放課後児童クラブの運営事業者が心すべきことは「人材の定着」。それには当たり前のことを実践すればいいだけ。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。子どもの育ちを支える学童保育、保護者の安定した生活を支える学童保育、そして社会を支える学童保育を支援する「学童保育運営支援」の重要性と必要性を訴えています。学童保育の問題や課題の解決に向け、ぜひ皆様もお気軽に、学童保育に関するお困りごと、その他どんなことでも、ご相談やご依頼をお寄せください。講演、セミナー等をご検討ください。

 前日(3月22日)のブログの続きです。保育所やこども園における職員の一斉退職という事案は、放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)においても十分、起こりうることを訴えました。学童業界では、最近その数を増している営利の広域展開事業者においても、そして伝統的な保護者による運営(保護者会やNPO等)においても、それぞれに一斉退職を招きかねない要因があることを指摘しました。

 どの業界でもそうですが人手不足は著しく、退職による欠員の補充は容易ではありません。まして低賃金、場合によっては長時間労働でかつ難度の高いコミュニケーション労働である児童クラブの仕事は、誰しもが簡単に勤まるものではありません。せっかく採用して経験を積んできた職員が、ごっそりと退職してしまう事態は、なんとしても避けなければなりません。(これは鈴木愛子弁護士(愛知県弁護士会)が指摘していますが、いわゆる「日本版DBS」が正式に実施されると、人員の採用に際しては、非常に煩雑で多量な作業量を余儀なくされる恐れが強いとのこと。このことを考慮すると、職員採用という業務の件数を減らすこと=離職者を減らすことは、児童クラブの業界において極めて優先度が高い業務目標となるでしょう。後日、当ブログでも考察したいと考えています)

 是が非でも避けたい職員の一斉退職ですが、私はなにより、児童クラブの運営事業者(理事や役員といった経営者だけではなく、ある程度まとまった職員数を管理統括する立場のマネジャーや地域の運営本部の責任者クラスをも含みます。要は「使用者」という概念です)に、「職員の雇用を継続することの意義」がしっかりと理解できているかどうかを大前提とします。その上で誤解されたくないのは、「職員を大事にする」のは当然ですがそれはあくまで労働者としての処遇を大事することであり、業務の遂行において信頼関係が成立しているということです。決して、人間関係の「情」において相互に強固な関係が成り立っていることを、まったく軽視はしませんが、それほど重要視しません。なぜなら仕事の上においてある程度の信頼関係が成立していれば、おのずと、それに応じた「人と人とのつながり」においてもそれなりの関係性が自然に成り立っているからです。まずは、「仕事の世界」における「使用者と、労働者との間の正常な関係」を優先して考えます。仕事の面を抜きに、人と人との「絆」と呼ばれるようなものを大事にする組織は前日にも触れたゲマインシャフト的な性質であり、それはともすれば、コンプライアンスを絶対的に考えて事業運営を行うことが必須の児童クラブ運営において悪影響を及ぼしかねないと考えます。

 そして、そもそも使用者や管理職側が、職員や従業員に対して「使えない者はいつでも辞めてもらっていい。募集すればそのうち新人を採用できるだろう」と思っているのであれば、論外です。そのような上層部がいる事業者は、子どもと保護者には重大な影響を及ぼしますが、むしろ、職員が一斉退職して事業執行を不可能な状態に追い込んだほうが社会正義のためには良いことでしょう。そのような組織に補助金が注ぎ込まれる、事実上の「子育て税」に等しい児童クラブの利用料金が徴収されて悪徳な事業者の利益に結び付くことの方が、社会にとって悪影響です。
 また公設民営の児童クラブであれば行政の管理監督責任もまったくない訳ではないので、そのようなひどい事業者を放置していた市区町村の責任も追及できます。なお当然、保護者側が主体的に利用を選択できる営利の民間学童保育所においては単なる事業運営の失敗ですから、それは単に企業経営上の問題に過ぎません。

 この点において、経営陣の姿勢を第三者が評価できるシステムの構築が必要です。第三者評価の実施が児童クラブにもうたわれていますが、それは業務執行の質を確認するものであり、経営陣の姿勢を問いただすものではありません。営利の広域展開事業者や、一族経営の社会福祉法人、学校法人などは、経営陣の姿勢に関して透明性が極端に低い。このあたり、法制度を変えて外部の中立な立場の組織が強制的に経営姿勢を明らかにできるような体制の構築が必要でしょう。役員陣の報酬、年収の額を明らかにするだけでも効果的です。そして何より、市民や納税者がチェックできる情報を強制的に開示できる情報公開が必要です。

 さて、上記は経営陣が「職員を大事にすること」の意義を理解していない場合のことをつづりましたが、次に、「職員がなるべく辞めることが無いようにしたい。でも職員の気持ちや本音がどうにも分からない」という、良心的な児童クラブ経営陣について考えましょう。できる限り職員には辞めてほしくないという気持ちさえあれば、簡単です。「手の内をさらけ出す」ことだけです。

 手の内をさらけ出すとは、事業者、組織が、職員が直接また間接に関わる業務上において、「いま、抱えている問題、困っている問題」と「その問題に対して、どのように解決するべきか、このように考えている、このように対応している」ということを、包み隠さず職員、従業員に伝えることです。(もちろん、経営戦略上どうしても公にできない経営側の活動がありますが、それらも含んで情報を公開せよということではありません)

 児童クラブのことでいうなら、職員の雇用条件改善のことだけでなく、実務上の問題、例えば大規模クラブの解消法のアプローチや、児童集団の中で落ち着いて過ごせない、いわゆる問題行動を起こす児童とその家庭への対処について、組織はどのように考えているのかということを、事業者の理解と目指すべき解決地点をすべて包み隠さず職員に伝えることです。当然、事業者が採用する解決法は、コンプライアンスに則ったものです。つまりコンプライアンスは何より重要なのです。公の法令は当然、事業者が自ら制定した内部規範に従って事業者が行動することでのみ実施できるものです。これは大事です。なぜなら、「どうしてウチの組織はそのような行動をするのか」の原理、ルールが、職員も把握することができる法令や内部規範に則っていれば、職員側からも組織の行動の原理が理解できるからです。この点においても、「人治」色が濃厚な、仲良し集団による児童クラブ運営は、職員側から経営側への不信感の増大、行動原理が理解できないことによる信頼感の欠落を招きかねないのです。

 まあ一言でいえば情報共有ですが、従来から「労使協調」と言われていることがそれにあたります。労使は必ずしも協調しなければならないわけではありませんし、職員、労働者側の待遇改善には労働活動が効果的なことは言うまでもありませんが、経営側の立場からすると、賃上げをしたいができない状況であるとか、この程度の賃上げしかできない状況にあることの原因を、隠さずにすべて情報、データで提供すればいいだけです。同じ情報を労使双方で持ったうえで「どうしたら、お互いの環境をより向上できるだろうか」ということを一緒に考えればいいだけです。児童クラブの世界では「大きな」事業者ですが、数十のクラブ運営の規模感ではその事業者の常勤職員数は100人~200人前後でしょう、その程度の規模の事業者であれば、定期的に、労使で情報共有の会議を設定するなり、理事会や各種経営上の会議に職員側代表の者をオブザーバーで参加してもらうなり、いくらでも「同じ景色」を見るために必要な情報の共有はできます。

 同じ方向を向くこと。同じ景色を見ること。これができるように、まずは経営側が手段を尽くすべきです。どうしたって、雇われる側は受け身になります。立場が強い雇う側が、雇われる側の立場まで「下りて行って」一緒の地平線に立つべきです。

 そうはいっても、雇われる側の本音はなかなか知ることができません。それもまた当然。「本音を伝えたことで不利になったらどうしよう。家から遠い職場に異動させられたり、相性が合わない人と同じ職場に異動させられたらどうしよう」と、雇われる職員側が考えてしまうのは人間なら当然です。

 経営側は、雇われる側の本音を知ろう。例えばそのために「モラールサーベイ調査」を行うことが有効です。モラールサーベイについてはインターネットで検索すれば、いくらでも解説が載っています。(モラールは、簡単に言えば「従業員の士気、やる気」。モラルではありませんよ!モラルの調査ならNPOなど非営利の経営陣にこそ必要です)要は従業員の意識調査です。単純ですが、本音を知るには一番とっつきやすい手法だと私は考えています。モラールサーベイの詳細については省きますが、これも大事なことは、経営側がただ単に調査を行ってその結果を見て満足したり落胆したりするだけでは意味がなく、その調査の結果で改善が必要という事柄については労使双方で解決に取り組むこと、評価が高かった項目についてはさらに伸長していくことなど、「調査結果を必ず活用する」ことです。そのために、定期的に実施することも当然必要です。

 例によって長くなりましたが、「そもそも職員を大事にしようと思わない経営陣がいる児童クラブ運営組織は潰れた方が良い。潰してしまえ」ですし、「職員を大事にしたいがどうしたらいいかと良心的に考えている経営陣なら、誠意をもって職員と向き合え」ということです。雇われる側の職員からも、大いに声を上げて提言するべきです。最終的には、現場で子どもたちと保護者の支援を行う職員の方々が存在しなければ事業は営めないのですから、もっと自信を持って「声を上げる」べきです。さらに言えば、「現場で働くあなたたちこそ、社会的な責任を意識して、ダメなことにはダメと声を上げる使命がある」と私は思います。「うちの会社はひどい、問題にまったく向き合わない」と愚痴をためこむだけではなく、「おかしいです!」と社会に堂々と声を上げるべきです。子どもと保護者の支援に尽くす専門職というプライドが、誇りがあるなら、その支援に有害なことを放置している事業者であれば「おかしい」と本来なら、声を出さねばならないのですよ。1人では出せないなら仲間を募ればいいのです。この点、私は児童クラブの職員にも大いに不満がありますね。職に対するプライドも覚悟も薄い支援員があまりにも多いと思っています。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。

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