看板は立派でも、実際は??放課後児童クラブ広域展開事業者が掲げる見栄えの良い看板に惑わされてはいけません

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。いま、日本全国至る所で、広域において放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)を運営する企業、法人が雪だるま式に増えていますが、全国の市区町村担当者さんはしっかり本質を見ていますか?
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<社会インフラとして重要なのは「事業の安定運営」だが>
 放課後児童クラブを運営する事業者が、全国各地で替わりつつあります。それも、児童クラブを運営することをビジネスとしている事業者が、相次いで運営を担うようになるのです。例えば、業界最大手といわれるシダックス大新東ヒューマンサービス株式会社は自社のHPでこううたっています。
「公設民営の学童保育受託実績 圧倒的No.1 質・量ともに充実のシダックスの学童保育運営サービス。」とあり、2021年度末で1,220カ所でシェア28.6%、2022年度末では1,436か所となっていることが紹介されています。同社はじめ、他の企業も相次いで各地で児童クラブの運営を担っています。

 このこと自体は事業者の当然のビジネスであり、ビジネスはこれも当然ながら需要と供給がともに存在するからこそ成り立つものです。児童クラブの運営を考える市区町村が、児童クラブ運営ビジネスを掲げる事業者に運営を委ねたいと思う需要があり、その需要が年々、増えつつあるからこそ、その需要を受けてる児童クラブ運営ビジネス事業者もまた成長しているのです。まさに正常な経済活動です。

 市区町村とすれば、住民が安心して児童クラブを利用し続けることができることが絶対的な条件ですから、事業が安定して継続されることを最優先するのは当然です。おのずと、事業者の経営状況、財政基盤、他地域での運営実績を評価することになるでしょう。事業者の規模の大小がそのまま経営状況や財政基盤に反映されることはないですが、小さい企業より大きな企業のほうが、一般的に経営状況が安定する可能性が高いのは当たり前です。よって、市区町村とすれば、企業規模が大きな事業者を選びたくなるのも自明の理。(指定管理者の選定委員は市区町村が関わらない、最後は議会が決める、というのは、私に言わせれば「建前」です。選定で事務局を務める行政執行部の意向はとても無視できないものです)
 また、業務委託の公募プロポーザルや指定管理者の選考において、他地域での運営実績が審査項目となっていることが多いですが、それこそまさに事業の規模の大きさを有利にとらえていることの現われです。小さい事業者では他地域で事業展開をしていませんからね。

 事業が安定して運営できる事業者に児童クラブを任せたい。児童クラブの事業における安定運営に重要な要素といえば、当たり前ですが「人」です。つまり支援員、職員が従事できるかどうかです。資格者の配置が補助金の交付の条件となっていることもそうですが、出勤している人がいなければ、児童クラブは機能しません。職員をしっかり確保できる、必要な職員数を雇用できていることが、事業の安定運営を実現させる最も重要な要素であると私は考えています。(将来的にどんなに世間がAI化しても、児童クラブは人が人に接する職場、人が人を支える場であり続けるでしょう)

<選ばれるために当然、人員確保に問題ないと胸を張ります>
 ところで児童クラブは慢性的な人手不足です。それは事業者が大きかろうが、保護者運営による単一クラブの運営だろうが、事業者が等しく頭を抱える問題です。事業の安定運営を実現させる最も重要な要素なのは当然、この慢性的な人手不足が現実に存在するからです。ということは、この人手不足に対応できることをアピールすれば、他者との競争において有利になるのもまた当然です。よって、公募プロポーザルやら指定管理者を決める際のプレゼンテーションでは、参加する事業者は口をそろえて「人材確保は大丈夫です」と訴えます。わざわざ愚直に「なかなか職員を確保するのが難しいです」とは、言いません。

 現在、児童クラブを全国各地で運営している事業者は、業務委託であれ指定管理者であれ、圧倒的に多い公募による選考、選定を経ている限り、人員の確保に問題はないとアピールして選ばれていることは間違いありません。そうでなければ、ライバル事業者に勝てませんからね。

 ところが現実はどうでしょう。私が行っている全国市区町村のHPから児童クラブの情報提供を確認する作業において、全国各地で児童クラブを運営している「広域展開事業者」が児童クラブを運営している地域は、圧倒的な割合で、職員を募集しています。ほぼすべての地域で、と言えます。自社HPや求人サイトで、もれなく、クラブ職員を募集しています。

 このことは本来、ツッコミが入る状況ですよね。「ちょっとちょっと、プレゼン資料では人員確保に問題ないってありましたよね?急な欠員でも近隣の事業所からすぐ人を派遣するから大丈夫だって言ってましたよね?こんなにあちこちのクラブで職員募集しているってことは、人がいなんでしょ?うちは人員確保に定評がありますって自信は、どこに根拠があったのかい?」と、言いたくなりますよね。

 補助金交付には既定の職員配置を満たさないとならず、事業者にとって職員の配置は絶対的に守らねばならない。それをごまかそうとすると大変な不祥事になります。それこそまさに昨年夏に発覚した、非営利ですが全国各地で事業運営をしている広域展開事業者の不祥事にほかなりません。職員配置こそ絶対的に守らねばならないので事業者は必至になりますが、インターネットにあふれる児童クラブ職員募集の求人広告の圧倒的な量をみると、人員確保にはどの事業者であっても苦労しているわけです。

<冷静に考えよう。広域展開事業者だけが人員確保に優れていることはないのだと>
 もうお分かりでしょう。全校で数百、1,000以上の児童クラブを運営しているからといって、必要なクラブ職員の人数を確保できるとは限らないのです。むしろ、地域根差した小さな非営利事業者が、地域の知り合い、ネットワークを駆使して、必要な人数を、しかも育成支援に向いている、適性のある「人材」を、確保できることだってあるのです。(私は「人手」を人員数のこととして使い、「人材」を職務遂行能力を備えた適性のある人員のこととして使用しています)

 公募において、事業規模が大きいだけで、他の事業者からすぐにフォローの職員を派遣できるからとって、それが事業の安定して継続的な運営に有利になるという考えは、間違っています。それは砂上の楼閣です。広域展開事業者だから人員確保がきっとうまくいく、だから審査項目において高い点を付けようということは、まさに表面的なことしか理解できていないことと気づいてください。現実に求人広告があふれていることが、何よりの証拠です。「いやいや、運営するクラブ数が単純に多いから職員を募集するクラブが比例して増えるだけだ」という反論は当然あるでしょう。いえいえ、公募で人員確保に自信あり、とアピールして他者を出し抜いた以上、職員募集を繰り返しているのは筋が通りませんよね?と私は言いたいのですよ。

 寄らば大樹。大きいことは良いことだ、と言いますが、児童クラブの事業運営に際しては、単に事業規模が大きいから有利ということではありません。事業規模が大きくても常に職員募集を繰り返しているような事業者は事業の継続して安定した運営に有利であるとは言えないことを、特に市区町村の児童クラブ担当者は認識するべきです。もちろん財務諸表から事業者の財政基盤を判断することは当然でしょう。それにしても、小さい事業者であっても堅実に運営している事業者があるはずです。単に規模の大小ではなく、数字で可視化できない分野における有利なアピール「うちは、人の確保は大丈夫です」という内容を、うのみにしないことです。

 私はぜひ、公募の際は、事業者に対して、「貴社が多数のクラブを運営している〇〇市区町村におけるクラブで、必要な職員定数と実際に雇用契約を結んでいる職員数、欠員に対応できる事業本部直轄の職員数を、データで示してほしい」と、要求するべきだと考えます。そうでなければ、「うちほどの大きい会社ですから安心ですよ」とごまかされてしまう可能性があるからです。小さな事業者が小さいという事だけで不利な点数を付けられる可能性があるからです。

<おわりに>
 児童クラブを運営する事業者を選ぶ際には、単純に、出された資料「だけ」で判断するのは危険だよと言いたいのです。もちろん出された資料以外を判断基準にすることは公正、公平な判断にはなりませんから、出される資料を「増やす」のです。それは人員配置に関する数値的なデータです。
 なお、事業規模については、小より大のほうがスケールメリットを活かして事業活動を手広く、より活発に行えることは当たり前です。私はかねて主張していますが、非営利の事業者は自分の事業に自信があるなら規模を拡大するべきです。事業規模が大きいことは決して悪いことではありませんから。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。リスクマネジメント、クライシスコントロールの重要性をお伝え出来ます。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。セミナー、勉強会の講師にぜひお声がけください。個別の事業者運営の支援、フォローも可能です、ぜひご相談ください。

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