学童保育所で、子どもへの性的虐待を起こさない仕組み、仮に起こっていたら早期発見に必要なことを考える

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 東京都内の学童保育施設(注:おそらく、民間学童保育所と思われます)で起きた入所児童への性的虐待事件。被害児童への丁寧なアフターケアを事業者が行うことを切に望みます。本稿では、私の経験を踏まえて、学童保育所における児童への虐待行為のうち、なかなか表面化しにくい性的虐待を取り上げます。

取り上げる点は次の通りです。
・職員が子どもに対する性的虐待、また子ども同士での性的虐待を防ぐために事業者(職員も含む)が行うべきこと
・性的虐待事案が万が一起こっていたとして、それを早期に見抜くために行うべきこと

 まず最初の点、つまり「性的虐待事案を起こさないための職場環境の構築」となります。
①組織全体(この場合、運営側だけでなく現場職員、在籍児童などすべての人を含む)で、「性的虐待は最も憎むべき最低最悪の行為」という認識を徹底的に植え付けること。
 →このために必要なのは法令遵守研修並びに虐待防止研修であり、とりわけ性的虐待がどれだけ悲惨な事態を招くか、実例も用いて繰り返し、全ての職員に研修と教育を行うことです。この場合の講師としては、実例に対応したことのある弁護士や、子どもへの虐待予防教育を行う「CAPプログラム」を行う団体等、虐待防止や被害者支援に関わる組織の団体の方が好ましいでしょう。そのような団体に職員を派遣して学ばせることは特に有効です。
 なお、私も実務で関わったことがありますので、この点についてより迫真をもってお伝えすることができます。

②子どもには、「自分が、他人から受けたことで嫌だと思ったことは、すぐに嫌だと言っていいこと」を繰り返し伝えること。
 →多くの子どもは、学童の職員や上級生から受けた虐待行為について、口を閉ざしがちです。自分が言うと、先生や友達に迷惑がかかる、自分がスキがあって悪いからと怒られるかもしれない、等々いろいろな理由を考えてしまい、自分が受けた被害を打ち明けることをためらいがちです。よって、事業者(ことに現場職員)は、子どもたちには、「みなさんは、嫌なことは嫌だよとはっきり言っていい権利を持っているんだよ」と常に伝え続けることです。職員から性的虐待を受けていることを想定するなら、「みなさんが打ち明ける場合は、嫌なことをした以外の大人の職員なら、誰でもいいんだよ」と伝えてください。
 もちろん、クラブに勤務する職員は、正規常勤だけでなくアルバイトの職員(それが例え長期期間だけの学生のアルバイトであっても)であっても、子どもからの被害の訴えについては事前に教わった手順通りに対応することを徹底させてください。責任者に「直ちに」報告すること、仮に加害側が責任者であった場合には、運営本部に報告すること等、事業者は虐待発見と処理手順について明確にマニュアル化してください。子どもには、自己について意見を表明する権利(意見表明権)があることの理解を、全ての職員に徹底させてください。
 特に低学年のうちには、自分がされていることが本当にダメなことなのかの理解が完全ではない場合もあります。「いいタッチ、わるいタッチ」などの絵本でもいいので、「これは、どんなに仲良しであっても、学童の先生であっても、触られてはダメなところ、触ってはダメなところ」という点についての理解を深めることを職員は心がけましょう。

③性的虐待行為の早期発見行動が、すべての職員に課せられていることの理解とその実践。
 →これも正規常勤職員のみならず、短期のアルバイト職員も含めて、特に常態として子どもと接する職員に対して、「みなさんは、自分自身が虐待行為を行ってはならないのと同様、他の職員(や子ども)が子どもに対して虐待行為をしているのでは?という確認、点検の意識を常に持つことが必要」という意識を植え付けて、その意識の下に業務を行わせることが必要です。
 また、施設長やエリアマネジャー級の管理職は、現場クラブを巡回したり応援業務で他のクラブにて勤務する機会を使って、常に不審な様子がないかどうかを確認しましょう。この確認については、「私は業務として、性的虐待を含む児童への虐待行為の有無について、すべての職員の行動を確認しています」ということを当然、全職員が承知していることが必要です。
 上記のような意見には、およそ「職員を疑いの目で見て信頼関係が構築できるのか」という批判的な意見が出ます。私に言わせれば「甘すぎ」です。まず、疑いの目=犯人扱いするという理解が浅すぎます。何か問題はないか、その行為は虐待行為に該当するかどうかのかを考えながら他者の行為を判断することが、どうして犯人扱いと同義になるのか、私には理解できません。自身が何も恥じることが無い行為をしているなら、いくらチェックの視線で見られたとて、何ら困ることはないはずです。同僚として、先輩後輩として、人間性含めて信頼や親しみの感情を抱くことと、「その行動は、アウトかセーフか」を考えることは、まったく別の次元の行動原理です。学童保育で働く人の使命はなんですか?子どもの最善の利益を守ることですよね。そのために必要な行動を、ためらわないでください。守るべきは子どもであって、同僚の信頼や親しみの感情ではないはずです。

④学童保育施設に関して構造的に性的虐待事案が起きやすい場所を把握すること。業務上、性的虐待事案を起こしやすい状況の発生を防止すること。
 →当然ながら、性的虐待事案は加害者と被害者「しかいない」状況で起こりがちです。他者の視野に入らない、あるいは他者が存在しない時間と空間です。これらを極力、潰すことです。具体的には、「施設において、通常、職員や子どもがよくいる場所から目が届きにくい、つまり死角になる場所の把握」を行い、その一覧表を作っておくこと。そのような死角に職員と子どもが向かったときには直ちに確認すること。また、職員と子ども2人だけの状況になることを防止することです。静養室に2人だけという状況は好ましくありません。よほど状況が切迫している(例えばパニックになった子どものクールダウンが必要である、急な体調不良で安静にさせる必要がある等)以外は、2人だけの状況を作ることは好ましくありません。定期的に職員が訪問し、状況を現認することが必要です。
 当然、監視カメラのように映像で記録できる装置を付けることは極めて有効です。積極的に検討しましょう。

⑤採用時には、性的虐待を含むあらゆる虐待行為に厳格に対応していることを明確に伝える。
 →この点はきっぱりと伝えてください。「弊社は、職員相互による点検管理体制を含め、上記のような事態については直ちに警察に届けて厳正に対応します」と伝えることで、万が一、やましいことを考えている者が応募を辞退するような効果も期待できます。

次に、「早期に見抜くために必要なこと」を考えましょう。
①早期発見行動の徹底。
→これにつきます。職員が常に互いの行動を確認しているということを理解していれば、それが抑止力になるのと同様、その早期発見行動によって不審な動きを早期に確認できます。
 どのようなことが職員の不審な動きになるのでしょうか。
・勉強の様子を見る等の理由を作って子どもと2人だけになりたがる
・特定の子どもとばかり遊ぶ、親密である
・接し方や口調など、行動と対応について差がある子どもがいる
・子どもとの身体的距離が近い、あるいは近すぎる特定の子どもがいる
・特定の子どもについてはよく話す、あるいはその逆にほとんど話さない
 上記のような、いつも特定の子(複数の場合もある)を隣に座らせる、やたらと触れ合う、いろいろな行動が考えられます。大事なことは、それらの行動をもし見かけた職員は、責任者(その行動をしているのが施設の責任者であれば、運営本部の者)に通報し、その後は組織的に対応することです。運営組織は直ちに調査確認に入り、時間を極力かけずに虐待行為の有無を判別する必要があります。
 なお、当然ですが、子どもに対する性的虐待は、男性職員が女子児童に、だけではありません。男女は関係ないと考えてください。また、早期発見行動は、子ども同士の事案においても適用することです。

②子どもの表情、反応に注意すること。
 →このためには、上記の意見表明権をしっかり子どもに理解してもらうことと、「保護者には、子どもに、学童で過ごして嫌なこと、うれしくないことがあるかどうかを定期的に確認すること」を依頼することが重要です。子どもの表情を常に見ている職員なら、子どもの表情から何が起こっているかを読み取ることは、難しいにしても不可能ではないでしょう。職員の個人名が話題になったときに拒否反応のような行動を示す子どもがいないかどうかを意識して見てみましょう。保護者からの情報は大変貴重です。保護者には、学童保育施設における虐待防止意識醸成のために、親に対して子どもが打ち明ける、または見せる声や表情が重要な情報であることを理解してもらい、積極的に情報を保護者から吸い上げましょう。

③新採用の職員については、特にその行動に注意する。
 →新採用だけではないのですが、新採用の場合は、特に解雇予告手当が不要となる採用後2週間以内には解雇が容易なため、子どもとの距離感や接し方について正しい知識を伝えた上でもなお、「子どもとの距離が異常に近い」、「スキンシップの度が過ぎる」場合には、遠慮なくその旨を確認して、解雇することをためらってはなりません。
 実際、採用過程の書類審査や面接で、子どもに対する異常な性癖等を見抜くことは不可能です。履歴書で、前職に学童保育所等、子どもに関わる職歴があってその勤務期間が短かったとしても、その理由は様々ですから短い職歴が多いとしてもそれだけで不採用とする根拠にはなかなかなりづらいのです。よって、試用期間中において子どもに関わる態度を徹底的に確認することで、その先の虐待事案の防止につなげるほかありません。
 日本版DBSの制度運用は当分先ですし、そもそも初犯は防げません。日本版DBSは常習犯の採用防止には役立ちますが、あくまで性的虐待の可能性を減らすこと、リスクの一定程度の軽減に資するだけであって、最も重要なのは「うちの組織は、職員全体で子どもへのあらゆる虐待を防止しようと徹底的に取り組んでいます」という組織全体の風潮、社風のようなものを構築することです。そういう組織に、意図的に子どもを狙う人は採用されようとは思わないでしょう。

 性的虐待を含め、子どもへの虐待行為は、「それはありえない」「そんなことはないでしょう」「あの人に限ってそんなことは」という「思い込み」は絶対にダメです。虐待防止の機運も、早期発見のチャンスを潰します。「何が起こっているか、事実があるかどうか」だけが重要です。「絶対にありない」という思い込みは絶対に排除してください。

 子どもの最善の利益を守り育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。外部理事や監事として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能ですし、場合によっては運営陣営に加わってお手伝いもできます。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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