あえて言おう、保護者由来・非営利法人の放課後児童クラブ運営事業者の弱点は「スピード感の無さ」であると

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 私はかつて保護者会を由来とする非営利法人のトップとして長年、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の組織経営、事業運営に取り組みました。学童で働く職員の、あまりにもひどい雇用労働条件を何とか改善したい、それが学童の事業の中身を良くすることだからという一心で取り組みましたが、何に一番手こずったかといえば、スピードです。

 そうです。スピード感が遅いです。何をやるにしても。これは自組織だけではなく、同じように学童業界に多い、非営利系の法人にまんべんなくあてはまります。とにかく、何でも遅いのです。例えば次のようなことが遅い。
・問い合わせや照会事項への回答、返事
・連絡事項をメールしたときの反応
・運営上の課題があったときに解決に取り組む速度。「ではその件、今月の会議で議題にしますか」(おいおい、その会議って2週間先だぜ!2時間後だって遅いのに2週間もたなざらしってか!)
・解決すべき課題を会議の議題で取り上げたものの、ああだこうだと意見を出し合い現状に文句や不平不満を言うだけで盛り上がって終わり、肝心の解決手法を見出す作業をしないまま会議が終わる。「文句を言い合ってすっきりしたのか、解決した気分になっている」。

 これらのスピード感に関するいらだちは、次のようなことが原因だと私は思っています。それは、「この課題、このトラブルを解決する最適なタイミングはいつごろか、ということを考える習慣がない。つまり、課題やトラブルが事業体経営や事業運営に影響する脅威の度合いの測定を行う思考回路を持ち合わせていないので、どのタイミングで課題やトラブルを処理すればいいのかも考えない」ということです。

 この課題、トラブル、あるいは他者から依頼された案件について、「いつまでに」取り組んで要件を済ませればいいのか。常にその尺度を考えて行動することが、経営者や事業執行を担う者にとって必要な思考回路です。その思考回路が、保護者会由来の学童運営組織に関わる人は、どうもあまり機能していないというのが、私の体感です。

 それはおそらく、保護者会由来の運営手法によるものが影響しているでしょう。保護者会そのものは当然、保護者会由来の学童運営組織は、なにせ運営に関わる人たちは現役保護者やOB保護者であれ、いずれも非常勤です。専任で学童運営に取り組んでいません。つまりはっきりいえば「片手間」です。本業や家庭の時間をやりくりして、つまり余裕の時間を生み出してその時間に学童運営に関わっているといえます。種々の会議やイベントに参加するときも、(時には年休を充てることもあるでしょうが、ほぼたいていは)本業を優先して生活します。つまり、学童関係で何か課題やトラブル、依頼された要件があってもそれは「空いている時間、やりくりして生み出せた時間」で処理する構えになります。本業を差し置いて、本業をそっちのけで「学童関係の案件を先に処理しよう」という思考回路になるわけはありません。つまり、学童関係は二番手三番手。それは非常勤という関わり方からすれば、むしろ当たり前のことです。常に真っ先に課題やトラブル、案件に向き合うのは「常勤、専任、専従」という、学童の業務を生業にしている人が担うことだからです。決して、非常勤で関わる保護者がダメだとか、悪いのではありません。そういう土壌が、今も非常勤の(OB)保護者の学童運営者にはありますし、それが専従や専任になっても保護者由来の組織には、まだ色濃く残ってしまっているのです。

 事業体の経営は、常に事業の継続を脅かすリスクを軽減させること。その意識が徹底していれば、たとえ休日や日曜日であっても臨時に会議を開きます。平日の夜であっても職員を緊急招集して対応します。ところが学童業界は変に真面目な方が多いので「いま会議を開いたら時間外手当が増える」「職員の休みに仕事をさせてはいけない」と目先のルールにこだわりがちです。違う、そうじゃない。大事なのは「事業者が存続できること、存続し続けること、引き続き学童保育という大事な事業を任せてもらえること、そのために信頼を勝ち得ること」なのです。課題やトラブルがあったとき、それに直ちに取り組んで解決の糸口を見いだせない事業者は、行政や市民保護者からの信頼は、得られません。「新たに会議を開くのは面倒。しかも一度決めたことだし。次の会議で検討すればいいや」というスピード感がない、脅威の度合いを測れない、そのような感覚が苦手の保護者由来の学童運営組織は、どうなるでしょう。

 答えはいずれ明確に出ます。あちこちで、「通常の企業」である営利の広域展開事業者による放課後児童クラブの運営が増えていますね。指定管理でも、公募型プロポーザルによって選ばれた事業委託でも。それらはまだ、公営クラブや、運営疲れで運営をあきらめた保護者会等のクラブを引き継いでいるケースが多いですが、いずれは、事業執行の安定性や確実性を評価の要素にされ、非営利の法人による運営クラブは軒並み、営利の広域展開事業者による運営にとってかわられると、私は予想しています。特に日本版DBSや事業運営における第三者評価、事業安全計画、事業継続計画(BCP)において、いわば「企業経営の素人」である非営利法人は、営利の広域展開事業者に太刀打ちできません。そのような事態を招かないための対応、つまり非営利法人の勢力結集は今がラストチャンスですが、そうとは認識されていないようで大変残念です。

 スピード感の無さ。特に日本版DBSについては、クラブを運営する非営利系の動きが致命的に遅すぎますね。「まだ国が詳細を明らかにしないから仕方がない。明らかにされてから勉強するか」とでも思っているのでしょうか。具体的な仕様は明らかでなくても、ルール面やハード面(データ保存や管理に関する仕組み)、認証の獲得方法については一般的な対応手法を構築しそれを強化すれば対応できるものでしょうから、直ちにそれらの取り組みに着手するべきなのです。ややもすると、制度の意義や子どもの権利をどう守るかという、現場の職員が好きな話題への取り組みに終始してしまうのですが、それはそれとして、実務上の取り組みにおける困難を取り除くための下準備に着手しておくことこそ、スピード感のある取り組みです。それができなければ、ごく当たり前に組織的に対応する営利の広域展開事業者には到底、かないませんよ。

 どこかでひっそり、こじんまりと1つのクラブを運営するだけで良いなら、補助金もアテにしないで運営するのなら、のんびりとしたクラブ運営で問題ありません。ですが、それなりのクラブ数を、それなりの職員を雇用して営む事業であれば、事業主は、スピード感をもって組織経営に取り組みましょう。学童運営、クラブ運営は「ビジネス」です。ビジネスは、スピード感が重要なのですよ。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。

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