放課後児童クラブで働く職員の採用で、わいせつ行為の恐れがある人物を察知できると思いますか?

 学童保育運営者をサポートする「あい和学童クラブ運営法人」代表の萩原和也です。放課後児童クラブ(いわゆる学童保育所)で働く職員を採用する際に、子どもに対して性犯罪、わいせつ行為をする可能性がある人物を事前に見抜けるのかどうか私の経験を踏まえて考えるとともに、運用が始まったわいせつ行為の前歴がある保育士のデーターベースについて考えます。
 ※基本的に運営支援ブログでは、学童保育所について「放課後児童クラブ」(略して児童クラブ、クラブ)と記載しています。放課後児童クラブはおおむね学童保育所と同じです。

<採用面接で「これはあやしい」と思えることがある?>
 十数年にわたって児童クラブ職員採用面接に幾度となく臨んできた私自身の答えは「よほどのことがない限り、通常は見抜けません。この人はあやしい、あぶないと気づくことはありません」です。よほどのことというのは、採用面接の場で、応募してきた人が自ら「私は子どもが好きで好きで恋愛対象としても見ることができます」などと口走った場合ですが、そんなことはまずありえません。採用を希望する人はみな、口をそろえて「自分は優秀な人物である」ことをアピールします。こどもの権利を守りたいと理路整然として語ります。わざわざ、不採用になるようなことは言うわけがありません。性犯罪に限らず、盗癖や粗暴な性格についても同様です。
 実際、私には大変苦い経験があります。わたし自身が採用に関わり、その際にはとても優秀で、採用後もまじめでそれなりに信頼のおける人物だと思っていた正規職員が犯罪行為を犯して検挙されました。面接のような「演技をできる場」では、その本質はまず見抜けないでしょう。かといって、あれこれと個人の嗜好を根掘り葉掘り聞くような面接も今は採用される側の立場を考慮すると、事実上行うことができません。
 案外と忘れがちですが、性犯罪はその7割は初犯です。大半の場合は、初めて犯罪を行うということ。初犯はもちろん過去の犯罪歴はないですから、これから導入される「日本版DBS法案」や、きょうこれから触れるデーターベースでも対応はできません。だからといって日本版DBSやデーターベースが意味ない、ということはまったくありません。初犯を防止する策と、再犯のおそれを極限まで排除する施策、この両方を同時に行う必要があるということです。

<採用面接「だけ」では分からなくても、その他の情報と合わせて検討することは必要>
 「面接では、犯罪を起こしそうな人物はとても見抜けない」と諦めて何もしないのでは、人事に関わる立場の者は失格です。「うーん、何か、子どもへの見方が偏っている」などと、心証をしっかりつかむことが大事です。子どもの権利を大事にしたいと当たり前の内容を話したとしても、「妙に執着している点がある」とか、「自分の苦手な点、弱い点について話す場面では妙に身構えていたな」など、応募してきた人物について多角的に観察、評価してそれを記録に残しておくことが重要です。
 例えば、「日本版DBSについて、児童クラブに対する信頼性の観点ではどう評価しますか?」と、質問したとしましょう。知識の有無による優劣を絶対的に問うのではありませんから、日本版DBSについて説明をした上で質問します。そこで、質問をされた採用応募者が、事柄について自分なりに返答を述べるでしょう。その際に、応募者が妙に力を入れて「子どもにそんなひどい、わいせつなことをするなんて絶対にあってはならないことです!わたしはそういうのが一番大嫌いです。そういう児童の性犯罪は私は絶対に許せませんし、そういう人は一生、刑務所にぶちこんでおけばいいんです!」と、熱弁を振るったときです。面接する側が「ああ、この人は子どものことを真剣に守りたいだな」と受け止めるようでは、私は面接官に対して落第の判定をします。
 「なぜ、聞かれてもいないことを、ここまで妙に熱くなって語るのだろう。この過剰な反応には、何かが隠されている可能性がある」ということを面接する側は記録しなければならないのです。心証に「ひっかかる」ことが多ければ多いほど優秀な面接官です。
 採用面接の際に「ちょっとこれは、気になる」という「ひっかかり」をしっかりと記録し、その後に得られる情報(それについては次の段落)と合わせて総合的に判断する材料としなければならないのです。
(なおこれは正規職員採用のときだけではなく、クラブの現場で非常勤職員、アルバイトを採用する際にも同様です)

 採用された新人職員は働き始めることになりますが、労働基準法では14日を超えて働く労働者には解雇予告が必要としているため、14日以内での解雇は比較的容易です。そこで事業者は、新人採用後14日以内に、何か不審な点があるかどうかをしっかりと観察、チェックすることが重要です。ちょっと意地が悪いと思われるでしょうが、子どもの犯罪被害を防止するため、事業者にとっても事業運営へのダメージを防ぐための防衛策として、当然です。
 それは「早期発見行動」と私は呼んでいますが、新人職員が支援の現場で働くときに、事業者側はその新人と一緒の場にいて職務に従事しつつその新人の所作、挙動を確認して評価する立場の役職者を一緒に配置することです。その役職者は、子どもに相対する新人職員の様子を、自らも仕事をしつつ観察することです。大事なのは、その役職者が「新人職員の監視」をしてはならない。見張られているときに、わざわざ「本性」をあらわにして違法な行為を行う人間はいません。その役職者は、そのクラブで支援の仕事に従事する、あるいは管理の仕事に従事するなど、自分の仕事を行うのです。その上で、新人職員の所作、挙動を確認します。
 事業者は、採用後14日以内に、現場で新人の所作、挙動を確認した職員の報告や、配属先クラブの先任職員からの報告をふまえ、違法な行為を犯す可能性について冷静に評価することです。その上で、「あまりにも子どもに不必要に触る場面が多い」、あるいは「子どもと2人きりになろうとする」、「特定の子どもに執着する行動が確認できる」など、一般的な職員の所作、挙動と比較してあまりにも異様な行動の程度が激しい場合は、事業者側は、ちゅうちょなく、解雇に踏み切る姿勢が重要です。一方「現状では」わいせつ行為など性犯罪(のみならず他の違法行為を含めて)を直ちに犯すような挙動不審な点は「確認できなかった」として、雇用を続ける判断を下すことになります。
 この一連の作業は事業者の組織防衛の観点から欠かせないことです。最悪の事態として、仮に採用した職員が性犯罪を含む違法な行為を行って逮捕されたり訴えられたりしたとき、被害者側から「あんなひどい職員であることを見抜けなかった雇用者側にも責任がある」と使用者責任や管理監督責任を追及されることになります。その際に、採用時に何度もチェックを行っていたという記録があれば、「これだけの注意を払って、念には念を入れて採用した」という証拠になるのです。組織のリスク管理上、必要なことでもあるのです。
 まとめますと、「入り口」だけで、罪を容易に犯す人物を徹底的に排除することは不可能です。不可能ですが、限りなくそのリスクを低くすることが大事です。そのために求められているのが、日本版DBS法案であり、運用がはじまった資格者のデーターベースです。

<保育所の世界で始まったデーターベースを児童クラブにも!>
 保育士のわいせつ事犯を登録し、採用に当たって事業者が確認できる制度の運用が始まったと報道が相次いでいます。4月11日の朝日新聞記事を引用して紹介します。(4月11日17時配信)
「こども家庭庁は、子どもにわいせつな行為をし、保育士の登録を取り消された人の名前などを保育施設が照会できるデータベースの運用を4月から始めた。保育施設に対し、雇用時の確認を義務づけることで、子どもの安全を確保するねらいがある。」(引用ここまで)

 これは、保育士を採用する際に、指定のデーターベースに事業者や自治体がアクセスして採用対象者の情報を自ら検索することで、登録の有無を確認できる仕組みです。なお教員にも不適切事由で免許が取り消された者が公開されています。私はこの保育士において運用が始まったデーターベースの仕組みを、放課後児童支援員にも早急に実施してほしいと訴えます。
 放課後児童支援員は、国家資格である保育士と違って残念ながらまだ都道府県知事認定資格で、資格の「格」(実際は専門性)では天地ほどの差がありますが、行政機関が管理できる資格であることでは同じです。この放課後児童支援員制度が始まったときも、厚生労働省は、過去の犯罪歴をデーターベース化して管理し、採用の際に照会することが可能となる旨、説明をしていたように私は記憶しています。(厚生労働省の担当者が出席した学習会で、私は質問して確認した記憶があります)
 現実にそれが運用されているのかどうか、少なくとも2022年夏までにはその実績はありませんし、おそらく今もないでしょう。過去の犯罪歴の管理はしているはずです。私も、自身が直面した事案について県に報告しました。ただしそれは事案終結後、数年が経てのことでしたが。

 児童クラブの世界は資格がない者(補助員と呼ばれる)も重要な労働力となっており、むしろ有資格者のほうが少ないのですが、放課後児童支援員は正規職員、常勤職員として現場クラブの中核ですから、採用に当たって、事業者が都道府県に登録の有無だけでも照会できるようになれば、どれほど安心なことでしょう。なぜ登録が取り消されたのかまで情報は不要です。登録が取り消されていることが検索の結果で判明さえすれば、採用しないで済みます。
 同時に、児童クラブの事業者も、保育士、各種教員免許についても、しかるべき行政機関に照会することで資格の状況を確認できるようにしていただきたいと考えます。児童クラブでは、放課後児童支援員資格だけでなく保育士や教員免許の所有者を事実上の有資格者として優遇して採用します。それがまさに、今までのチェック段階がない児童クラブにおいて前科のある人物の就職先として機能してきた現実を構築してきたからです。

 こども家庭庁は日本版DBS法案が成立すればよいと思っているかもしれませんが、中小、零細の規模が圧倒的に多い児童クラブ運営事業者では日本版DBS法がおそらく求めることになるであろう各種の情報保全措置や各種義務的対応に備えることが予算上も人員配置上も困難ですから、この保育士におけるようなデーターベースで当座は十分であると考えます。このデーターベースでも、もちろん事業者は情報管理の体制や規程を整える必要があるでしょうが、日本版DBSへの対応より必要な作業は少ないでしょう。例えば、事業者ごとに、データーベースにアクセスできる者の情報を市区町村に届け出ておけばよいでしょう。その者のマイナンバー情報を使ってアクセスするなどの工夫ができるはずです。ぜひとも早期に運用を開始してほしいと願います。
 
<初犯を防ぐためには徹底した研修が必要>
 性犯罪者の7割が初犯と言われます。こども家庭庁による資料(こども関連業務従事者の性犯罪歴等確認の仕組みに関する有識者会議第1回会議配布資料「性犯罪等に関する資料」。警察庁資料がベース)によると、令和3年の刑法犯における前科の有無について、強制わいせつ事犯の75.5%、強制性交等は76.6%が前科なし、となっています。
 ですので、児童クラブの運営側としては、いかに初犯を防ぐか、子どもが被害者となる性犯罪を初めて犯すような状況に職員を追い込まない、そういう環境に置かないことを実現することが極めて重要です。

 それにはやはり、徹底した職員への教育、研修が必要です。児童クラブの運営事業者は、徹底して「法令遵守研修」「こどもの人権尊重の学習」を職員に行うべきです。そして、クラブに通う子どもにも、「嫌なことをされたら、嫌だって言っていいんだよ」ということを伝えて理解させる時間をしっかり確保し、子どもたちから気持ちを発信できるような環境を整えることに注力するべきです。
 事業者は職員に、「組織は、みなさんの雇用をしっかり守る。職員が将来にわたって安定した生活を送れる環境を整備することを約束する」と、職員をしっかり守ることを伝えた上で、「子どもや職員に対して違法な行為を行ったことが明確な場合は、容赦はしない。厳正な刑事処分を求める。捜査には全面的に協力する」と告げることになります。もちろん、充分な嫌疑がない段階で一方的に職員を解雇するなど早急な行動はしない、ということは約束せねばなりません。

 そうして、組織全体で、(窃盗や暴力行為など犯罪全般ですが)子どもを狙った卑劣な犯罪は、これを絶対にゆるさない、という意識を職員全体で当たり前に共有し、そのような行為につながりかねないことには職員が相互に留意する、ということを当然として業務を行う意識を植え付けることです。例えば、クラブの室内の一室に、子どもと職員が2人きりで長時間過ごすような状況は避けるべきですから、そのような状況になりそうなときには、他の職員が室内に入って状況を確認する、ということを、確認する側も、確認された側も「そうすることは当然だ」という意識を「職員が持つ」、そのような意識を「事業者は職員に持たせる」、ということです。

 なお、子どもに対して深刻な人権侵害をおよぼすのは、なにも性犯罪だけではありません。子どもに対する粗暴な振る舞い、暴力行為、暴言についても同様に排除されなければならないものです。近く、そのような「問題職員」(これがまた、残念ながら相当存在する)への対応について本ブログで考察します。

 「あい和学童クラブ運営法人」は、学童保育の事業運営をサポートします。子育て支援と学童保育の運営者の方、そして行政の子育て支援と学童保育担当者の方、ぜひとも子どもたちの安全と安心を守る場所づくりのために、一緒に考えていきましょう。

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