だって児童クラブは必要。不公正の是正を!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。新1年生が放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)に入所ができない「小1の壁」はご存じでしょうか。非正規雇用の保護者が、非正規雇用ゆえの事情で選考が不利になって小1の壁によってクラブ入所ができなくなったという事態を考えます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<「これほど子育てがしにくいまちとは思わなかった」>
 SNSを通じて私に連絡がありました。この方は、会計年度任用職員として勤務していたところ、子どもが小学校に入学するので放課後児童クラブに入所を申請した。ところが、来年度の雇用が確実ではないので、やむなく「求職中」にチェックするしかなかった。入所申請の結果は落選。その方は「落ちたクラブに6年生が入所したことを知りました。担当課には何度も連絡をして相談をしましたが、「公平な点数化」をしたというだけ。こんなに住みにくく、子育てのしにくいまちとは思わなかった」と、絶望の淵に追い込まれています。

 この方は、本当に途方に暮れているとのこと。ファミリーサポートも申請していますが、うまくマッチングできず利用ができない状態だそうです。なんとか子どもの安全な居場所を探しつつ、夏休みは高額な民間学童保育所の利用も視野に、どうやって過ごそうかと悩んでいるとのことです。現状の改善を求めて、市長や市議会議員にもメッセージを送ったとのことですが、ことごとく無視されてしまったとも。

 本当に胸が痛みます。今はたいていの市区町村で、子育てを応援するまち、子育てしやすいまち、というPRをして子育て世帯の呼び込みや移住を呼び掛けていますが、待機児童を出すようではそもそも子育てがしにくい地域にほかなりません。国が旗を振る「こどもまんなか社会」は、こどもの安全安心できる居場所を市区町村が確保できない限り、実現なんて到底無理ですね。

 むろん行政側の対応も理解できます。機械的に、点数をもって判断する仕組みは、選考者の感情、情状が入り込む余地をなくすことになります。それは選考に際して外部からの圧力によって選考がゆがめられる可能性を排除します。選考に漏れた方へにも、先に紹介した方のように「公正に先行した結果です」との説明ができるからです。しかし、それが本当に公正なのでしょうか。

<就労証明書の問題点>
 児童クラブは、子育て世帯が働きながら子育てをするために必要不可欠な社会的インフラです。保護者の雇用形態が正規雇用(=無期雇用)だろうが、有期雇用契約である非正規雇用や派遣社員だろうがその点は同じです。「非正規雇用で暮らせるぐらいだから、時間的に融通がきくでしょ?」ではありません。むしろ、正規雇用で働きたくても、非正規雇用でしか雇われない人がこの世の中、大勢います。いまや働く人の3人に1人が非正規雇用です。

 当然、児童クラブの入所に際しては、非正規雇用で働く人にも十分配慮した手続きが必要です。当たり前です。

 児童クラブの入所に際しては、就労証明書を提出することが通例です。そこには雇用形態だったり雇用期間だったりを記入する欄がもれなく設けられているでしょう。この就労証明書は各市区町村で様式が異なっていますが、有期雇用に際して「契約の更新の有無」のチェック欄がある地域と無い地域があります。さらに契約の更新に際して、契約更新が事実上確約されていることを伝えられるなど、契約更新に関する情報を記載できる「特別な事情について記載する欄」を設けている地域は、それほど多くありません。就労証明書に雇用期間について「就労」「求職中」、ぐらいの区分しかできないのであれば、契約更新の狭間にある時に、「契約更新が確実」という情報を伝えられません。
 また、特別な事情を記入できる欄があったとしても、次年度の再任用が事前に可能性としても把握できない会計年度任用職員であれば、行政側が「更新の見込みがあり」とは記入しません。就労証明を提出する時期(およそ前年の秋から初冬)に、次年度の4月1日において会計年度任用職員として採用、再任用されているかどうかは絶対に分かりませんので、求職中としか、記入できないのです。民間の有期雇用、契約職員や派遣職員であれば、ある程度は柔軟に、「契約の更新あり」と記載もできるでしょうが、お役所にはそれは期待できません。
(労働者の生活の安定を守るために本来、有期雇用は契約の更新が確約されるべきです)

 就労証明書は、特に待機児童を出さざるを得ない地域の児童クラブ運営主体にとって、やむなく入所児童と待機児童を区別する際の情報の基盤となるものです。よって、そこに記載された情報で「求職中」という記載しかなければ、それは入所判断に際して点数制をとっている場合(それがほとんどでしょうが)、著しく不利になるのは言うまでもありません。保護者が求職中の新1年生の家庭と、保護者が就労状態にある世帯の6年生では、6年生が点数上、有利になるでしょう。

<好きで非正規雇用を選んでいるわけではないのに課せられる不公正>
 これは児童クラブの世界の責任ではまったくありませんが、会計年度任用職員にしろ派遣職員にしろ、今の日本の経済システムは、人件費についてできる限りのコストカットをして利益を確保することが基礎となっています。その結果としての非正規雇用の増大です。本来は、安心して定年まで働きたい人がわんさかいるにもかかわらず、事業主(民間企業だけでなく国、地方公共団体も)の経営上の理由で、正規雇用で働き、所得を確保し、自分のスキルを発揮することで社会の安定と発展に貢献したいという人々の希望を踏みにじっているのが、非正規雇用の拡大の悲劇です。

 自分たちの力や能力ではその解消がまったくできない理由のために、非正規雇用を余儀なくされ、契約更新も定かではなく、その結果、児童クラブの入所において「求職中」と記入するしかなく、その結果として、入所選考の点数が低くなってしまい、児童クラブの待機児童とされてしまう。これは、非正規雇用の子育て世帯に、結果の著しい不平等をもたらします。「点数制度をもって、公正に、児童クラブの必要性を判断しています」というのは、単に手段が公正に見えるだけであって、非正規雇用の子育て世帯を不利に追い込む仕組みを内在したまま選考手段が運用されているのであれば、それは公正な選考とは言えません。むしろ、非正規雇用の子育て世帯を不当に差別的状態に追いやっていると私は主張します。

 そもそも、児童クラブに入所を申し込むことは、就学や介護、出産などの事由でない限りは就労です。非正規雇用であれば、4月1日からの新年度からも、どこかの事業者と契約して働くことは容易に想像できますし、その想像に至る理由は合理的なものです。働かねば生活できませんし、働くから児童クラブが必要なのですから。単に、就労証明書に、「記入時において」4月1日時点の雇用労働契約が締結されていない限り、求職中と記載するしかない形式の就労証明書であれば、求職中と記載するしかないのです。その結果、「ああ、この世帯は働いていない可能性があるから、点数は低いね」とするのは、極めて非合理であり、法の下の平等に反します。

<今すぐにでも事業者は就労証明書の改良を>
 児童クラブを必要とする事由は正規雇用、非正規雇用によって優劣が付けられるものではまったくありません。よって、正規雇用と非正規雇用でどちらも同等に判断できるような記載ができる就労証明書が必要です。正規と非正規で唯一ともいえる差異が「4月1日時点の就労を、就労証明書作成時点で、事業者もしくは保護者が、確実に判断できるか」ですが、実はこれ、私にはあまり意味がないと考えています。というのは、過去の実務で、入所申請時点では正規雇用であっても、それから数か月して4月1日になったら退職して求職中、という保護者が、本当にごく普通にいるのを何年も見てきたからです。
 よって、就労証明書には、現時点における4月1日の就労状況の見込みについて、申請者が記載できる欄を必ず設けることが必要です。契約更新の見込みの有無だけでなく、将来に向けて転職、退職を考えているとか、まだ話はまとまっていないが確実に有期雇用で働くことになるとか、会計年度任用職員の採用試験を受ける予定であり過去の経験から照らして採用はおおむね確実である、ということなどを記載できる欄を設けるべきです。

 選考する側は、忖度や温情というようなものではなく、合理的に「4月1日に就労している可能性が極めて高い」と判断できるならば、たとえ就労証明書作成時点で4月1日時点の雇用労働契約が存在していないとしても、その申請者の生活状況、過去の雇用労働契約の更新状況などをもって、具体的総合的に判断すればいいだけの話です。そのように選考に関する内規を定めればいいだけの話です。
 機械的に「今この時点で雇用契約が確実に存在していないから求職中扱い」とすることは、公正ではない。不当な扱いとなる可能性が高いという理解を持ってください。

<おわりに>
 そもそもの問題は、子どもの安全安心な居場所が十分確保されていないから、待機児童の悲劇、小1の壁の悲劇が生まれるのです。国、自治体は、放課後児童クラブであれ、児童館であれ、あるいはファミリーサポートであれ、子どもの安全な居場所を確保できる方策を、急速に整備しなければなりません。それがたとえ全児童対策事業であったとしても、まずは子どもの居場所を確保しつつ、児童クラブであるならば適正規模の、子どもの生活環境として適切な施設をしっかり整備していく。とにかく、子どもの居場所を見つけられず就労等に深刻な影響を受ける子育て世帯が出ないようにしなければなりません。
 また子育て世帯にも、事前に情報提供を怠らず、待機児童が継続的に出ている地域なら、思い切って引っ越すことも視野に、「いかにして生活レベルを落とさずに過ごせるか」を大事にしていっていただきたいと私は考えています。
 こどもまんなか社会は、毎年のように小1の壁の悲劇が伝えられるようでは到底、実現できません。国が本気を示して市区町村を無理やりにでも動かしてください。そして、本来なら好ましくない、非正規雇用の蔓延を食い止める施策を行ってください。国が富むのは国民が富まねばなりません。所得を下げる非正規雇用の蔓延では、国が富むわけはないのですから。まして非正規雇用でやむなく働く人が、不当な扱いを受けてはなりません。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の発展を願い、種々の提言を行っています。そして個々の事業者、市区町村における放課後児童クラブの事業運営をサポートします。子育て支援と放課後児童クラブの運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営に加わることでの実務的な支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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