放課後児童クラブ(学童保育)の利用を始めた保護者に、どうしても知ってほしい2点。「遊び」と「大規模」

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。この4月になって初めて「学童保育」を利用する保護者に、どうしても知ってほしいこと、伝えたい2つのことを、本日の運営支援ブログで紹介します。
※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

 <「遊び」は成長でとても大事です。遊び=サボる、ではありませんよ>
 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の入所申込みや入所手続きをしているとき、市区町村やクラブ運営事業者が出している資料に目を通したことと思います。その資料に、「子どもが遊んで過ごす」というような文言があったかもしれません。またそれを見て「遊ぶより勉強してくれたらいいのに」と、少々不満を感じた保護者さんもいたかも、しれません。
 遊びより勉強、学習の時間がもっとほしい、子どもにはしっかり勉強してもらって少しでも頭がよくなって、いい学校に入って社会で苦労しないでほしいという親心は、当然あるでしょう。

 でも、待ってください。こう考えてほしいのです。小学生として過ごす時代、時間の価値について「遊び<勉強」が絶対的に正しいということではないのです。「遊び≦勉強」または「勉強≦遊び」と、考えてほしいのです。(どちらを選択するか、正しいと思うのかは、それぞれの子ども、保護者の考え方や価値観によるでしょう)

 なぜ遊びと勉強が同じ程度に価値があると考えるのか。それは、「遊びによって、子どもは、人間に必要な能力を身に着けていく」からです。遊びは、人間力を高めるのです。私が適当に自説を主張しているのではありませんよ。国が、有識者を大勢集めて時間をかけて取りまとめた「放課後児童クラブ運営指針」というものがあります。これは、国(当時の厚生労働省)が、放課後児童クラブの業界に向けて出した通知です。指針なので違反したら罰則があるという強制力があるものではありませんが、「この内容を参考にして、児童クラブを運営してください」と、国が示したいわば「児童クラブ運営のお手本」です。
 その運営指針に、こう書いてあります。
「放課後児童クラブでは、休息、遊び、自主的な学習、おやつ、文化的行事等の取り組みや、基本的な生活に関すること等、生活全般に関わることが行われる。その中でも、遊びは、自発的、自主的に行われるものであり、子どもにとって認識や感情、主体性等の諸能力が統合化される他に代えがたい不可欠な活動である」(第2章4.児童期の遊びと発達)
 一言で言えば、「秀でた人間になるには、遊びを通じて得られる能力が大事」ということです。つまり、遊びで得られる、身に着く能力は人間としての可能性を高めるものであって、勉強や学習をする際にとても役立つのです。

 なぜ遊びが、秀でた人間になるのに役立つのか。遊びを通じて得られる能力ってそんなに大事なのかと、まだ疑問に思う方も多いでしょう。遊ぶ時間を少しでも削って、早く九九を覚えたり漢字を1つでも、英単語を1つでも早く多く覚えてほしいと思う保護者も多いでしょう。ところが、何度も勉強や宿題をするように声がけしても、なかなかやってくれない。自分から進んで勉強なんて、なかなかしてくれない。それは、子どもの心の中に、「勉強が楽しいからやりたい」というのではなく「勉強は大事なことだから、楽しくない時間だけど、やらなきゃ!」という気持ちが少ないからです。楽しくないことでも、いやなことでも、「大事なことだから、やらなきゃ」と取り組む気持ちが育つと、勉強やお手伝いでも、子どもはやってくれるようになるのです。
 それこそ、実は遊びを通じて育っていく姿勢なのです。「主体性」や「進取性」が育っていくのです。「いま、自分はこれをやらなきゃ。だから、今はゲームをやらないで、これをやろう」と、自分の考えで判断できるようになるのです。「自分はこれをしたい、でも今は、ママが、パパが、友達が、先生が、こういうことになるととても喜ぶ、とても良い状況になる。だったら自分は今、これをしよう」と、他者がとても助かるようなことを、自ら選択して行うようになります。社交性が育っていくのです。

 児童クラブでは、子どもが大人(いわゆる社会人ですね)に向けて育っていく過程において、将来、身についておくことが必要な能力、コミュニケーション能力や主体性、自己肯定感(失敗を繰り返しても乗り越えて前進していこうとするチカラ)を、子どもたちが遊びを通じて、徐々に身に着けていくのです。つまり、児童クラブで子どもが遊べは遊ぶほど、大人として必要な能力が徐々に育っていくのです。それはやがて、中学生や高校生になったとき、「まあ、今は勉強するか!」とか「受験勉強、乗り切ってみせる!」という、難しい学習や勉強に進んで取り組む姿勢を実現するための土台を、育てていっているのです。この土台のことを「非認知能力」といいます。

 学童で遊んでばっかり!と、不安に思ったり怒ったりしないでくださいね。遊べば遊ぶほど、将来、世の中で、社会で、勤め先で、しっかりと自分を大事にして活躍できるような能力を育てていっているんだと、長い目でみてください。
 なお、もちろんですが、遊びと勉強を比べるときに示した式には、「≦」や「≧」ですから「=」も入っています。学習も、勉強も、もちろん大事ですし、保護者の子育て方針によって、「遊びも大事だけど、どちらかといえば学習面に力を入れたい」と考えることも、その逆に「勉強は大事だけど、小学生のうちはめいっぱい遊んで過ごしてほしい」と思うことも、どちらも間違っていないと、私は思います。それはそれぞれの家庭の判断ですから。絶対に「勉強<遊び」ではないのです。
 低学年であってもある程度、学習の習慣を身に着けることは重要です。むしろ、あまりにも遊びに偏り過ぎている児童クラブが多いので、私は「もう少し、学習の時間を増やすべきだ」と考えています(これは極めて少数派の意見ですが)
 また、「遊びより勉強したーい!」という子どもには、どんどん勉強させていい、むしろ勉強させなきゃと思います。100人の子どもがいれば100通りの育ち方があり、育て方があります。ただ1つだけ、「遊びは無意味、無駄な時間ではない」ということをぜひ理解してほしいのです。なぜなら「将来、大人になるときに、あるいは大人になった時、子ども時代にたくさん遊んだ時代に無意識に身に着いた能力が役立つから」なのです。

(そして、その子どもにとって重要な遊びを、子どもの成長という観点から考え、子どもたちに取り組ませるように支援、援助する仕事が、児童クラブの職員の仕事です。「育成支援」という子どもの育ちの専門的な観点から、子どもと遊びの関係を考えて実践しています。児童クラブの職員は、「ただ子どもと遊んでいる」のでは、ないのですよ。それは誤解しないでください。「今、うちのクラブにいる子どもたちは、こういう遊びをして、こういう方面を伸ばしていこう」などと考えて、遊びを取り入れているのですよ)

 本日の2点目は「大規模」です。「だいきぼ」とは何か。児童クラブの世界の大規模とは、「クラブに入所している児童数が大変多く、子ども1人あたりのスペースを考えると、とても狭く、施設内に子どもたちがギュウギュウ詰めで、そこで過ごす子どもたちが常にストレスを抱えて過ごしている」ということです。満員状態のエレベーターや通勤電車、バスの中を想像してください。そのような環境で、放課後、親が迎えに来るまで子どもが過ごしている状況、ということです。それ、耐えられますか?
 クラブで宿題をしたりおやつを食べたりするとき、もう隣同士がぶつかりあうほどギュウギュウ詰め。子どもたちの声で室内はとてもうるさく、難聴になりそう。イライラが募った子どもたちがあちこちでケンカしている。そんなひどい状況を「大規模学童」といったり「大規模状態のクラブ」と言ったりします。数値的には、「こども1人あたりのスペースが1.65平方メートル確保されていない状態」となります。(この1.65平方メートルとは、クラブにおける、子どもたちが過ごす場所の面積を、入所児童数で割った数値です。子ども1人あたり最低限必要なスペースとして考えられている数値です。1坪=3.3平方メートルですから、1坪に子ども2人という考えです)

 つまり大規模のひどい点はこういうことです。
・子どもが、常にイライラしている。ストレスがとめどもなく増加する。
・トラブルが多発。あちこちでけんか
・クラブに行きたくなるなる(行き渋り)
・宿題もろくにできない。
・職員は子どもたちの対応にとても手が回らない。目の届かない子どもが増えるのでさらにトラブルが多発する。
・職員が疲労のあまり、仕事を辞めてしまう。ただでさえ少ない職員の人数が、さらに減る。また突発性難聴など病気になる。

 「そんなにひどい状況だったらすぐに解消すればいい」と思われるのですが、残念ですがそう簡単ではありません。市区町村も、まともな地域であれば必要な施設を増やそうと努力しているのですが、クラブに入所を希望する児童数の増加が激しいので、整備が追い付かない地域があります。実のところ、少子化だから数年我慢してもらえば自然に大規模状態は解消するからと、クラブ数を増やそうとしない市区町村も多いのです。だからもう何十年も昔から「大規模状態はひどい!」と、児童クラブ側から声を上げていても、いまだに大規模は解消しないのです。

 小1の壁という、子育て世帯を苦しめる状況があります。新1年生が児童クラブに入所できない状況は小1の壁の1つです。小1の壁を解消するため「入所希望者は全員、入所させる」という手法があります。その結果、待機児童は0人になりますが、結果的に、子どもがギュウギュウ詰めの大規模クラブが誕生することにつながります。
 いま、多くの地域で「全児童対策事業」という仕組みが導入されています。待機児童を0人にするために、午後5時ごろまでは希望する児童は誰でも利用でき、それ以降も利用できるという仕組みです。入所制限がないため、大規模問題がおおむね発生します。「学童の待機児童が出る状況」より「大規模になっても、待機児童を出さない」という局面を選択した結果といえます。
 私も、待機児童こそ絶対的に防ぎたいので、待機児童を出さないがゆえの大規模状態発生については、やむを得ないという立場です。「ただし、その結果として発生した大規模状態は必ず年度内に解消すること」という条件を付けます。放置してはダメなのです。ところが、何年も大規模状態を放置している地域ばかりです。

 保護者のみなさんには、「うちは待機がなくて良かった」ではなくて、「クラブに子どもが大勢いるけれど、問題なく過ごせているかしら。ストレスがたまっていないかしら」と、クラブで子どもたちがどのように過ごしているかについても、ぜひ興味と関心を持ってください。
 何より大規模状態では、子どもたちが立派な大人に育つために必要な「遊び」も十分に行えない、、満足に体験できないのです。

 子どもを学童に預けっぱなしでそれでOK、ではないのです。こどもが、クラブでたくさん、いろいろな遊びを経験できているかな、大規模でつらい状況に陥っていないかどうかを、保護者さんはぜひ、気にしてくださいね。子どもたちがクラブでどう過ごしているかを知ることは、保護者としての大事な責任、ということです。

 運営支援を行う日本唯一の組織である「あい和学童クラブ運営法人」は、放課後児童クラブ(学童保育)の世界をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。

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