津島市の学童保育運営事業者を巡る事案に、育成支援を尊ぶ学童保育業界の将来を思う。このままでは消え去るだけ
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。
愛知県津島市で、学童保育業界のあり方が問われる事態が起こっています。これまで学童保育所を運営してきたNPO法人から、株式会社に指定管理者が変わることになったことで波紋が広がっています。今回のブログは、保護者会もしくは保護者会を母体とした非営利法人が運営する学童保育所の将来を私なりに考える内容です。
論を始める前に、私のスタンスを示します。
・質の高い育成支援の実施がなされ、職員の雇用労働条件が生活の安定を達するに十分な水準であれば、運営主体の形態は問わない。
・学童保育の実施も事業の継続であり、事業である以上、運営者には義務と責任が発生する。法的リスクを完全に背負えない運営主体は、事業を担うべきではない。保護者運営系の場合は、法的な責任を完全に受容できる者のみの参加に留めるべきである。
その上で、津島市の件に関しては、「育成支援の質が充実し、子どもたちにとって良好な育成支援環境が実現しており、かつ、保護者も運営体制に賛同している限り、津島市は、指定管理者を他社に変更するに当たっては変更に係る合理的な理由が必要であるべきで、行政はその合理的な理由を学童保育の利用者に明示するべきである」と私は考えています。
さて、津島市で進行中の件は、今後、全国各地において、保護者が運営する、ないしは保護者運営から発展した学童保育、おおむね育成支援を重視している方針の学童保育所になりますが、それらの「育成支援系学童保育所」の今後の在り方に大きく影響するものと私は考えています。なぜなら、今回の津島市の件は、今後、大いに参考もしくは反省としなければならない点が散見されると私は考えているからです。
インターネットで確認できる以下の情報によって考察を行いました。考察の内容は津島市の件だけに向けているものではなく、保護者会運営ないし保護者会由来の非営利団体の学童保育運営についてもまた、同様のケースに当てはまるとするものです。つまり一般論としても論じていることをご承知おきください。
・津島市議会(2023年6月12日開会)において市長は、競争原理の働く公募方式で、学童保育所の運営事業者を選定する方針と明確に表明している。
・上記市議会で市長は答弁で、市民から届いた3通の意見を紹介。内容は、「学童保育の利用料が周辺地域と比較して高い」、「イベントが多く保護者の負担が大きい」、「保護者が主体で集まりが多く、使い難い」。
・2023年11月5日に、インターネットの署名活動がスタート
・津島市学童保育連絡協議会のフェイスブックでは、この件に関する投稿は11月5日1:02分のものが最初だと推察される。
・X(ツイッター)では、弁護士の鈴木愛子氏による11月4日10:06分のポスト(ツイート)が最初だと推察される。
・愛知学童保育連絡協議会のフェイスブックは11月13日9:00の時点で、本件に関する投稿はなし。
・全国学童保育連絡協議会の公式ホームページは11月13日9:00の時点で、本件に関する記載はなし。(そもそもSNSは存在しないようです)
・インターネットの署名は11月13日9:00の時点で1,063人が賛同。なお津島市の人口は同市ホームページによると11月1日時点で60,150人。
この件で私は書きたいこと、言いたいことが山ほどあります。まさに私が学童保育の運営に関わって、最も最優先に取り組んできた課題そのものだからです。事業の運営責任者として、冷徹に合理的に、学童保育の運営に保護者が関わることの良い点、困る点を考え続けてきたからです。たくさん書きたい内容は今後に任せるとして、要旨だけを列記します。
・事態への対処、対応が、あまりにも遅すぎる。後手後手すぎて手遅れになっている。
→6月議会での市長答弁を聴けば、次の指定管理者選考で決定的に不利な立場に追いやられたことは十分すぎるほど理解できます。しかしもし、組織の運営者がそれを理解していなかったなら、事業を行う「経営者」としては能力的には失格と、言わざるを得ません。
今回、津島市の学童保育の将来を憂いている方たちのほとんどは、津島市の「手のひら返し」に立腹されているでしょう。しかし、学童保育の事業団体を率いていた私にしてみれば、その6月の段階で「これは、うちの組織にとって破たん宣告だ。どう巻き返すか」と即座に大逆転計画を立てて実行する必要性を理解できていなければ、事業運営の責任を果たしていたとは言えないと、言うほかありません。保護者や、保護者出身者が運営を担う学童保育所では、子どもの育ちや、日々の学童保育所での育成支援には興味関心が向きますが、こと、組織運営、事業の継続、組織の中長期的な運営について、考えて議論をする機会は、あまり多くないでしょう。そもそも、事業経営に詳しくない、興味関心がない、という人が多いからです。
それこそが、学童保育の運営を担いたい株式会社にとっては、実にありがたい「敵失」です。保護者だろうが運営に関わる以上、経営者です。事業の安定した継続を図るために、あらゆる展開を予測し、それこそ最悪の場面を予測し、その対応と準備を怠ることなく、あの手この手を取るのです。それこそが、子どもの居場所と、職員の雇用を守る、運営者の最大の責任です。
「いや、表に見えないだけで、ずっと議論はしていた」のでしょう、おそらく。しかし、対処、対応は「市民の目に見える形」で繰り広げられなければ意味がありません。必要だったのは議論ではなく、行動です。
「子どもたちにとって、とても素敵な学童保育を運営しています」は確かに素晴らしいですが、それは事業運営を継続できる「絶対条件」ではないのです。あくまでも「必要十分な条件のうちの1つ」です。私たちは、とても正しいことをやっているから選ばれるはず、ではありません。事業運営は、競争社会で生き延びるのは、「善行」だけでは無理。「善行」を基盤とした「抜け目のない行動」です。
・3通の意見を軽視してはならない。
→市長が議会で紹介したのは3通の市長への手紙です。たった3通の意見を基に指定管理者選定に係る市の方針を変えたのか、と憤る声があるようですが、3通の意見であっても重大だと私は考えます。多くの学童保育利用者が賛成しているのに、懸念を示しす「たった3通」の意見で長年培ってきた伝統が覆されるなんてと憤る気持ちは分かりますが、その3通が示す声はおそらくその何十倍、あるいは何百倍もあるかもしれないと謙虚に受け止め、その声が示す懸念を解消するように行動で示すべきであったと私は思います。
運営者が配慮しなければならないのは、「良い!賛成!」の声が圧倒的に強い集団の中では、本音を言えない人がいても不思議ではないということ、「声にならないホンネ」をしっかりと把握することです。特に、「子どもの育ちのためにはこれが正しい!」と善悪の「善」を押し出した意見に満ちた集団の中では、「それは違うと思う」という意見は封殺されます。これはもっとも民主的であるべき福祉の現場では、起こってはならない。少数者の意見を尊重しなさいと常々、民主主義を大事さを説いている人たちは言っているではないですか。同じ事です。
・日本全国から署名を集めるのはそれなりに意味はあるけれど、地方自治においてはその地域の住民の意向が最も重要。地域を巻きこんだ活動の様子がいまだ見えない。多くの保護者や、これから学童保育所を利用するであろう若い子育て世帯の人たちが「いまのスタイルの学童保育所が必要」という声をあげなければ、行政執行部にまったく届かない。毎日、繁華街で、駅前で、ハンドマイクを握って呼びかける、議会に提出する署名を集める、市民や議員に呼びかけて討論会、シンポジウムを何度も開催して意見の拡散を図るなどして、市民世論の盛り上がりを作らないといけません。最後は議会で予算案を否決するなどの手段でひっくり返すほかないですが、議員とて、市民の多くの支持がなければ動きません。
・普段から、保護者が関わる学童保育の大事さを訴えている業界なのに、窮地に立たされている地域に組織だって連携してバックアップしようという動きが見えないのは、いつもの事なれど残念。
・保護者運営ないしは保護者由来の非営利法人が運営する学童保育においては、保護者の負担感の強さとその経験が以前からの課題として認識されていたはず。それなのに、その課題の解消に取り組むことを怠ることは株式会社の参入を許す失策につながることが理解されていなかったとしたら残念。
・保護者が設立した民営系学童保育事業者は、公設公営の学童保育所と比較して、そもそも基盤も運営手法も異なるため利用料が高くなるのは避けられない点がありますが、利用料を高いと感じるか、低いと感じるかは、「支払う側が負担する労務的コスト、時間的コストと比較して、金銭的コストが釣り合うか、過大に感じるか、お得に感じるか」で左右されるもの。よって常に運営面で利便性を向上させることが必要ですが、その努力は市民にどこまで伝わっていたのか。
・子どもが今の学童保育所や職員のことが大好き、とても気に入っている、ということは指定管理者を継続させ続ける重要な要素ではあるが、指定管理者制度においては決定的な要素にはならない現実を踏まえるべし。指定管理者という土俵で戦うには、その土俵で勝てる技を身につけねばならない。
私は、保護者が子どもの育ちについて職員と意見を交わし合って関わることができる形式の学童保育所は、とても素敵な子育て文化だと考えています。株式会社の指定管理者学童保育所がそれをできるかどうかは否定的です。もし、そういうことをする株式会社系学童保育所が現れたなら、それはそれで素晴らしいと考えます。
ただし、保護者の運営参加は法的な責任、運営リスクへの対処(今回の件もまさにその運営リスクの判定を誤ったと私には思えます)において、保護者の負担がとても大きい。それを忌避する保護者は圧倒的に多数であるという事実を認めることから、保護者が関わる学童保育所のあり方を検討、構築するべきなのです。今回の津島市の件は、さいたま市で2024年度から進行する、全児童対策事業の導入と、私には重なって見えます。
それは、全国でもはや風前の灯火ともいえる、保護者が参画する学童保育所の未来に重なって私には見えるのです。
今からでは遅いのですが、それでも株式会社参入の大きな流れに抗う意義はあります。
・保護者には、子どもの育ちを考えることに関わってもらい、運営業務については希望者のみ(それも、責任を負える者のみ)に限定した運営形態とするべし。
・財政基盤の強化のために非営利法人は合流し、少なくとも予算規模数十億円、雇用人数500人以上の大規模事業者となり、スケールメリットで株式会社と堂々と対峙するべし。
・指定管理者制度は3~5年で次の公募となる。それまでに態勢を整えなおし、次の機会で堂々と勝ち取れるように今から将来を見据えた準備を始めるべし。(こういってはアレですが、現状の株式会社系学童保育所の多くは、事業の質だけでみれば、丁寧な育成支援を心がけてきた団体に劣るのは必定。よって、保護者負担の軽減、運営組織の財政基盤の安定性、人的資源の豊富さにおいて株式会社と肩を並べれば、必ず公募を勝ち抜ける)
真剣に考えて取り組める、最後の機会ではないでしょうか。なお、私は以前の運営組織において、「保護者の運営業務の強制参加を撤廃」「運営責任を明確化するための政策決定方式の変更」「保護者の利便性を図ることで利用料に対するサービスを拡大し、相対的に利用料の割安感を醸成する」ことに注力しました。その結果はおおむね好評だったと自負しています。もっとも、運営側に厳しい自律と高い責任感を要求するものですから、残念ながら目の前の気楽さと仲良しこよしを大事にするあまり、時代を生き抜く戦略とその戦術を理解できない者もおりましたがね。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の持続的な発展と制度の向上を目指し、種々の提言を重ねています。学童保育の運営のあらゆる場面に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った方策について、その設定のお手伝いすることが可能です。
育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。もちろん、外部の人材として運営主体の信頼性アップにご協力することも可能です。
子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。萩原は2024年春に「知られざる学童保育の世界」(仮題)を、寿郎社さんから刊行予定です。ご期待ください!良書ばかりを出版されているとても素晴らしいハイレベルの出版社さんからの出版ですよ!
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