年度末で退職する職員がいます。春休みで忙しいので有給は使わせないで退職してもらいますが、いいんですよね?

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表で「あい和社会保険労務士事務所」の萩原和也です。放課後児童クラブの労務管理や事業運営をサポートする社会保険労務士です。放課後児童クラブを舞台にした(とても長い)人間ドラマ小説「がくどう、 序」が、アマゾン(https://amzn.asia/d/3r2KIzc)で発売中です。「ただ、こどもが好き」だからと児童クラブに就職した新人職員の苦闘と成長、保護者の子育ての現実を描くハッピーサクセスストーリーです。お読みいただけたら、アマゾンの販売ページに星を付けていただけますでしょうか。そして感想をネットやSNSに投稿してください! 最終目標は映像化です。学童の世界をもっと世間に知らせたい、それだけが願いです。ぜひドラマ、映画、漫画にしてください!
 今回は社労士ブログ。年度末の放課後児童クラブで、ややもするといざこざに発展しそうな問題についてです。年度末で退職する職員がいるとき、その職員がそれまで行使できなかった年次有給休暇を退職前の3月にまとめて使用したいと申し出た時に起こりうるケースを取り上げます。
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 (※基本的に運営支援ブログと社労士ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブは、いわゆる学童保育所と、おおむね同じです。)

<春休みに年休をまとめて使用>
 春休みは、児童クラブにとって非常に重たい繁忙期です。夏休みは期間が長いことによる体力的な消耗はありますが、こどもたちと職員との関係性を深化させるにはうってつけの期間です。人手不足ゆえ勤務できる職員のやりとりに運営事業者やクラブ施設長など管理職は頭を抱えがちですが、こと、育成支援の点では夏休みは案外、職員には歓迎されます。
 ところが春休みはうって変わって児童クラブ職員にはなかなか気が重たい。3月の春休みは、退職する職員への気遣い、気配り、あるいは複雑な感情が入り混じる中で4月からの新入所児童受入準備に追われます。4月の春休みはもちろん新入所してきたこどもとの関係と保護者との関係が非常に配慮を有するので、心理的なストレスの激しさは1年の中でも最も厳しい時期です。

 つまり児童クラブにおける春休みは職員と運営責任者にとって非常にしんどい時期なのですが、このしんどい時期に、年度末退職者との年休処理でもめ事になると、これはもう本当にややこしいことになります。だいたい児童クラブは人手不足なのでいつの時期でも年休を取りづらい。どんどん貯まっていった年休を退職を前にした年度末の3月にどどーんと行使しようと年休使用の申請をすることになりがちです。あるいは、3月の春休みの非常に厳しい現場を知っていて、あえてその時季に年休をまとめて申請する退職予定職員もいます。ある種の意趣返しですね。「年休行使は労働者の権利。だから堂々と使いますよ。それが3月の春休みだろうがどうだろうが、権利ですからね」ということです。そこには、これまで務めていた事業者への恨みつらみもあるでしょうね。

 わたくし萩原は、年度末の児童クラブにとって1年の中で最も神経をすり減らす3月に、退職予定職員が年休をまとめて申請することについて「そりゃ権利だからしょうがないわ」と考えます。ここであれこれと難癖をつけて年休を使わせないようなことをする=時季変更権=は、児童クラブ事業者になかなか認められないのではないかという私見を持っています。

 なお、年次有給休暇について厚生労働省の資料は次のように説明しています。長いですが転載します。「年次有給休暇は、労働者が請求する時季に与えることとされていますので、労働者が具体的な月日を指定した場合には、以下の「時季変更権(※)」による場合を除き、その日に年次有給休暇を与える必要があります。
(※)時季変更権
使用者は、労働者から年次有給休暇を請求された時季に、年次有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合(同一期間に多数の労働者が休暇を希望したため、その全員に休暇を付与し難い場合等)には、他の時季に年次有給休暇の時季を変更することができます。」
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 いいですか、児童クラブ事業者さんは、いくら退職する職員がクソ忙しい3月の春休み時期に年休を使いたいと申請してきても、基本的には断れないのですよ。忙しいからダメです、では通じないと判断される可能性が高いことを認識してください。いままでこのケースが問題にならなかったのは、徹底的に争うことをしない児童クラブの職員ばかりだったからにすぎないとわたくしは考えます。

<事前にわかっているなら対応して当然だ、と判断されるだけ>
 3月の児童クラブは非常に忙しいのは児童クラブ運営事業者なら周知の事実。少なくとも(多くの事業場で退職の申し出は1か月前になっているという就業規則がおそらくあるだろうという想定で考えれば)1か月以上前に年度末退職を職員が申請してきたなら、つまり2月末日に退職届を出してきたなら、運営事業者は同時に、「この職員が3月にまとめて有休を申請してくる可能性があるな」と判断して対応にとりかかっておかねばならない、そうわたくしは考えます。退職予定職員がまだ行使しきれないでもっている年休の日数は当然に分かりますから。

 年休をまとめて持っている退職予定職員がいるなら、児童クラブ運営事業者はクラブの施設長等と十分に連携して、「退職予定職員が年休行使でほとんど出勤しない想定」を立てて職員の手配をするべきです。その努力をすることなく「3月はご存じの通り忙しい時期だから年休は使えません。最後の日まで勤務してください。あなたも児童クラブ職員だったから分かりますよね。こどものため、ですからね」等と退職予定職員を冷たくあしらうことが、おそらく多くの児童クラブで横行しているでしょうが、これ、万が一、年休行使を認められなかった退職予定職員が「出るとこに出た」ら、運営事業者側はまず勝てません。

 時季変更権はいつ何時でも事業者側が便利に使える権利ではありません。突然の退職の申し出があって、かつ、「以後はもう年休行使なので出勤しませんから」と、職員手配の調整に使える日数がまったく無い場合は時季変更権の効力に疑問はないでしょう。この「突然、辞めると言ってくる職員」もまた児童クラブ界隈においてそこそこありうる事態です。
 ところが就業規則等に従って正規の退職の申し出をしてきた職員に「3月は忙しいから年休はダメね」と事業者が言えるのかどうか。解釈はいろいろあるでしょうが、わたくしの解釈は「ダメ。認められないと考えるべきだ」というものです。2月末の退職申出で、春休みが始まる3月半ばまでは2~3週間あります。その期間において代替職員の手配は事業者側にとって不可能ではないと世間一般にみなされるだろう、というのがわたくしの解釈です。

 もっといえば、年度末退職職員が出るのは当たり前として、事業者は常にその場合における年休行使の対策を練っておくべきなのです。毎年毎年、「年休はダメ。忙しいの、あなたも知ってるでしょ?」とか、「年休使うのはいいけれど、代わりの人はあなたが手配してね。準備してね。それができない限り、年休は使えません」というのは、事業者側が法令違反を犯す可能性が高い状況とわたくしは考えます。「代わりの人を見つけないと休めないよ」というのも児童クラブ界隈にありがちなことですが、それ、「児童クラブの常識は世間の非常識」の典型例です。代わりの人は、雇い主、使用者が見つけるのです。

 そもそも年度末退職の職員の年休対策を講じていない児童クラブ運営事業者こそ、だらしがない。わたくしは断言します。必要な対策をしておけばよいだけです。

<年度末のまとめて年休行使対策>
 その1はいわずもがな、波動的な労働力を確保しておくことです。「予算が無いからプラス分の労働力を確保できない現実を棚に上げる気か?」と怒られそうですが、どんなことがあっても事業を続けることができる計画や備えを事業者なら用意、手配しておくべきなのです。ここは「べき論」です。そのべき論の覚悟がないなら、「そもそも事業をやるな」とわたくしは言いたい。事業をやるというのであれば、職員の予定退職ぐらいで人が足りないだの、クラブを開所できないだの騒ぐな、ということです。騒ぐような事態に陥るような事業運営しかできないのは、それは事業者の能力不足です。パートでもアルバイトでもヘルプの有資格保護者でもいい。いざというときに稼働できる人の「あたり」を付けなさい。

 その2は、法令で義務付けられた「年休5日使用ルール」の徹底です。いまだにあまり知られていませんが、年に10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対しては、事業者は5日の年休を行使させなければならないのです。先の厚労省の資料から抜粋します。
「使用者は、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日(基準日)から1年以内に5日について、取得時季を指定して年次有給休暇を取得させなければなりません。」
 例えば毎年4月1日を基準日(この日に年休を付与すると事業者が決めた日)として半年が過ぎた10月になって、まだ年休を5日使用していない職員がいたとします。事業者は、その職員の意向を聞いて、年度末までに5日の年休を使えるようにするため日時を決めて年休を行使させるのです。10月までに3日しか年休を使っていない職員がいたなら、12月〇日と1月〇日の2日間で年休を使いなさいよ、と取得の時季を指定して職員に年休を使わせねばならないのです。
 この制度は年に10日以上の年休が付与される職員、つまり週30時間以上で週5日働く契約をしている、およそフルタイム勤務と呼ばれる職員であればもれなく適用されるものです。ですが年休には「比例付与」という制度もあって、週4日勤務のパート職員でも勤務を始めて3年6月が経過すると年10日に達しますから、この5日使用ルールに該当します。週3日勤務のパート職員も勤務開始後5年6月が経過すると年10日の年休付与ですから、この5日使用ルールに該当するのです。ここは見落とされがちです。留意しましょう。

 5日使用ルールを適切に運用していれば(というか、運用しなければなりませんが)、年休は1回の年度繰り越しが認められているので最大40日(年休は最大20日付与、それが1回繰り越せるので最大40日が、持てる最大限の年休日数)の年休を貯めこんでいる職員でも、年休35日と少しは減らせます。

 その3は「退職予定者の未使用年休の買取」です。
 年次有給休暇の買取は違法です。ですが、退職すると当然に年休を使えませんから、退職する労働者が行使しきれない年休を使用者が買い取るのは認められています。退職したら年休行使の権利を行使できませんからね。なお、繰越できずに消滅する年休の買取も可能です。
 3月末(というか、いつでも構わないのですが)に退職する職員が使いきれない年休を持っているならそれを金銭に替えて退職予定職員に渡せばいいのです。年休は「時間を賃金に替えることができる」ものですがそれを文字通り実行するだけの話です。
 この制度が充実していれば、退職予定職員が「年休をお金に替えられるから、現場も大変なことは分かっているからシフトに入るとするか」という考えになってくれるかもしれません。「組織を見限って辞める職員には年休もカネも渡したくない!」と意固地になっているような事業者は、あえていおう、カスであると。「そうかそうか。次の職場でも頑張ってくださいな」と笑顔で言えるだけの度量がなければ、児童クラブ(だけではなくどの業種でもそうですが)の運営事業者には向いていません。そんな狭い度量の人物が事業を営む、事業の責任を負うなんて、馬鹿げた話です。
 ぜひ退職予定者の年休買取は制度化しておきましょう。就業規則に書き込んでも、また労使協定を取り交わしておいても良いのです。

<笑顔で送りだせ>
 児童クラブを退職して他の職業に就く人、あるいは同業他社に移る人もいるでしょう。しかしですね、児童クラブの世界は、あまりにもそれぞれの事業者ごとの特色がありすぎて、つまり「ガラパゴスの度合い」が激しすぎて、よほどのブラック事業者でなければ、「なんだ、せっかく良さそうに見えたので転職したけれど、案外、昔のクラブの方が良かったな」という思いにとらわれる退職職員もいるでしょう。まあはっきりいえば「視野が狭い」児童クラブ職員が多くて、「隣の芝生がきれいに見えすぎる」職員が多いので、「世の中って、そんなに甘くないんだよ」ということが実感しにくい職員さんが多いとわたくしは体感してきました。

 つまり、外の水を吸ってみたけれど案外甘くなくて、「あーあ、辞めなければよかった」と思う退職職員も、ゼロではないのです。そういう方を再び迎え入れることができるよう、児童クラブ運営事業者は最後の最後まで笑顔で「いままでありがとう。気が向いたらいつでも戻っておいでね」という言葉をかけて送り出すべきです。退職者は最強の経験者です。1年後、2年後、数年後に戻ってきてくれたなら、とてもありがたいではありませんか。そういう「出戻り組」を優遇する前歴加算の制度も併せて整えておきましょう。それこそ、先手先手の経営スタイルです。

<まとめ>
 年度末退職職員の年休行使申請は認めるべし。
 年度末退職職員から、年休のまとまった行使がきてもあわてないように手を打っておくべし。
 年休5日使用ルールは徹底するべし。
 退職職員の年休買取を進めるべし。
 退職する職員は笑顔で送り出すべし。

(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
 2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

 New! 日本版DBS制度について相談したい事業者さんにぜひともお勧めします。さいたま市南区の「エリーネ行政書士事務所」(https://www.eri-ne.com/)さんのご紹介です。行政書士の入澤えりな先生が、日本版DBS制度を中心に児童福祉施設や児童福祉の事業者様からのご相談に対応してくださいます。日本版DBS制度以外にも遺言作成・相続、介護タクシー等をメインにご相談に応じているとのことです。営業時間は平日9:30~17:00で、土日祝は応相談とのこと。ぜひ、困り事がありましたら頼ってくださいね。

 「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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萩原和也