放課後児童クラブの利用料を無償化した小樽市。「子育て税」の負担軽減に取り組む姿勢を評価します。

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。全国市区町村のHPから放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)の実施状況を調べていく中で、北海道小樽市が児童クラブ利用料を無償化していたことを知りましたのでご紹介します。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<小樽市のすごい挑戦。残念ながら報道されていなかった?>
 北海道小樽市のホームページで、「小樽市における子育て支援の取組について」と題した資料を見ました。令和5年11月30日に、こども未来部放課後児童課(小樽市における放課後児童クラブの所管課)から発表されたようです。そこに、放課後児童クラブを令和6年度から無償とする旨、紹介されていました。
 この資料の冒頭には、「本市では人口減少対策として、これまでも子育て世帯への経済的負担軽減や子どもの居場所の充実などの子育て支援策に努めているところですが、子どもの成長に合わせた切れ目のない子育て支援を一層推進するため、令和6年度から下記の取組を始めたいと考えています。」とあります。
 無償化の具体的な内容について紹介します。
「世帯の所得状況などに関わらず、就労等により子どもの放課後の預かりが必要な全ての子育て世帯を支援するとともに、安全で安心して過ごせる子どもの居場所の確保を図るもの。」
現行:児童 1 人利用世帯 月額 4,000 円(2 人以上の場合、月額 6,000 円)、就学援助認定世帯 月額 2,000 円(2 人以上の場合、月額 3,000 円)(※生活保護世帯等 減免)
 →令和6年4月~ 無償化 影響額:歳入(利用手数料)27,396 千円の減 ※令和5年度予算ベース

 放課後児童クラブの世界では、無償だった地域が有料となった、という例が広島市でありました。こちらは報道もされていました。しかしこの、小樽市の事例は報道記事になって世間に広く伝えられたのかどうか、私は記憶していません。一応、ほぼ毎日、放課後児童クラブ、学童保育、この2つの言葉をキーワードにニュース検索をして状況をチェックしているのですが、昨年の11月から12月に小樽市の無償化の記事が検索されたことは記憶にないのですね。もっと大々的に報じられても良い、すごいことだと考えます。決して「無料になって当然」ではないのです。

<児童クラブの利用料は「子育て税」にほかならない>
 児童クラブの利用料はもちろん、税金ではありません。放課後児童健全育成事業という役務(サービス)の提供を受けるための対価として支払う利用料です。しかし、児童クラブはもはや、多くの子育て世帯が利用する仕組みです。もっといえば、「利用しなければ、仕事と子育ての両立が困難になる」仕組みです。何度も書いていますが、令和5年は全国すべての小学1年生の約5割が児童クラブを利用しているのです。2人に1人が利用しているのです。
 私は、児童クラブを利用しなければ子育て世帯の生活がままならなくなる状況において、その仕組みを利用するために支払う金銭は、事実上、強制的に支払わされると同じものだ、という観点において「税金に等しい」と考えています。これは、子育てをしながら働いたり介護、看病、勉強をしたりする保護者が必要に迫られて支払うことを余儀なくされる「子育て税」である、と私は考えます。
 児童クラブの利用料が無償化となれば、この子育て税の負担が大幅に軽減されるわけですから、素晴らしいことであると評価します。もちろん、無償化になった分、その費用を支払ってくれる「あて」は確保せねばならず、おそらくそれは市区町村の一般財源を充てるのでしょう。つまり、子育て世帯も、そうでない世帯も等しく支払う住民税などの税金から支出されることになります。これは、児童クラブの利用料が、「子育て世帯だけが支払う子育て税」から、「その地域の全員が広く薄く支払う(=負担する)税金」に変わったということです。
 「児童クラブは、利用する人だけが料金を支払えばいい。受益者負担が当然。すでに運営費の半分強は国や行政が負担、つまり税金が投入されている。国が示すように費用の半分は受益者負担で保護者が支払うべき」という考えは、私は賛成できません。「利用せねばこの社会で暮らせない」仕組みに支払わねばならない経済的負担は極力減らすべきだと考えます。「利用すれば、より豊かに便利に暮らせるようになる」と言う仕組みと区別して考えなけばならないということです。
 いずれ実施されるであろう「子育て負担金」も、国民全体で広く子育て世帯、子育て施策を応援、実施するための財源を確保しようという目的ですから「広く薄く」ということになりますね。ただ、まったく信頼がおけない政府がやることですから評価されていないのは極めて残念です。

<無償化は評価。しかし無償化だけが重要ではないのです>
 「子育て税」がゼロになることは素晴らしいです。なお、私の考えを示しておきますが、無償化「こそ、絶対的に正しい」とは考えておりません。所得に応じて経済的負担を求める「応能負担」は取り入れるべきだという考えです。ただ、だからといって年収一千万円以上の子育て世帯から毎月5万円も10万円も利用料を徴収しよう、とは正しい考えと思えません。いわゆる富裕層に支払いを求める利用料の上限額は1万数千円~2万円弱が限界だと私は考えます。(むしろ、いわゆる公設クラブや、公設クラブに準じた運営を行う民設民営クラブで、2万円超の利用料を設定すると、費用対効果を考えて学習支援系の民間学童保育所の利用が有力な選択肢として浮上するでしょう。それはそれで、公設クラブもしくは公設クラブに準じた運営を行う民設クラブには死活問題です)

 そうであっても、無償化は、なかなか賃金が上がらないこの日本社会で過ごすにおいて、多くの子育て世帯にとっては素晴らしい取り組みなので、多くの市区町村で積極的に検討していただきたいと考えます。子育て世帯の負担軽減だけでなく、今回の小樽市が明確としているように、「人口減少対策」になるのです。
 先日、消滅可能性自治体の話題が世間をにぎわせましたが、まさに子育て世帯をどう取り込むかが、人口減の進行を緩やかにする、あるいは食い止めるための有効な方策です。その方策の1つとして、児童クラブへの経済的負担軽減は、大いにアピールできるでしょう。政策的判断として、自治体が児童クラブに対する負担軽減を打ち出すのは「あり」だと私は考えます。

 しかし最も重大なことを指摘します。児童クラブの無償化は、とてつもなく魅力的な子育て世帯への応援です。しかし本当に重要なことは、「質の高い育成支援が提供できていること」です。大前提なのです。この大前提を無しにして無償化しても、意味がないのです。質の高い育成支援=子どもが主体的に成長することが保障されている児童クラブ=子どもが明日も行きたいと思う児童クラブ、です。質の高い育成支援が行われていても、べらぼうに高い利用料では多くの子育て世帯が利用できないですし、無償化で経済的負担を気にせず利用できる児童クラブであっても質の低い、ひどい児童クラブであったら、子どもにとって悪影響です。
 その質を維持するためには良質な人材が職員として確保されていることが必要です。児童クラブを無償化しました、収入が減りますから人件費を減らします、よって賃金を下げますね、ではダメです。その点は念を押しておきます。
 また、児童クラブに求められる「質」は育成支援だけではありません。保護者の利便性もまた同時に常に改善を求めて進歩しなければなりません。いくら無償化になった児童クラブでも、利用できる時間、つまり開設時間が短ければ保護者にとっては利用が困難であり、高い評価は付けられません。「タダなんだから、これぐらいは我慢して」では、ダメです。「これぐらいは我慢して」は絶対に言ってはなりません。それを言わない覚悟が持てないなら、むしろ無償化は止めるべきです。なぜなら、無償化を錦の御旗として現状の固定化を促進し、改善の機運を封じるからです。
 今回の小樽市の例であえて指摘すれば、開設時間が午後6時までとなっています。小樽市の子育て世帯の就労状況はまったく分かりませんが、一般的に考えれば、午後6時の閉所時間は早すぎてもはや非現実的です。当然に、午後7時まで開設時間を伸ばすべきです。学校休業日など平日朝からの児童クラブ利用が必要な場合ですが、小樽市では午前8時20分となっています。これは残念ながら論外です。遅くても午前7時30分からの開所が必要です。
 「無償化したから、それが最大のサービス向上だから、開設時間はこれでお願いします」ではダメです。就労を支える仕組みですから、就労を妨げる要素は除去しなければなりません。クラブが早く閉所するのが困るなら開設時間を伸ばすことは当然です。また、おやつも土曜日や長期休業期間中の提供を行っていないようです。これも改善が必要です。すべての開設期間内において事業者側が提供するべきです。
 小樽市は児童クラブ無償化という大英断を行ったのですから、さらに開設時間、おやつ提供についても改善に取り組めるはずだと大いに期待します。そして「子育てするなら小樽で!」という評価が全国に定着することを期待しています。

  <おわりに>
 小樽市は、私(萩原)にとってもなじみのあるところです。叔父が住んでいますので、何度か訪れたことがあります。小学生のときなのでもう40年以上も昔ですが、家族旅行で訪れた小樽の叔父の家の庭先で行ったジンギスカンパーティーで食べたラム肉が美味しかったことは忘れていません。大人になっても石原プロモーションの招きで小樽取材ツアーがあり、小樽のお寿司屋で味わったすしの美味さといえばもう、絶品でした。そして小樽は、私が「日本のソウルミュージック」と思っている北原ミレイさんの「石狩挽歌」でも歌われていますね。
 とても思い入れのある地域で、私が思い入れをたっぷり寄せている学童保育、児童クラブのことで素晴らしい取り組みを始めていた、これだけでもう、本当に感激です。小樽の挑戦をこれからも注目していきます。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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