最大手の事業者が運営する放課後児童クラブで、夏休み中、外遊びができていなかったことが報道されました。喝!

 放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。奈良県香芝市の放課後児童クラブで、24施設のうち20施設のクラブで、夏休み中の外遊びがなかったという報道がありました。外遊びができなかったという事態の要因を徹底的に追及することが必要です。
 (※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)

<報道では>
 奈良新聞デジタルが2025年2月24日6時11分に配信した、「奈良県香芝市学童保育所20カ所で2024年の夏休み期間、外遊びゼロ  「人手不足」理由に」という見出しの記事を一部紹介します。
(https://news.yahoo.co.jp/articles/416d42f50bb49e248f4356800f0250fbdb500602)←ヤフーニュースへのリンクです。リンク切れになることがあります。
「「シダックス大新東ヒューマンサービス」(東京都)が指定管理者として運営する奈良県香芝市の市立学童保育所24カ所中20カ所で、昨年の夏休み期間中(7月21日~8月31日)等に外遊びが全くなかったことが明らかになった。19日、香芝市議会3月定例会の代表質問等で分かった。」
「担当課がある市教育部は外遊びが子どもの発達、発育に不可欠であると認め、暑さのピークを避けて朝夕に外遊びできる可能性もあるとする一方、実施できていない理由として「児童により登所、降所時間が異なり、安全管理のための指導員が十分に確保できていない」と人手不足を挙げた。」(引用ここまで)

 なお、記事では、シダックス社が運営する24クラブのうち外遊びがなかったのが20クラブ、残る4クラブのうち、2クラブは期間中に1~3日間の外遊びがあり、毎日、外遊びをしていたのは2クラブ。その2クラブも、1クラブは毎日15分、残る1クラブは毎日45分だったとあります。一方で、民設クラブでは毎日、朝夕の時間帯に1~2時間の外遊びや体育館を借りての遊びを実施していたと記述があります。
 その差は歴然としています。この報道内容に、私は愕然としました。

<人手不足が問題なのは分かる。では、なぜ人手不足か?>
 児童クラブにおける「遊び」の重要性は、今ここに長々と書くことはしませんが、いうまでもなく「遊び」は児童クラブの最も重要な要素です。「遊びと生活の場」が児童クラブです。よって外遊びも言うに及ばず。先の記事で、担当部署のコメントが記載されていますが、その通りです。まして、子どもが朝から夜まで過ごすことが多い、学校の休みの期間中に、子どもが、狭い施設から開放されてのびのびと過ごせる外遊びの時間が全くないということが、どれほど児童クラブに期待される役割を損ねているか、非常に深刻な問題です。
 「外遊びができなくて、かわいそうだったね」という問題ではないのです。児童クラブの大事な要素を機能させていなかったということです。雑な例えですが、ジェットコースターと観覧車がダブル人気の遊園地に行ったところ1つが運転をしていなかった、でも料金はその2つの利用料金をしっかり徴収されているということです。

 ごく普通の人であるなら、この記事を読んで、「児童クラブも人手不足だよね。なかなか働く人が見つからない時代だから」と、人手不足であるために外遊びができなかったことを人手不足なら仕方がない、という感想にもなるでしょう。この人手不足の時代、どの業種だって人が足りなくて困っているから、児童クラブだって同じことだろうという想像が働くからです。

 果たしてそうでしょうか?

 まず運営支援が指摘したいのは、市内にある、他の民設(記事では「私立」と表記しています)のクラブでは、連日1~2時間の外遊びができていたり、体育館を借りてクラブ外での遊びが実現できていたこととの差異です。児童クラブに対しては、市区町村が、その設置の必要性を認めていれば、運営に関して必要最低限の補助金を交付しています。必要最低限というのは、子どもの児童クラブにおける「遊び」は児童クラブの中心的な「事業」ですから、その事業が遂行できるだけの予算を保障する金額であるはずです。しかも、それは公設クラブであろうが民設クラブであろうが変わりません。むしろ民設クラブの方が少ない場合が結構あります。

 報道では、民設クラブは外遊びができていて、公立の、シダックス社運営のクラブでは外遊びが24クラブ中、20クラブでできなかった。残りの4クラブだって、とても十分な外遊びの機会を子どもに提供していたとは言い難い、ひどいレベルです。

 民設クラブではできて、公立の同社運営のクラブでは、ほぼまったくできなかった原因、要因はなんだったのかを、議会や、報道機関はしっかりと調べねばなりません。それが人手不足というのであれば、なぜ、公立の同社運営クラブでは人手不足に陥っていたのかを、調べねばなりません。

<大前提が揺らいでいる>
 そもそも、指定管理者制度であれ、業務委託であれ、指定管理料や業務委託料は、事業者側から「この額で、やっていけます」という額を要求したり提示したりしているものです。香芝市でいえば、公募によって指定管理者を選定して、その結果が市のHPに公表されています。シダックス社と、児童クラブ運営事業者の2番手である株式会社明日葉との上位2傑一騎打ちだったようです。公募であれば、必ず、人手不足や人員確保の対応について審査基準が設けられています。つまり、「うちを選んでくれれば、児童クラブの人手不足は心配不要ですよ。しっかりと職員配置をしますよ」とアピールして、得点を稼いでいるものです。「職員配置は大丈夫です」と胸を張って指定管理者の座を勝ち取ったのでしょう。しかし、職員配置は大丈夫という前提が実は砂上の楼閣であった、ということなのではないでしょうか。
香芝市立学童保育所の指定管理者の候補者を決定しました - 香芝市公式ホームページ

 行政としてみれば、「職員配置体制には問題ない、欠員対応も万全だとアピールしていたから選んだのに、この体たらくはなんだ?」と思いたくもなるでしょう。実のところ、公募によって選ばれた指定管理者や受託者が、ずっと職員募集の求人広告を出しっぱなしというのは珍しくありません。香芝市の指定管理者は児童クラブのアウトソーシングでは他を圧倒する規模の最大手ガリバー企業ですが、あちこちの地域で求人を続けています。

 公営の児童クラブを民営化する、あるいは保護者運営や地域に根差した事業者の運営する児童クラブを、広域展開事業者に任せるという動きは全国でもはや当たり前の傾向となっています。「民営化すれば、あちこちで運営している事業者であれば、民間の知恵で人手不足も、クラブの質も向上する」と行政執行部が議会で答弁したり住民向けの説明資料に記載したりしていますが、本当にそうでしょうか?はっきりと運営支援は言いますが、「民営化したからといって、あちこちでクラブを運営している事業者だからといって、優れた知恵があるわけではない。事業者自体が受け取った補助金や利用料を事業者本体の利益に計上するテクニックには長けているが、児童クラブの事業そのものに優れたノウハウなど無い。ノウハウがあるなら求人広告をあんなにあちこちに出さないでしょう。プレゼンテーションの資料に行政執行部が騙されているか、騙されているのを承知で、児童クラブにまつわる面倒な事業を丸投げできるからと、寄らば大樹として意図的に大きな事業者を選んでいるだけだ」と断言します。

 今回の香芝市の事案において、なぜ公設の児童クラブにそんなに職員が足りないのかを考えると、当然、「人があまり応募しない雇用労働条件を提示しているからではないのか?」という疑問が浮かびます。
 記事では「児童により登所、降所時間が異なり、安全管理のための指導員が十分に確保できていない」とありますが、まったく理由となりません。そもそも児童クラブでは児童の登所、降所時間が異なるのは当然すぎる大前提で、「地球上に空気があるもの」と同じ程度の当然さです。児童の来る時間、帰る時間の違いを理由に職員の確保が十分にできなかったと事業者が釈明しているのであれば、そもそもその事業者は、児童クラブを運営する能力も意欲にも問題がある水準と言えるでしょう。児童の来る時間、帰る時間を職員確保の問題に責任転嫁する姿勢が非常に残念で遺憾です。子どもを受け入れる事業をしている認識が本当にあるのでしょうか。
 時間帯も同一の地域で同じ事業を行っていながら、方や民設クラブでは外遊びができる職員体制ができていて、方や公設クラブでは人手不足であった。となれば、「事業の運営に、何か、違いがあるのではないか?」と、思うのは当然でしょう。香芝市議会や報道機関は、その点、しっかりと調査してほしいものです。この事業者は、さいたま市でも、夏休み期間中にスポットワーカー、つまりスキマバイトを活用していました。市内で同様の事業者がスキマバイトを活用しなくても事業を行えていたのに、です。当然、スキマバイトを活用する方が人件費としては安上がりになります。

 指定管理者制度は、指定管理者の営業努力の結果、指定管理料以内で事業を行うことができたら、余った指定管理料を事業者の利益とすることが認められています。例えば予算の7割~8割を占める人件費を徹底的に節約して予算が黒字決算になれば剰余金を利益計上することが認められているのです。ここに、人件費を徹底的に節約したいという指定管理者の「動機」が生じます。公募プロポーザルで選べばれた業務委託契約でも、同様の内容が約されていることがあります。(随意契約で事業者が決め打ちで選ばれている場合は、特段の理由が認められない限り、剰余金は返還することが決められていることがほとんどでしょう)

 今回の香芝市の事案では、指定管理者が人件費に十分な予算を割いていたのか、行政執行部や議会がしっかりとチェックするべきです。市内の民設クラブと比べてどうだったか、隣接市町村の児童クラブと比べてどうだったか、市内の他の事業者(小売業や飲食店など)と比較してどうだったのか、十分に人員を確保できるだけの時給や雇用労働条件を設定していたのかどうか、チェックするべきです。
 夏休みの外遊びができていなかったのに、仮に、2024年度の決算において剰余金が発生し、それが事業者の利益に計上されることでもあれば、議会はそれを認めてはなりません。放課後児童クラブの本旨である、児童の健全育成において欠かせない「遊び」という児童クラブの中心的な事業に欠陥があったのですから、十分に満足な事業を行っていないということは間違いありません。いわば債務の不完全履行です。それなのに、剰余金を事業者の利益とすることは社会正義に反すると、私は考えます。

 夏休みに外遊びができなかったことが議会で明るみになったことは、児童クラブの健全な発展のために良いことでした。ただ、半年前のことです。行政の担当課も、そして保護者も、「子どもが、外で遊べていない。それは問題だ」と、もっと早期に気付かなかったことが悔やまれます。(その点、さいたま市のスキマバイト問題は発覚が非常に速やかであったことは評価に値しますね)
 「猛暑、酷暑だから外遊びはもともとできないよね」ではないのです。朝夕の時間を使えば外遊びができたことは民設クラブが実証しているのではありませんか。今回の事案の背景には、指定管理者による運営の監視、チェックが十分だったかという問題に加えて、行政や保護者、つまりこの社会が「児童クラブにおける、子どもの遊びがいかに重要かという理解に欠けている」ということも影響しているのではと、私は残念でなりません。

 <おわりに:PR>
 弊会は、次の点を大事に日々の活動に取り組んでいます。
(1)放課後児童クラブで働く職員、従事者の雇用労働条件の改善。「学童で働いた、安心して家庭をもうけて子どもも育てられる」を実現することです。
(2)子どもが児童クラブでその最善の利益を保障されて過ごすこと。そのためにこそ、質の高い人材が児童クラブで働くことが必要で、それには雇用労働条件が改善されることが不可欠です。
(3)保護者が安心して子育てと仕事や介護、育児、看護などができるために便利な放課後児童クラブを増やすこと。保護者が時々、リラックスして休息するために子どもを児童クラブに行かせてもいいのです。保護者の健康で安定した生活を支える児童クラブが増えてほしいと願います。
(4)地域社会の発展に尽くす放課後児童クラブを実現すること。市区町村にとって、人口の安定や地域社会の維持のために必要な子育て支援。その中核的な存在として児童クラブを活用することを提言しています。
(5)豊かな社会、国力の安定のために必要な児童クラブが増えることを目指します。人々が安心して過ごせる社会インフラとしての放課後児童クラブが充実すれば、社会が安定します。経済や文化的な活動も安心して子育て世帯が取り組めます。それは社会の安定となり、ひいては国家の安定、国力の増進にもつながるでしょう。
 放課後児童クラブ(学童保育所)の運営支援は、こどもまんなか社会に欠かせない児童クラブを応援しています。

 弊会代表萩原ですが、2024年に行われた第56回社会保険労務士試験に合格しました。これから所定の研修を経て2025年秋に社会保険労務士として登録を目指します。登録の暁には、「日本で最も放課後児童クラブに詳しい社会保険労務士」として活動できるよう精進して参ります。皆様にはぜひお気軽にご依頼、ご用命ください。また、今時点でも、児童クラブにおける制度の説明や児童クラブにおける労務管理についての講演、セミナー、アドバイスが可能です。ぜひご検討ください。

 放課後児童クラブについて、萩原なりの意見をまとめた本が、2024年7月20日に寿郎社(札幌市)さんから出版されました。本のタイトルは、「知られざる〈学童保育〉の世界 問題だらけの社会インフラ」です。(わたしの目を通してみてきた)児童クラブの現実をありのままに伝え、苦労する職員、保護者、そして子どものことを伝えたく、私は本を書きました。学童に入って困らないためにどうすればいい? 小1の壁を回避する方法は?どうしたら低賃金から抜け出せる?難しい問題に私なりに答えを示している本です。それも、児童クラブがもっともっとよりよくなるために活動する「運営支援」の一つの手段です。どうかぜひ、1人でも多くの人に、本を手に取っていただきたいと願っております。注文はぜひ、萩原まで直接お寄せください。書店購入より1冊100円、お得に購入できます!大口注文、大歓迎です。どうかご検討ください。

 「リアルを越えたフィクション。これが児童クラブの、ありのままの真の実態なのか?」 そんなおどろおどろしいキャッチコピーが似合う、放課後児童クラブを舞台にした小説を完成させました。「がくどう、序」というタイトルで、2025年3月10日に、POD出版(アマゾンで注文すると、印刷された書籍が配送される仕組み)での発売となります。現在、静岡県湖西市の出版社に依頼して作業を進めております。
 埼玉県内の、とある町の学童保育所に就職した新人支援員が次々に出会う出来事、難問と、児童クラブに関わる人たちの人間模様を、なかなか世間に知られていない放課後児童クラブの運営の実態や制度を背景に描く小説です。新人職員の成長ストーリーであり、人間ドラマであり、児童クラブの制度の問題点を訴える社会性も備えた、ボリュームたっぷりの小説です。残念ながら、子ども達の生き生きと遊ぶ姿や様子を丹念に描いた作品ではありません。大人も放課後児童クラブで育っていくことをテーマにしていて、さらに児童クラブの運営の実態を描くテーマでの小説は、なかなかないのではないのでしょうか。児童クラブの運営に密接にかかわった、元新聞記者である筆者だからこそ描ける「学童小説」です。ドラマや映画、漫画の原作にも十分、活用できる内容だと確信しています。ご期待ください。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

(このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)