<運営支援ブログミニ37>最低賃金をめぐる報道に、懸念と異議を申し上げる! 児童クラブ業界は怒れ!
放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の運営者と働く職員をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表で「あい和社会保険労務士事務所」の萩原和也です。放課後児童クラブ(学童保育所)運営支援アドバイザーであり、放課後児童クラブの労務管理や事業運営をサポートする社会保険労務士です。
今回はミニ版。最低賃金に関して気になる報道がありました。2020年代のうちに全国平均で1,500円とするという政府目標を、2030年代に先延ばし(というか、元に戻す)と政府は考えている、とのことです。政府の方針がそうなれば、そうなってしまうのでしょう。放課後児童クラブの世界は最低賃金を基準に職員スタッフの賃金が設定されていることが非常に多いので、最低賃金の引上げペースが遅れると、その分、職員が手にする収入は増えないということになります。児童クラブの世界から「チョ、チョイマッテ!」という声を上げねばなりませんよ。
それにしてもサッカーワールドカップのブラジル戦、日本代表、大健闘でした。にわか歴40年ほどのわたくしですが、あのブラジル相手に、W杯というガチの舞台で堂々と挑んだ試合に、日本サッカーのレベルアップを実感しました。もちろん、実力では確かにブラジルには到底、及ばなかったこともまた明らかになった試合でした。攻めようにも攻められなかった時間帯だらけでした。世界強豪がフランスやスペイン、モロッコ、ドイツ、ブラジルとしたら、それら横綱的なチームに対して日本はようやく十両から幕内力士になったという水準でしょう。それでも、堂々とひるむことなく対峙できたのは実力がそなわってきたからです。かつては「W杯? 出られれば良し!」だったのが「狙うは優勝」と選手が口にしても「もしかしたら、あるかも?」とまで相手に受け取られるまでになったのですから。4年後がさらに楽しみです。わたくしも頑張って生活を成り立たせて生き続けねば!
(※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。)
※こども性暴力防止法がもたらす、構造上の課題問題について、法律家がとても分かりやすく解説する記事が「アエラキッズプラス(AERAKidsPlus)に掲載されました! 解説はもちろん、鈴木愛子弁護士です。こどもを性暴力から守るための重要な法制度だからこそ、実は逆説的にこどもや運営事業者が追い込まれてしまう可能性を分かりやすく説明されています。ぜひぜひ、記事を読んでください! 実に分かりやすいですよ!
「本当に性犯罪を防げる?」学校や学童保育、放課後子供教室も対象になる「日本版DBS」に、現場から懸念の声…【弁護士が解説】 | AERA with Kids+
<報道から>
ヤフーニュースに最低賃金の目標に関する記事がいくつかの報道機関によって配信されています。その中から、2026年6月25日19時44分に配信された、毎日新聞の「最低賃金「全国平均1500円」先延ばし 政府が目標見直しへ」との見出しの記事を一部引用します。
「政府はこれまで掲げていた最低賃金目標の「2020年代の全国平均時給1500円への引き上げ」を見直す方向で調整に入った。30年代前半の実現も容認する方向で、高市早苗政権が今夏にまとめる「日本成長戦略」で打ち出す方針だ。」
「賃上げを巡っては、「成長と分配の好循環」を掲げた岸田文雄政権が、30年代半ばまでの時給1500円を目標に掲げた。その路線を踏襲した石破政権が、これを「20年代」まで前倒しした経緯がある。その結果、25年度の最低賃金は全国加重平均で時給1121円(前年度比66円増)となり、現行方式で最大の引き上げを記録している。」(引用ここまで)
つまり、岸田政権時代の目標に戻すということのようです。岸田政権時代の目標であっても、最低賃金の引き上げ幅がかなりの額になっていたので、全国のあまたの中小零細企業や事業者にとっては人件費の確保という資金のやりくりで頭を抱えていたのは確かでしょう。岸田政権のときはわたくしもまだ児童クラブ運営責任者だった時代でしたが最賃引き上げ額に「どうしたものか」と悩んだのも事実です。それでも児童クラブ職員の賃金水準改善のためには、なんといっても強制力のある最低賃金そのものの引き上げが効果的なのは当然でしたから、最賃を大きく引き上げる国の方針は歓迎で、不満や憤りは「最賃のこの動きに連動した運営費の単価額にしてくださいよ!」という児童クラブの所轄庁(当時は厚生労働省)に向けられていましたね。
その後、石破政権になって2020年代の最賃1,500円はもちろん大歓迎でした。
それを高市政権は、おそらくは経済界からの要望に配慮して、岸田政権時代のペースに戻すということのようです。明確に反対、異議をわたくしは申し上げます。
<児童クラブの世界では死活問題>
児童クラブの世界で働く人の賃金水準は低いです。もちろん事業者によって賃金水準は異なりますが、全般的にいえば間違いなく低い水準です。いまだに額面17万円程度で正規スタッフの求人広告が当たり前に出てくる業界です。
(なお児童クラブの職員が受け取る給与が高くないのは、所定労働時間の短さも当然に影響しています。正規常勤職員であっても週30時間つまり1日6時間週5日勤務という所定労働時間が珍しくないからです)
労働集約型の児童クラブでは人件費の徹底した管理が事業運営の継続安定を左右します。近年怒涛の勢いで参入している、児童クラブ運営事業を収益事業とする事業者においては事業者そのものの利益を確保するために人件費を極限まで抑えます。また、こどもの育ちや職員を大事にしたいという考えの児童クラブ事業者でも、使える予算を最大限に人件費に回し、1人でも多くの現場職員を雇用するという方針が当たり前なので、ここでも職員1人あたりの人件費は実は高くなりません。まして、保護者運営系の児童クラブ事業者ではほとんどの場合、賃金体系は年齢給です。5年働いている職員の基本給が20万円なら30年働いている職員は35万円、という具合です。児童クラブの仕事を辞めずに続けてキャリア30年を超えるとなればもはやレジェンド級の支援員ですが、そういった大ベテランに与えられる給与は「勤務経験の長さ」だけで評価されており、「育成支援の質」や「児童クラブ管理運営業務の質」はすっぽりと抜け落ちていることも通例です。そもそも「保育の質を評価して賃金に連動させるような仕組みは似合わない!」との反対の声が圧倒的ですから。
そういった事情が重なって、そして最大の要因としてわたくし萩原が考えているのが「世間が児童クラブ職員について認識している、児童クラブでの仕事の業務の質と量に対しての相場の感覚が、とても低い水準にある」という社会全体の児童クラブへの評価です。「こどもをあずかって見守る、見張っている仕事」に時給2,000円、2,500円が必要だと社会一般の多くの人は考えません。そりゃそうです。そこには「児童クラブはこどもの主体的な育ちを援助支援する育成支援という実はとても難易度の高い専門性のある業務を実施しているという場所」という評価はありません。
まして、国が自ら、児童クラブに必要な資格の難易度を下げることに終始しています。資格の難易度(=その資格を得るのがどれだけ難しいか。専門性が深い資格ほど難易度が高くなるものでしょう)はその資格者の得る収入にある程度影響を与えることは理解が容易だとわたくしは考えるのですが、国は放課後児童支援員資格を得られるための基礎資格の幅をさらに広げようとしていますから、何をかいわんやです。現状ですら、最も容易に入手できる公的資格の1つである放課後児童支援員ですが、この資格の難易度を高めようとまったくせず、むしろさらに入手が簡単な資格にしようとしているのですから、わたくし萩原はもう怒り心頭です。
とまあ、児童クラブの資格そのものの位置づけもまた、児童クラブ職員が得られる収入を高めに誘引する要素にはなっておらず、むしろ低い水準のまま固定化するのに一役買っているとすら、わたくしは見受けられます。
こんな状況ですから、児童クラブで働くということは、最低水準並みの賃金で頑張る、我慢する、ということを意味しているのです。手取り30万円近くあるよ、という恵まれた児童クラブ職員さんも、大都市を中心にそりゃいるでしょうが、「あなたが日々、こなしている業務の責任と労働時間は、その収入に見合っていますか? バランスが取れていると感じますか?」と問われたらどのような返答があるでしょうか。興味があります。おそらくは「もうちょっと給料を高くしてほしい」という返答になるでしょう。児童クラブは大勢のこどもの育ちを支える重要な仕事です。管理運営に携わるクラブ施設長や主任、地域エリアのマネジャー的な業務を担う職員であれば事業の継続した安定運営もまた職務に加わるでしょう。その重要性はいかほどのものか、ということです。
いろいろ書きましたが、わたくしが言いたいのは「最低賃金が上がることで、児童クラブ職員は手にできる給与の額が上がってきた」ということです。ですから、最賃の上がるペースが緩やかになれば、児童クラブの運営責任者であれば正直、ほっとするのでしょうが、児童クラブ業界の健全な発展を考える上では、マイナス要素しかありません。
<最賃の上昇ペースが緩やかになると>
児童クラブの労働力不足が解消しません。さらに労働力が不足するおそれがあります。児童クラブで初めて働き出した人のほとんどが「こんな大変な(大切な)仕事とは思わなかった」と口にします。それだけ、外から見たイメージと現実が乖離する仕事は、そうそうないでしょう。離職者も多い業界です。賃金が低い、仕事がきつい、責任も重いとなれば、そうそう働き手は集まりません。そんな状況がもう何十年も続いているのが児童クラブです。
それでも、ゆったりとですが児童クラブの補助金が増額されたり使えるメニューが増えたりしたので、成立できているのが児童クラブ運営事業です。
最賃上昇ペースが緩やかになると、今までずっと続いてきた労働力不足=人手不足の状況が解消せず、人手不足は当然ながら能力ある職員が絶対的に不足する「人材不足」と直結します。
仕事が実のところ大変である児童クラブは、その仕事の大変さに少しでも見合う賃金体系が必要です。必要ですが、最賃が上がらねば、事業者は強制的に賃金水準を引き上げようとはしません。結果的に、大変な仕事である児童クラブの世界では、その仕事の大変さとは割に合わない、いびつな賃金水準が続くので、人手不足が解消しないのです。人材も集まらない。結果、事業の質も上がらない。世間から「あんなひどい人が働いている世界の給与なんて最底辺で十分だ!」という意識が根付くことになります。
(なお、当然ですが、児童クラブ職員の資質、技量の質もまた賃金水準に大きく影響しますから、恐れずに言えば最低賃金で十分だよね、という残念な人物もまた、児童クラブの世界にはそれなりにいます。人が主役の事業ゆえ、人が発揮する仕事の能力とそれによって生み出される業務の質に応じた賃金体系は児童クラブにこそ必要というのが運営支援のスタンスです)
最賃の上昇ペースが緩やかになってしまうと、人手不足も人材不足も続きます。ますます児童クラブが社会インフラとしてのニーズ、需要が高まっているのに、事業を実施するのがおぼつかないほど働き手が確保できないという状況に拍車をかけるだけです。
時の政権によってどうにもでもなるのでしょうが、最低賃金は、この社会を土台から支えている福祉業界に大きな影響を与えるという理解を、政府与党にしっかり認識していただきたい。企業経営者の厳しい立場もわかります。最賃上昇ペースに追いつけず廃業、ということも実際に起きていますから。しかし、最賃が現実的に直接的に影響をもたらすのは賃金を受け取る側です。児童クラブの職員が「きつい仕事だけど、これだけお金がもらえるなら頑張るよ」と思えるだけの最低賃金水準まで引き上げられねば、児童クラブはその事業運営の質をなかなか上げられません。それは当然、こどもの豊かな放課後の時間の実現を阻むことになります。こどもの利益にならないのです。
<国にもう一言>
児童クラブへの補助金、とりわけ運営費と通称される基本的な補助金(子ども子育て支援交付金)は職員の人件費がその中心です。ちょうど、「日本の学童ほいく」誌2026年7月号の「協議会だより(74~75ページ)に、運営費について解説がありますから、児童クラブ関係者は必読しましょう。
児童クラブの職員の賃金は市場原理、事業者の経営論理で決まりますが、補助金の設定額は国が放課後児童支援員等の賃金設定を踏まえて決めますから、完全ではないですがある程度、公定価格に近いものと考えていいでしょう。同誌によると、国は2年遅れで人事院勧告の内容を児童クラブ運営費の単価に反映させているとあります。2年遅れではなく1年遅れつまり次年度での反映とするよう努力するべきでしょう。保育所は当該年度でやっていますから、やれないはずはありません。
自治体によっては、国が示す補助金の交付要綱がさらに通知から1年遅れとしている地域もあります。そうすると最賃が反映された運営費が事業者に届くのは3年遅れ、ということになります。そりゃね、児童クラブ運営事業者は値を上げますよ。「とても人件費が確保できない!」となるのは構造上、当然の帰結です。出す賃金は最新の最賃額で、そのために支払う給与の原資となる補助金は3年前の最賃を考慮した単価で、ということになれば完全に無理ゲーです。
児童クラブが、働きながら子育てをする世帯の支えになっているということを国や行政が本当に理解していれば、こんなひどい仕打ちはないはず。最賃全体のことは、それを考える方々にとっては児童クラブ業界の事情なんて頭の片隅ににもないでしょうが、社会インフラとして重要性が高まった児童クラブの足腰を支えるために必要な最低賃金の引き上げ(と、それに見合った運営費の増額)がなされなければ、「日本成長戦略」なんて、単なる掛け声、砂上の楼閣です。
実際、現場で汗水たらして働いている人、現場で働く人を支えるためにあれこれ知恵を絞っている人、そんな人たちで成り立つ児童クラブの業界は、これではとても浮かばれません。どうか、最低賃金の引き上げのペースを緩めないよう、国には切に願います。
ちくちょう、ミニなのに長くなっちゃった。いつものことか。
(お知らせ)
<社会保険労務士事務所を開設しました!>
2025年9月1日付で、わたくし萩原が社会保険労務士となり、同日に「あい和社会保険労務士事務所」を開業しました。放課後児童クラブ(学童保育所)を中心に中小企業の労務サポートを主に手掛けて参ります。なお、放課後児童クラブ(学童保育所)に関して、労働関係の法令や労務管理に関すること、事業に関わるリスクマネジメント、生産性向上に関すること、そしていわゆる日本版DBS制度に関しては、「あい和社会保険労務士事務所」を窓口にして相談や業務の依頼をお受けいたします。「あい和社会保険労務士事務所」HP(https://aiwagakudou.com/aiwa-sr-office/)内の「問い合わせフォーム」から、ご連絡のほど、どうぞよろしくお願いいたします。
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こども性暴力防止法に関する諸課題を5人の弁護士が各々の専門分野に関して紹介、説明するYouTubeチャンネル「こどもを守る弁護士チャンネル」は、第3回が2026年6月11日に配信されました。放課後児童クラブの運営に関わってきた鈴木愛子弁護士が「こども性暴力防止法がもたらす「人手不足の加速」とその構造的リスク」とのタイトルで、人材確保に関する懸念を取り上げています。内容は放課後児童クラブ限定ではなくて法制度全般にわたるものですが、とりわけ放課後児童クラブで働く人、運営する人そして管理する行政パーソンには必見必聴の内容です。https://www.youtube.com/watch?v=ZVafKTKe204 を、ぜひクリックしましょう。
第2回(2026年5月30日)が、こども性暴力防止法の「Q&A」を読み解くとして、【弁護士が読む❗️こども性暴力防止法Q &A】のタイトルで配信されています。メインスピーカーは三輪記子弁護士、聞き手は嶋﨑量弁護士です。
https://www.youtube.com/watch?v=XtTCNTDBLLo
第1回(2026年5月16日)は「こども性暴力防止法を考える」です。
https://www.youtube.com/watch?v=uUlx8XaKMso&t=4324s
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※わたくし萩原が寄稿した記事が「ウェッジオンライン」で2026年5月29日に公開されました。「“産業化”の大波に飲み込まれる学童保育…企業はどう収益を上げているのか?事業構造から見える放課後育成の実情」という記事です。ヤフーニュースにも配信されています。URLは以下の通りです。https://wedge.ismedia.jp/articles/-/40665
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「一般社団法人あい和学童クラブ運営法人」は、引き続き、放課後児童クラブ(学童保育所)の一般的なお困りごとや相談ごとを承ります。児童クラブの有識者として相談したいこと、話を聞いてほしいことがございましたら、「あい和学童クラブ運営法人」の問い合わせフォームからご連絡ください。子育て支援と児童クラブ・学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と児童クラブ・学童保育担当者の方、議員の方々、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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(ここまで、このブログをお読みいただきありがとうございました。少しでも共感できる部分がありましたら、ツイッターで萩原和也のフォローをお願いします。フェイスブックのあい和学童クラブ運営法人のページのフォロワーになっていただけますと、この上ない幸いです。よろしくお願いいたします。ご意見ご感想も、お問合せフォームからお寄せください。出典が明記されていれば引用は自由になさってください。)
