聞きたくても聞けない「学童のこと」。「学童の先生は子どもと遊んでるだけで給料がもらえるの?」
学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。学童保育、放課後児童クラブについて、「人に聞きたくても、恥ずかしくて聞けない」「実は、何が分からないかが分からないほど学童のことがよく分からない」という超ビギナーさん向けに、随時、基礎的な知識を掲載します。今回は、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)で働いている人のことを紹介します。
※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。
<学童の職員は何をする人なの?>
放課後児童クラブで働いている人、クラブの職員の仕事を外から見ていると、「子どもと遊ぶ」「子どもの面倒をみる」「子どもを預かっている」という仕事をしているように見えるでしょう。保護者がクラブに子どもを迎えにいったとき、子どもと遊んでいる職員が目につくこともよくあるでしょう。見た目の通り、子どもと遊ぶことはクラブの職員の仕事です。だから、「子どもと遊んでいて給料がもらえる」というのは、絶対に間違っているとは言えませんね。
ですが、子どもと遊ぶことが仕事というその形の奥に、一般的にはなかなか想像がつかない大事な役割があるのです。今回のブログでは、そのことだけでも知っていただければ、筆者としては大満足です。
まず、学童ビギナーさんにぜひとも知ってほしいのは、児童クラブで子どもが遊ぶということの重要さ、です。ここで念頭においてほしいのは、大人たちがごく普通に使う「遊び」という言葉が意味することと、児童クラブで子どもたちが行う「遊び」には、まったく違う目的が含まれているということなのです。
大人たちが使う「遊び」とは、例えば、「今度の週末、どっか遊びに行かない?」、あるいは「約束の時間まであと何時間かあるから、遊んで時間を潰してから行こうか」ということが多くありませんか?大人たちが使う「遊び」には、「気の合う仲間、仲良しさんと一緒にいろいろなことをして楽しむ」ことや、「余った時間、余裕のある時間を仕事や業務以外のことで費やすこと」が、その意味に込められているわけです。それは大人だけでなく、子どもも、中学生も高校生も大学生も同じですね。
<知ってほしい「児童クラブでの、遊び」の大切さ>
児童クラブにおける「遊び」にも、もちろん、友達と一緒に何かを行って楽しく過ごすことが含まれます。大人たちが使う遊びの意味と同じです。しかし、それだけではないのですね。児童クラブで子どもが日々、行っている「遊び」には、次のいろいろな目的が(当の子どもたちは知らず知らずですが)込められているのです。
・他の子どもたちや職員と、複数人と遊ぶことによって、他者との関わり方を身に着けていく
・遊び方(決まりやルール)を守って遊ぶことで、決まりを大事にすることの大切さを学んでいく
・今まで体験したことのある範囲から、体験したことのない範囲に足を踏み入れることで、自分の能力や経験の限界を少しずつ広げていく、打ち破っていく、つまりハラハラ、ドキドキのリスクを感じ、それを着実に乗り越えていくことで、挑戦することの楽しみを知り、失敗を重ねてもそれを乗り越えていくことで、自分の可能性を拡げ、信じることができる。つまり自己肯定感を育むことができる
他にも、もっといっぱいあるでしょう。つまり、遊びは、子どもが大人に向かって育つ過程の中で、人としての能力(非認知能力)を育てることができる、とても大切な要素なのです。児童クラブにおける、子どもにとっての遊びの重要性は、放課後児童クラブの役割、目的を掲げている「放課後児童クラブ運営指針」という、国がまとめたガイドラインのようなものに、丁寧に説明されていますから、ぜひ読んでみてください。
そして児童クラブの職員は、児童クラブにおける子どもの遊びの重要性を研修や勉強会で学んで、成長段階に即した遊び方、遊びの組み立て方を、実際にクラブにて、子どもと遊ぶ、あるいは遊びの仕方をリードすることで、子どもたちが自ら遊べるように、子どもたちを後押ししているのです。
保護者や、外部の大人からは、「学童の職員は子どもと遊んで給料をもらっている」というのは、見た目はその通りですが、実はクラブ職員は、子どもと遊びに没頭しているように見えても、ひとりひとりの子どもたちを見て、これから伸ばしていくべき方面や、ちょっと気を付けてみていかないとトラブルを起こしかねないな、などという判断をたくさん積み重ねているのです。
これって難しいことですよ。子どもは、ガチで一緒に遊ぶ人を信頼し、仲間として楽しく迎え入れてくれます。子どもと真剣に、対等に遊べる人でなければ、子どもは信頼を寄せません。だからクラブ職員といえども、子どもとガチで遊べない職員は、子どもとの間の関係性が強固になりにくい。そのために、クラブ職員は本気で子どもと遊びます(というか、子どもにとってそう見えるように遊びます)。その一方でクラブ職員は、こども1人1人のコミュニケーション能力や主体性、他者への配慮の度合い、物事の理解力を判定し、データとして頭にインプットしているのです。
それは(運営が専門の)私にはとても真似のできない、難しい業務です。クラブで子どもたちと遊んで子どもと関係を築ける職員は本当にすごいプロフェッショナルだなと私は尊敬します。
<児童クラブの職員には資格があります>
保育所には、国家資格の保育士が業務にあたっていますね。幼稚園には幼稚園の教員免許をもった人がいます。同じように児童クラブにも資格があるのですが、子どもを受け入れる施設では同じの保育所と比べると、天と地ほど違います。児童クラブ関係の資格は、本当に、ひ弱なんです。
保育所には、必ず資格を持った人が働いていなければだめです。資格を持った人がいない保育所は、保育所ではありません。
児童クラブではどうでしょう。国の定めでは「絶対に」資格を持った人は必要ではありません。(もっとも、市区町村が定める決まり「条例」で、資格を持った人を配置するように決めているところが多いです)。この点で、すでに圧倒的に児童クラブは弱いです。無資格者だけが勤務する児童クラブも国の決まりではアウトになりません。存在が許されるのです。ただ、国から補助されるお金が減らされるだけです。
保育所で働くために必要な資格は、ご存じ「保育士」。国家資格ですが、以前は違いました。名称も「保母」でした。男性も「保母」でした。1999年以降に保育士と改称され、国家資格になったのは2003年の児童福祉法改正の後です。
児童クラブで働くために「必要となることが多い」資格は「放課後児童支援員」。都道府県知事の認定の公的資格です。こちらはなんと、2015年からスタートした、まだ実際に運用が始まってから10年もたっていない新米の資格です。
保育士は、法律の規定によって、児童(18歳年度末までを含むので今は未成年という意味になりますね)の保育と、児童を育てる保護者の保育面の指導を業務としています。放課後児童支援員は、児童クラブに置いて、子どもの健全な育成を支援し、保護者の子育てを支援することを業務としています。乳児から高校生ぐらいまでを対象とする保育士と、児童クラブにいる小学生だけを対象とする放課後児童支援員とは、仕事の幅も、専門性も、やはり天と地ほどの差があります。
それでも、放課後児童クラブには、児童クラブなりの難しい職務があり、児童クラブならではの独特の任務もあるので、放課後児童支援員という新たな資格が設けられたということです。もちろんまだまだ、ひよっこの資格なので、これからさらにその資格が備える専門性を深めるや、資格者が果たす職務の結果の成功を社会に認知してもらわねばならないと、私は考えています。すなわち、子どもの育ちを支援し、援助する「育成支援」という、放課後児童クラブの中核的な職務のさらなる発展、理論化とその実践が必要だと、私は考えています。
<放課後児童支援員は、もっともっと難しい資格にならなきゃ!>
放課後児童支援員になる仕組みを簡単に紹介します。
まず、基礎資格と呼ばれる資格や免許を持っている人は、(地域によって違いますが)4日間程度の講義を受ければ、資格を手に入れられます。保育士の人、教員免許を持っている人、社会福祉士を持っている人です。
基礎資格がなくても、大学や短大で、福祉や芸術、体育、心理学など一定の専門分野を学部や学科で学んで卒業した人も、同じように講義を受ければ資格が手に入ります。そして、まったく未経験の人でも、2年間以上で2000時間、児童クラブで継続的に仕事をして経験を積めば、同じように講義を受ければ資格が手に入ります。講義では卒業試験などというものもないので、試験を一度も受けずして、放課後児童支援員という資格が手に入るのです。そしてその資格があれば、放課後児童クラブで大歓迎されるのです。その資格がある放課後児童クラブには、多くの補助金が出る仕組みになっているからです。
これでお分かりでしょうが、放課後児童支援員は、はっきりいえば「だれでも資格が手に入る」程度の、大変難易度の低い資格です。ドラゴンクエストで言えば、レベル2程度、ひのきのぼう、でスライムとバトルする程度だといえるでしょう。それをせめて「はがねのつるぎ」までに高めなければ、児童クラブにおける、子どもの育ちを支える職業への専門性への社会からの評価も、なかなか高くなっていかないでしょう。(それはつまり、安い給料で十分だ、ということと直結しますから)
ですので私は、将来的には、「放課後児童支援員の資格の取得を、もっと難しくする」か、「放課後児童支援員の資格はある程度、入手が容易でもいいが、代わりに新たな国家資格(私の提案は「児童育成支援士」という新名称)を創設すること」が必要だと考えているのです。保育士同様、大学や短大で専門的に児童クラブでの仕事を学び、卒業と同時に資格を得られることでも良いでしょう。無試験にはなりますが、専門的に数年かけて学ぶのであれば十分です。新たな資格を作らないなら、放課後児童支援員の資格取得に試験制度を導入するか、ケアマネジャー(介護支援専門員)のように有効期間を設けて、5年ごとに新しい知見を含めて再受講するなどで、専門性の質を一定程度保つということも、必要でしょう。
今は児童クラブで働く人は、資格もできて、その専門性が徐々に育っていっている段階である、と覚えていただければいいと私は思います。
なお、学童業界では「指導員」という言葉を児童クラブ、学童保育所で働く職員に大変よく使います。2015年に放課後児童支援員という制度が始まる前に、ごく一般的に児童クラブで働く人の職業名として使われていた文言です。今も市区町村によっては指導員という呼称を使用している地域も多くあります。決して間違いではありませんが、私は、放課後児童支援員という資格ができたのですから、指導員より「支援員」という言葉を使っていますし、このブログでもそうしています。なお、児童クラブで働いている職員で、放課後児童支援員の資格を持っていない人のことを法令で「補助員」と呼んでいます。補助という響きが嫌なので、支援員も補助員もひっくるめて「指導員」と呼ぶのが業界の姿勢のようですが、私はいささか疑問ですね。
<遊び以外の仕事もたくさんありますよ>
最後に、子どもと遊ぶ(子どもと関わる)以外の仕事が、実は山ほど沢山あることをお伝えして今回のブログはおしまいにします。
・保護者の子育て支援。子育てに戸惑ったり悩んだりしたら、学童の職員に相談してください。
・児童虐待の早期発見と対応。要保護児童対策地域協議会への参加。学童の職員は、(通常のまじめな職員であれば)児童虐待についてあらかた察知できます。
・地域社会、関係機関との連携による子育て環境の整備
・子どもの育ちの支援と援助(育成支援)に関わる業務(育成支援計画の策定、日々の実践方針を定める育成支援討議・検討会議の実施)
児童クラブの職員は、遊んでいるだけで給料をもらっているなんて、決して軽く思わないでくださいね。子どもと保護者と徹底的に向き合うんだ、という覚悟をもっていないと、半日ももたずに「この仕事、きつくて無理!」となる、とても大変な仕事であるということ、ぜひ覚えてくださいね。そして、ぜひ、クラブの職員に、「頑張っていますね」と、時々でいいので、ねぎらいの言葉もかけてください(もちろん、いい加減な、程度の低い職員には、その必要はありません!その場合は遠慮なく市区町村に抗議してください)
今回は以上です。またいずれ、学童ビギナーの方々にありがちな素朴な疑問について触れてみようと考えています。
「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。
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