300円の「学童保育」、1万3千円の「学童保育」。安い、高いという前に、考えてみてほしいこと。その2

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。

 学童保育(この場合、放課後児童クラブのこと。公的な補助金を受けていることを前提とします)にかかる費用(保護者負担金、保育料、月謝とよばれるもの)は、もちろん、低額で済むにこしたことはありません。ただし前提として、子どもの最善の利益を保障できる育成支援が実施できていること、そこで働く人が低賃金や長時間労働によって本来なら労働の対価としての賃金として受け取れるはずのお金を得られていないということが無いことが必要です。学童保育所における子どもの利益を犠牲にしたり、職員たちが本来受け取れるはずの報酬を犠牲にしたりして利用者の支払う料金が低価格に抑えられていることは社会正義に反することであると、考えていただきたいのです。

 さて、300円の「学童保育」(実際は、全児童対策事業という形式)について前回はお伝えしました。この300円という料金の前には、(公営学童にありがちな料金の)5000円だろうが8000円だろうが「高い!」となってしまいます。まして、公設民営学童や、民設民営学童でも自治体から学童保育所の運営を委ねられている運営組織に多い、1万数千円の料金設定になると「信じられない!」となってしまうでしょう。その300円が「すべてにおいて適正な」料金設定であればいいのですが。

 なぜ1万数千円の学童保育所が存在するのでしょう。それは簡単な理由で、「それぐらいの費用を徴収しないと、事業が実施できないから」です。「いやいや、それはおかしい。300円で運営しているところがあるんだから、もっと低額にできるだろう」という声があるかもしれません。私に言わせれば、その声がおかしいのです。300円で運営しているところと、1万数千円のところでは、「同じ事業」を実施しているのではないからです。「別の事業」だからです。つまり300円のところは「全児童対策事業」であり、1万数千円は「放課後児童健全育成事業」であり、見た目は同じでも事業の性質が異なっているからです。

 1万数千円もする理由の最たるものは、人件費にあります。1万数千円の学童保育所では、おそらく、正規職員を無期雇用で処遇しているか、有期雇用でも賃金を比較的高く設定しているか、そして組織運営のための本部機能を別途設けている場合が多いだろうと私は考えます。職員の無期雇用が増えれば人件費はぐんと増えます。毎年、基本的に同じ報酬である有期雇用と比べ、定期昇給や退職金準備などで人件費がかさむことが多いからです。本部機能を設ければ、それに対する人件費や維持費用がかかります。

 「それこそムダじゃないの?」と思われるかもしれませんが、それは残念ながら理解に欠けます。基幹的な職員であれば無期雇用で、かつ生活できるに最低限足る報酬を確保しつつ継続して勤務させることで職員の質が継続的に向上していくことが期待でき、事業の質の安定性に貢献できます。それはつまり、子どもにとって安全安心な学童保育所の時間と空間を構築するために必要なことです。本部機能を充実させることで多くの事務実務処理を本部で行うことができ、結果として現場職員はより育成支援の専門業務に向き合える時間を増やすことができます。

 つまり、1万数千円の費用負担には、「職員の安定した雇用と、質の高い育成支援事業の実施について必要なコストが含まれている」ということなのです。料金が数千円の公営学童の場合は、1万数千円との差額部分を自治体が負担しているか、あるいは(実はこちらの方が多いですが)人件費を切り詰めることで差額部分を解消している、というカラクリです。

 見方を変えると、300円の「学童もどき」(全児童対策事業)は、補助金の範囲内でしか、やれることを行いません。学童保育として交付される補助金の範囲内でしか、職員の処遇はできません。何回もお伝えしていますが、国は、学童保育所の運営に際し、必要な費用は「補助金と受益者負担(つまり保護者)で、50対50」という目安を掲げています。300円の学童もどきでは、この保護者分の50%が存在しないわけですから、当然、50%の額でしか職員の処遇はできません。結果として、低賃金で少人数しか雇わないゆえの長時間労働、つまりは官製ワーキングプアの出来上がりになる可能性が極めて高いのです。

 1万数千円の学童保育所では、保護者に、職員の雇用と生活の安定を確実にするために費用の負担を求めているわけです。「それは保護者でなくて、国や行政に求めるべきだ」という意見があります。それはその通りで、私も、補助金と受益者負担の割合をもっと補助金を増やすべきだと訴えています。つまり、1万数千円の保護者の負担は、必要だから求めているのですが、もっと補助金を増額することで低額にすることが望ましい、と私は思っています。

 しかしそれも、学童保育の待機児童解消として低コストで済む「全児童対策事業」や、放課後児童健全育成事業とは全く別の、基本的無料である「放課後子供教室」が今後はさらに増えていくことを考えると、どうしても、その低額さと1万数千円の料金を比較されてしまうのは避けられません。

 不利な立場にあることは否めない1万3000円の学童保育側が心得ておきたいことを、次回以降に考えましょう。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の世界の発展と質的な向上のために種々の提案を発信しています。学童保育の運営に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った運営の方策についてその設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。

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