300円の「学童保育」、1万3千円の「学童保育」。安い、高いという前に、考えてみてほしいこと。その3

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。

 学童保育(この場合、放課後児童クラブのこと。公的な補助金を受けていることを前提とします)にかかる費用(保護者負担金、保育料、月謝とよばれるもの)の理想的な料金はいくらでしょう。実現不可能な極論を言えば無料ですが、それは現実世界においてまず実現不可能ですのでとりあえず除外しましょう。まあいずれは、無料はともかく、相当な低額になればいいですが。

 300円学童は安いですね。でもその実際は、全児童対策事業や放課後子供教室の場合がほとんどで、狭義の学童保育=放課後児童クラブでは、ありません。しかし残念ながら、これはメディアの責任ですが、放課後児童クラブではない全児童対策事業や放課後子供教室(ひいては学習支援を行う、いわゆる民営学童保育所)もごく当たり前に「学童保育」として紹介するがゆえ、300円学童も学童保育として世間一般に認識されてしまっているのです。いわゆる広義の学童保育としての扱いになっているわけです。

 例えれば、果汁100%のジュースと、果汁10%の「果汁入り飲料」(食品表示基準において、ジュースとは名乗れません)の比較。果汁100%と、果汁10%では、価格が違いますよね。私の居住地周辺のスーパーでは、前者が150円前後なら、後者は100円前後。飲料としては同じでも、「ジュース」と「果汁入り飲料」は、同じ種類の商品ではないのです。放課後児童クラブ(狭義の学童保育)と、全児童対策事業&放課後子供教室(広義の学童保育)との関係も、ジュースと果汁入り飲料との関係と同じです。

 さて、300円の学童もどきの料金に、1万3000円の料金の学童保育所(放課後児童クラブ)が、「お得感」「コストパフォーマンス」で、太刀打ちできるでしょうか。

 私の率直な意見を言えば、「不可能」です。どう頑張っても300円という料金で学童(本当は、もどき)を実施しているという情報を得てしまった以上、数千円でも、まして1万3000円という料金では、「お得感」を打ち出すことができません。私に言わせると、300円の料金設定は、国や行政による「ダンピング」のようなもの。
 本来、子どもの最善の利益を保障し、子どもの育ちを支える「育成支援」を行う「放課後児童健全育成事業」にはそれなりのコストがかかります。何より丁寧に子どもの支援を行う職員の人件費がかかります。子どもにとってストレスが少ない場所を整備するための施設整備費が必要です。ですが、育成支援を現実にはほとんど行うことができない全児童対策事業と放課後子供教室を、それこそ学校の教室に子どもたちをギュウギュウ詰めに押し込みながら、国や行政自身がそれを「学童」として設置、開所して子どもを受け入れていることは、本来の放課後児童健全育成事業にとっては、悲劇以外の何物でもありません。

 ごくごく一部の人が、別の理由で、「私は1万3000円が、高いとは思わない」と言ってくれるでしょうが、それは、「別の理由」があるからです。よって、その「別の理由」を、できるだけ多くの人が理解して受け入れるというように、していかねばなりません。

 その別な理由とは、保護者の視点からすると「子どもが、進んで学童に行きたいと言ってくれる。学童が楽しいと喜んでいる。学童に行ったことで、親の目からしても、責任感や実行力、意欲面など、人としてはっきりと成長していることが実感できる」と思えることです。もちろん、子ども自身が学童がとても大好きであるからです。そして、そのようなことは、得てして、その学童保育所で実施されている育成支援が優れているからであり、それは当然、そこで働いている職員の業務の質が高いからです。

 つまり、子どもたちが「うちの学童、楽しいし、とっても大好き」と言う学童保育所であれば、保護者は安心して子どもを学童保育所に通わせることができ、それは保護者にとって、不安や心配なく、就労や学業などに集中できるということです。(もっと言うならば、そのような状況は、子どもの「非認知能力」が素晴らしく伸長しているということであり、将来の子どもの成長にとても有益でしょう)
 ただ子どもを預かるだけの「300円の学童もどき」では到底、実施できないことを、放課後児童クラブは、子どもの成長を支えるという育成支援を通じて実施することが必要なのです。「うちは、子どもの預かり場ではないのです。子どもが主体的に成長していく場なのですよ」と。

 つまり、決定的に不利である1万3000円学童、1万数千円の学童保育所においては、「徹底的に、行われる育成支援の質のレベルを高めること」が必要なのです。「うちの学童は問題児ばかり」とか「ガキの連中が騒がしくてイヤになる」というような、子どもの1人1人のことを把握しようともせず雑多に扱おうという考えの学童保育所職員がいるようでは、とても実現できないことです。そういう職員がいる限り学童保育の世界は、たとえ数百円でも「高い」と国民から言われ続けるでしょうね。

 しかも残念ながら、1万3000円の支払いを保護者に求めている現状においても、実は、学童保育所の職員に支払う報酬は、その職責や労働の対価としては不十分なのです。学童保育で働く人の報酬が本来よりも低額に押さえつけられているからこそ、300円学童もどきは当然、1万3000円学童保育も実は本来で言えば、まだ安すぎるのです。

 まとめましょう。絶対的な料金の数値はやはり重大です。国や行政には、「全児童対策事業や放課後子供教室」においても、少なくとも人件費の一部を受益者負担で求めることとして料金を引き上げる=子どもの育ちを支えることにはコストが必要であるということを認識してもらうことにより、料金の差を少しでも縮めるように動いていただきたい。もちろん、それは放課後児童クラブ側への補助金交付額を大幅に増やし、1万3000円を引き下げることができるようにすることが、ベストです。
 そして、1万3000円学童側は、子どもが進んで学童保育所に来たがる援助を行いましょう。それは、質の高い育成支援を実施することにほかなりません。

 また私は政府に希望します。次元の異なる少子化対策の1つとして学童保育の充実を位置付けるなら、政府は、「子どもの育ちを支えることにはコストが必要だ」という点をしっかり理解した施策の打ち出しを期待します。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の世界の発展と質的な向上のために種々の提案を発信しています。学童保育の運営に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った運営の方策についてその設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。

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