「やりがい」に頼らない学童保育の仕事。しかしモチベーションアップに必要なことを誤解してはなりません。
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育の問題を解決して、運営を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。
学童保育の職場は、低賃金長時間労働という過酷な現実です。そんな中では、子どもの健やかな育ちを支えたいと学童保育で仕事を続けるエネルギーとして「やりがい」をモチベーションに転化させることに頼らざるを得ないのです。それは、学童保育の現場では本来なら真っ先に実現されるべき身体の安全や生活の安定がなおざりにされていることで、「やりがい」という情念に訴えかけて仕事を続けさせていることにほかなりません。それこそが「やりがい搾取」の正体です。
では、「やりがい」というモチベーションをアップさせるためには、前回紹介したマズローの欲求5段階説のうち、下層の2段階(生理的欲求と、安全の欲求)を充実させればよいのでしょうか。私の考えでは、「否」です。正確に申し上げると、下層の2段階を完全に実現させることは必須の前提条件として、さらに次に紹介するようなことも取り入れる必要があると、私は考えています。
それは、「仕事の専門性に関する向上心、探求心、自己のスキルアップ」です。
19世紀の米国の心理学者、ハーズバーグが提唱した理論に「動機付け・衛生理論」と呼ばれるものがあります。古典的な人間関係論ですが、今なお十分に通用する基礎的な理論です。分かりやすく説明すると、労働者は仕事への不満が解消されても、それだけでは質の高い仕事に取り組むようにはならず、質の高い仕事を実現(=生産性の高い状況に変わる)するには、仕事の「満足度」を高めなければならない、というものです。
前者の「仕事への不満」に関する部分を「衛生要因」(賃金、雇用労働条件など労働に関する諸条件)とし、後者の「仕事への満足度」を「動機付け要因」(仕事への責任感、向上心)と分類しています。言い換えるならば、ある職場で働いている人たちが、質の高い仕事を実現するようになるには、「衛生要因の改善では効果が無く動機付け要因の充実が必要」である、ということです。
具体例を考えてみると、納得できると思います。つまり、仕事への不満の多くは「低い給料」だったり「業務時間の長さ」だったり「上司や同僚、部下を含めた職場での人間関係」や「外部対応」に関するものでしょう。それらは、完璧に解消されることがあるでしょうか?給料の手取り額が15万円だったものが翌月に20万円になると、その月や当分の間はうれしいでしょう。でもそれが1年も2年も続くと「20万円では安すぎる」と、新たな不満に変わっていくことは、容易に想像できませんか?8時間の勤務時間が7時間30分になっても、しばらくすると「同じ給料でもっと短くしてほしい」と思うようなるでしょう。
中国の故事で「隴(ろう)を得て蜀(しょく)を望む」という言葉があります。西暦1世紀の当時の中国(後漢時代)の時代、隴という地域を占領した皇帝が、さらに奥地にある蜀という地域を占領したいということを皮肉ってできた言葉で、つまりは「人間の欲望には限りがない」ということです。不満が満足になっても、いつかその満足は不満に変わるものなのです。
つまり、衛生要因を改善しても、それだけではそこで働く人たちの仕事のレベルアップにはつながらないということです。これは多くの学童保育運営組織が誤解しています。給料さえ上げれば職員が満足して離職が減るだろうと思っても、そうはならないはずです。相変わらず、離職する職員は後を絶たないはずです。職員が長く仕事を続ける=仕事に満足している=高い仕事の質の状態あることを実現するには「動機付け要因」こそ重点的に強化しなければならないのです。では、どうすればそれが可能になるのか、「やりがい」という仕事へのモチベーションアップを実現するには何が必要なのかを、次回以降に考えていきましょう。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育という職場で行われる業務の質の向上、職員の生産性向上についての提案を発信しています。学童保育の運営に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った運営の方策についてその設定のお手伝いすることが可能です。
育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。
子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。
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