「何でもあり」の学童保育の世界。児童の健全育成の手法は多彩であって当然ですが、ここまでくると何が何だか?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 学童保育の世界は、とても1つの様式で定義できないことは、学童業界に身を置いている方はご存じかと思います。これから学童保育の世界に関わりたいと考えている人には、ぜひ次のことを覚えてほしいと思います。
・学童保育という1つの形式は、存在しません。
・学童保育と呼ばれるものの世界には、法令に従って行われる事業である「放課後児童健全育成事業」と、それ以外の事業があります。例えば「居場所事業」や、まったくの民間の営利企業による自由な事業(勉強を教える、スポーツを体験させる等)があります。
・世間的には、全部をごちゃまぜにして学童保育と呼んでいますが、本来は別々の目的の事業が、「子どもを受け入れる」という外形が同じなことで、「学童保育」としてひとくくりにされています。
・いずれも、存在しないと、保護者の仕事と育児との両立が困難になります。よって学童保育は、「こどもの居場所を作る」目的と「保護者の仕事やその他の用事を円滑に行わせる」目的があって、前者の「こどもの居場所」には、「そこで健全育成を行う」ということと「勉強やスポーツやその他、事業者が有料でサービスを提供(有償で提供)する」ことに分けられます。

 大きく分けると、「遊びと生活の場」において子どもの成長を支える「育成支援」と、受け入れている子どもに学習やスポーツ、各種体験、アクティビティを提供する、学習塾やスポーツクラブと実際は同種の「サービス有償提供」に区分されるということですね。
 前者の育成支援は、国が法令で定めている事業ですから、実施する場合、市区町村が実施をする事業者に対して補助金を交付することができます。育成支援を実施していれば必ず補助金が交付されるわけでは、ありません。補足しますと、育成支援を行う「放課後児童健全育成事業」(この事業が行われる場所が、放課後児童クラブ、になります。いわばこれが学童保育の本質的な存在です)は、誰でも実施できます。市区町村に届を出せばそれでおしまいです。ただ、届出をしたからといって、市区町村が必ず補助金を交付するとは限りません。市区町村が、自己の地域において子どもの受け入れに必要な施設と認めた場合に限り、補助金が交付されるということです。
 つまり、学習やスポーツを中心に行う施設は、育成支援が主目的ではなく、「本来なら」、放課後児童健全育成事業ではないので、補助金の交付対象とはならない「はず」です。というか、私はそう考えていました。

 「考えていました」という過去形なのは、理由があります。12月21日7時2分配信のSBS静岡放送の記事がヤフーニュースにも転載されて紹介されています。その記事を読んで、「さすが何でもありの学童保育だぜ」と思ったからです。

 まずこの記事に付けられた見出し(タイトル)から。
 「ここに来ると預かるプラス いろいろなことが経験できる」変わる“学童保育”のカタチ ダンスに英語 プログラミングも学べます【現場から、】(以上ここまで)

 変わる学童保育のカタチとして、ダンス、英語、プログラミングが学べるとあります。いわゆる、「民間学童保育所」の内容を指しています。この「民間学童保育所」というのは、先に説明した「放課後児童健全育成事業」を主として行うのではなく、学習やスポーツ、各種体験を提供する施設です。学習塾の延長線上にあると思ってそれほど違いはないでしょう。当然、放課後児童健全育成事業ではないので、国の補助金は出ない「はず」です。

 しかしこの記事に紹介されている施設は、いずれも「民間学童保育所」の範囲に含まれる事業内容を行っていると思われますが、静岡市のホームページには、「児童福祉法による放課後児童健全育成事業の届出済」と紹介されています。

 ということはですよ、補助金が出ているかどうかは分かりませんが、行政当局が、放課後児童健全育成事業の育成支援を主として行う施設ではない、子どもを受け入れる施設についても、放課後児童クラブの範ちゅうに含んでいる、ということになります。

 このことを、どう理解すればいいのでしょうか。国は、塾やスポーツクラブのような事業形態は放課後児童クラブではないので補助金の対象外としています。記事に紹介された施設に補助金が交付されているかどうかは分かりません。ただし、その施設の利用料金を見る限り、利用者の納める利用料だけで運営できるほどの高額な利用料の設定にはなっていません。伝統的な放課後児童クラブ、つまり育成支援を主として行うクラブの利用料よりはやや高いですが、5万円前後になる民間学童保育所よりも低額な設定です。ということは、補助金がある程度、交付されているのではなかろうかと私は想像します。

 それが法令違反だ、ということではありません。補助金を交付する、しないも、市区町村が決めるだけの話です。ただし、放課後児童クラブ運営指針との整合性は気になります。もちろん、あくまで指針にすぎませんから、補助金の交付うんぬんとは関係ありません。

 しかしそれでも、私は気になります。子どもの育ちを支える事業とは、いったい、何なのだろうかと。児童の健全育成、運営指針にたくさん書かれていることは、実はあまり価値があると考えられていないのだろう、子どもが健全に育つことは、勉強もスポーツもダンスもプログラミングも、いわば実用的な知識をしっかり身につけて社会で活躍できる人間に育っていくこと、それが最重要なのだと、社会の圧倒的多数が信じているにほかならないのだろう、と。認知能力の伸長こそ、親も社会も期待しているのだろうと。

 これは価値観の問題であり、概念の問題であり、もっといえば哲学的な問題です。人は、国は、社会は、子どもにどう育ってほしいか、どう育てるべきか、ということの話だからです。一概に善し悪しは決めつけられません。
 また、現実的に保護者のニーズとして、我が子に対して、学習や各種才能を伸ばす機会が欲しいという考えがあるのは当然です。親が子どもをどう育てるかは、それはその親、保護者の考え方であって、そこに法律や国の制度、国の意向が押し付けられることはあってはなりませんから。勉強をたくさんさせたい親がいても当然ですし、勉強はそこそこでいいから誰とでも打ち解けられる社交性のある人間に育ってほしいと思う親がいても当然です。

 その点からすると、静岡市の、いわゆる民間学童保育所の範ちゅうに入る施設を放課後児童クラブとして扱うことも、保護者の視点からすると特に問題はなかろう、となりますね。(なお、これが民間学童保育所である、という概念もまた、制度化ないし固定化されているものでは、ありません。あくまで世間一般的におおよそ区分されているだけの話です。ここでも、学童保育の世界は何でもあり、なのです)

 はっきり言ってしまえば、今までも何でもありの学童保育の世界は、もはや、収まりがつかない、収拾がつかない、すべてにおいてその地域が「これは放課後児童クラブだ」といえばその通りになる、そんな状況にまでなってしまったのでしょう。カオスを通り越した「超カオス」か、あるいはビッグバンが始まる前の宇宙の世界のようです。

 この先、学童保育の世界はどうなっていくのでしょうね。
寿司に例えるなら、昔は「なれずし」が、「すし」でした。今もありますね。鮒ずしです。もともとコメと魚を漬けて発酵させた食べ物です。やがて江戸時代、「早ずし」として、コメに酢をまぶして具と握る形の「すし」が登場しました。今でいう「握りずし」です。
 いま、寿司といえば、握りずしですね。それも江戸前の握りずし。江戸前の握りずしは、コメ1合で10かん、といわれます。なれずしは、ごくローカルな寿司の一つにまでなっています。そのほかにも、押しずし、ちらしずし、いなりずし、巻きずし、たくさんのすしがあります。回転ずしは、施設の形態を指しますが、回転ずしの1かんは、とても小さくて江戸前の半分ぐらいですね。

 学童保育は、もともと、子どもの居場所、預かり場としてスタートしました。実際に子どもと相対する職員が、子どもの育ちを支える日々の業務に専門性を見出し、その専門性を深めていったことから、やがてそれが児童の健全育成、つまり育成支援として結実しました。事業名でいうところの放課後児童健全育成事業の誕生です。ところが、子どもの居場所というスタイルだけは同じである別の事業が生まれ、発展し、いわゆる民間学童保育所として今、隆盛を極めつつあります。
 すしのルーツだった「なれずし」が、今はローカルな存在になっているように、いずれ学童保育所の本質的な存在と目されてきた放課後児童クラブも、いずれは英語や勉強、ダンス、プログラミングなど保護者のニーズを全面的に打ち出した施設に押され、放課後児童クラブは、学童保育の世界の片隅でひっそりと生き長らえる存在に、なっていくのでしょう。なれずしには、根強いファンがいるように、育成支援を行う放課後児童クラブにも熱心なファン、理解者はいるでしょうが、この社会の圧倒的多数は「どの学童に入れようかな、英語系かな、スポーツ系かな、理数系かな?」とその提供するサービスの内容によって選択する時代が、くるのかもしれません。それも、案外早いうちに。

 それでもいいのか、あるいは何かが違うのか。いま、学童保育は、将来を大きく左右する分岐点にいると私は思っています。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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