学童保育の指定管理者選定の問題点(下)。提出資料で「他地域の運営実績が良好」と判断されることを覆せ!

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 学童保育所(放課後児童クラブ)が、営利広域展開事業者によって指定管理者制度で運営されるケースが増えていることを取り上げています。前日(1月26日)は、以下の点を記しました。
・公募によって指定管理者を選定するにあたり、審査基準や審査項目においてすでに地域に根差した放課後児童クラブ運営団体が不利になる項目がある。法の下の平等に反しており問題だ。
・放課後児童クラブにとって最も重要な育成支援の充実の観点より、事業者の規模が大きいことが有利になる財政面や人的管理面に配点が偏っている。

 本日は、審査基準や審査項目において、配点が重視される「他地域の運営実績」について考えます。

 前日のブログでも触れた福島県郡山市においては、営利広域展開事業者が選定されています。市役所のホームページには選定理由が以下のように掲載されています。
「審査の結果、提案内容は「施設の効用の最大限の発揮」「管理を安定して行う人的、物的能力その他経営上の基盤」「適切な施設の維持管理」「雇用及び地域経済への配慮」が優れ、業務仕様書に示した要件を満たしている。
特に、人材確保については、現給保障をはじめ、現在勤務している職員の継続雇用を最優先に考えているとともに、多様な研修機会や長期的なキャリア形成の見通しなど、具体的で実効性のある提案内容が示されている。
また、法人本部のバックアップ体制が整っており、具体的な実践例から、配慮を必要とする児童や保護者への支援に対する柔軟な対応が期待できると認められる」(選定理由から抜粋。引用ここまで)

 また、高松市においては、選定結果は公開されていますが、その理由についてホームページでは見つけられませんでした。(この点、問題があります)。令和5年12月26日の高松市長の記者会見にて、市長が記者からの質問に答える形で次のように説明をしています。
「放課後児童クラブの運営の一部を、民間委託することにつきまして、今回、公募した結果、11月10日付で委託契約を締結したところでございます。
 来年度からの運営ということでございますが、受託者と協議を進めているところでございまして、今、お話がございましたように、多くの保護者から要望をいただいておりました、長期休業期間中におけるお弁当の提供、夏休み等におけるお弁当の提供を行うとしたほか、連絡方法に、ICT化をできるだけ活用するということで、また、それに加えまして全国のクラブと、リモートで交流する新たな企画なんかも提案がなされたようでございます。このような多彩な児童の活動児童プログラムの実施も予定されていると聞いています。
 また安定的な人材確保、これが一番大事ですけれども、放課後児童支援員等の処遇に対しても、改善することといたしているということでございます。従いまして、私といたしましては、この度の、民間委託で放課後児童クラブの質の向上や、あるいは待機児童の解消につながってほしいと思っておりますし、そうすることによって、利用を希望する全ての児童が、この放課後児童クラブに入会ができ、遊びや生活を通じて、健やかに成長できるような、安全安心な放課後児童クラブとなることを大いに期待をいたしているところでございます。」(引用ここまで)
 市長の発言からは、「安定的な人材確保」について、処遇を改善することを指定管理者が約しているというように読み取れます。賃金を上げて職員の雇用を確保するということでしょうか。

 そして愛知県津島市です。こちらは選定理由がホームページで公開されています。
「施設の設置の目的を効果的に達成するものであること、また運営に対する考え方や収支計画の内容が適正で、継続的に安定的な管理が可能となる人的能力及び経理的基盤を有しており、他自治体での運営実績等にも問題はなく、指定管理者として円滑に事業運営ができるものと考えられる。」(引用ここまで)
 つまり、他地域で問題なく運営しているから、ウチでも大丈夫。運営も安定的な管理が可能な人的能力、経理的基盤がある。人とカネで問題がない、ということなのでしょう。

 さて、以上のことですが、本当にそうでしょうか。私は不思議に思います。もちろん、選定に当たって提出する資料においては、完璧な事業計画や管理体制を提示しているのは当然です。わざわざ、「あちこちで人手不足で、未経験の人を雇ってすぐに管理者にしている地域もあります」「職員が足りないので、あちこちから応援で人を回しています」など、日本のあちこちの営利広域展開事業者が直面している問題を、わざわざ馬鹿正直に資料に盛り込むはずは、ありませんから。

 これが問題です。当たり前ですが、選定委員は、提出された資料およびヒアリングでの質疑応答をもってのみ、審査を行います。それ以外の情報は使いません。ということは、「うちは、こんなにすごい会社なんですよ」というアピールに沿った内容の資料や、質疑応答でのやりとりのみをもって選定委員は選定するのです。選定委員が、仮に、メディアの報道で、営利広域展開事業者が人手不足で苦境に陥って配置基準すれすれの状況で多くのクラブを運営しているという事実を知っていたならば、「おたくの会社は、報道によると欠員がひどくて毎日、日替わりで職員をあちこちから派遣してしのいでいるんだって?」ということも質問できたでしょう。しかし、そのような事実が知られていない、耳に入っていない限り、提出された資料とウチは大丈夫というアピールでしか、選定委員は判断しえないのです。

 これは極めて重要です。営利広域展開事業者が人手不足なのは学童業界の常識です。求人広告をネット検索してみてください。実の多くの地域で職員を募集していますよ。自社のホームページでももちろん募集しています。それだけ、職員が足りていないのです。

 それなのに、「継続的に安定的な管理が可能となる人的能力及び経理的基盤を有しており」(津島市の場合)なんて、評価されるわけです。学童の人手不足は営利だろうが非営利だろうが、関係なく、どの地域もどの事業者も苦しんでいます。その人手不足の最たるものが、都内で発覚した非営利の広域展開事業者による虚偽報告事案でした。連日、日替わりでやってくる職員によって、質の高いクラブ運営ができるものでしょうか。

 放課後児童クラブの運営の質を重視したいのであれば、関係者は、メディアに積極的に情報を公開し、報道してもらうことです。有資格者の配置基準がもし達成できていなかったら大問題ですし、有資格者はいても実はその人は他地域のクラブの職員で急遽、休んだ職員や欠けた職員の穴埋めでヘルプで応援でやってきた職員で当該クラブの子どもは誰1人として知らない、というような状態にあるとしたら、それも問題です。本当は職員体制が安定していないという「事実」があるのであれば、そのような情報を積極的に世間に知らしめることが、放課後児童クラブにおける営利広域展開事業者が陥りがちである、質の低い運営が全国に広がっていくことにブレーキをかける効果的な手法なのです。「こんなひどいクラブで、こどもがかわいそう」と思う職員は、その実体を堂々と勇気をもって、世間に知らしめるべきです。例えば、職員同士で結成した組織で運営側と改善を目指して協議し、その結果を保護者や社会に公表する。あるいは組合という組織を利用して運営側と協議してその結果を公表する。運営側が協議に応じないなら、その組織名をもってSNSに公表する。もちろん、弊会に連絡してくれても構いません。弊会がこのサイトで公表します。

 目に見えない、耳に入ってこないことは、事実ではありません。しかし、報道されたり話題になったりすれば、その情報を基に、選定委員がヒアリングの場で問いただすことができるようになります。その結果、「なんだ、人手不足で困っているってことだね」ということが分かれば、その先は選定委員がどう判断するかです。

 いいですか、「こんなにひどい運営をして、こどもがかわいそう。職員だってもう困り切っている」というのであれば、それを改善することが、学童で働く者の務めです。こどもの最善の利益を守るために、「告発」するのが、学童で働く者の務めです。それをしないでいたら、しなかった人も、私から言わせれば「同じ穴のむじな」です。ひどい放課後児童クラブが広がっていくことを無言の協力で手助けしている共犯です。

 もちろん、その逆だって大いにありです。「こんなに素晴らしいのですよ!」ということだって、どんどん広めてください。地域に根差した放課後児童クラブ運営団体が必ずしも絶対的に優れた組織であるはずは、これっぽっちもありません。保護者に運営責任を負わせる、職員の賃金や手当の改善の必要性をなかなか理解しない、組織の運営体制が任意団体レベルで情報管理も不完全である、という非営利の運営団体は、それこそ消滅して当然です。

 私は、営利広域展開事業者がこの数年で急拡大しているのは、実際の現場で繰り広げられている悲惨な状況が、ほとんど世間に伝わっていないからだと考えています。提出された資料だけでは、もともと、規模の大きな会社に有利な審査基準や審査項目を市区町村が設定してくれているのだから、指定管理者に選ばれて当然です。現実が広く認知されることが、公平な選定の第一歩です。学童業界の団体も、実際に働いている人も、この点をしっかり踏まえて勇気をもって取り組んでください。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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