放課後児童クラブ(学童保育所)の待機児童を考えよう。なぜ待機児童が生まれるのか。解消法は?その3

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表で「あい和社会保険労務士事務所」の萩原和也です。放課後児童クラブ(学童保育所)運営支援アドバイザーであり、放課後児童クラブの労務管理や事業運営をサポートする社会保険労務士です。(ぜひグーグルのAIで「萩原和也 放課後児童クラブ」と検索してみてください!)
 放課後児童クラブの待機児童を考える内容の続きです。児童クラブの待機児童数は14,713人(前年比 1,617 減)と、ずっと高止まりした状態です。(児童クラブの待機児童数は、こども家庭庁による「令和8年度 放課後児童クラブの実施状況(速報値)」によります)。どうして児童クラブの待機児童が生じるのか、前々回(2026年9月8日)のブログでは施設が足りないことが原因だ、ということについて、前回(2026年9月9日)のブログでは、少子化でも利用希望者が増えていることと児童クラブの働き手が足りないので施設を増やしたくても増やせないことについて、わたくし萩原なりの見解を紹介しました。今回は「仕組み」に注目して待機児童が生じる要因について、わたくしの見解を紹介し、今後に取るべき方策について意見をしてシリーズを締めくくります。
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
(放課後児童クラブを舞台にした人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾンで発売中です。(https://amzn.asia/d/3r2KIzc)「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描くハッピーサクセスストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!

<待機児童とは>※この項のみ再掲載。何度でも伝えたいのです。
 待機児童とはそもそもどういう定義でしょう。こども家庭庁の資料(令和8年速報値)の表紙部分に「利用できなかった児童数(待機児童数)」とあり、「調査日時点において、放課後児童クラブの対象児童で、利用申し込みをしたが利用(登録)できなかった児童の数」と説明があります。その人数がこの令和8年速報値においては14,713 で、前年比 1,617人減となっています。つまり前年(令和7年)よりは減ったものの、依然として1万5000人に近い待機児童を数える状態で、「児童クラブの待機児童数はずっと高止まりした状態にある」ことは間違いないといえます。

 ここで注意してほしいのは、こども家庭庁の「利用申し込みをしたが利用(登録)できなかった児童」という表記です。このことは、「児童クラブに入りたいけれど、低学年優先だからということを言われたので利用継続の申し込みをしなかった」こどもは含まれない、ということです。保育所への入所入園では第一希望から第十希望ぐらいまで入所希望の施設数を書いて、第一希望以外に入所が決まったところ、「遠いからやっぱり通えない」として入所希望を取り下げることがありますが、そういう場合は待機児童としてカウントされないことになります。こういう「隠れ待機児童」が存在することを常に留意するべきです。
 児童クラブの待機児童数は小学4年生が一番多いのです。令和7年の実施状況では小学4年生の待機児童数が5,589人で最多でした。ちなみに小学1年生は1,966人。全体では6,330人で、これは前年比1,356人の減(令和6年は17,686人)でした。小学4年生の待機児童数が一番多いのは、低学年入所を優先した結果、入所申し込みをしても児童クラブに入所できなかった人数と考えられますが、この5,589人以上のこどもがいわば「隠れ待機児童」として存在していると考えておくべきですね。
 なお、児童クラブの入所については、入所の申請時期が秋から初冬に設定されている地域がほとんどです。中には、入所申請書類の提出期間が1週間ちょっとの長さしかない地域もあります。これは運営支援としては呆れてしまうのですが、自治体によっては「入所申請期間に入所を申請しなかった場合は5月以降の入所」としている地域があります。保護者の就労状況や家庭環境によって、児童クラブの入所申請時期では「家で留守番させる時間が短そうだから、児童クラブに入らなくても大丈夫」と思っていたものが年を越して2月、3月になって「やっぱり児童クラブを利用しないと無理!」となっても「4月入所はダメ。今なら最短で6月入所ですが、4月入所でもう児童クラブは満員ですから入所できるかどうか分かりませんよ」と、運営主体等から言われてしまうことも、大いにあるでしょう。こういう場合も待機児童数にはカウントされません。
 保育所でもそうでしたが児童クラブの待機児童数は、公表されている以上の「隠れ待機児童数」があるはずだと考えておくべきです。それは、今回の速報値で全国の市区町村の待機児童数の状況が公表されたーこのことはとても良いことと高く評価しますーのですが、待機児童数が0人だからといってその自治体は児童クラブの入所において困っている世帯のこどもは存在しない、ということを決して意味してはいない、ということです。待機児童数が0人の自治体にも隠れ待機児童がいても不思議ではないよ、ということです。

<待機児童はなぜ生じる>
 前々回は「施設が足りないから」、前回は「利用する人が増える理由があることと働き手が足りないから」という視点でわたくし萩原の見解を述べました。今回は仕組み、制度の面でわたくし萩原の見解を紹介します。

3 待機児童を生じない仕組みを採用するかどうか
 前回のブログで書きましたが、「自治体の人口が多いほど児童クラブの待機児童数は多い」ということは、全く見当違いです。人口の多い横浜市や東京都世田谷区や大阪市は「公式」には待機児童数は0人です。こども家庭庁の令和8年実施状況速報値は全国の自治体の待機児童の状況を掲載していますから一目瞭然です。
 では、そのような地域ではどうして児童クラブの待機児童が生じないか。それは、「放課後等の居場所を確保したいと希望する世帯のこどもをすべて受け入れる制度を取り入れているから」です。そのような制度のことを、児童クラブ業界では「放課後全児童対策事業」という通称で呼んでいます。通称「全児童対策」です。この全児童対策は、こども家庭庁管轄であり放課後児童クラブである「放課後児童健全育成事業」と、文部科学省管轄であり放課後のこどもの居場所を基本的に学校にて用意して過ごさせる「放課後子供教室」を事実上、合体させたものです。この全児童ですが、実施している自治体がそれぞれ固有の名称を付けて呼んでいます。
 分かりやすい説明が東京都板橋区の全児童対策である「あいキッズ」説明資料に掲載されていますので引用しましょう。
「あいキッズは区内の小学生を対象に、学校内で楽しく安全に過ごすことのできる放課後の居場所を提供する事業です。
次代を担う子どもたちの健やかな成長と豊かな人間形成を願って、文部科学省所管の全児童を対象とする「放課後子ども教室」と、こども家庭庁所管の就労家庭等の児童を対象とする「放課後児童クラブ」を校内交流型として運営しています。
安全で、地域コミュニティの基盤である学校内で、民間事業者の職員のもと、子どもたちが慣れ親しんだ校庭・体育館・教室などの施設を使って、遊び・スポーツ・工作・読書などの体験活動、地域との交流活動、季節行事、学習活動等を実施します。」
(引用ここまで)
 2026年度からこの形態を導入した千葉県柏市は「アフタスクール」という名称で実施しています。市のHPの説明はこうなっています。
「小学校において、放課後等にプログラム(多種多様な体験活動)や生活の場を提供することで、希望する全ての児童が安全で安心して自分らしく過ごすことができる放課後等の居場所の充実を図り、児童の健全な育成を支援することを目的とした事業です。
 令和8年度から柏市立20の小学校において、「こどもルーム(学童保育)」と「放課後子ども教室」を一体的に運営するアフタースクール事業を実施しております。」(引用ここまで)

 この全児童対策事業を理解するには「放課後子供教室」(正式名称。実際にはこども、子どもと表記されることがほとんど)を知っておく必要があります。文科省のHPから抜粋します。
「(2)放課後子ども教室推進事業
ア.経緯
 平成18年5月に猪口少子化担当大臣(当時。以下同じ。)・小坂文部科学大臣・川崎厚生労働大臣の3大臣が,総合的な放課後対策事業として「放課後子どもプラン」の創設を合意したことから,平成19年度より厚生労働省の「放課後児童健全育成事業」と連携した「放課後子どもプラン」を実施している。
 このうち,文部科学省の「放課後子ども教室推進事業」は,それまでの「地域子ども教室推進事業」をベースとし,様々な体験・交流活動等に加えて,家庭の経済力等にかかわらず,学ぶ意欲のある子どもたちに学習機会を提供する取組を充実することを目指したものである。
イ.具体の事業内容
 放課後子ども教室推進事業は,放課後や週末等に小学校の余裕教室等を活用し,子どもたちの安全・安心な活動拠点(居場所)を設け,地域の方々の参画を得て,学習活動やスポーツ・文化芸術活動,地域住民との交流活動等の取組を実施することにより,子どもたちの社会性,自主性,創造性等の豊かな人間性を涵養するとともに,地域の子どもたちと大人の積極的な参画・交流による地域コミュニティーの充実を図る事業である。
 費用負担については,事業実施経費について国が1/3,都道府県が1/3,市町村が1/3を負担する補助事業である(政令指定都市・中核市は国1/3,市2/3)。
 本事業の主な対象者は小学生であるが,地域の子ども全般を対象としているものであり,幼児,児童,生徒の一部のみに制限するものではない。」(引用ここまで)
3.各事業の評価:文部科学省

 国は平成中期から児童クラブの待機児童解消に取り組んでいたことを前に記しました。当時は文科省と厚生労働省、こども家庭庁が誕生してからは文科省とこども家庭庁が連携して対応しています。「放課後子どもプラン」(平成19年度=2007年度スタート)と、その後を継いだ「新・放課後総合子どもプラン」(2019~2023年)、そして単年度ごとの「放課後児童対策パッケージ」で、待機児童解消に国は取り組んでいます。その中心となる施策が、放課後子供教室と放課後児童クラブを一体的に運営するこの全児童対策事業です。最初は一体型と呼んでいましたが近年は「校内交流型」と呼称しています。 (なお、放課後児童クラブと放課後子供教室が別々に事業を実施して希望するこどもが一緒に活動する「連携型」というスタイルもあります)

 放課後子供教室と放課後児童クラブの一体型(いまは校内交流型)は、一部地域ではなかなか浸透しなかった一方で、大都市部を中心に「とにかく待機児童は出せない。保護者のことを考えるとどうやってもこどもの居場所を確保せざるを得ない」ということで、この放課後子どもプランのアイデアに乗っかる自治体が現れ、増えていきました。待機児童を出さずに済む、施設の整備に対する補助金が優遇される、ということも手伝って、児童クラブの整備だけではとても放課後等の居場所を用意できない地域がこの全児童対策事業を取り入れている、ということになりました。待機児童数が最多レベルにあるさいたま市も「放課後みんなのひろば」を2024年度からスタートしています。

 全児童対策事業の範疇に入る事業は、呼び方は地域で様々ですが形態は似ています。
「午後5時ごろまで、希望する世帯のこどもは全員受け入れる。この時間帯は放課後子供教室としての活動が中心となる」ー利用料は傷害保険料や実費負担分程度の自治体もありますし、比較的低額(2,000円~3,000円)の地域もあります。
「午後5時ごろ以降は、一定の要件、例えば留守家庭である、保護者が働いている、という要件を満たす世帯のこどもを受け入れる。つまり午後5時ごろ以降は放課後児童クラブの役割を発揮する」ー要件を満たさないと利用できなくなります。利用料も増額されます。5,000~8,000円程度になりますし、おやつ代も別途、徴収されることがあります。
「午後6時以降は完全に放課後児童クラブとして機能を発揮」ー午後6時を境に利用料を区分している地域が多いようです。午後7時までの「フル利用」では利用料が10,000円に迫る地域もあるようです。
 職員はこどもが放課後に登所してから全員が帰宅する降所までずっと働きます。そもそも運営する組織が同じです。午後5時ごろを境に運営主体が替わることはまずありません。

 この全児童対策事業の強みは、前々回のブログで述べた「施設」について決定的に有利という点です。基本的に小学校内の教室を活用するので、児童クラブを増やそうとしたときに立ちはだかる「いい場所が見つからない」という難問をあっさりとクリアできるからです。その利点があるからこそ、国は平成中期から放課後子供教室と放課後児童クラブを一緒に、つまり学校内でやりましょう、と勧めてきたということです。文科省が「学校を使いなさい」と言っているのですから施設の場所を見つける上では強い味方がいる、ということですね。現在は校内交流型と呼ばれるこの仕組みを導入するうえで必要な設備を整える際の補助金は額がいっそう引き上げられる優遇措置もあります。とにかく待機児童数を0にするのに国は必至である、ということは言えます。

 でも、すべての自治体がこの施策を取り入れているわけでもありません。いくつか懸念事項があるからです。

3A なぜ全児童対策事業が標準になっていないか。
 いま大ブームの「全児童対策」についてもう1つ理解しておきたいのは、放課後子供教室と放課後児童健全育成事業は「こどもを受け入れる(預かる、ということです)」ことでは共通しますが目的が違う事業である、ということです。
 これはとりわけ児童クラブ業界それも「こどもを真ん中に保護者と職員が手を取り合って一緒に運営していくことが理想」とする児童クラブの世界(職員を「指導員」と呼ぶことが多い勢力ですね)においては、強烈に意識されています。「放課後子供教室も、一体型も、こどもの育ちを支え保護者の子育てを支える役割はない。学童保育こそ、こどもと保護者にとって最善の仕組みなのだ」という意識です。こどもの育成支援を行うのは児童クラブであって放課後児童支援員(ここでも「指導員」という表記が多用されますが)である。放課後子供教室は単なる預かりの場。わたしたち学童保育の世界と一緒にされては困る、という強烈な専門性への自負とプライドですね。

 放課後児童クラブには緩やかながらも様々な基準があります。専用区画があること、こども1人あたりのスペースはこれだけ、放課後児童支援員資格を有する者を配置しましょう、ということです。この全児童対策事業には必ずしも放課後児童クラブに対する基準が確実に適用されているとはいえない実態があるので、伝統的な児童クラブの勢力にとっては「あんなの、こどもにとって全く良いところが無い」という評価になります。児童クラブこそこどもの生活の場であり育ちの場であって、全児童対策は放課後子供教室などは「単なるこどもの預かり場、託児所だ」という認識になります。

 この姿勢はわたくし萩原も分かります。児童クラブを充実させないから待機児童が生じるのだろう、というのはやっぱり根源的な感想としてずっと持っているからですね。ただ、人口がもともと多い地域や急増している地域は児童クラブの設備を整えるまでに時間がかかる。やむをえず学校を活用してこどもの居場所を用意し、とにもかくにも「待機児童は出さない」ことにのみ舵を切るということは、「待機児童は絶対的に最もあってはならない最上位の悪いこと」と考えるわたくしには、「悪手であってもやむを得ない手段」という理解でいます。どうしてもそれしかないのでやるしかない、という立場です。
 しかし現実に、単なるこどもの預かり場と化している全児童対策事業があるようです。報道もされています。ギュウギュウ詰めで職員が満足にこどもと関われない、そのつらさを報告する記事は年に1回ほど報道されています。春先に掲載されることが多いですね。わたくしもそのひどい境遇には憤りを覚えます。こどもを詰め込んで数時間過ごさせればいいという設置主体の考え方には断固反対します。
 まして、全児童対策事業に増えている間借り運用、こどもたちを過ごさせる場所を定期的に変更する仕組みには、「それってこどもを単に飼育している動物を同じに考えていませんか?」という感想をぬぐえません。国は放課後児童対策パッケージで「タイムシェア」と呼んでいますが、要は日替わり、週替わりなど定期的にこどもを過ごさせる場所を変えるということです。学校の利用の都合に合わせて、全児童対策事業に使える部屋を変更するということです。融通をきかせているといえば聞こえは良いですが、「あちこち居場所が替わる環境で、こどもは落ち着いて放課後等の時間を過ごせると大人は考えるのですか?」と、わたくしは言いたくなりますね。

 つまるところ児童クラブを運営指針に忠実に運営している事業者ほど、この全児童対策事業は「引き受けたくない」のが本音です。自治体における児童クラブを運営する事業者の中心がそのような事業者なら、全児童対策事業を行おうとしても地元で児童クラブをやってくれている事業者が引き受けてくれる見通しが無いので、なかなか全児童対策には踏み切れません。
 もっとも全児童対策を始めるにあたって事業者を公募すれば、わんさかと広域展開事業者が応募します。広域展開事業者にとっては、児童クラブも、全児童対策事業も、放課後子ども教室もまったく同じ「職員さえ雇用できれば、あとはマニュアルで対応できる収益事業」です。薄利多売のビジネスですから運営する施設数を増やすことが至上命題ですから、全児童対策事業を新規スタートするので公募しようと考える自治体も安心です。公募に申込む事業者が現れないことはまず考えられないですから。

3B 全児童対策がなかなか広まらないのは?
|この全児童対策事業がなかなか広まらないのは、前々回でも記したようにむしろ小学校側の意識や対応にあります。学校の施設が必要となりそうだから全児童対策事業に提供するスペースは無いと校長先生が判断することが最大の障壁といえます。(そして児童クラブ側もそんな学校側の意識に乗っかって前向きな姿勢を示さない、という無言の連携が完成するわけですね)
 残念ですが児童クラブの現場職員が出会うことがあることとして、小学校側の児童クラブへの偏見、誤解があります。はっきりいって児童クラブ側を見下している小学校教職員が当たり前に存在します。教育の方が偉いんだと誤解しているのかどうか、あからさまに「単にこどもを預かって済むあんたたちと違うんでね学校は」ということを面と向かって学校側から言われたことがわたくしにもあります。
 そういう意識が強い人が学校長や教育委員会の中枢ポストにいれば、なかなか児童クラブに向けて大切な教育財産を分け与えるという動きにはならないものです。文科省がいくら呼びかけても、学校現場が首を縦に振らなければ、全児童対策事業もスタートできません。

 いま児童クラブの世界では多くの市区町村で所管を教育委員会に変える動きがあります。ちょっと考えれば不思議なことだと気づきますが、児童クラブは児童福祉法の法定事業であり、もともと厚生労働省、いまはこども家庭庁が担当しています。市区町村の地方自治では、福祉に関する部局、つまり首長部局に当然にあてはまると思いきや、そうではないのです。教育委員会つまり教育部局が児童クラブを所管する自治体が増えています。
 この動きは、全児童対策事業を実施する上での自治体内部の調整を円滑に行う目的があるとわたくしは考えています。2026年度からアフタスクールを始めた柏市は児童クラブ(こどもルーム)の所管を教育部局に移管しました。そのような例は全国あちこちであります。ただこれも、移管先が公民館や博物館などの生涯教育系の課や係に移すだけでは結局は教育委員会内部の縦割りを乗り越えての調整が必要なので、教育委員会に所管を移しただけで学校内ですぐに全児童対策事業を開始できるとはいかなさそうではあります。

 もっとも、首長の強烈なリーダーシップがあれば局面が変わることがあります。教育部局が面従腹背ということはあるようですが、選挙で選ばれた首長は最終的には強いのです。そして首長は選挙があるがゆえに有権者の意向に敏感になります。待機児童ばかりで有権者が行政に不満を募らせれば再選の可能性は低くなりますからね。このことは全児童対策事業ではない児童クラブ一本鎗の自治体でも同じです。待機児童を出さないような施策を首長のトップダウンで取り入れて「子育て支援が充実しているまち」をアピールして選挙を戦う、ということです。

3C 子育て世帯側にとってはありがたい。内部事情は関係ありませんから
 「多摩川格差」ということばが一時、流行りました。東京都の恵まれた子育て支援それも金銭面での都の手厚い支援を、隣県との格差を示す意味のことばとして使われたようです。同じように児童クラブにも、自治体ごとの格差があります。とりわけこの全児童対策事業を導入している、していないによって児童クラブの待機児童数には明確な差が生じるのです。
 かつて旧ツイッターに川崎市民をうかがわせる方の投稿で「川崎は学童の待機児童が無くてよかった」という趣旨の内容がありました。川崎市も全児童対策事業を行っているので待機児童数は0となっています。この投稿主にしてみれば、児童クラブに待機児童があるなんて考えられないでしょう。得てして、住んでいる地域で行われている行政の施策は他の地域でも同様に実施されていると思うものです。
 東京都品川区は待機児童数が0ですが大田区は139人となっています。自治体が違うとこれほどの差が出ます。世田谷区は0ですが杉並区は372の待機児童数です。この違いがまさに放課後全児童対策事業を導入しているか、していないかの違いになります。

 保護者にしてみれば、待機児童とならないことが最重要であって、施策を提供する側の事情などどうでもよいこと。「とっとと待機児童0にしてくれよ! うちの子の居場所をちゃんと用意してくれよ!」となるのは当然です。児童クラブだろうが全児童対策だろうが、放課後や夏休みなどのこどもの居場所を行政が用意して当然で、その形態など圧倒的多数の保護者にしてみればどうでもよいことです。当たり前ですね。もちろん、「行政が市民サービスとして提供することだから、不備や問題は当然に存在しないはず」という理解が前提にあります。
 よってこどもの居場所を用意する側、設置主体も運営主体も、この保護者の当然の要求を満たすように事業を展開することが求められます。「とにかく、待機は生じさせない」ということであれば都市部の自治体が、子育て世帯のニーズをかなえるために、まずは全児童対策事業に取り組む、ということはこれからも必ずや増えていくことでしょう。

3D そのほかの施策
 国は2026年度から、待機児童対策として、企業などの民間活力を導入した預かり機能モデル事業を始めました。2027年度からは、高学年の居場所づくりに焦点を当てた同様の預かり機能モデル事業を始めます。これはずばり待機児童対策です。待機児童が多い、あるいは待機児童がギリギリ0人であってもギュウギュウ詰めで大変だ、という地域ではこのモデル事業が進展するでしょう。

3E 懸念点
 全児童対策事業においても新モデル事業においても、運営支援が懸念するのは「人が人を支える事業であるのに、支える側も、支えられる側もつらい面がぬぐえない」という点です。全児童対策事業では、待機児童を出さないために午後5時ごろまでは利用希望者全員を受け入れます。もちろん、多くのこどもがいます。児童クラブはおおむね40人に職員は最低2人となっています。当然その基準はひどいので改善が必要なのですが、全児童対策では60人程度のこどもに職員3~4人、でもたいていそのうちの1人は管理職なので事務室に入って事務作業をしている、ということが珍しくありません。大人に関われないこどもはかわいそうですね。結局、トラブルが多発して職員がその対応に追われていると別の場所でまたトラブルが起きる、ということになりがちです。疲弊した職員の離職も心配です。
 全児童対策事業を行っている地域の施設の求人広告を一度、検索してみてください。あなたのスマホとパソコンに表示される広告はその手の求人広告で埋まります。それほど人手も足りていないのです。

 結局は、前々回ブログの「カネ」と前回の「職員不足」がやはり全児童対策事業にものしかかっているということが言えてしまいます。児童クラブの世界はどうしても投入される資金が足りないのです。保護者からうんと徴収できるわけでもないので、結局は補助金を増額するしか解決の手が無いということになります。

4 待機児童を解消するには
「児童クラブを増やす」。当たり前ですがこれが王道です。まず真っ先にやっていただきたい。
・待機児童を解消する努力をしている自治体への優遇措置を強化する
・少子化傾向が著しい地域で、公設の施設整備がどうしても自治体にとってハイリスク(経常経費の負担懸念)であるなら、民設民営クラブの新規進出を推奨する。国は「施設の新規建設」への補助金を新設して民間事業の進出を後押しする。
「児童館を強化拡充する」
・児童館の設備投資はすっかりしぼんでいます。児童館新設に国と都道府県の補助を強化しましょう。児童館は児童の健全育成の先輩格です。専門職が必ず配置され、こどもの育ちを支えます。児童クラブのようなプログラムで過ごすことが苦手なこどもたちにはうってつけの居場所となります。
(以下、児童クラブを増やすことと並行して)
「全児童対策事業の拡充。ただし、こどもが過ごす時間と空間の質の強化に同時に取り組む。職員配置の拡充に努め、こどもの集団におけるこどもの数を30人程度にする、タイムシェアはごく短期間に留めこどもの過ごす場にふさわしい設備の空間を用意する。何より、こどもの家庭における成育状況についても運営側はリサーチし適切な子育て支援を実施する。単に預かるだけの仕組みとはしないこと」
「預かり機能モデルの実施。ただし地域の児童クラブ、児童館と連携する」
「ファミリー・サポート・センターの機能拡充。自宅で過ごしたいこどもは当然にいるので、自宅で過ごせることを可能とするファミサポの仕組みを強化する。現在のボランティアを基盤とした仕組みではなく民間事業者が参入したいと思える動機付けも備える。自宅で従事者とこどもが1対1になる可能性が高いことから、こども性暴力防止法の趣旨を踏まえ、こどもへの性暴力防止については丁寧な措置を講じることを事業者に義務付ける」

 最後に、社会全体として労働慣行を変えることも求められるでしょう。こどもが小学生の間の育児時短勤務を制度として当然にすることです。ただこれも、仕事が専門職であるとか、仕事こそ生きがいであるという保護者の行動を強制的に変えることはできません。人それぞれの子育てに関する観念も考え方も当然に自由であるべきですし、もっと働きたいという人の意思を制度で妨げることもできません。ただ、育児時短勤務制度が充実して所得への影響が最小限になる、あるいは他の手当の拡充で時短勤務中でも生活レベルを落とさずに暮らせるようになれば、児童クラブなどこどもの居場所に関するニーズは劇的に変わることもありえるでしょう。
 社労士としていえば、法定週40時間労働がせめて週35時間労働になれば、とは思うのですが。午後6時退勤が午後5時退勤になれば、それだけ児童クラブ等へのニーズも緩和されますし、子育て生活にゆとりが出れば長い目で見て少子化傾向の下げ止まりに効果があるかもしれません。

 わたくし萩原は、何度も言いますが児童クラブの待機児童は絶対に生じさせてはならない、というスタンスです。それはこどもを不安な状況に置くことであり、保護者の就労環境等の変化をもたらすことで保護者とりわけ母親である女性にとってキャリアの中断を迫る重大な出来事だからです。正社員で働いていたのがいったん仕事を辞めることで、こどもが中学高校になって再び仕事に戻ろうとしても、正規職での採用はほぼほぼ難しく、非正規や派遣社員で働かざるを得なくなる可能性があるからです。それは世帯の所得を減らすことになり、子育てに使えるお金が減るということです。待機児童はこどもにも親にとっても、あってはならないことです。
 ですから、全児童対策事業も、モデル事業も、待機児童を生じさせないためには賛成します。賛成しますが、まずはもっと児童クラブ整備に国と自治体はカネをつぎ込んでほしい。やっぱり、カネがあれば解決できることは多いのですよ。そして、待機児童を出さないためにやみくもに児童クラブにこどもを詰め込むとか、入所の申請期間をやたら短くして「入口」を狭め、入所申請できなかった人は待機児童ではないと解釈するとか、そういう姑息な手段は設置主体、運営主体ともにとるべきではありません。待機児童が生じない、というのであれば次は大規模状態の解消と職員不足の解消を最優先に、児童クラブだろうが全児童対策事業であろうが「こどもが過ごす時間と空間の環境の質」に対してこの社会が十分に配慮する必要がある、と最後に申し添えてこのシリーズを終わりとします。 

 (お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
New!☆
こども性暴力防止法に関する諸課題を5人の弁護士が各々の専門分野に関して紹介、説明するYouTubeチャンネル「こどもを守る弁護士チャンネル」。「第6回子ども性暴力防止法緊急LIVE」は2026年8月12日21時半から、「災害時のこども支援とこども性暴力防止法」です。話し手は 鈴木愛子弁護士、聴き手は野田隼人弁護士です。
 第4回が2026年6月30日に配信されました。放課後児童クラブの運営に関わってきた鈴木愛子弁護士が「こども性暴力防止法がもたらすこどもの被害申告に適切に対応できるか」をテーマに関して丁寧に説明しています。 まずは動画をぜひご覧ください。わたくしの著書「知られざる<学童保育>の世界」も紹介されています。
https://youtube.com/live/9q8xzkgs7wo?si=dr06eChxK1Jgov5T
 第5回は7月19日(日曜日)15時から、すでに施行されている「児童生徒性暴力防止法」における調査の解説です。話し手:飛田桂弁護士、聴き手:嶋崎量弁護士、鈴木愛子弁護士、野田隼人弁護士、三輪記子弁護士。
 第3回(2026年6月11日)は、鈴木愛子弁護士がメインスピーカーとして「こども性暴力防止法がもたらす「人手不足の加速」とその構造的リスク」とのタイトルで、人材確保に関する懸念を取り上げています。内容は放課後児童クラブ限定ではなくて法制度全般にわたるものですが、とりわけ放課後児童クラブで働く人、運営する人そして管理する行政パーソンには必見必聴の内容です。https://www.youtube.com/watch?v=ZVafKTKe204 を、ぜひクリックしましょう。
 第2回(2026年5月30日)が、こども性暴力防止法の「Q&A」を読み解くとして、【弁護士が読む❗️こども性暴力防止法Q &A】のタイトルで配信されています。メインスピーカーは三輪記子弁護士、聞き手は嶋﨑量弁護士です。
https://www.youtube.com/watch?v=XtTCNTDBLLo
 第1回(2026年5月16日)は「こども性暴力防止法を考える」です。
https://www.youtube.com/watch?v=uUlx8XaKMso&t=4324s

※こども性暴力防止法がもたらす、構造上の課題問題について、法律家がとても分かりやすく解説する記事が「アエラキッズプラス(AERAKidsPlus)に掲載されました! 解説はもちろん、鈴木愛子弁護士です。こどもを性暴力から守るための重要な法制度だからこそ、実は逆説的にこどもや運営事業者が追い込まれてしまう可能性を分かりやすく説明されています。ぜひぜひ、記事を読んでください! 実に分かりやすいですよ!
 「本当に性犯罪を防げる?」学校や学童保育、放課後子供教室も対象になる「日本版DBS」に、現場から懸念の声…【弁護士が解説】 | AERA with Kids+

放課後児童クラブ事業を考えている民間企業の方へ朗報! 児童クラブ参入の手引きとなる「埼玉県 放課後児童クラブ新規参入スタートブック」が公開されました。全40ページ。フルカラー。冊子は2部に分けて埼玉県福祉部こども支援課のページで公開されています。なお本スタートブックは弊会が作成受託しました。
(前編)
 https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/166938/r0803_houkago-jidou-club-startbook01.pdf
(後編)
https://www.pref.saitama.lg.jp/documents/166938/r0803_houkago-jidou-club-startbook02.pdf

 わたくし萩原が寄稿した記事が「ウェッジオンライン」で2026年7月29日に公開されました。「子どもの「体験格差」が気になる夏休み…その“差”を埋めるのは難しいのか?子どもにとって貴重な体験に目を向けろ」という記事です。ヤフーニュースにも配信されています。URLは以下の通りです。(子どもの「体験格差」が気になる夏休み…その“差”を埋めるのは難しいのか?子どもにとって貴重な体験に目を向けろ  Wedge ONLINE(ウェッジ・オンライン)
 2026年5月29日には「“産業化”の大波に飲み込まれる学童保育…企業はどう収益を上げているのか?事業構造から見える放課後育成の実情」という記事が公開配信中です。URLは以下の通りです。https://wedge.ismedia.jp/articles/-/40665
 2026年4月13日、「「こどもが学童に入れたから仕事も安泰!」なのか?小1、行き渋り、夏休み…いくつも存在する“学童保育の壁”とその対処法」という記事も公開、配信されました。(https://wedge.ismedia.jp/articles/-/40473)。こちらもぜひ読んでいただけるとうれしいです。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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萩原和也