「学童保育の貧困」を憂う。その2。学童保育の貧困を直接的に形成する原因は、あいまいな制度にある

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 「学童保育の貧困」を憂うシリーズの2回目です。前回(1月15日)は、学童保育の意義、意味に対する社会全体の理解が薄いことと、学童業界の内向き姿勢はその裏返しであると述べました。学童保育への理解が薄い状態そのものが、学童保育の貧困の象徴です。(なお、このシリーズでの学童保育は、学習支援系である民間学童保育所を除いた学童保育の仕組みを指します。)

 本日は、学童職員の低賃金などひどい状況をもたらす直接的な原因は、あいまいな制度にあることを憂います。
・学童保育(放課後児童クラブ)は法令上「任意事業」。市区町村には実施義務はない。
・任意事業ゆえ、補助金は少ない。財政事情が厳しい市区町村の学童保育整備がなかなか進まない。

 大きく分けると上記2点になるでしょう。最初の点は、運営支援ブログでも何度も取り上げていることです。放課後児童クラブは、放課後児童健全育成事業を実施する場所のこと。その、放課後児童健全育成事業は、「事業」なのです。保育所は、児童福祉施設です。児童館は、児童厚生施設ですが、児童厚生施設は同時に児童福祉施設に含まれています。放課後児童クラブは、その業務をおこなって初めて存在する「事業」で、その事業をする又はしないも、誰に事業を実施させるのも、すべて任意、つまり市区町村の自由です。保育所は、保育が必要な住民が存在するのであれば、市区町村には保育を提供しなければならない義務があります。しかし学童保育、放課後児童クラブにはそのような義務はありません。法令上の位置付けが貧弱すぎるのです。法令上、あいまいすぎるのです。
 保育所も学童保育も同じように待機児童が問題となりましたし、なっています。保育所は急ピッチで待機児童解消に向け国も地方公共団体も取り組みました。それは、保育を提供することが義務だからです。同じように従前から(少なくとも、私が学童保育に初めて関わった2009年にはすでに学童待機児童問題は大規模問題と並んで最重要課題として語られていました)待機児童が問題となっている学童保育の待機児童は、国はそれなりに解消の旗を振る((新)子ども放課後総合プランや、来年度からの新パッケージ等)ものの、強いリーダーシップと財政措置をもって待機児童解消に取り組んでいるかといえば、そこまでにはなっていません。

 すべては、放課後児童クラブが義務ではないからでしょう。これは所沢市の高野省三氏の調査ですが、2023年度の放課後児童クラブの登録率(小学生の児童数と、放課後児童クラブを利用している児童数との比率)をみると、小学1年生においては児童数950,762人に対し、クラブ利用者数は444,833人であり、実に46.76%となっています。つまり小学1年生のほぼ半分が、学童を利用しています。それなのに任意事業であるというのは、私としては、まるで理解ができない。利用率は学年が上がれば減り、小学3年生は31.37%だったのが小学4年生では16.80%と急減します。それはもちろん、学童保育を利用しない子どもの過ごし方が見つかったからでしょうが、実は施設の限界から小学4年になるとクラブ退所を事実上迫られている実態も強く反映しているでしょう。なにせ、小学4年生の待機児童数は実施状況をみてもわかるように、かなり多いのです。

 補助金の少なさも、この任意事業であることが影響しているでしょう。学童保育の貧困は、補助金額の貧困がその中核です。補助金が少ないことは、職員の賃金水準に直接的な影響があります。同じように、市区町村が学童保育を充実させようとする上での困難な事情を招きます。本来は、学童保育や児童館、ファミリーサポートといった子育て支援の制度や施設には、予算配分を最優先に位置付けてほしい、他の分野を押さえても子育て支援に予算を投入して当たり前の社会(それこそが、こどもまんなか社会)になってほしいのですが、百年河清を俟(ま)つ、では困りますから、市区町村が用意に子育て支援の予算を確保できるように、学童保育の整備に市区町村が負担する予算を少なくて済むように国の補助率を引き上げるべきなのです。現状は、例えば1億2000万円の学童への補助金を市区町村が確保する場合、国:都道府県:市区町村は3分の1ずつ、この場合は4000万円ずつとなります。その負担の割合を変更して、例えば国が8000万円、都道府県と市区町村が2000万円ずつとする、あるいは国は1億円、都道府県と市区町村が1000万円ずつとするなど、期間限定でも良いので、負担割合を変えて市区町村の「尻を叩く」べきなのです。

 ここで気になるデータがあります。「令和4年度子ども・子育て支援推進調査研究事業 放課後児童クラブの運営状況及び職員の処遇に関する調査」報告書にある、収支の状況を都市規模別に比較したデータです。政令市、特別区、中核市、一般市、町村の5つに分けられた調査結果も示されていて、収入を構成する「放課後児童健全育成事業にかかる収益」のうち「補助金もしくは委託料」に、極端な差がでているのです。
政令市 14,228(千円)
特別区 37,541(千円)
中核市 10,784(千円)
一般市 10,106(千円)
町村   8,177(千円)

 特別区の金額が他の市の形に比べて3倍前後に及んでいます。つまり特別区は放課後児童クラブ運営に多額の予算をつぎ込んでいることを示しています。特別区長会事務局が令和4年11月にまとめた「特別区財政の現状と課題」によれば、「令和 3 年度普通会計決算の各種財政指標の状況を見ると、実質収支比率は適正範囲とされる 3~5%を上回り、財政構造の弾力性を示す経常収支比率は78.6%と改善した。また、資金繰りの程度を示す実質公債費比率は、改善傾向となっている」(萩原注:実質収支比率は8.6%)とあり、財政状況は良好です。つまり、特別区は財政事情が良好なので、委託料や指定管理料など事業者に出す補助金の額を増やせるのです。もちろん、大都市圏ゆえの物価高があるので、他の地域と同じ額では運営ができないという状況はあるでしょうが、それにしても中核市の3倍以上の額を出せる財政の余裕があるのです。

 これはつまり、子育て支援の中身の充実において特別区は財政面でカネを出せる余裕があるので有利であり、子育て支援策をどんどん充実させて、他地域からどんどん子育て世帯を定住させることができるということです。そうできない一般市や町村との格差は、ますます広がっていくということです。結局、人口の都心流入の傾向は変えられないということです。特別区は将来もがっちり人口を確保できる「勝ち組」になります。そうでない地域は人口減、やがて消滅都市になる可能性すらあるでしょう。これではいけません。国土の計画的な発展にも、この状況は是正されねばならないと私は考えます。中核市、一般市、町村に対する補助金の負担割合を国は直ちに変更して財政負担を軽減するべきです。

 しかし、私が思うにこうした貧弱な制度、すなわち学童保育の制度の貧困は、前日に記した、学童保育の理解の貧困、学童保育の哲学の貧困を反映させた結果とも言えます。学童保育への理解が薄いから制度が弱い。法的な根拠が弱い。制度としてあいまいな位置付けである。それが結局のところ、学童保育への予算不足となり、学童職員の貧困をストレートに生む、ということです。

 国民の学童への意識が薄い、弱いということを変えるのは難しいですが、制度を先に無理やりにでも変えることで、人々の意識や理解を変えることだってできます。自動車のシートベルトを考えてください。以前は義務ではありませんでした。1985年に、まず高速道路等で着用違反は減点1となり、1987年には一般道でも減点1に、2008年に着用義務化と、しだいに制度が厳しく(規制が強化)されるにつれ、今では「シートベルトは当たり前」という意識が国民に根付いたのです。

 学童保育にも同じようなことができるでしょう。法制度や行政の仕組みを変えることで、学童保育の本質的な意義や意味を広く国民に知っていただける可能性が高まると私は思います。ぜひ、学童保育の制度の貧困を変えてほしい。それは平たく言えば、会議室で、国会の場で、できることです。それぐらい、優秀な公務員や議員であれば、できるはずですから。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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