300円の「学童保育」、1万3千円の「学童保育」。安い、高いという前に、考えてみてほしいこと。その1

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育事業の質的向上のためにぜひ、講演、セミナー等をご検討ください。

 このところ、相次いで気になる投稿をSNSで目にしました。投稿をした方について、何か思うことがあるわけでは、まったくありません。その点は先に明確にしておきます。気になったのは、投稿されていた情報です。1つは、300円の学童保育がとても素晴らしいという内容。もう1つは、1万3000円の学童保育の保育料が高すぎる、という内容でした。

 当然ですが、学童保育もサービスであり、そのサービスの対価として利用者は料金を払います。ただし、学童保育(この場合、放課後児童クラブなど、国や自治体から補助金が出ている事業)は、公的なサービスであり、事業には補助金が額の多寡はあれど交付されていますから、保護者が支払う料金(保護者負担金や保育料、月謝)が、学童保育で提供されるすべてのサービスの対価になるわけでは、ありません。その点は留意が必要です。
 さらにいえば、ある料金を安いか高いかは、人それぞれの判断基準が異なっているので、絶対的な基準としての議論はできません。「だいたいの人は、安い(高い)と思う」という、おおざっぱな程度の議論であることは当然です。1万3000円を「あまり高くないね」と思う人もいれば、300円を「0円でいいじゃない。300円は高い」という人だって、いても不思議ではないのですから。

 その上で、300円と1万3000円を考えてみたいのです。安いか高いか。

 料金が安いのは、当然、安くできる理由があります。300円でよかった、という方が示している学童保育は、学童保育業界でいうところの「全児童対策事業」のことです。それは、厳密な意味での学童保育=放課後児童クラブではなく、「放課後児童クラブと放課後子供教室の一体型をさらに推し進めて双方を統合したもの」です。全児童対策事業を展開している小学校の児童は誰でも利用ができ、午後5時以降も残る児童は学童保育の対象として補食(おやつ)を提供する場合もあります。保護者にとってみれば、「待機児童なし」「料金が安い」ということで、大人気です。なお、おやつについては実費分を保護者が負担することが多いようです。

 どうして全児童対策事業が安くできるのかは、「安くできるだけの事業しか、提供していない」(もっと正確に言えば、補助金が安くて済むだけの事業しか提供していない)からなのです。そこで作業をしている大人は、学童保育としての機能を担保する放課後児童支援員として働く人以外は、謝金を受け取って種々のプログラムを提供する地域の人たちです。つまり、労働者ではないのです。謝金ですから、賃金ではないのです。他、プログラムを考えたり必要な人材を手配する重要な役割のコーディネーターもおりますが、報酬は年間100万円程度が多いようです。支出の最も大きい額を占める人件費を大幅に節減しているからこそ、料金を安くできるのです。

 そして、全児童対策事業では、子どもの「やりたい」ではなく、大人が種々のプログラムを準備して提供して、子どもに「やってもらう」ものなのです。しかも、全児童対策事業に従事する放課後児童支援員(すなわち、学童保育としての機能を担保するために働いている人たち)もまた、手取り十数万円で、何十人もの子どもたちと向かい合う仕事をしています。児童数の多さ、しかも日替わりで利用する児童の構成も手伝って、全児童対策事業には放課後児童クラブとしての「育成支援」を実施する余地は、ほとんどありません。
 まして、ギュウギュウ詰めの子どもたちにとって、ストレスなく過ごせる環境が準備されているとは、とてもいえないのが、残念ながら多くの全児童対策事業の現実なのです。

 多くの保護者が安くて良かったと安心するその裏には、何かが削られていること、追い詰められていること、軽視されていることがあるということなのです。
 保護者や国民には、その料金を設定できるだけの理由について、気づいていただきたい、考えてみていただきたいと、私は願います。そして保護者にはもっと、自分の子どもたちが、放課後、あるいは長期休業中なら朝から、どのように施設で過ごしているか、気にしていただきたいと私は思います。

 「フェアトレード」という概念があります。これは国際貿易の世界で、開発途上の国の低賃金による労働で得られたものを、豊かな国で安く販売することによる弊害の解消を目指すものです。低価格を実現するために、誰かが犠牲になることはあってはならないという公正、社会正義の考え方だと私は理解しています。学童保育の世界にも、同じような考え方を国民にもってもらいたい。「値段が安ければそれが正義」ではないのです。誰かが苦しんでいるのであれば、その安さは「不正解」であるということを。

 もちろん、料金を安くするために補助金が多額に投入されており、質の高い事業が展開されているというのであれば、それは文句なしでしょう。保護者の経済的負担が毎月数百円であり、子どもたちに対して質の高い育成支援が展開されており、施設内では児童がギュウギュウ詰めでなく穏やかに過ごせている。そこで働いている人はワーキングプアに悩まされず安定して雇用の継続が確保され、業務の生産性向上にも取り組めている。そのような「全児童対策事業」であれば、私は大賛成ですし、それが理想だと思います。
 問題は、「それなりの補助金しか用意しない、それなりの事業しか期待していない」という現状を、国や自治体が「良し」としていると思われる節があるところです。

 300円の「学童」があると聞いた人にしてみれば、1万3000円の学童保育所は「料金が高い」と、誰しも思いますよね。それは当たり前です。数値の比較では絶対的に高い、安いが明瞭になります。その意味で、300円の「学童もどき」の存在は、まっとうに学童保育所を運営している組織や自治体にとって、ある意味で迷惑でもあるのです。

 さて1万3000円が高いか。それは次回以降に考えましょう。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の世界の発展と質的な向上のために種々の提案を発信しています。学童保育の運営に関して、豊富な実例をもとに、その運営組織や地域に見合った運営の方策についてその設定のお手伝いすることが可能です。

 育成支援の質の向上に直結する研修、教育の機会を提供するとともに、個々の学童保育所運営者様へ、安全安心な子どもの居場所づくりとその運営手法において、学童保育組織運営について豊富な経験を持つ代表が、自治体や学童保育運営事業者に講演や具体的な助言、アドバイスを行うことが可能です。

 子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。どんなことでも「あい和学童クラブ運営法人」に、ご相談ください。子育て支援の拡充に伴い、今後ますます重要視されていく子どもの居場所づくり事業の充実のため、一緒に取り組んでいきましょう。

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