学童保育の実務上の難問を考える:アレルギーへの対応(中)

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 学童保育所(放課後児童クラブ)の運営に立ちはだかる多くの難問、難しい課題。これからいろいろ取り上げていきますが、まずアレルギーを取り上げました。前日(1月23日)は、総論的なことをつづりました。
・アレルギーの子どもは増えている。
・アレルギー対応のマニュアルは必ず作成すること。それ独立のマニュアルにするべし。
・マニュアル通りの対応ができるかどうかが重要。
・アレルギーを軽視する保護者は残念ながらかなりいる。
・現状、アレルギー対応(除去食)などに対応した設備にはなっていない。

 本日は、運営支援的に推奨するアレルギー対応の体制づくりを考えてみます。

 〇ルール、規定、マニュアル作り
 策定が必要なルール類は以下のようなものがあるでしょう。
・アレルギー物質(服用中の薬の関係で摂取してはいけない食物等を含む)の誤提供を防止する育成支援の実務マニュアル
・アレルギー物質誤提供等による健康被害発生時の対応マニュアル
・入所申請時に入所希望保護者へ交付する、学童保育所でのアレルギー対応の手引き
・入所希望保護者が入所申請時に事業者へ提出する同意書
 これらの書類は、実際に育成支援の実務に携わっている職員の意見を十分に聞いて事業者が作成します。作成するメンバーに育成支援の実務に携わる職員を加えることも良いでしょう。ただし肝心なことは「バランス」です。事業者だけが都合の良い、やりやすい内容は必ずしも現場の育成支援において整合性が取れるものではないですし、その逆もまたしかり。子どもの健康被害を極限まで防止できる、アレルゲン誤提供の発生リスクをできる限り抑えられる条件は緩めてはなりませんが、その結果として、運営上に支障がある、保護者に一方的な負担を強いるような内容であっても困ります。組織運営上も、育成支援情も、双方が「これなら日常的に運用できる」というバランスが整ったルール類を策定しましょう。

 アレルゲンが多数に及び、かつ、重篤なアレルギー症状が出る子どもには、学童保育所で調理提供するおやつを食べさせられないことはやむを得ません。その場合は、おやつ代金を返金して家庭からおやつを用意していただくことが一般的でしょう。保護者の時間的負担が増すことになります。もし他に手段があるなら、例えば宅配や通販で購入できるおやつがあるなら、定期的に、学童保育所に配達されるような仕組みが取れるとよいでしょう。大事なことは、「子どもの生命を守る」ことは当然ですが、それに加えて「保護者の時間的負担を軽減する工夫も同時に考える」ことです。学童の世界は、そのプラスアルファについて考える思考能力が弱いのです。

 また、発症時に重篤なアレルギー症状(アナフィラキシーショック)が出るおそれのある子どもが在籍している場合、その子のアレルゲンに関わる食材を学童保育所内に持ち込むこと自体を行わないことは効果的です。例えば、クルミや、そば、魚卵、また免疫抑制剤の関係でグレープフルーツなど、それらの食材がなくても、おやつのメニューについて特に支障がない場合は、それらのアレルゲン等を購入しない、あるいはそれらを使ったおやつ、菓子類そのものを購入しないことは効果的です。

 上記のことも、しっかりマニュアル類に明記することです。また保護者にもしっかり伝えることです。

 その保護者ですが、重篤な場合のおやつ持ち込み等、保護者に順守していただきたい事柄について、同意書を入所申請書類の中に含めるべきです。同意書を提出しない場合、学童保育所の入所を認めないことを、行政当局と調整のうえ、実施するべきです。当然、常識的な内容ですから、あえて不同意とする方はいないでしょうから行政当局もダメとは言えないでしょう。尚、同意書には、しっかりとおやつ代の支払についても契約上の義務であることを記載しておくべきですね。

 保護者には、アレルギー症状が最悪の場合、子どもの死亡に至ることを、過去の事実を踏まえてしっかりと伝えるべきです。入所の案内書類に、分かりやすい書面を配布しましょう。子どもの命を守るために学童保育所は最善を尽くしますが、それは保護者の理解と協力がなければ不完全であることを伝え、保護者の責務として病院による検診や、アレルギーに関する最新情報の提供を保護者の責務として通知しておきましょう。

 困ることは職員の実務です。学童保育の現場には、事実として、特性の関係でマルチタスクが苦手な職員がいます。同時に複数の重要な事項を処理できないとか、重要なことに取り掛かると、その前に取り組んでいた重要なことを忘れてしまうといった職員が勤務していることは、珍しくないでしょう。いくらマニュアル類を整えても、マニュアル通りに業務を実施しても、アレルギー物質を提供してしまうという人為的なミスを必ず防げることはないのですが、そこに、マルチタスクが苦手な職員や重要事項が次の事項ですぐ上書きされて注意力を持続できない職員が勤務していると、事故の発生リスクはさらに上昇します。
 これは職員相互で業務をチェックしあうことで防ぐことになります。そういう特性のある職員が関与してもミスを起こさないマニュアルを作ることは現実には無理です。一切、おやつを提供しないというなら別ですが、補食としての重要性を帯びているおやつ、また昼食提供が重要視されつつある中で、学童保育所で食事の提供を回避する方向性は採用するべきでありません。究極的には、そのような心配のある職員は他の業務に関わって大丈夫なだけの人員配置ができればいいので、補助金の増額等で予算的に余裕ができれば、人員配置の工夫にも取り掛かりましょう。

 おやつや昼食を施設で調理せず、購入することが普通でしょうが、その際に、アレルゲンが交った商品を購入する可能性もあります。そのような購入作業時に起こりやすいミスをどう防ぐか、マニュアルにしっかり記載して、職員は都度、マニュアル通りの作業を行うという意識を持たせることが必要です。ルーティーン化するとおざなりになりますが、そこにチェック制度、評価制度を入れて、職員の業務評価に反映させ、当然、賞与等に反映させるべきです。緊張感を持たせることはマニュアル通りの作業が形骸化してしまうことを防ぐ効果が期待できます。

〇研修教育の徹底
 ルール類、マニュアル類を作っても、それを守って働こうという意識が醸成されなければ意味がありませんし、マニュアルに記載されている対応を、実際に事が起こったときに緊張や混乱、パニックで当然行うべき行動に移れなければ意味がありません。正確な知識は当然必要です。よって、アレルギーに関する研修、教育は当然必要です。特に、アナフィラキシーショックに陥った人が現れた場合におけるエピペン使用の対応は、書面だけの知識では習得に限界があります。ロールプレイを含めて、具体的な実践的、いや「実戦的」な研修が必要です。

 新人採用時に広範囲な基礎的な研修は当然、年間に、知識面について、エピペンなど実際の対応について、内容を分けて年間に複数回、実施することは当然です。時期的に、食中毒や熱中症などど合わせて行うことでも良いでしょう。アレルギーによる事故事案の発生を抑えるため、万が一の事態のとき最悪の状況に陥ることを防ぐため、職員の知識、技術を向上させるために必ず行いましょう。また、組織防衛としても、「これだけ常に対応してきました」と主張できることは事業者にとって重要なことです。

 こういうことを強力に推し進めるには、やはり事業者がしっかりと事業運営、組織運営を行っていることが必要です。保護者運営や任意団体の運営では限界があります。この点においても、非常勤、ボランティアによる保護者運営等は、もう無理です。子どもの健康被害を防ぐためには、専任の者が日常的に組織運営に取り組んでいる組織形態が必要です。本当に子どもの命を守り、職員の業務の専門性を形成するには、専任の者が常に問題意識を持って運営する組織形態こそ重要ですよ。

 育成支援を大事にした学童保育所、かつ、社会に必要とされる学童保育所を安定的に運営するために「あい和学童クラブ運営法人」が、多方面でお手伝いできます。弊会は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その策定のお手伝いをすることが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!

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