愛知県津島市の学童保育指定管理者選定をめぐる不可解。市側の説明根拠は不明瞭であり、その姿勢は不誠実だ
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。
中日新聞が12月16日、愛知県津島市の学童保育所(本稿では、放課後児童クラブ)の指定管理者選定をめぐり、学童利用者をはじめとする市民から選定の見直しを求める約5000人の署名と請願書が市議会に提出されたことを報道しました。中日新聞のウェブサイトに12月16日11時59分更新された記事を一部引用します。
「発端は1月、市長宛てに寄せられた2通の手紙。放課後児童クラブの利用料が高いほか、イベントが多く親の負担が大きいという指摘だった。市が調べたところ、周辺自治体では月額の利用料が5千円という自治体もあったが、津島市では1万~1万4千円だった。運営形態に違いがあり、一概に比べられないものの比較的高額になっていた。
このため市は利用料に上限額を設け、事業者を公募することにした。9月に指定管理者の選定委員会を開き、優先交渉権を持つ事業所を全国で放課後児童クラブを展開する「明日葉」(東京)に決めた。現在、市内の放課後児童クラブを運営するNPO法人「放課後のおうち」は次点となった。」(引用ここまで)
この部分を要約すると、今年1月に津島市長あてに届いた2通の手紙の内容で、学童運営に関して不備を指摘されたことから公募することにした、となります。
今回の事案について、指定管理者の公募に踏み切ったきっかけとして、市長あての手紙の内容を市側は根拠としてします。その手紙について、どうも不明瞭な部分が拭えません。中日新聞の記事では、「1月に寄せられた2通の手紙」とあります。さすがに同新聞社が市側に取材をしているものとし、この内容は正しいとみなします。
まず、津島市学童保育連絡協議会はフェイスブックで次の内容を投稿しています。投稿は12月15日21時37分です。一部引用します。
「苦情らしき内容の手紙は5年間で僅か3通。しかも実際の利用者からのものは1通のみ。これで「改善の余地あり」「公募にします」という判断は客観的におかしいのではないでしょうか?
市長が今年度になってタウンミーティングの席や議会答弁で読まれた市の子育て政策を辛辣に批判する内容の手紙は令和3年3月という古いもの。しかも学童保育利用者さんからではありません。
令和5年1月の2通のうち、未就学児を持つ保護者さんが1通が保育料について他市と比較されていました。1通は利用者から、行事や会議の頻度についてです。昨年度まではこの3通のみ。」(引用ここまで)
(追記:同協議会によると、令和3年4月に、施設の立地に関する問題提起の手紙が別にあり、これを含めると過去5年の間に4通となる、とのことです)
情報公開制度で確認した手紙の数ですから間違いないでしょう。気になるのは、好意的な意見を含めて学童保育に関する市長あての手紙の総数が記載されていないのですが、苦情らしき内容は「5年間で3通」であり、「令和5年1月に2通(そのうち1通が学童保護者から)」が含まれるという投稿でした。
さて、市が今年6月から7月にかけておこなったタウンミーティング(TM)では、学童関係者である市民から指定管理者公募について直接、市長や市職員と質疑応答の形でやりとりを行っています。長くなりますが、重要ですので、いくつか紹介します。
「市長への手紙で3通の意見があり、学童保育についておやつ代を含めて 14,000 円と他市よりも高額であり働き方を改めなければならず家計負担が大きいとか、共稼ぎのため多忙で学童を利用しているにも拘わらずイベントが多く保護者への負担が大きいとか、保護者の集まりが多いため学童が使いづらいと聞いている。津島市の子育ては近隣に比べ底辺のレベルであり市に住んでいることを後悔する気持ちであるということであった。この手紙を受けて実態の調査を行った。その結果県下 54 市町村中2番目に学童保育の指定管理料が高いという実態が明らかになった。平成 25 年 3250 万円だったのが、今や1億円であり3倍、これは県下平均の倍である。このことを私は知らなかった。」
「市長への手紙で、あのようなことを言われなければいけないのかと思うくらいの意見を受け驚き、調査を行い、広く門戸を開いて公募とすることに決めた。」
「市長への手紙で3通あったうちの高額であるとかイベントが多いという2件は利用者の市民の声であると思っている。」
「市長への手紙にあった内容は利用者の意見であった。また指定管理制度というのは原則公募で行われるものである。」(この発言は市職員)
ここまで(津島市タウンミーティング(ひまわりクラブ)会議録 日程:令和5年7月2日(日):午前9時 21 分~11時1分)
「夏休み期間単独の学童受け入れについて。こちらは何度もお願いしても、他市ではやっているのに津島市だけはやっていただけない。これは 10 数年前の私の議員時代からあった市民の声を以てのことであり、市長になってからもまっさきにお願いしたが応じてもらえていない。これに対し、市は夏休み・春休み期間の子どもの居場所づくり事業で対応した。これには多くの方の感謝の声があった。夏休みの受け入れについて何度お願いしても応じてもらえなかったので、これを改善していただければと思う。」
「今年1月に学童に関する市長への手紙が3通来た。これは指定管理期間が今年度で終わるからだとも思うが。非公募を改める直接のきっかけはこの手紙である。」
「これを機に私の現在の学童へのイメージが変わり、調査を指示した結果、おやつ代の有無の誤解はあるがやはり周辺市に比べ保育料が高額であることや、夏休みの受け入れ体制の現状がよく分かった。このことは非公募で実施している現状に対して初めて知ったことであり、今回の市長への手紙は利用者の心の叫びであると私は感じた。」
ここまで(津島市タウンミーティング(なかよしクラブ・にこにこクラブ)会議録 日程:令和5年7月2日(日):午後1時 53 分~午後3時 37 分)
「非公募を承認してきた。それを改めるきっかけになったのは、1月に3通来た市長への手紙の内容による。」
「これは利用者の心の叫びであると思い、これを機に実態調査を行った。」
「公募への方針転換は、市長への手紙が直接の原因である。」
ここまで(津島市タウンミーティング(わんぱくクラブ)会議録 日程:令和5年7月9日(日):午前9時 00 分~10 時 33 分)
「マザーテレサが残したとされる「愛の反対は無関心である」という言葉がある。無関心は一番の敵。市がこれだけ情報を発信しても無関心なので間違った情報にも耳を傾けてしまう。皆さんが広報に発信された情報を読んでいれば、このようなタウンミーティングは別個の尺度で開催できただろう。世界中が無関心のなかに置かれている。何事も自分が良ければいいという自分主義が争いを生む。」
「私は、前回も前々回も指定管理は A ランク評価として非公募を認めてきたが、この手紙を受けて調査をしたところ、手紙の内容でほぼ間違いがなかった。」
「市の県下第2位、県平均倍の委託料に対して保育料が近隣市町村の2倍、3倍高いという事実を知った限りは、これは競争をしていただかなければいけないと確信をした。担当課にも資料の内容が正しいのか確認したが、間違いではないとのことだ。どうしてこうしたことが起きるのかわからない。決算書を見せていただければわかるが我々の手元には細かい決算書がない。」
ここまで(津島市タウンミーティング(たんぽぽクラブ)会議録 日程:令和5年7月9日(日):午前 11 時 00 分~午後 12 時 40 分)
「3通お読みする。(中略)これを受けて、調査を行った(以下略)」
「現在への指定管理者の猶予期間については、事前協議として今回の市長への手紙が来た際に現在の指定管理者にも照会をしたが、ほぼ改善策に関してはゼロに近い回答であったと認識をしている」(この発言は市職員)
ここまで(津島市タウンミーティング(あおぞらクラブ)会議録 日程:令和5年7月9日(日):午後1時 58 分~午後3時 30 分)
タウンミーティングでの市長発言から、次のことが浮かび上がります。
・津島市には、今年(令和5年)1月に3通の手紙が来た。
・津島市長は、その3通の手紙の内容に驚き、調査を命じた。
・津島市長は、調査の結果を受けて現在の学童へのイメージが変わった。周辺市に比べ保育料が高額であることや、夏休みの受け入れ体制の現状を初めて知った。
・これまで非公募を承認してきたが、それを改めるきっかけになったのは、1月に3通来た市長への手紙の内容。
・市は、指定管理者であるNPO法人の決算書が「ない」としている。
さて、私が注目している「手紙」に関しては、中日新聞の報道、津島市連協の情報公開請求による照会の結果、TMにおける市長や市職員の発言の結果、どれもが見事なまでにバラバラです。
手紙を重要視するのは、市長が発言で、指定管理者の非公募を公募に変更するきっかけとなったと言明している以上、当然です。であれば、その手紙に関する「事実」は、取材であれ情報公開であれ、市長発言であれ、すべてが客観的に一致していなければなりません。しかし、「いつ」、「何通」届いたという「事実」ですら、アプローチ方向の違いだけでバラバラな結果となっています。
新聞では「1月に2通」。情報公開では「5年間で3通。1月に2通で、うち学童利用者が1通」。TMの市長発言では「1月に3通」。TMで市長は何度も同様の発言を繰り返しています。もし間違っているなら、市長に市職員が事実を告げて修正するでしょうから、開催場所が違うTMで同じことを繰り返すことはないでしょう。間違っていることを市職員は知っていても市長に修正を促さないなら、市職員の職務怠慢です。
いつ、何通届いたかですら、不明瞭です。まして、その内容の取扱いについては、もっと不明瞭です。
仮に、1月に3通届いたという市長発言に沿って考えると、その手紙が届いてから他自治体との比較調査を行ったのでしょう。私も自治体と協働の学童保育所運営事業者のトップを長年務めましたが、自治体担当課が、周囲の自治体の学童保育の利用料や夏季受け入れをしているかどうかの運営実態につき、数値データを持っていないことは、ありえません。持っていなかったとしたら、「いったい、どんな仕事をしているんだ」ということになります。市長に報告しているかどうかは、分かりません。細かいところまで報告はしていない可能性はあります。が、担当課は確実に知っている。知らなければおかしい。担当課は知っていて市長は知らない内容を、指定管理者の公募非公募を決める根拠にされることは極めて残念です。「あなたたち市の内部の情報共有の問題ですよ」と私は言いたい。
さらに、津島市連協の報告では、見逃せないことがあります。「市長が今年度になってタウンミーティングの席や議会答弁で読まれた市の子育て政策を辛辣に批判する内容の手紙は令和3年3月という古いもの。しかも学童保育利用者さんからではありません。」という内容です。
これは、TMの市長発言とは、まったく時系列が異なる重要な情報です。市長がたびたびTMや、あるいは今年6月12日に市議会で、手紙の内容を述べていますが、この手紙を受けて学童の運営状況の調査を行ったとするならば、令和3年3月に子育て政策を批判する手紙が届いて、今年1月に他の手紙が来るまで、先に届いていた手紙の内容を調査もせずに放置していたのでしょうか。これがどうにも不明瞭です。市長あての手紙ですから、「市長が知らないわけはありません」。市長あての手紙なのに市長にその内容が届かない内容で、内容を届けたのが今年1月だったとしたら、2年近くも放置されていたことになります。そうだとしたら、それもまた市側の怠慢です。
結局のところ、市長の手紙というのは、私に言わせれば、「単なる口実」に使われたのではないでしょうか。もともと、津島市の学童保育の運営状況は、補助金額も含めて、行政庁であれば当然、把握していることです。指定管理者の選定替えのタイミングが来ることを事前に承知の上、実は早くから、非公募から公募に変えることを市長以下、津島市は既定路線としていたが、非公募を公募に変える「きっかけ」として、手紙を利用しただけである、と。
そうでなければ、時期が大幅にずれた手紙を根拠にする意味がありません。TMでは、手紙を根拠にNPOに改善照会をしたが、満足する回答がなかったことも公募にする根拠と市職員が発言していますが、「たった2日」の回答期限をもって、非公募を公募にするという重大な路線変更をする根拠の1つにするのは、あまりにも乱雑です。
NPO側にも、もっと市側と「協働、協調」して学童運営を行う姿勢を前面に押し出していくべきであったと私は思います。というのは、次に述べる夏休みの受け入れに関する市の反感を招いてしまったからです。「いやそれは、人手不足でどうにもならなかった」ということがあるようですが、そうであっても、行政のニーズに極力、協力する姿勢は極力、打ち出さねばならないのは、私は身に染みて分かっています。
津島市は、正直なところ、もうNPOに学童運営を行わせたくなかったのでしょう。ならば、そうはっきりと言えばいいではないですか。TMで市長はこう言っておりましたね。
「夏休み期間単独の学童受け入れについて。こちらは何度もお願いしても、他市ではやっているのに津島市だけはやっていただけない。これは 10 数年前の私の議員時代からあった市民の声を以てのことであり、市長になってからもまっさきにお願いしたが応じてもらえていない。これに対し、市は夏休み・春休み期間の子どもの居場所づくり事業で対応した。これには多くの方の感謝の声があった。夏休みの受け入れについて何度お願いしても応じてもらえなかったので、これを改善していただければと思う。」
これは、市長のNPOへの積年の恨みつらみですね。
「マザーテレサが残したとされる「愛の反対は無関心である」という言葉がある。無関心は一番の敵。市がこれだけ情報を発信しても無関心なので間違った情報にも耳を傾けてしまう。皆さんが広報に発信された情報を読んでいれば、このようなタウンミーティングは別個の尺度で開催できただろう。世界中が無関心のなかに置かれている。何事も自分が良ければいいという自分主義が争いを生む。」
津島市の学童保育の内容に無関心な市長と市当局こそ、愛の反対ですね。何事も「指定管理は公募が原則だ。NPOには、もう任せないぞ」という、市長だけが満足すればいいというご都合主義、自分主義とも受け取られかねない一方的な市長の姿勢が、5000人もの反対署名を集めた争いを起こしてしまったと、私は指摘します。これまで学童保育の運営に協力してきた多くの市民の信頼を踏みにじった市長および市当局こそ、不誠実極まりないと、残念です。
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