「学童保育の貧困」を憂う。その1。学童保育の貧困の根本は、社会全体の学童保育に対する理解の弱さにある

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 こどもまんなか社会が始まり、岸田文雄首相が次元の異なる少子化対策を掲げた2023年度(令和5年度)も、あと2カ月ちょっと。令和5年の首相の年頭記者会見では学童保育の充実という発言がありましたが、令和6年の年頭記者会見では残念ながら子育て支援について踏み込んだ言及はありませんでした。大変、残念です。学童保育の拡充は、子育て支援に極めて有効な制度ですから、政府には引き続き学童保育の充実に力を入れていただきたいと弊会は強く要望します。(しかし、首相が、学童保育という単語を使ったことは、学童保育という単語は、完全に一般的に根付いた普通名詞になっている、と感じます)

 しかし現状の学童保育の世界は、残念ながら、寒々な光景が広がっていると、私には思えます。私はそれを「学童保育の貧困」と、名付けました。学童保育の世界といっても様々な分野があります。何も、学童職員の低賃金だけが、学童保育の貧困ではありません。今週は、学童保育の貧困を各分野ごとに憂いていきます。第1回目の本日は、学童保育の貧困をもたらす根源、すなわち「学童保育そのものへの理解が弱すぎる」ことを憂います。(なお、このテーマにおける学童保育とは、主に放課後児童クラブのことを指しますが、全児童対策も、放課後子供教室にもある程度共通します。ただし、知識や技術を対価を支払って得るサービスで構成される民間学童保育は含みません)

 岸田首相も前年の年頭記者会見で取り上げたほど学童保育そのものは一般的になってきましたが、その政府が学童保育の拡充に言及したのはなぜかを考えてみると、すぐ分かるでしょう。岸田首相はこう述べました。
「少子化の問題はこれ以上放置できない、待ったなしの課題です。経済の面から見ても、少子化で縮小する日本には投資できない、そうした声を払拭しなければなりません。こどもファーストの経済社会をつくり上げ、出生率を反転させなければなりません。」

 こどもファーストの経済社会を作ることが、少子化対策の目的なのです。つまり、政府の言うところの、こどもまんなか社会は、国の経済活動レベルを落ち込ませないための人口増トレンドをもたらすための「手段」としての、こどもまんなかなのです。国民に、子どもを育てながら働ける社会にするから遠慮なく子どもをつくってね、そうしないと人口が減ってしまって大変だから、というのが、この国の少子化対策です。

 私は、そのこと自体は否定しません。国家が、社会が、経済活動を重視することは当然ですから、子育て支援も経済活動を支える目的であることも肯定します。ただし、経済活動を支えるための子育て支援というアクションの土台に、「国は、社会は、子どもと子育て世帯を支えることが必要である。それは、人間が人間として生きていき育っていくために当然実施されるべき社会福祉の理念であるから」という思想を、哲学を、しっかりと据え付けることが必要です。子どもの最善の利益を追究し、守っていくことは国家社会が当然に実施するべきであって、その土台の上に、いわば派生的に、経済面での効果が及んでその利益を結実させるということを、追い求めるべきなのです。

 その点において、次のような理解が一般的になされている、はびこっているのは残念です。ただし、先に申し上げておきますが、それは全てが国家社会、もっと言えば今を生きる人々や保護者の理解が弱いこと「だけ」が原因ではないと私は思います。実際に、学童保育とはそういうものなのかと、国民や保護者に実感させることができる立場の者、つまり学童保育の関係者の理解や立ち振る舞いに、大変、残念な程度のレベルに留まっていることもまた日常的にであるということが大きな原因だと私は憂います。
(学童保育に対して持たれている残念な理解)
・学童保育は、子どもの居場所にしかすぎない。本当なら、子どもに、もっと役立つ知識や技術を伝えたい時間にしたいが、適当な施設がないし、費用もかかるので単に学童保育を使っているだけ。数年間の我慢。
・子どもは自分の力で十分育っていく。学童保育での支援はほんのちょっとの介添え程度。誰でもできる仕事。
・学童保育は、本当なら存在しなくてもよい。昔は学童なんてなかった。
・子どもの最善の利益というけれど、最善の利益とは、子どもが将来に役立つための知識や技術を十分に教授すること。学童保育はその点、無意味な時間を過ごさせている。そんな存在に多額な予算を投じるなんてもったいない。

 こういう理解が根強いと私は感じます。実際、そのようなことを保護者や議員から言われたこともあります。大体において、経済活動を支えるための少子化対策としての学童保育拡充がこの国の方針であって、学童保育の充実など子どもの最善の利益を守ることが子育て中の、あるいは将来子育てに取り組む国民の安心となって、その安心という土台があって経済活動拡充に取り組める、という前後の順序が逆になっているこの国の実態からして、学童保育への期待や理解が深まることは難しい。「学童は、子どもや保護者にとって目に見える経済的な利益をもたらしてくれない。だから、本来なら支払う利用料は安ければ安いほど適切なのに」という、「仕方がないから利用せざるを得ない施設」という印象を多く持たれてしまっていると、私は感じます。

 もちろん、学童保育のことを素晴らしいと応援してくれる方はいますが、絶対的な多数ではありません。ごく一部です。そんなことはない、という人は、現実を認めたくないだけです。学童保育が素晴らしいと信じる人が多数派であるなら、今の状況になっていません。学童保育を支えるための種々の活動はもっと盛んになっているでしょう。そんなことは、まったくありません。何か集会をするにしても、強制的に保護者や職員の動員をかけなければいけない世界は、大多数に理解され、支持されている世界とは、まったく言えません。

 この憂いが消えるためには、もっと学童保育の本質を、理念を、社会に広く、強く、継続的に伝えていかねばなりません。あらゆる手段を使って。現実はそれとは程遠い。むしろ、学童保育、それもとりわけ伝統的な学童保育の世界では、いまだに自分たちのやってきたことをただ繰り返し、自分たちのことを理解してくれる仲間うちだけでの活動で満足しています。それでは、広がりはありません。次第に縮んでいくだけです。例えば愛知県津島市で起こった悲惨な事例について、伝統的な学童保育の世界はどれだけ津島市で苦境に立たされた方たちを、個人のレベルではなくて組織的に支援し、励ましたのか。大きな運動、ムーブメントとして、「そんなことはあってはダメだ」と社会に呼びかける活動をしたのか。勉強会や研修では相変わらず、子どもとの関りという大事だけれどテクニカルなミクロな視点に終始し、そもそも、子どもとの関わりの場としての学童保育という場が急激に変質し、減少していることへの分析や対策、具体的な対応への呼びかけや準備に関する内容の集会は、皆無に等しい。徹頭徹尾、内向き。そりゃ、時流に押し流されて消えゆくだけです。外の現実を見て理解しようとしていない学童業界は、実のところ、学童保育の本質を見て理解しようとしていない一般社会の裏返しなのです。

 外に向かう視点がないために、自分たちの仕事が、あるいは仕事としての振る舞いが、外からどう見えるか、受け止められるかの理解に欠ける職員の低次元な行動もそうです。確かに給料が安すぎる、人が少なすぎるという苦境は解決されねばなりません。だからといって、育成支援とは程遠い業務をおこなっていい理由にはなりません。また、給料が安い、人がいないという苦境をただただ内輪で文句を言うだけでは、何も変わらない。変えられない。本気で変えようとしなければ何も変わらないのです。

 もちろん、子どもの居場所は学童保育だけではありませんね。児童館だって図書館だって公園だって、いろいろな居場所があっていい。ただ学童保育という分野は、それなりに国民の利用する仕組みとなっていながら、その存在の理解が弱いことが、低賃金や制度のぜい弱さなどをもたらす根源となっているという、私の憂いがあります。この点を一刻も早く解消することこそ、学童保育の貧困を解決していく最も大事な治療法だと私はずっと考えています。運営支援も、平たく言えば、そのために始めた活動でもあるのです。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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